あわわわわわわ。

俺の今の心を表すならばまさにそれだ。

そういえば、毎年王族はし遅れて登場しているのだった。

どうすればいいのだろうか。

そんな俺の揺をよそに、王はつかつかとゆっくりとしかし真っ直ぐに俺の方に向かってくる。

その視線もはっきりと俺を見據えているのだ。

トイレに逃げ込むか。

いや、今ここで背を向けたら明らかに逃げたように思われるだろう。

それはオリオン家としてまずい。

同様に橫にずれるのもダメだ。

このまま王を待ちけるのがベストなのだろうか。

だが、そもそも王に足を運ばせて、公爵家である俺が待っているだけというのもおかしな話だ。

しかし、プリムが橫にいる以上、王に近づいて行くというのも憚れる。

そんな心のせめぎ合いの結果、結局俺は全くくことができなかった。

つかつかとこちら側に歩いてくる王だが、その周りには當たり前のように人が集まってくる。

ところが王はそれらは軽くあしらい続けながらじわじわと歩み寄ってくる。

暫くすると、彼がどこに向かっているのかを察した貴族たちは道を開けてしまう。

立ち塞がってくれてもいいのに。

そう思いながらも、俺は微笑みながら王を迎えれる。

「機嫌よう、レイン様」

「ご機嫌麗しく、アリアンロッド王殿下。本日の裝も大変おしく輝いております」

「そう？それにしてはレイン様は突っ立ったままだったようだけど。レイン様の方から歩み寄って下さってもよろしかったのよ？」

ぐぅ、と俺は心の中でく。

會場で他の貴族の目もあるだけに丁寧言葉ではあるが、言い方が刺々しい。

しかし、この程度で慌てる俺ではない。

「アリアンロッド王殿下があまりにもしく、つい見惚れてしまいました」

「あらそう？それにしてはレイン様は他のに夢中だったようでしたけど？」

「いえ、そのようなことはありませんよ」

俺は涼しい顔をしながら王の言葉をけ流す。

これくらいは想定。俺の表を崩すには足りない。

だが、次の王の言葉によって俺の余裕は崩されることとなる。

「それにしては、まるで私から隠すように立ち塞がっておりますわね？」

そんなことはない。王が歩いてきた道の直線上にたまたま俺とプリムが被っていただけだ。

しかし、そう見えてもおかしくない立ち位置にいるのは確かである。

「いえ、それは誤解ですよ。たまたまです」

「そうかしら？なら、私にも紹介してくださる？」

「畏まりました」

そう言うと、俺は一歩橫にずれ、同時にさっきから俺の服を摑んでいるプリムも橫にずれ、結果、小さいながらもすぐ近くに立っていたハーバー士爵への道が開ける。

「お初にお目にかかります、アリアンロッド王殿下。私の名はバックス・シュバリエ・ド・ハーバーと申します」

「……そう、でしたか。初めまして、ハーバー士爵。私はアリアンロッド・アンプルール・ポルネシア。以後お見知り置きを」

そう言ってお互いに挨拶をした後、ハーバー士爵が訝しげな表で王に質問をする。

「それで、プリムにはどのようなご用件でしょうか？」

そんなハーバー士爵の鈍な質問に、王の目がキラリとった気がした。

「ええ、私のフィアンセであるレイン様と仲良くお話をしていらっしゃったご様子ですので、私も仲良くさせていただきたいなと思いまして」

私のフィアンセの部分をやけに強調しながら、ハーバー士爵話しかける。

ここでハーバー士爵があっさり斷ってくれればいいのだが、立場上それも難しいだろう。

俺は一歩前に出ながら、

「お話の最中、失禮します。彼へのご紹介でしたら、僭越ながら私の方からさせていただきたいと思うのですが、如何でしょうか？」

完璧な対応をしたという自信を持ちながら、俺は爽やかな笑みを王に見せる。

しかし、王の顔は笑顔のままなのに、目が全く笑っていなかった。

怖いんだが……。

「うーん、そうだねー」

そんな棒読みに危険をじた俺は、すぐさま機転をきかせる。

「こ、こんなところではプリムさんも王殿下も周りの目が気になりますでしょう。も、もしよろしければバルコニーに移しませんか？」

さすがの俺もアドリブが利かなくなってきており、正直心ビクビクしながら提案する。

一応念のため、斷られた時のことも考えておかなければ。

そんな俺の不安をよそに、しだけ考えた王は頷き了承してくれた。

それを見た俺は安堵しながらプリムの方に振り向き、安心させるように出來るだけ優しい聲で質問をする。

「プリムさんも大丈夫ですか？」

「……え、うう……」

可い。

俺の服の裾を摑みながら、狀況がよく分からず涙目になっているプリムを見ながら、俺はそう思ってしまった。

しかし、いつまでも見つめているわけにはいかない。

「安心してください。王殿下はとても優しくて気さくなお方ですので。さぁお二方とも、あちらに行きましょう」

「は、はい！」

「つーん……」

そんな俺のエスコートの何が問題なのか、王は顔を背けてそっぽを向いている。

何故だ。何がいけなかったんだ。

そんな不安を抱えながら、俺たちは人目を避けるようにバルコニーへと出る。

「え、ええっとー、ゴホン！では、改めまして、プリムさん、こちらポルネシア王國第二王、アリアンロッド・アンプルール・ポルネシア様であらせられます。アリアンロッド王殿下、こちらはプリム・ハーバーです」

プリムはで、かつ魔眼のような特別なスキルもないので家名をけ継ぐ立場にはない為、シュバリエはつかない。

俺はし張しながらも二人の様子を見守る。

プリムはし怯えながら、王はデンとした態度でプリムを見つめている。

あんまりプリムをイジメないでくれ。

「ねぇ、貴、レインとはどんな関係なの？」

「ふぇ！？」

ホワッツ？！

なんでそんな事を聞くんだよ。俺とプリムの関係？そんなの両思いのカップルに決まっているじゃないか。

し鼻を高くしながら馬鹿な妄想に浸っていた俺の眼の前では、王の一方的な攻めが始まっていた。

「レインと最初に出會ったのはいつなの？」

「え、ええっとー……そのー……」

あとさっき突っ込まなかったけど、いつの間にか呼び捨てになっている。あと、プリムは一応年上なんだから敬語をついなさい。

「ええっと、その？」

「あ……」

王に念を押されたプリムは挙不審に震えている。

その目にはうっすらと涙を浮かべていた。

もう見ていられない。

そう思った俺はし強引にプリムと王の間に割ってる。

「お話を割ってしまい申し訳有りません。失禮とは存じますが、プリムさんをあまりイジメないでくださいませんでしょうか？彼は……」

「バカッ！」

それとなく察してもらおうと遠回しな言い方を考えていた俺の右頬を突然衝撃が走った。

「えっ……」

「君って本當に馬鹿！信じられないよ！」

ゆっくりと顔を戻した俺の目に映ったのは、怒りで表を歪めた王の姿だった。

「す、すいません……」

よく分からないがとりあえず謝っておいた。

しかし……。

「何が悪かったのか分かっているの？！」

「え、ええっとー、いじめと決めつけた事でしょう、うぐっ！」

必死に言葉をひねり出したのだが、今度は左頬を叩かれてしまった。

「君は本當に何も分かってないよ！帰る！」

「えっ？あ、ちょっ……」

そう言って王はのっしのっしと城の中にっていってしまった。

その景を、俺はただ黙って見送るしかなかった。