《一兵士では終わらない異世界ライフ》登場

ビリビリと大気が帯電し、空気が張する。スッと敷き詰められたの中、渦中の人間たる――ベルリガウス・ペンタギュラスは両腕を組んだ傲岸不遜な態度でこの場全てを支配している。

圧倒的な存在と威圧……常人がそれをければ即座に失神してしまうような圧迫だが、ラエラは不思議と不安のを顔に出しているだけで何ともないようだった。

その理由はというと、ラエラの隣に立っていたエキドナがラエラを守るようにベルリガウスとラエラの間に立っていたことに加え、シャルラッハがベルリガウスのその気迫を自の気迫で打ち消していたことでラエラにまでその圧迫が屆いていなかった。

隨分と手荒な登場にシャルラッハはコメカミに青筋を立てると口を開く。

「いやはや……突然じゃのぉベルリガウスくん。何用かね?」

「おいおい、隨分と喧嘩腰じゃあねぇかぁ?おぉ?俺様は別に戦いに來たわけじゃあねぇんだがぁ……売られた喧嘩は買うのが俺様だぁ」

ギロリと周囲に目を配らせ、腰に手をばしていたクーロンのきをベルリガウスは目だけで制した。グレーシュと肩を並べて戦ってきたクーロンが、目を向けられてかなくなったところを見た面々は思わず驚愕し、顔を青ざめる。

いや、そもそもの前提として……どうしてベルリガウスは生きているのかという疑問が脳裏に浮かぶが、それを口にすることすら死に繋がるような予に全員けなかった。

唯一、伝説たるシャルラッハだけがベルリガウスと対等に會話を持つことができる。

「ほぉ……あのベルリガウスくんが戦いをまないとはのぉ。ところで、君は王國との戦で敗北して死んだと聞いていたのじゃが?」

ベルリガウスはその質問が意外だったのか……否、その質問をシャルラッハにされたのが意外だったようで目を丸くしていた。その一瞬、張り詰めた空気が軽くなるとシャルラッハ以外の面々は思い出したように呼吸を再開させる。呼吸もまた、死に繋がるような気がして無意識に誰もしていなかったのだ。

ベルリガウスはどこか面倒臭そうにしながらも答えた。

「正直、俺様がここにいる理由は何べんも説明してきたからなぁ……面倒だぁ。とりあえず、てめぇらが知ってる俺様は偽で、この俺様こそが本ってぇとこだぁ」

「ほぉ……本のぉ。……おや?」

と、そこでシャルラッハはウルディアナの背後で今にも泣きそうなベルセルフを見て思い出した。そういえば、ベルセルフはベルリガウスの娘だったと……。

この本と名乗るベルリガウスは、たしかにベルリガウスだ。何よりも強者の覇気がそれを語っている。では、ベルセルフはどちらの娘なのだろうというのがシャルラッハの疑問だった。

暫くシャルラッハがベルセルフを見ていたからか、ベルリガウスも視線をベルセルフへと向ける。

「ひぅ……」

ベルセルフはそれで怯えてを震わせ、必死になってウルディアナへとしがみ付く。目に涙を溜め、泣き出すのを堪えている。あまりにもベルリガウスが恐ろしいのだろう。

そもそも、彼のトラウマの全てはベルリガウスに與えらたものだ。怖がらない筈がない。

ベルリガウスはベルセルフを見て、全く見覚えがないのか首を傾げていたが……しの間だけベルセルフを見て、何かに気が付いたようにハッとした。

「……?てめぇ、名前は」

「うっ……?べ、ベルセルフ……ベルセルフですっ」

「家名もいえや」

「ぺぺ、ペンタギュラス……」

ベルセルフは死んだと思っていた父親が生きていて、しかもどういうわけか自分の娘の名前を聞いてきたことにハテナを頭上に浮かべながら、怯えつつ答える。

ベルリガウスは名前を開くと、そういうことかと納得したように頷いた。

「そうか……例の俺様の娘ってぇ奴か。可いじゃねぇかぁ。えぇ?」

「ふぇ……?」

ベルリガウスからは絶対に聞くことがないような単語が出て、ベルセルフの思考が止まった。それはベルセルフだけでなく、ベルリガウスという傍若無人な人間を知っている全員が頭を真っ白にさせた。

そんなこともほど知らずにベルリガウスは続ける。

「その眼帯もセンスがぁある……なるほど、俺様の娘ってぇのも納得だぁ」

テレテレとベルセルフに近づきながらベルリガウスはその存在を小さくし、ベルセルフが怯えないくらいに調整する。

ベルセルフへ歩み寄ると、まるでそれを阻止するようにシルーシアとウルディアナが前に出るが……、

「てめぇ……ベールに何をっ!?」

「これ以上ベールには……っ!?」

ベルリガウスはその二人を、【エレメンタルアスペクト】でを雷へと変質させた高速移によって避け、苦労なくベルセルフの目の前に現れる。

ビクッとベルリガウスを見上げるベルセルフは、ただただベルリガウスが怖くてけなかった。そして、徐々に自分へびる手を見て目を瞑り……毆られる覚悟をした。

いつもそうだ。ベルリガウスは自分ののためにベルセルフを毆り続けた。だから今回も……と思ったが、次の瞬間にはフワリとベルセルフの頭に荒っぽく……しかし優しく手が置かれた。

