《》第27話 はじめての串焼き
とりあえず、カタリナとキアラにはお互いに自己紹介をしてもらうことにした。
姿が見えず、聲も聞こえず、にもれないキアラに、どうやって自己紹介をしてもらうかを考えていたら、
「大丈夫だよ。姿は見えないし、聲も聞こえないし、にもれないけど、魔は使えるし、霊も多は使えるから
そのどっちかで何かに文字を刻めばなんとか」
「あ、そうか」
魔や霊を使って地面や紙に文字を刻むことで、キアラのカタリナとの意思疎通もなんとかなりそうだ。
と、いうことで、自己紹介をやってもらった。
「は、はじめまして! かっ、カタリナと申します! ラルさまの奴隷をさせていただいております! よろしくお願いしますっ!」
「はーい、よろしくー……って、聞こえてないよねこれ。じゃあ書きますか」
キアラは指の先に火屬の初級魔を発させる。
ちょうど指先に火が燈っているようなじだ。
何もないところから突然火が出てきたように見えているであろうカタリナは、し驚いていた。
「なるほど。今はそちらにいらっしゃるんですね」
「ん? ああ、そうだな」
言われてみれば、これでキアラの居場所もなんとなくはわかるのか。
キアラは火が燈っている指先を地面に押し付けて、文字を綴っていく。
「……字って、これであってたっけ」
「あってるよ」
オレがジト目でツッコミをれると、キアラは恥ずかしそうに笑った。
「あははー、ごめんごめん。やっぱり字って書かないと忘れちゃうよねー」
キアラが綴る字は割と汚い。
どれだけ長い間書いてなかったんだこいつ。
「おお……」
カタリナは、地面に字が彫られていく様子をただじっと見つめていた。
はたから見たら、異様な景なのだろうな、ひとりでに地面に文字が彫られていくというのは。
『私キアラ。よろしくね』
キアラが文字を書き終えると、地面にはどこかのメリーさんを彷彿とさせるような文で、そう書かれていた。
メリーさんネタが通じる人間が今ここにいないのが殘念でならない。
「――はい! よろしくお願いします、キアラさん!」
地面に綴られた文字を読んだカタリナは、満面の笑みを浮かべながらペコリと頭を下げたのだった。
キアラとカタリナを喋らせてみたいという求もあったので、今日はカタリナも連れて『霧の森』の軽い下見に行くことにした。
下見と言っても、カタリナがいる以上そこまで深いところまで行くつもりはない。
はっきり言ってピクニックと大差ないだろう。
し違うのは、魔とエンカウントする可能があるというところと、お晝ご飯を持ってきていないというところぐらいのものだ。
お晝ご飯を持ってきていないのは、単純にオレの弱點を強化しようと思ってのことだ。
尋常でないほど高い防力を持つオレだが、弱點はいくつかある。
その一つが、食料だ。
どれだけ高い防力を持っていようが、どれほど強力な霊を使用できようが、何も食べなければ死んでしまう。
人間として當たり前の弱點ではあるが、明確な弱點があるというのは大きい。
……まあ、何も食べられない狀態になっても活できるように、普段から亜空間に大量の食料と調味料をれてあるんだけどな。
亜空間にれたものは時間が停止するから非常に便利だ。
「ラルさまー! すごい、川がありますよ!」
カタリナは楽しそうな聲を上げてはしゃいでいる。
ここ二年ほど、カタリナはほとんど実家かオレの家に引きこもりだったからな。川なんて本當に久しぶりに見たのだろう。
これからは、定期的にカタリナとどこかへ遊びに行くことにするか。
「しかし、いいとこだな。ここは」
「ホントにねー。魔が出てくるなんて思えないくらい」
『霧の森』なんて呼ばれてるから薄暗いところなのだろうな、と思って來てみれば、普通にがしていて暖かい。
今のところ魔の気配もないし、本當にピクニックに來たのと変わらないぐらいの気安さだ。
とりあえず、今日はこの辺で魚でも取って食うか。
亜空間に塩はれてあるし、塩焼きにすればそこそこの味にはなるだろう。
……もはやピクニックというよりサバイバルになってきているような気がするが、気にしてはいけない。
「カタリナ。その川に魚はいる?」
「いますよ! けっこう大きいのがいっぱいです」
川辺から水の中を覗き込んでいるカタリナが、元気のいい聲で答えてくれた。
「じゃあ、お晝ご飯は魚の串焼きにしようと思うんだけど、カタリナはそれでもいいかな?」
「カタリナはラルさまが食べたいものなら何でもいいんですけど……魚の串焼き、って何ですか?」
「塩をまぶした魚を串に刺して焼くだけの簡単な料理なんだけど……あー、うん。まあ食ってみりゃわかる」
カタリナが可らしく小首を傾げていたので説明したが、イマイチ想像できないようだ。
ならば実演するまで。
さて、どうやって取ろうか。
水中に『電撃ボルト』でも打つか?
