《異世界で始める人生改革 ~貴族編〜(公爵編→貴族編》第116話 コルディア公爵

ガタゴトと揺れる馬車の中で俺はお父様の友人の領地へと向かっていた。

レベル9の水魔法書を読していた所、お父様が俺に覚えさせたがっていた魔法が分かった。

レベル9水魔法、オールヒール。

あらゆる狀態異常とあらゆる怪我を治す萬能の癒し魔法。

欠點といえば、レベル9に到達した者が使うに相応く、尋常じゃないMPがかかることと、使える相手が単であることくらいであろう。

まあ、俺なら十回は連出來るから、それ程欠點でもないけどな。

そんなこんなで、お父様の友人というコルディア公爵に會いに行っていた。

最初、この名前を聞いた時、俺は誰だか全くわからなかった。

しかし、馬車で移している最中に、はたと気付いた。

「プリムの近くに住んでいる人じゃねぇか!」

と。

そう、プリムの左下に住んでいる人だ。

ということは、ついでにプリムにも會いに行けるという俺にとってもハッピーなことがあるのだ。

寧ろそっちが本命といってもいいだろう。

さっといってオールヒールぶっかけて、俺はプリムに會いに行きたい。

ああ、俺のこのささくれた心を癒してほしい。

とにかく、今日はオールヒールだな。明日はプリムだな。

やべ、自分で言ってて何言ってんのか分かんなくなってきた。

俺がそんな馬鹿な考えをしている間に、馬車はコルディア公爵が直接治める城壁の中へとっていく。

「……なんか寂れてません?」

それが俺の第一印象だ。

もちろんポルネシアきっての大領、オリオン領と比べた訳じゃない。

街にはそれなりに人がいるし、荷馬車も通っている。

しかし、何というか人がいるわりには靜かなのだ。

まず屋臺で果を売っている人がよくいう、

「安いよ安いよ!見ていってね!」

などという掛け聲が全く聞こえてこない。

ちょうど橫で、その屋臺で買いをしようとしていた。

「いらっしゃい」

「リンゴ四つお願いします」

「はいよ。銅貨二枚ね」

「はい」

「いつもありがとよ」

といったじで、なんか素っ気ないのである。

「コルディアのやつが統治を放ったらかしにしてるからこういうことになるのだ」

怒っているというよりはし疲れ気味にお父様は言った。

そういえば、コルディア領にった途端、ちょっと魔と山賊の數が増えたような気がした。

「それも今日までだ。お前がオールヒールで、奴の息子を治してやれば活気も戻ろう」

「はい!」

早く終わらせてプリムに會うぞー!

そんな意気込みを心びながら、俺はコルディア公爵の住む城へとっていった。

「やぁ、ロンド。久しいな」

奧から現れたのは何というかフゥって事あるごとに言ってそうなおっさんだった。

そして同時に俺の記憶が呼び覚まされる。

「そうだ。アイナを買う前日に來ていた人だ」

完全に思い出した。

あの時より、しやつれていた。

聞いた話によると、彼の長男と次男が不治の病に罹ってしまい、床に伏せっているようだ。

娘も一人だけいるようだが、基本的に高ランクスキルでもない限りが當主になることはあり得ないと言っていい。

だが、生まれた男子が立て続けに病に罹ったことに心を折られてしまったコルディア公爵は、三男を生む気になれず、また何もかもにやる気をなくしてしまったらしい。

昔、お父様の元にやって來たのも、息子達を治す手掛かりを探しに來ていたらしい。

「ハルディ。お前はまた隨分やつれたな」

「ははは……、まあ、な」

ハルディ・デュク・ド・コルディア。

それがこのやつれたおっさんの名前だ。

「それで、今日は何の用だい?ロンドは戦後処理で忙しいだろう?」

「まあ、友人に會いにいく時間くらいは作れたさ。今日は所用、ハルディの息子のことで話に來た」

「なっ!も、もしかして!あの子達を治す方法が分かったのか?」

(うおっ!)

突然食い気味に顔を近づけてお父様に迫るハルディ公を見て、俺はし引き気味になる。

お父様も近づいてきたハルディ公の顔をし押し退け、

「ま、まあやってみる価値のあると思う。それより……レイン、挨拶しなさい」

お父様が急に俺に振ってくる。

前振りをしてくれ。

しかし、俺とて公爵家長男。

落ち著いて襟を正し(正確には元々正されていた襟をただ引っ張り)、背筋をしっかりとばし(元々ばしていたが)、禮を取る。

「お久しぶりです、コルディア公爵様。レイン・デュク・ド・オリオンです!」

(完璧!)

すでに何百回としたきだ。

公爵家に生まれたものとして當然のきであり、見ている者達を魅了し、釘付けにする。

という建前の元、後でプリムにやってかっこいいと言ってもらいたい。

しかし、當のハルディ公は褒めるどころか悲しい顔をして目を伏せる。

(な、なん、だと?)

正直このきには自信があっただけにショックを隠しきれない。

だが、その理由をハルディ公が告げる。

「わ、私の息子も元気だったら、君みたいな子どもに子どもに育っていたんだろうなぁ……」

「……」

(おい、年端もいかない子どもにそういうこと言うのやめろよ。トラウマになったらどうすんだ)

自分の息子達のことを思っての事だったらしい。

子どものこと好き過ぎるだろ。

「ハルディ、子どもにそんなこと言うのはやめないか」

「あ、ああ。すまない。つい……、レイン君、すまない。せっかく來たんだ。寛いでいってくれ」

「分かりました!ありがとうございます!」

と、元気よくお禮を言ったものの、こんな鬱な男の近くで寛げるわけがない。

そのまま俺たち三人は侍従やメイドを連れて奧の部屋へと行く。

そこには豪華とはいえなくとも、それなりに公爵家として相応しいレベルの食事が用意されていた。

「そ、それでなんだが……先ほど言っていた子ども達の件について教えてしいのだが……」

「分かってるよ。しかし、私達もここに著いたばかりだ。一休みさせてくれ。それに……な」

お父様は最後、しだけ言葉を濁した。

貴族でこれを分からないものはやっていけないだろう。

つまり、な話だ、と言うことを暗に言っているのだ。

「そ、そうか!分かった!」

ハルディ公は暗闇の中に一條のが見えた、とでも言わんばかりに仕切りに頷いていた。

(この人本當に貴族なのだろうか?)

俺がそう思ってしまうのも無理はないと思うのだった。

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