《一兵士では終わらない異世界ライフ》和解して…
足跡を頼りに、俺はソニア姉を探した。辺りは段々と暗くなってきている。時間はない。暫く足跡を追っていくと、森の中の木の元で足を抱え込んで座る、の子を見つけた。ソニア姉だ。ソニア姉は、嗚咽をもらしながら泣いていた。俺はどう聲をかけるべきか思案しながらも、ソニア姉に手をばした。
「お姉ちゃん」
ゆっくりと肩に手がれると、ビクリとソニア姉はを揺らし、真っ赤に腫れた目で俺を睨んだ。
「あんたの所為……なんだから……」
俺は苦笑してソニア姉のとなりに座った。
やがて、暗くなってソニア姉の顔が見えなくなってしまった。
もう帰れそうにないなぁ……。
暫く黙ってソニア姉のとなりに座っているとソニア姉が唐突に口を開いた。
「ふぅ……ごめん」
俺は驚いてソニア姉の方を向いた。暗いけれどソニア姉の申し訳ないという気持ちが伝わってきた。
「どうして謝るの?」
俺が聞くと、ソニア姉は肩から力を抜いて抱えていた足をばし、後ろの木の幹に完全に重を預けた。
「だって……あんた悪くないじゃん。ただあたしが構ってしくて……それで構ってもらってたあんたに妬いてただけだもん」
どうしたことだろう。ソニア姉は急にそんなことを言ってきた。そうか……一回ブチ切れたおかげで頭がクリアになって改めて、そう冷靜に考えてみたのだろう。
そうやって自分で踏ん切りをつけたのか。
「お姉ちゃん」
でも、俺はこういうときどうしたらいいか分からない。前世の俺は踏ん切りなんてつけられなかった。ただ弟が悪いのだと決めつけていた。
俺が子供だったんだ。
そして今、俺は面のさ同様の姿をしている。だったらやることは一つしか結局なかった。
俺の呼びかけにソニア姉はゆっくりと顔をこっちに向けた気がする。暗いからよく分からない。
そして俺は言った。
「お手て繋いで」
ソニア姉は呆気に取られたあと、しだけ躊躇ってから俺の手を探し……そして優しく握ってくれた。
「あんたは……グレイは甘えん坊だね……」
「えっへん」
俺が偉そうにするとソニア姉からクスリと笑い聲が聞こえた。
「あーあ……考えすぎてたあたしがバカみたい。あたしね、グレイにお母さんもお父さんもとられちゃったんじゃないかって思ってたの。あたしはいらない子なんじゃないかって……ね。でもお母さんもお父さんも全然そんなこと思ってないっていうのは分かってた。ただあたしよりもグレイの方が構われてたからそうなんだって勘違いしてたの。本當バカだったよ……」
けないねというソニア姉。俺はそんなことないと思う。まだ九歳のの子なんだ。前世だと小學校四年生だ。ちょっと生意気になってくる年頃でもあるが、それでもまだまだ両親に甘えたいはずだ。こうやって自分が悪いんだと言えるソニア姉は本當に凄いと思う。俺にはできなかったことだからな。
「いままで……ごめんねグレイ」
ソニア姉は俺に謝った。本當は謝ることなんてないはずなのに。
「ううん。気にしてないよ?これからは仲良くしてくれるんでしょ?」
無邪気に言うと、ソニア姉は笑って、「うん、もちろん」と言った。よかった……これで和解できた。まあ、ソニア姉が自分で解決してしまったので結果的に俺の行は、拗らせて、引っ掻き回したに過ぎないのだろう。
まあ、結果よければ全てよしだ。しかし……。
「どうやって帰ればいいんだろ……」
ソニア姉は、そう不安げに言った。そこなんだよなぁ……現狀ネックなのは。もう辺りはすっかり暗いし、森の中じゃ淡い月の程度だから視覚報ゼロ。ついでに、どっちの方角にいけばいいのか分からない……あ、いや。來た時と逆に足跡を辿っていけば帰れるか……ただし、足跡を視認できればだけど。
「燈でもあればねー」
と俺が何となく、ため息混じりに言うとソニア姉が、「それなら」といって自分の指先に小さなの球を作った。それは強く輝き、ある程度だが視界を確保することができた。
「わー!すごーい!」
一どうやってやってんだこりゃあ?と俺は心しつつ、きゃっきゃっと興して見せた。ソニア姉はどこか誇らしげにを張った。が、ここでソニア姉は、「あ」と言って急にの球を消した。途端に視界が閉ざされる。
「え?どうしたの?」
俺が聞くとソニア姉は、「うぅ…」と恥ずかしそうな唸り聲を出していた。果て、どうしたのかしらん?
「あ、あたし今……多分酷い顔してる……から」
そりゃあ、さっきまで泣いてたもんね。
「だから……顔見られるの恥ずかしい……」
「大丈夫だと思うよ?お姉ちゃん可いし」
俺はそう言ってやった。実際そうだろ?あのラエラママの娘なんだから可くないわけがないのだ。ちなみに俺はどうなんでしょうかねぇ?