……いや、そんなことをしたら関係のない水中生まで殺してしまいそうだな。
火屬魔……は論外だし、『風の刃ウィンド・カッター』で切りにするのは……切った後に流れていってしまうかもしれない。
あとは土屬魔で狙撃……したら魚が散しそうだし、ここは『巖壁ロックウォール』で川を分斷するのがいいか?
いや、できれば自然環境は破壊したくないんだよなぁ……。
それと同じ要領で『空間斷絶』を使ってみるか?
これならほぼ確実に魚を取ることができるだろうが、
「そもそも、たかが魚相手に魔や霊使うのもどうなんだ」
……そうだな。
たまには自分の手で直接取ってみるのもいいかもしれない。
そう思ったオレは、亜空間の中から一本の槍を取り出した。
を捌くためのナイフは昨日まで持っていなかったが、こういった普通に戦闘で使用できる武類は、普段から亜空間にれて持ち歩いているのだ。
ただの槍なので、魚に刺さってもあっさりと抜けてしまう可能が高いような気はするが、まあなんとかなるだろう。
いや、底が淺いんだから、槍先で突き刺してそのまま川底にい付けてしまえばいいか。
そう思い、水中の魚めがけて槍を突き下ろした。
「ちっ、外したか」
微妙に位置がズレていたようで、槍先には何も引っかかっていない。
でも、今のでなんとなくわかった。
次はいける。
「よっしゃ」
他の魚を選んでもう一度やってみると、今度は上手くいった。
串刺しになっている魚を慎重に取り外し、カタリナがいるところまで持っていく。
「おおー! すごいですラルさま!」
「これくらい朝飯前さ。じゃあもう一匹取ってくる」
でも冷靜に考えたら、槍で川の中の魚を突けるってすごくね?
前世のオレでは、ほぼ間違いなくできなかった蕓當だろう。
そして無事に二匹目の魚を取ってきたオレは、亜空間から取り出したナイフを使って、魚たちのはらわたを取り出した。
それに塩を振りかけ、しばらく放置してから焼き始めることにする。
カタリナにも手伝ってもらって、焼く場所と串の準備にも取りかかった。
とはいえ、魔と霊を使えば、大した苦もなく焚き火が完した。
同じく、その辺から拾ってきた枝をナイフで削れば、即席の串の出來上がりだ。
魚の串は火からはし離れたところに置いて、串焼きができるまでしばらく放置しておく。
「ふぅー。慣れない作業だったのでし疲れました……」
カタリナが辛そうだったので、土屬魔を使って即席の椅子を作ってやった。
ありがとうございます、とオレに一聲かけてから、カタリナがそこに座る。
「オレも久しぶりにこういうサバイバルみたいな料理作ったけど……案外悪くないだろ?」
「そうですね! 普段はやらないことをいっぱいできたので楽しかったですよ!」
たしかに、普段は家事ばかりしているであろうカタリナには、サバイバルのような料理の方法は目新しく映るだろう。
気にってもらえたようでよかった。
 「そういえば、キアラさんは幽霊だから何も食べないんですか?」
カタリナがそう尋ねると、キアラが近くの地面に文字を綴り始める。
『そうだね。実がないから食べたくても食べられないし、そもそもお腹も空かないしね』
「あー、うん。そうだな。オレもキアラが何か食べてるとこは見たことない」
キアラの答えに、オレも言葉を付け足す。
言われてみればたしかに、オレもキアラが何かを食べているところは見たことがない。
「そうですか……えーと、じゃあキアラさんの好きだった食べはなんですか?」
これは、もしかしてアレだろうか。
カタリナなりに、頑張ってキアラと會話しようとしているのだろうか。
だとしても、幽霊に好きな食べを聞くのは明らかに選択ミスのように思えてならないのだが……。
そして、キアラはカタリナの疑問に答えた。
『ラルくん』
早かった。
地面に文字を綴っているはずなのに一秒もかかっていなかった。
驚くほどの早業だ。
というか、好きな食べオレってなんだよ。
オレは食べじゃねえぞ。
「なるほど、ラルさまですか。たしかに味しそうです」
ふむふむ、と頷きながら同意を示すカタリナ。
ダメだこいつら、早くなんとかしないと。
そう思い、和やかに談笑している二人のあいだにろうとした、そのときだった。
「ん?」
ふと、何かの気配を察知して立ち止まった。
おそらく、何かの魔がオレたちの近くにいる。
串焼きの匂いに引き寄せられてきたのか?
