エノレコート城の地下。

そこには、巨大な収容施設が存在する。

本來であれば、この國で最も高い地位にいるはずのエノレコートの王族たち。

その一族を飼育・・するために、エーデルワイスによって改良を施されたのがこの場所だ。

そして今、その収容施設に一組の男が訪れていた。

『』の魔師、エーデルワイス・エノレコートと、『嫉妬』の魔師、ロード・オールノートである。

「これは……」

その異様な雰囲気に、ロードが眉をひそめる。

収容施設と言えば多聞こえはいいが、これは地下牢と呼んだほうが適切だろう。

石畳の通路の両脇に錆び付いた鉄格子がはめられており、中には無造作に人間が閉じ込められている。

彼らには例外なく、の腕が嵌められていた。

ディムールの王都で、ラルフ達を拘束するために使われていたのと同じものだ。

大雑把に年齢と別ごとに分けられてはいるが、その目にがあるものは誰一人としていなかった。

「好きなのを連れて行っていいわよ。どうせ『霊の鍵』のための供の余りだし」

「は、はぁ……」

エーデルワイスのそんな聲に、ロードは曖昧な様子で言葉を返す。

今後の回りの世話をしてもらうための人間が必要だろう、という話になり、エーデルワイスに連れられてロードはここにやって來た。

だが、好きなのを連れていっていいと言われても、ロードの中では困のが強い。

仮にも彼らはエノレコートの王族だ。

それを奴隷のように扱うこと自、ロードですら違和をじてしまう。

「……それじゃあ、この子にします」

ロードが選んだのは、銀髪金眼の、顔立ちがエーデルワイスによく似ただ。

白い布切れにを包んでおり、年齢は見たところロードよりしだけ下、といったところ。

ロードがそのを選んだ理由は、特にない。

似たような顔のは他にもいたが、強いて言うなら『なんとなく』、だった。

エーデルワイスがそのを鉄格子から出してやると、は無言でロードの後ろに控えるように移した。

「ロード・オールノートだ。よろしく」

「……よろしくお願いいたします。ロード様」

そう言って、は深く頭を下げる。

だが、腰はぎこちなく、表はい。

まあそれも仕方ないことかと、ロードは自分を納得させた。

「君の名前は？」

「……名前は、ありません」

「なに？」

答えにくそうにしていたが絞り出した言葉に、ロードは訝しげな表を浮かべる。

「ああ。必要ないと思って、その子たちに名前らしい名前はつけていないのよ。ロードくんが好きな名前をつけてあげなさいな」

あっけらかんと、そんなことを言うエーデルワイス。

無論、そんな自分の態度や姿勢に、何の違和もじてはいない。

ロードはし考え込んでから、やがて顔を上げた。

「よし。今日から君の名前は、ミアだ」

「……はい。わかりました」

――ミアは、の篭っていない眼で了承の意を示した。

その瞳に薄ら寒いものをじながらも、ロードはエーデルワイスのほうへと向き直る。

「そういえば、エーデルワイス様。お伺いしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか？」

「なにかしら？」

この施設を見た時から、ロードの中ではいくつかの疑問が渦巻いていた。

「このエノレコートの王城で、自由に行している王族はエーデルワイス様だけなのですか？」

「そうね」

ということは、他の王族は全て地下に監されていたということになる。

そこまで考えて、ロードの頭の中に一つの可能が浮かび上がってきた。

「……つまり、今までエノレコートの王家は完全にエーデルワイス様の支配下にあったのですか？」

「そうなるわね。アリスが封印されてからだから、だいたい百年くらい前からかしら」

エーデルワイスはなんでもないことのように言うが、ロードにしてみればとんでもないことだ。

それはつまり、アリスが滅んでからの百年間、ディムールは気付かないうちにエーデルワイス一人に翻弄され続けていたということ。

改めて、目の前にいるが常軌を逸した力を持つ存在なのだということを認識する。

そして、そのがとりあえずはロードの味方であるという事実は心強かった。

「さて。アリスも活を始めたようだし、わたくしたちもかないといけないわね」

エーデルワイスは瞳を閉じ、そしてまた開いた。

彼は、絶対的な意思をその瞳に宿して。

「わたくしたちの目的を達するために、アリスには必ず力を貸してもらうわ。必ず、ね」

『』の魔師は、その目的のために行を始めるのだった。