《異世界で始める人生改革 ~貴族編〜(公爵編→貴族編》第120話 期待されない自由
俺とお父様は早々にコルディア公爵の元を去り、城壁から出る。
その途中でお父様と別れ、プリムに會いにハーバー領へと向かう予定だ。
「お父様、お疲れのようでしたら寢ていただいても構いませんよ?」
「だから大丈夫だと言っているだろう?」
先程のお父様のど忘れを心配した俺は問いかける。
だがお父様は意固地になっており、なかなか俺の忠告をけれてくれない。
困ったものだ。
 
「書類ばかり見てると目が疲れてしまいますよ。ほら、あの山でも見て癒されましょう」
「そんなに心配するな。元々王都に行く予定のついでだったからし忘れていただけだ。お前が心配するようなことではない」
「そうですか……」
病気じゃないのは神眼を使えば分かるが……。
俺が納得したところで、二の分かれ道に著く。ここが俺とお父様の分かれ道だ。
左が王都への道、右がハーバー領への道。
「では、僕はこれで失禮しますね」
「ん?何処へ行く気だ?」
何処へ行くも何も、プリムに會いに行くに決まっている。
またお父様は忘れてしまったらしい。
若年認知癥かもしれん。
オールヒール掛けといた方がいいだろうか。
「プリムさんに會いに、ハーバー領へと行くとお伝えしたではありませんか?」
「ん?そんな話聞いて……ない、か?いや、どうだったか」
「お父様、働き過ぎですよ。ほら、ここに來るって決まった時……言ってないか?」
首をひねるお父様に合わせて俺も首をひねる。
そういえば、言っていないような気がする。
「言ってない、よな?」
お父様は自信なさげだ。
俺も自信がない。
心の中で舞い踴っていただけで口には出していなかったはずだ。
「言ってない、かも……」
「そうだよな?お前が王都に行くのはここにくる前から決まっておったのだから、約束するわけがない」
やはり聞いていないと自信を持ったお父様は大きく頷く。
だが、俺はこんなところで挫けるわけにはいかないのだ。
「……しかし、お父様。そこは察していただけるとありがたいのですが……」
「察するも何も最初から決まっていたと言っているだろう?無理なものは無理だ」
「な、何てことだ……」
俺はショックを隠しきれないでいた。
この二日間の努力は一何だったんだ。
俺のオールヒールは一何だったんだ。
「僕は一、何のために生きているんだ……」
「そんな理由で生まれた意味を考えるな」
「僕、明日……プリムと結婚するんです」
「こんなところで死亡フラグをたてるんじゃない」
「プリムに會えなかったら僕のこの金貨十枚もする洋服がどうなるかわかりませんよ?」
「脅迫もダメだ。……それとお前の洋服がどうかなったくらいで私が意見を変えるわけがないだろ」
「……うう、うわーん!わんわん!」
「噓泣きをしてもダメだ」
「……」
噓泣きじゃないやい。心の中はゲリラ豪雨だ。
ただそれが表に出てこないだけだ。
「とにかくお前は私と王都に行くのだ。これは決定事項なのだから諦めろ!」
「うわーん!わんわん!」
「だから噓泣きをしてもダメだ」
「……」
チクショーーーー‼︎
次の日、俺は能面のような表で王都の門をくぐる。
「久しぶりですが、やはり栄えていますね」
俺がそう言うと、お父様は手に持っていた書類から顔を上げて窓の外を見る。
「お、おお、もう王都に著いていたか」
今気づいたとばかりにお父様は顔を驚かせる。
昨日からというか城を出てからというもの、ずっと書類とにらめっこしていた。
だいぶお疲れだろう。
王都は俺が來た二年前と殆ど変わらない景観をしており、相変わらず街中は人で溢れている。
俺たちはその人で溢れる道のど真ん中を悠然と進んでいく。
最前列にいる騎士が大聲で前にいる人達をどかしているのだ。
どいている人達も日常茶飯事なのかスムーズにいている。
しかし、こんな大名行列で人ごみに突っ込んで止まることがないとは……。
……キゾクバンザァイ。
「因みに僕は王都で何をする予定なのですか?」
「ん、ああ伝えてなかったか。まずは陛下への近況報告だ。主にお前の能力とレベルの、な。今回は魔眼持ちを連れてくるようだから前回みたいな誤魔化しは通じない、はずだな?」
「はい。書籍の通りならば僕の魔導王と神眼は魔眼では見ることは出來ないはずです。ただ、レベルと能力値、主にMPは隠しきれないですね」
「うーむ……レベルとMPは今どの位だ?」
「別段上がってませんよ。レベル67の17500です」
「……やはり何度聞いても私の常識が覆るな」
まあ普通の人は1000いけば才能のある方だしな。レベルも40いけば天才、50もあれば國で將軍になれる。
「やっぱり上がり方がどうしても悪くなってますね。MPも三年間で4000しか上がってませんし……」
高レベルになるとやはり必要経験値がバカみたいに増える。59から60になった時、必要経験値が一気に五倍に増えた時は流石に萎えた。
60からは鬼門らしい。
「充分だ。通常よりもかなり上がりやすい上にレベルと魔法才能もどんどん上がっているからな」
「ありがとうございます。あとはやはり……」
「経験、だな」
経験が足らない。
出來れば実戦訓練、せめて魔くらいは狩りたいところなのだが、陛下から止命令が出ていて、許可がないとそもそも城から出れない。
前世では吹けば飛ぶような存在だった俺が、國から名指しで守られるような人間になるとは思いもしなかった。
何も誰にも期待されない自由と、誰かに期待されその分だけ行に制限のかかる使命と地位。
どちらがいいかと言われれば、やるべきことがあり、誰かに頼られる存在であるレインの方が斷然いいのだが、正直外にもろくに出れないのはそれはそれで世界が狹くじる。
これでは気軽にプリムのところに遊びにいけないではないか。
とうとう俺達一行は王城へと到著し、お父様とともに馬車を降りる。
「オリオン公爵様、お待ちしておりました。會議室にて陛下がお待ちです」
「分かった、すぐに參ろう」
「では、こちらです」
馬車降り場で待っていた、陛下の従者らしい老人がお父様に挨拶をして、颯爽と立ち去る。
「やれやれ、やはり數日の馬車の旅は腰にくるな」
馬車から出たお父様は大きくびをする。
俺は若さからかそれ程でもない。
々ちょっと運求が出るくらいである。
「では、行こうか」
「はい」
俺は護衛の騎士數名と共に老人の後をついていく。
そんな時だった。
「レイン様、お久しぶりでございます」
「え?」
俺は聲を掛けられた方に振り向く。
背後から聲を掛けてきたのは……アリアンロッド王だった。
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