この辺には魔いないな、って思ってたばかりなんだけどな……。
「……ラルくん」
キアラがオレの肩を叩く。
彼もまた、魔の気配を察知したのだろう。
「魔が近くにいるよ。カタリナちゃんから離れないで」
「ああ、わかってるよ。でもどうせ大した奴じゃ――」
そこまで言って、オレは言葉を切らずにはいられなかった。
こちらへと近づいてくる魔の気配。
その大きさが、昨日の黒豬ダークボアーと遜ないほどのものだったからだ。
オレは、その場に腰を下ろしているカタリナの元へと近づく。
「ラルさま? どうかしたんですか?」
「カタリナ、靜かに」
右手でカタリナの口を塞いだ。
すぐに大人しくなったカタリナの手を引いて、近くの茂みへとを潛める。
しばらくすると、気配の元が姿を現した。
「あれは……」
長は、昨日の黒豬ダークボアーと大して変わらない。四メートルくらいだろうか。
薄汚れた黒のに、鋭利な鉤爪。
その鋭い眼は、見る者全てを萎させる暴圧となって弱者を躙する。
「あれは黒熊ダークベアーっていう魔だよ。まさか、こんな森の淺いところにいるなんて……」
オレは頷く。
相手の危険度がどの程度のものなのかわからない以上、しばらく観察するのがいいだろう。
いざとなったら『空の刃エアー・カッター』を使うなりすればいい。
黒熊ダークベアーは、俊敏なきで川に手を突きれている。
魚を狩っているのだろう。
まるで鮭を狩る熊みたいだ。
數回その作を繰り返した黒熊ダークベアーは、獲である魚を食わえて、川辺に座り込んだ。
どうやら、そこで食事を摂るつもりらしい。
さて、どうするかな。
魔である以上は、あの黒熊ダークベアーも狩らなければならない。
様子を見ようかと思っていたが、標的は食事を摂ったまましばらくきそうにない。
今はカタリナもいるし、さっさと仕留めてしまうほうが賢明だろう。
そう決めたオレは、風霊にお願いして、『空の刃エアー・カッター』を発させた。
黒豬ダークボアーを殺せしめた不可視の刃が、目の前の標的の命を奪わんと襲いかかる。
「――!」
不穏な気配に気付いたようだが、遅い。
オレの放った『空の刃エアー・カッター』は、黒熊ダークベアーの頭部を深々と切り裂いた。
「――――」
黒熊ダークベアーのきが止まる。
そして、その巨がその場に崩れ落ちた。
「ふぅ……」
今回は、昨日の黒豬ダークボアーよりも楽に倒すことができたな。
前回は狙う場所が悪かったのか?
