《一兵士では終わらない異世界ライフ》vs

☆☆☆

キンッガキンッキンッ

黒い刀が嘶き風を切る。ノーラントは上を逸らしてクーロンの橫薙ぎの刀を避け、その返しに自分の右手に握られた剣を振り上げる。

そんな不意打ちのような攻撃も圧倒的な速度を誇るクーロンには當たらない。瞬時に瞳に宿した月を走らせてバッステップによりノーラントの攻撃を切っ先スレスレで躱し、先ほど振り払った刀を引き戻すとノーラントの元へ突き出した。

線から點の攻撃。

ノーラントもまたその突きを、首を曲げてスレスレで躱して反撃の蹴りをクーロンの腹部に繰り出す。

クーロンは咄嗟に刀を再び引き戻して刀の腹でガード……が、ノーラントのあまりの膂力にるように後方へ吹き飛んだ。

ザザッと草花がっこから引き抜かれて地面が抉れる。それでクーロンは數十メートルほどると停止し、続け様に突っ込んで剣を振り下ろしたノーラントの追撃を刀で防して薄する。

だが、これはクーロンに分が悪い。何せ、ノーラントの圧倒的な腕力は近接戦でこそ力を発揮する。パワーで押し負けるクーロンが鍔迫り合いをするのは、あまりにも不利だ。

「とおぉぉぉぉぉおおおおお!!!」

「シッィ!」

ノーラントの雄びと、クーロンの短い気合いが走り剣閃が差する。その結果、力負けしたのは案の定クーロンだ。

クーロンは再び後方へ吹き飛ばされる。地面から引っこ抜かれ、宙へ投げ出されたクーロンは隙だらけだった。ノーラントはその機を逃すことなく、地面を蹴ってクーロンとの距離を詰めるが……。

「……っ!」

空中にいた筈のクーロンの姿が突如として月の軌跡を殘してノーラントの目の前から、消えた。そして次の瞬間、ノーラントは咄嗟に、反的に、本能的に、覚的に、剣を右側に構えて防姿勢を作る……と、同時に衝撃が走り今度はノーラントが地面をるように吹き飛んだ。

さらに追撃……クーロンは瞳から閃を走らせてノーラントに薄する。ノーラントは直でガード……その上からクーロンの振るった一撃が叩き込まれ、ノーラントが宙へ飛ぶ。

両者共に五分五分と言える戦い。それを彼方から眺めていたベルリガウスは、クツクツと笑みを零した。

「スピードのクーロン・ブラッカスと、パワーのノーラント・アークエイ……かぁ。キャリアやテクニックを考えりゃあブラッカスの奴の方が圧倒的に有利なんだがぁ……アークエイの嬢ちゃんはこの戦闘の中で、驚異的速度で長してやがるぅ。すぅげぇなぁ……」

パワーのノーラントに比べ、スピードのクーロンの方が有利……だが、狀況は拮抗していた。クーロンも二刀流ではないことから、本気をだしているわけではないにしろ、それでもきは尋常ではない。ノーラントもまた然り。

常人のそれを逸したきをしている。人智を超えた達人の領域……それすらも凌駕しつつあるようにベルリガウスには見えた。殺し合う二人が……互いを高めあっているような悲劇。

「このっ……」

「むぅぅ……」

が、実は狀況はもっと短絡的で、単純で、馬鹿馬鹿しく、笑ってしまうような喜劇だった。

「(年増……っ!)」

「(ゴリラ……っ!)」

刃をえ、えた刃を通して二人は會話していた。それは罵詈雑言の嵐で、全く醜い同士の爭い……嫉妬やら、羨やら、そんな下らないような殺し合いという喜劇だった。

これが悲劇ではなく喜劇だと知っているのは當事者……劇中の役者だけだ。

「(ドジっ!)」

「(バカっ!)」

ズンッと刃をえた衝撃が一帯を震えさせる。大気が波打ち、地面が吹き飛ぶ。

「(ウチの……方がっ!)」

「(私の……方がっ!)」

強い!――そうぶような剣戟の後に二人は互いに距離をとって後方へ跳躍する。そして、地面へ著地すると互いに睨み合った。

暫しの靜寂……シンッと靜まり返った中、最初にき出したのはノーラントだ。

「ふんっ!」

ドンッと剣を地面に突き刺し、続けて自分の両腕を地面に刺す。地面に刺した自分の手に力を込め、巖盤を鷲摑みにする……と、ノーラントは地面をめくり上げるようにして腕を振り上げた。