ベルセルフが目を開くと目の前には自分が恐れてやまないベルリガウスが立っている。立って、自分の頭に手を置いていた。それから続けて、ベルリガウスはベルセルフの頭をでる。

もう訳が分からなかった。

ベルリガウスはベルセルフの頭をでながら傲岸不遜に笑っていった。

「くーはっはっはっはっ!顔を上げろぉ。前を向けぇい!そして、歩くがいい。ガキはガキらしく、この俺様を見て目を輝かせているがいい」

何という暴論か。

しかし、ベルリガウスの言葉をシャルラッハは納得できてしまった。他の面々はベルリガウスという人を本當の意味では知らない。たしかに、戦ぐるいの戦闘馬鹿ではあるが……彼は伝説の中でも本當に伝説らしい伝説なのだ。

子供達は彼の伝説を聞いて怯えるのではなく、憧れる。彼に羨の眼差しを送る。莫大な富を持ち、強大な力を持ち、気にらないものは排除する。傲岸不遜にして自由を現する彼の伝説は、全ての人間が憧れる暴君の姿といえる。だから、彼はベルセルフに言ったのだ。俯いて泣いているのは、子供には似合わないと……。

「……そうか。戻ってきたのかね?」

シャルラッハはそれで理解できた。

たしか、そうだ。本のベルリガウス・ペンタギュラスが帰ってきたと理解した。自分のを鍛えるため、強者を求めて異世界へと旅立った伝説の男……ベルリガウス・ペンタギュラスが帰ってきたのだと。

ベルリガウスはベルセルフの頭から手を離し、呼び掛けたシャルラッハに目を向けると笑いながら返した。

「あぁ、俺様が帰ってきた」

ベルリガウスの返答にシャルラッハはついついと喜ばしく思い、し余計なお節介を掛けてしまう。

「墓參りは……したのかね?」

「…………いいや、必要なんざぁねぇやい」

ベルリガウスにしては珍しく弱々しい返答に、やはりシャルラッハ以外は驚いた様子を示していた。

が、このままでは話が進まない。突然の出來事だが……さきほどベルリガウスはグレーシュが戦場に立つことをどういうわけか反対するようなことを言っていた。本當にどういうつもりなのか……というか、どこからこの會話を聞いていたのかなど疑問はあるものの、その全てが伝説だからで通るのが狡いところだ。

「では、ベルリガウスくん……話を戻したい」

「……ん?あぁ、その男の件だろぉ?べっつにそいつがいようがいまいが関係はねぇさぁ。なにせ、これからはこの俺様がてめぇらの仲間になってやるんだからなぁ!」

「「「えぇー!?」」」

〈反対派〉

5クロロ、ルーシー、ディーナ、エリリー、ベール。

反対5ノーラ、シャル、セリー、ベルリ、エキドナ。

中立1ラエラ。

このような勢力図となり、現在は完全に敵対関係とらなっている。幸いにして反対側の方が戦力的にもシャルラッハやベルリガウス側いるため優勢であり、さらには中は違えどグレーシュ本人がいるのが大きい。

反対派のリーダーとなってしまったウチ――ノーラント・アークエイは、奇妙なメンバーに頬をヒクヒクとさせていた。

「まあ、そこまでくなるんじゃあねぇよ。俺様は味方だぁ」

「そう簡単には信じられるわけないじゃん!?なんなの!?ウチがおかしいの?え?ウチがおかしいの!?」

もう、ウチの頭はパンク寸前なんですけどぉ!?

ウチは頼るように隣でソファに腰掛けてソーサーとティーカップを持ったフォセリオ――セリーさんに聲を掛けると優雅に紅茶を口にして言った。

「全く……落ち著きなさい。貴がそれでどうするのよ」

「まずはその震えを止めてからいって下さいねー。紅茶、溢れちゃいます」

「……震えてないわ」

セリーさんもなんかもうダメだった。ウチは最後の砦であるシャルラッハさんへ目を向けるが、シャルラッハはベルリガウスと楽しそうに談笑していた。同じ伝説であるからだろうか。

どうやらこの場に頼れるのは一人しかいないようだ……と、グレーシュもといエキドナさんへ目を向ける。

「ど、どうしようエキドナさん……これ収集付かなくない?」

ウチの言葉にエキドナさんは落ち著いた様子でソーサーとティーカップを手に、セリーさんと同様に紅茶を口にしてから言った。

「大丈夫よ」

「さすが」

「……多分」

「ですよねー」

エキドナさんもなんなら手が震え、ティーカップから紅茶が零れ落ちそうになっている。

だ、ダメだ……早く何とかしないと。

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