《一兵士では終わらない異世界ライフ》エリリー・スカラペジュムの幸福1
☆☆☆
【腐と骸の皿ヴァイス・ディカルゴ】……それはこの世全ての痛み、妬み、憎しみ、恨み――悪という悪の集合意識。邪悪の塊にして、諸悪の源。醜く、悍ましい人間の側面。これはそういう存在であると、直的にノーラントはじ取る。クーロンもそれは同じで、険しい表を見せた。
空に浮かぶ三日月に歪んだ口から、唾のように黒いものがダラーっと垂れてくる。汚臭に二人は思わず顔を背けそうになるが、何が起こるか不明なこの狀況でそんなことができるはずもなかった。
黒いは地面へ降り立つと同時に地面が溶け出し、蒸発――そのは人のような形を取り、大地に立つ。さらに黒いが垂れ、黒い人間のようなものが數十人、數百人と數を増やしていく。それは……人間の悪という側面を現したかのような醜い姿だ。
『jj_gs@jmmd@』
そしてそれは、言葉を話した。何の言語か判斷できないが……雑音のような聲がたしかに聞こえたのだ。剎那、怒號のようなシャルラッハの聲が轟いた。
「正気かバートゥ・リベリエイジ!!みな、儂の後ろでを守るのじゃあ!!はやくせい!」
「っ!」
「……っ」
あの溫厚なシャルラッハが本當に焦り、ぶ。その焦りに発され、これは只事ではないと敵も味方も関係なくシャルラッハの背後に隠れるように走る。シャルラッハは同時に、『黒い人間』がこちらへ來る前に詠唱を始めた。
「〈神よ・我が願いを葉え給え・神よ・救いの聲を聞き給え・我が聲を聞き屆けたならば・我は貴方にこの全て捧げよう〉……【慈悲深き斷頭聖母シャルル・マリアンヌ】!」
そうんだシャルラッハの前面に、慈悲深い微笑みの表を浮かべた巨大な聖母像が剣を持って出現する。神々しさと、剣という俗さが混ぜ合わさった違和の塊のような存在……そんな印象をノーラントはけた。
ノーラントはシャルラッハの背後で、【慈悲深き斷頭聖母シャルル・マリアンヌ】と【腐と骸の皿ヴァイス・ディカルゴ】が衝突する様をどこか遠い目で眺める。その景はあまりにも凄慘で、悍ましく……そして現実離れした戦いだった。
慈悲深き聖母は微笑みを讃えながら手に握る巨大な白い斬首剣で黒い人間の首を切り落とす。だが、およそで構されていると思われるその黒い人間達は忽ちそのを再生……させるが、これはシャルラッハの神聖屬の為か、再生した黒い人間のは次第に浄化され、蒸発するように消える。
その消える瞬間……黒い人間はこの世のものとは思えない斷末魔の後に消える。聖母はそれに対して、ただただ笑みを深めて次々と斬り殺す。だが、どれだけ斬り殺しても黒い人間は次々に生まれ落ちる。
大地は溶け、いつしか草原は不の地へと変わる。聖母の一振りで地面が裂け、大地がめちゃくちゃになっていた。
『伝説同士の戦いは大陸に影響を及ぼす』
これはそういうことだった。
『Laaaaaaaa――』
『『『mtn&p@@@_pmb&_@#!!』』』
聖母の大気を震わせる聲と、蟲のような音を立て進軍する病魔の大群。聖母の周囲ではオーロラのようなの幕が降り、黒い人間達はそれより先には進行してこない。おかげでノーラント達がいるところまで來れない……。
だが、おそらく聖母が――シャルラッハが倒されればの幕は消える……それくらい見ていれば誰にでも理解できた。
だからこそ、この瞬間に起きた最悪な事態にクーロンはいち早く行を起こした。なぜなら、このタイミングがバートゥにとって最高だと判斷できたからだ。
ガキンッ
キリキリとクーロンの刀と、エリリー・・・・の剣が差した。
「「っ!」」
突然の出來事に全員が困する……そんな中でこの狀況を即座に理解したのはエキドナだ。彼はバートゥの下で働いていたことがある。知らないはずがない……バートゥの神汚染並びに神支配のことを。
「以前はそれで大変迷掛けてしまいましたからね。同じ手は、私に通用しません」
クーロンは虛ろな瞳のエリリーを通して、悍ましい笑みを浮かべたバートゥへ言い放つ。バートゥは何が楽しいのか、笑って返した。
「きひひひっ!いやいやぁ、さすがデスね。どーもシャルラッハさんの力が強いせいなのか……もっとも神力が弱そうなを対象にしてみれば……あーらぁ不思議ぃ?不思議ぃいいぃ!!なぜかこの私の魔が弾かれ、痛いげなに神支配のが掛かってしまいましたねぇ。きひひひひひひひ」
最も神力が弱そうな?と、全員の視線がラエラへ向いた。そういえば、ノーラントとクーロンの戦闘が始まって以降もずっとラエラは二人の戦闘を見つめていたし、バートゥが現れてからも何も言わない。シャルラッハに促されて走った時はエキドナがラエラのを守りながら移し、今現在に至る。
そう、非戦闘員でこんな現実離れした伝説同士の戦いを目にした日には卒倒しそうなラエラが目を逸らさず、び聲や悲鳴も上げずに戦いの様子を見ていた。
ここに來て漸く、ラエラ・エフォンスという存在の異常さに気が付いた。
(エキドナのバカ!ご主人様とソニア様のお母様、普通で普通なお母様のはずがないじゃない……)
たが、今はそれに気を取られている場合ではない。エリリーがラエラの代わりに神支配をけてしまったのだ。エリリーの神は、ノーラントとクーロンの戦闘が開始されてからずっと不安定だった。それに付け込まれた形となったのだ。
「目をお冷まし下さいませ!」
短期間だが同じような考えを持った仲間として共にいたエリリーになからず仲間意識があるウルディアナは、クーロンと差した剣をキリキリと押すエリリーにそう呼びかける。が、反応はない。
「全く……世話の焼けるものだな!」
ベルセルフは即座に【エレメンタルアスペクト】を使い、エリリーに接近する。しかし、ここで驚いたことにエリリーはクーロンとの鍔迫り合いを止めるとどういうわけかシャルラッハの背後という安全地帯から、自らした。
「っ!?」
その奇行にベルセルフは驚き、同時にバートゥから甲高い笑い聲が響いて來た。
「きひひひひひひひひひきひききひきひひ?いえねぇ?実はいいことを思いついたのデスよ……そこで仲間同士爭わせても面白いデスがぁー?しかしぃ、もっと面白いことを思いつきましたぁ」
「面白いこと……だと?」
シルーシアの問いに、バートゥは勿ぶるように答えた。
「きひひ?見れば分かりますよ〜」
……全員の視線がエリリーに向かった。そして、全員気付いた。バートゥがエリリーに何をさせようとしているのかを。
エリリーはシャルラッハの安全地帯が出ると、黒い人間に向かって走り出したのだ。そう、あの大地を不にする溶けるで構されたものに……。
「……っ!!」
ザッと地面を蹴ってき出したのはノーラントだった。安全地帯に留まる面々の中、もっとも彼と時を共にしたノーラントが、死にに行くエリリーへ向かって駆け出した。
圧倒的膂力を持って、ノーラントは一足でエリリーとの距離を埋めるとその手を取ってエリリー止めた。
「エリリー!」
と、呼びかけるノーラントの言葉も虛しく……エリリーはまるで邪魔なを切り捨てるかの如く、己の剣をノーラントの心臓に深々と突き刺した。
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