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『終焉の魔』として覚醒した私は、殺戮の限りを盡くす。

ロミードはひとまず後回しにして、まずはシェフィールドを滅ぼすことにした。

目に付いたものから殺し盡くした。

ありとあらゆる命を吸い盡くした。

常時『吸収ドレイン』の魔を発させ、本來吸収することなどできないはずのその土地の霊や生命力、地力をも奪い取っていく。

わたしの歩いた後には、不の大地しか殘らない。

世界を破滅させるもの、それがわたし。

……そんな中で、私に味方する者が現れた。

「あなたの憎悪は素晴らしいわ。是非、わたくしたちにも協力させてくださいな」

エーデルワイスと名乗る銀髪金眼の魔と、カミーユと名乗る長すぎる黒髪を地面までばした顔の悪いだ。

彼たちも『大罪』を持つ魔師らしく、私の活に共し、協力を申し出てきたらしい。

私としては、別にどちらでもよかった。

どうせいずれ、彼たちも私の世界の贄になるのだから。

ただ、彼たち……特にエーデルワイスと名乗ったの力は計り知れないものがあった。

本気で殺し合えば、今の私ですら無傷では済まないかもしれないという予を覚えさせるほどに。

結局、ひとまず協力してもらうことにした。

エーデルワイスとカミーユが仲間に加わったことで、シェフィールドの躙は瞬く間に進んだ。

あまりにあっけなく、シェフィールド皇國は滅びを迎えたのである。

――そして、その時が來る。

私の活範囲がエノレコートにまで広がると、そいつは突然やってきたのだ。

エノレコート王國の辺境で殺戮の限りを盡くしていた私の前に、突然。

「お前がここの『傲慢』か……なるほど」

そいつは、ただひたすらに白かった。

地面につきそうなほど長い白髪に、白を意匠とした前世でいう巫服のようなものをに纏っている。

だが、その瞳だけはのように真っ赤だった。

一目見ただけでわかった。

こいつは、何か得の知れない存在だと。

そして、私がこいつに絶対に勝てないだろうことも。

「――棺が要るな」

そいつの聲が響き、私のは強烈な倦怠に包まれた。

の自由が利かなくなり、視界が何かで封じられる。

直で、何かに閉じ込められたのだと気付いた。

『強制移』を使おうとしたが、自分のがく気配はない。

その事実に衝撃をけながら、自力でなんとか出しようとしたものの……無駄だった。

「ふむ。滅ぼすほどの余力はない……底にでも沈めておくか」

そんな聲が聞こえたのが最後だった。

私のった何かが、落ちてゆく覚があった。

「……！」

まるで底などないかのように、延々と落ちていく。

あったはずの地面は、何かにった私を支えるのに、なんの役目も果たしてはくれないようだった。

そして、私の意識は途絶えた。

「……ん」

……いつから眠っていたのか。

目を覚ました私が見たのは、あまりにもおぞましい景だった。

――広い空間だ。

その壁は生のような鮮やかな赤で、僅かに脈している。

赤い壁やのようにぶよぶよとした見た目の地面がぼんやりとを発しているおかげで、なんとか視界は確保できていた。

……死を見慣れた私ですら、気持ちが悪くなってくる景だ。

ふと、空間の奧の方に目を向けた私は直した。

奧の方に何かがいた。

その姿をはっきり見ようとして、思いとどまる。

なんとなく、それをはっきりと見てはいけないような気がしたのだ。

近くには、巨大な赤い棺があった。

そして、私はようやく今の自分の狀態に気づく。

「……え？」

が半明になっていた。

よく見ると、地面からも微妙に浮いている。

それはまさに、幽霊や魂だけの存在といった、かなり不安定なものに他ならない。

……おそらく、あの白い男からの攻撃による影響だろう。

だが、と魂を分離させる魔など、聞いたことがない。

そこで私は、恐ろしい結論にたどり著く。

あの男は、『棺が要る』と言っていた。

ならばこの棺の中には、私のがっているのではないか、と。

そしておそらく、その推測は正しい。

霊となった今の私は、この棺の中から私と同じようなものの気配をじるからだ。

「……っ」

しかしそんなことを考えているうちにも、あまりに濃な闇霊の気配が、私の魂を呑み込もうとしていた。

あまり長い時間、この空間にいることはできない。

私は様々な魔を試した。

幸いなことに、こんなになっても魔を使うことはできるようだった。

しかしなにをしても、その棺をこじ開けることはできない。

……やむを得ない。

私はそう決斷し、ひとまずここから出することにした。

何か得の知れないものがいる反対側には、ののようなものが口を開けている。

私はそれが、本で読んだ迷宮の境界線に似ていると思った。

……時間にして、およそ一年ぐらい経っただろうか。

私はようやく、その迷宮から抜け出すことができた。

そして、自分が出てきた場所を知って愕然とする。

そこは紛れもなく、『最果ての窟』のり口だったからだ。

さらに恐ろしいことに、私が迷宮を彷徨さまよっていた時間は、一年どころの騒ぎではなかったらしい。

シェフィールドは滅び、その領土はディムールが統治していた。

おそらく私はあの白い男の一撃をけて、かなり長い間眠ったままだったのだろう。

それも、數十年もの間。

眠っていた間に闇霊の影響をけなかった理由はわからないが……もしかすると意識を取り戻したと同時に、魂だけが棺の中の本から剝がれたのかもしれない。

そのあたりは推測するしかなかった。

とにかく、私が目覚めたのは平和な世界だった。

過去を乗り越え、けた痛みを分かち合いながらも、必死に前に進んできた人たちが生きる世界だった。

そんな景を見て、なぜか力が抜けた。

今の私には、世界を滅ぼすことができるほどの力はない。

魔は扱えるが、の奧底から活力が湧き出てくるような覚は、もう無い。

『傲慢』の力も、まるでに置き忘れてしまったかのようだった。

……そんな世界を、私はアテもなく彷徨い続けた。

私の姿は、他の人間には見えない。

聲を屆けることも、れることもできない。

今の私は、本當に存在しているのかすら曖昧なモノでしかなかった。

だから、その日に彼に出會ったのは、まさに運命と言うべきなのだろう。

あの日は、月が綺麗な夜だった。

「……あれ」

懐かしい気配がした。そんな気がする。

それはもう、ほとんど本能のような覚だった。

近くにあるのは、ガベルブックという一族が住む屋敷だ。

私はまるで何かに吸い寄せられるように、そこに向かった。

屋敷の二階にある窓は開いていた。

まるで私を招くように、カーテンがはためく。

その窓から中に進すると、ベッドに誰かが橫たわっているのに気が付いた。

心臓が跳ねる。

それを悟られないようにしながら、それでも私は喜びを抑えることができなかった。

ベッドで私の方をまじまじと見つめているのは、まだ年端もいかない赤ん坊だ。

でも、私にはわかる。

彼だ。

彼がこの世界に、生まれ変わってきてくれたのだ。

戸ったような彼の様子に、しかし私は想いを抑えることができない。

ただただ、しさがこみ上げてくる。

「……してる」

想いが抑えきれず、そのままキスをしてしまった。

その直後に謎の防衛能力が発され、二ヶ月ほど全然けなくなったが……まあそれは置いておこう。

こうして、私は彼との再會を果たしたのだ。