いや、単純にオレのコントロール力が上がったのかもしれない。
もしくは個差か。
「び、びっくりしました……」
黒熊ダークベアーが崩れ落ちる姿を見屆け、息苦しさから開放されたらしいカタリナが聲を上げる。
「大丈夫だったか、カタリナ?」
「はい! ラルさまが守ってくれたので平気ですっ!」
嬉しいことを言ってくれる。
しかし、そこまで森の深くないところに、あんな危険そうな魔がいるなんてな。
知っているのかもしれないが、一応村の人達にも伝えておかないと。
カタリナは大丈夫だと言っていたが、あれほど大きな魔を目の前にしたせいか疲れていたため、今日の探索はここまでにすることにした。
「今日のところはここまでにしよう。カタリナも、いいね?」
「……ラルさまがそうおっしゃるのであれば、カタリナは従うしかありません」
渋々といった様子で、カタリナは頷く。
そんなに嫌か。それは悪いことをしたな……。
「ごめんな。また今度一緒に遊びに行こう」
「えっ!? いいんですかっ!?」
「? ああ。もちろん」
というか、もしかしてカタリナは今回が最後だと思っていたのだろうか。
……今の反応を見る限り、そう思っていたのだろうな。
「わかりました! それじゃあ帰りましょう!」
わかりやすく元気になったカタリナを微笑ましく思いながら、オレは後片付けをする。
とりあえず、の匂いに引き寄せられて他の魔が來る前に、死と串焼きは回収しておかなければ。
黒熊ダークベアーの死は、亜空間に収納して持ち帰る。
串焼きはちょうどいい塩梅に焼き上がっていたので、帰り道に食べながら帰ることにした。
「――っ! これ、すごくおいしいです!」
歩きながら串焼きを頬張り、瞳を輝かせるカタリナ。
あまり品のいい食べ方とは言えないが、まあたまにはこういうのもいいだろう。
「うんうん。うまいうまい」
自作の串焼きの出來に満足しながら、オレたちは『霧の森』を後にした。
[完結しました!] 僕は、お父さんだから(書籍名:遺伝子コンプレックス)
遺伝子最適化が合法化され、日本人は美しく優秀であることが一般的になった。そんなご時世に、最適化されていない『未調整』の布津野忠人は、三十歳にして解雇され無職になってしまう。ハローワークからの帰り道、布津野は公園で完璧なまでに美しい二人の子どもに出會った。 「申し訳ありませんが、僕たちを助けてくれませんか?」 彼は何となく二人と一緒に逃げ回ることになり、次第に最適化された子どもの人身売買の現場へと巻き込まれていく……。 <本作の読みどころ> 現代日本でのおっさん主人公最強モノ。遺伝子操作された周りの仲間は優秀だけど、主人公はごく普通の人。だけど、とても善人だから、みんなが彼についてきて世界まで救ってしまう系のノリ。アクション要素あり。主人公が必死に頑張ってきた合気道で爽快に大活躍。そうやって心を開いていく子どもたちを養子にしちゃう話です。 ※プライムノベルス様より『遺伝子コンプレックス』として出版させて頂きました。
8 144【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの少年は、眠りからさめた女神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】
サーガフォレスト様より、1巻が6月15日(水)に発売しました! コミカライズ企畫も進行中です! 書籍版タイトルは『神の目覚めのギャラルホルン 〜外れスキル《目覚まし》は、封印解除の能力でした〜』に改めております。 ほか、詳細はページ下から。 14歳のリオンは駆け出しの冒険者。 だが手にしたスキルは、人を起こすしか能がない『目覚まし』という外れスキル。 リオンはギルドでのけ者にされ、いじめを受ける。 妹の病気を治すため、スキルを活かし朝に人を起こす『起こし屋』としてなんとか生計を立てていた。 ある日『目覚まし』の使用回數が10000回を達成する。 するとスキルが進化し、神も精霊も古代遺物も、眠っているものならなんでも目覚めさせる『封印解除』が可能になった。 ――起こしてくれてありがとう! 復活した女神は言う。 ――信徒になるなら、妹さんの病気を治してあげよう。 女神の出した條件は、信徒としての誓いをたてること。 勢いで『優しい最強を目指す』と答えたリオンは、女神の信徒となり、亡き父のような『優しく』『強い』冒険者を目指す。 目覚めた女神、その加護で能力向上。武具に秘められた力を開放。精霊も封印解除する。 さらに一生につき1つだけ與えられると思われていたスキルは、実は神様につき1つ。 つまり神様を何人も目覚めさせれば、無數のスキルを手にできる。 神話の時代から數千年が過ぎ、多くの神々や遺物が眠りについている世界。 ユニークな神様や道具に囲まれて、王都の起こし屋に過ぎなかった少年は彼が思う最強――『優しい最強』を目指す。 ※第3章まで終了しました。 第4章は、8月9日(火)から再開いたします。
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