パパンとママンのどっちよりのでも不細工にはならないはずだ。ママンは言わずもがな、パパンは普通だからな。カッコよくなることはあっても不細工にはなるまいと……。暫くすると、再びの球が出て、視界が戻った。
「ねぇ、それどうやるの?」
俺は好奇心で聞くとソニア姉はきょとんとした後、「あー」となにか納得したように頷いた。
「そっか。グレイはまだ學校にいってないから分かんないよね。これは魔だよ」
「おっ」
ほぉーこれが魔か。ふーん便利だな〜。
「あたしは魔の科目はとってないけど家事の科目で習ったんだ」
なるほど。魔は學校で教えてもらえるのか。しかし、何故家事の科目でこんな燈の魔なんて習うのだろうか……一つ疑問が生まれたが今は気にしないことにする。まる。
「お姉ちゃん。その魔はどれくらい使えるの?」
「え?うーん使えなくなるまで使ったことないから多分だけど……そうだね。二時間くらいは持つかも」
二時間……まあ大して家から離れてるわけじゃないし、それだけあれば帰れるだろう。とりあえず足跡を探そうか。
俺は足跡を探して、見つけるとソニア姉の手をとって歩きだした。
–––☆–––
そうやって暫く歩いていると、ふと俺の脳に電流が走った。ふいに來た道を俺は振り返る。
なんだ……この嫌なじ。囲まれてるのか?人……じゃない、獣だな。それも六匹だ。敵意をもって俺とソニア姉に向かってジリジリと詰め寄ってきている。だが、まだ距離はあった。
「どうしたの?」
と、ソニア姉はきょとんとした顔で俺を見た。どうしようか。走っていくと足跡を見失うかもしれない。なにせ暗いのだ。ソニア姉の燈はそこまで明るいわけじゃない。
どうしよう……その間にもジリジリと間合いが詰められているのをじる……え?じる・・・?
なぜ俺はそんなことが分かる・・・んだ?いや、今はそんなことを気にしている場合でもない。
相手は明らかない敵意をもって、俺たちに近づいてきている。このままでは非常に不味い気がする。
「お姉ちゃん」
俺が呼びかけるとソニア姉は反応して、「ん?」と首を傾げた。説明している時間は……ないか。俺は黙ってソニア姉の手を引いて、足早に歩いた。走ろうが早歩きしようが結局、子供の足では追いつかれる。だから、せめてソニア姉が直ぐに家の方に逃げられるように距離を稼ごう。
俺が黙ってソニア姉の手を引くとソニア姉は困したように言った。
「ほ、本當にどうしたの?」
「うん……ちょっとね」
まずいな……さっきよりも相手のきが早くなってきてるのをじる。この分だと直ぐにでも襲いかかってくるかもしれない。
俺は意を決して、ソニア姉の手を引きながら走りだした。
「ちょっと!もうっ」
非難の聲をあげようとしたのか……しかし、ソニア姉はさっきのこともあったからか口をつぐんだ。遠慮することないのに……。
走りだしたといっても三歳児のヨチヨチ走りだ。ソニア姉の手を握って走っているためバランスは取りやすいが遅いことに変わりはない。
そして、俺の頭の中でアラームが鳴り響く。完全に包囲された。
「えっ……なに……?」
ソニア姉は怯えたようにして後ろに下がると背後の木の幹に背中をぶつけた。ソニア姉も気づいたのだ。そりゃあそうだ、もう姿が見えるんだから。
ガルルルと唸りながら暗闇から姿を現したのは赤い目をギラギラとらせるオオカミのような姿をした獣だ。ソニア姉はそれを見てさらに怯えるようにをガタガタと震わせた。
「ま、魔…っベオウルフ……?」
魔……俺はそれでもう一度オオカミに目を向ける。たしかにオオカミに見えるがし違う。なるほど、やはり異世界だ。って、心してる場合じゃない。
既に周囲は囲まれている。背後には木があるからまだいいが目の前には三匹の獰猛な魔がこちらを睨みつけている。萬事休すか?せっかく和解できたってのに……。
と、俺が歯噛みしているとソニア姉が俺の手を強く握って言った。
「ごめんね……あたしのせいで。ごめんね……」
嗚咽をらしながら口にした謝罪を俺は黙ってきくしかなかった。
くそっ。どうすればいい?勇ましく戦ってみるか?いや、論外だ。俺は三歳児だ。勝てるわけがない。それに今俺の思考は割と冷靜だが、の方は震えが止まらない。まともに戦うなんて無理だ。
だったら助けを呼ぶか?どうやって?いや……もしかすると俺たちを探しているかもしれない両親が聞きつけてくれるかもしれない。父さんは兵士だ。こんな魔くらい倒してくれるかもしれない。でも近くにいなかったら?
くそっ……他に何かないか?
そう考えている間にも魔はジリジリと近づいてきている。もうダメなのか……何かないのかよ!
「ぐ、グレイ……」
恐怖に顔を歪めているソニア姉が、俺の名前を呼んだ。俺もカチコチに固まっているをなんとかかして、首を回す。
「お姉ちゃん……」
どうすればいい!?考えろ!考えるんだ!
考えるべきポイントはなんだ!?優先すべき事項は!?俺に出來ることはなんだ!?
そうしているうちに、とうとう一匹の魔が飛びかかってきた。
ちくしょう!
俺はなけなしの勇気を振り絞りソニア姉を守るために魔の前に踴り出た。
ソニア姉だけは絶対に守る!ソニア姉には指一本れさせねぇぞ犬っころっ!!
心の中で俺はそうんだ。
その瞬間、ドクンドクンと心臓の鼓が止まった音がした。俺じゃない。誰のだ?
それから、飛びかかってきたオオカミのような魔は俺の目の前で口を大きく開いたまま落ちた。噛み付くわけでもなく、ただ落ちた。パタリと……ピクピクとしだけ痙攣している。
ふと、周りを取り囲んでいた奴らを見ると其奴らは立ったままピクピクと痙攣して、かない。
続いて、「グレイ、ソニー!」という聲とともにオオカミの魔が一瞬にして切り刻まれて死んだ。そして、その聲の主を見て俺は思わず腰を抜かして、へたり込んでしまった。
多分安心したからだ。
そう、聲の主は俺の父さん……アルフォードだったからだ。
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