ズガガガガガ

地面が連なってめくり上がり、クーロンが立つ地表が波打ち、打ち上がる。

クーロンは瞬時に橫へ飛んで回避すると、腰に挿してある鞘を引き抜いた・・・・・・・。それに呼応する形で、ノーラントにも変化が訪れる。ノーラントの瞳が獣のようなそれに変化し、ギラリと月のを宿すクーロンの目と合わせる。

二人の戦いは一層苛烈さを極め、彼たちの周囲の地形が滅茶苦茶になっていく。地面は割れ、抉れ、大気は吹き飛び、軋む。

二人の暴力に不満を訴えるように空間が囀る。剣戟の余波だけで草木は嵐の日のように揺れに揺れ、迷そうに葉音を立てた。

ノーラントが剣を指先でり、クーロンは二刀をる。スタイルも、能力も、信念も、立場も、何もかもが正反対とも言える二人……きっとどこかでこうして戦う運命にあったかとさえ思えるほどに、二人は五分。あまりにも五分。

「(私はノーラさんよりもずっと長く生きてきた。簡単に負けてあげられるほど……私の人生は軽くないのです!)」

「(ウチにだって譲れない信念がある。クロロさんには負けられない……負けちゃいけない!)」

信念と意地、或いはか。

願いと想いが錯し、じり合う。どこまでも意固地に、自分勝手に、傲慢に。二人の戦いは誰かのためのようでいて、本質はもっと別の場所……自己中心的なにも似た押し付けがましい言い爭いである。

そんな言い爭いは他者から見れば殺し合い……そんな本気を見せる二人に、エキドナは震いした。

「……ノーラント・アークエイって、あんなに強かったかしら…………」

クーロンと互角に戦う姿は、もはやグレーシュと背中を預けても戦えるように見える。それほど強くなかったはずだった。今までは、エリリーと同程度くらいに見えたのだ。

と、そこでエキドナはハッとした。

「…………」

エリリー・スカラペジュム。

誰よりも長い時を、家族と呼んでも差し支えない時間を過ごしてきた最も近なノーラントのライバルは今、自分の預かり知らぬところで急長している彼を見てどう思っているのだろうか。

そんな心配がつい頭を過ぎった。そして同時に理解した。ノーラントは恐らく天賦の才能を持っていた。エリリーもそれ相応に努力し、達人といっても比較的に問題ない強さと言える。だが、正直にいうなら達人の中でも人智を超えた存在とは言えなかったようにエキドナは捉えていた。

エキドナの観察眼から見て、きっと……ノーラントはそんなエリリーに抑圧される形でその才を発揮できず、エリリーと同等に留まっていたのだろう。

『エリリーとノーラントはライバルだから』

そんな錯覚や固定観念。

グレーシュも以前、ノーラントの剣はノーラントに適していないと語った。それも一種の固定観念……エリリーと同じ道を選んだが故の結果だ。

だが、そんなエリリーにとって心地の良い夢は終わり……ライバルとしたノーラントは完全に達人の域をした。才能を発させ、自分のスタイルを手にれたノーラントはかのクーロン・ブラッカスと券をえ、互角に渡り合っている。

エリリーはその景を、複雑な想いでジッと見ていた。

ノーラントが攻めていれば焦りの気持ちが生まれ、ノーラントが攻められれば怪我をしないかハラハラする。彼を大事にする気持ちと、ライバルであるという意識が混在し、ぐちゃぐちゃな思考が頭を巡る。

グレーシュと再會してからずっと……エリリー達はクーロンを羨の眼差しで見ていた。凜々しく、気高く、強く、儚く、しく……強い。グレーシュ・エフォンスという憧れと、クーロン・ブラッカスという眩いは実にお似合いで、とても立ちることの出來ない絆が二人にはあるように見えていた。

それでも、グレーシュへの憧れと心を諦めることはできなかった。半ば諦めていたエリリーと違い……ノーラント・アークエイは――。

「(ウチの方が大好きだもん!)」

「(私の方がしています!)」

或いはか。

敵ライバルたる二人だけが知る、二人だけの戦場。剣でしか語れない、不用な二人の役者。そんな喜劇の観客は、誰一人としていない。

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