《超迷宮奇譚伝 『このアイテムは裝備できません!』》嫌いなわけ 戦いの目的と理由とは~

ぜっ―――― はぁ――――はぁ―――

ぜっ―――― はぁ――――はぁ―――

呼吸のれが大きくなっていく。

の循環を司るが悲鳴を上げている。

「ま、まさか、ここまで隙がないとは……想定外だ」

流石に悪態をついた。

今、僕は甲冑を背中に、もたれ掛かかる。

校庭の一角、剣戟の練習に使われる打ち込み用の甲冑だ。

オントの投擲から逃げ回り、何とか呼吸を整えれる。

れた呼吸を無理やり止める。次に大量の酸素を吸い込む。

1秒、2秒、3秒……

呼吸を限界まで止め、できるだけ時間をかけて、息を吐き出す。

大分、楽になってきた。心肺機能によるスタミナは、まだ大丈夫。

僕がオントよりも優れている點はスタミナだ。けれども……

衝撃。

背にした甲冑から衝撃が伝わる。一瞬、意図しない攻撃に思考が停止してしまった。

打ち込み用の甲冑には、衝撃を分散する魔法が仕掛けられている。

それを上回り、甲冑越しの僕に衝撃を……化けか!

僕は再び駆け出す。その背後に鎖の金屬音が鳴り響く。

どうする? どうする? 考えがまとまらない。

前方にはクラスメイト達。僕は考える間もなく、座っているクラスメイトの群れに走っていく。

「馬鹿! こっちこんな!」

「みんな逃げろ! 馬鹿が突っ込んでいるぞ!」

「うわぁーうわぁー!」

こっちは必死だ。そんな聲は聞こえない。

うん……聞こえない。 だったら――――

そのまま、突っ込む!

「ぎゃぁ! 追い出せ! 追い出せ!」

「押せ! 出せ!」

大聲で、複數人に猛プッシュされる。

流石のオントもクラスメイトに向けて、無差別な攻撃はしてこないみたいだ。

もみくちゃにされている間、力させる。

僅かながらも力回復に努める。

「……出てこい サクラ」

オントの怒聲。決して大聲ではないが――――

の奧底にまで響く聲。

騒いでいたクラスメイト達は、一斉に騒ぎを止める。

「出て來いよ……サクラ。俺が、お前の事が心底、嫌いな理由はそこだよ」

「そこ……だって?」

僕は、押し出される事もなく、自分の足でクラスメイト達の列から出る。

僕のを守るものは、何もない。無防備と言ってもいい。

そんな僕に、オントは攻撃の手を止めて、言う。

「お前はいつもそうだった。作戦とか、戦略とか、あるいは技と言って、人を出し抜く行為を考える卑怯者だ」

「卑怯者……勝つための努力が卑怯って事なのかい?」

僕は心底意外だった。

作戦や戦略はまだわかるにしても……戦うための技を否定されるとは思ってもいなかったのだ。

そんな僕の反応に彼は落膽したかのように深いため息をつく。わざとらしいため息だ。

「お前は、何を目指している?人と戦う闘技者でも目指しているのか?違うだろ?お前が……

いや、俺たちが目指しているのは、探索者だ!」

「―――――――ッッッ!?」

僕は何も言い返せなかった。

彼の言葉の意味が、すぐにわかってしまい……言い返す言葉がなかった。

「探索者に必要なものは!自分の力で困難ダンジョンを克服する力。人間に対する技……対人の技では斷じてない!想定すべき敵は人ではなく魔でなければならない!」

オントは続ける。

「きっと……きっと、お前はこの戦いに向けて、努力してきたのだろう。だが、それは俺との戦いを想定しただけもの。目的をはき違えるな!努力をした?はっ?ダンジョンに立ち向かうための努力以外は、俺たちに取っては努力って言わないんだ!」

「―――――――くっ!」

確かに、確かに……その通りだ。

戦いの直前、彼の言葉――――

『俺はお前の努力を認めない。お前が俺に勝ったとしても認めない。お前の努力は無駄な努力だ』

あぁ、その通りだ。僕たちは探索者になるためにここにいる。

闘技者になるためにいるわけじゃない。

だから、ダンジョンに対する力――――生き殘り、そして勝利するための地力を養わなければいけない。

それ以外の努力は無駄なんだ。

―――――正論だ。

けれども―――――

……本當に? 本當にそうか?

僕は自分に問いかける。

彼の言葉は、僕のに突き刺さった。心が折れ、負けを認めてしまいたい。

から力が抜け去り、気がつくと両膝が地面についていた。

でも、なんだ? 僕のに殘っているモヤモヤは?

僕は持っているのか? 彼の言葉は否定する力を?

それを僕は――――かき集めて――――言葉へ変える!

「確かに―――確かに正しい。君の言葉は正しい。けれども……」

僕は立ち上がる。

普段、自分の中に眠っているを―――闘志を叩き起こし、言葉に載せる。

「ダンジョンでは自分の力が通じない相手もいる。それでも―――――例え、どんな方法を使っても――――その困難を打破しなければならない時がある。

それが、僕に取っての『今』だ!

そして―――君を『今』打破する。それも、また……君というダンジョンを打破する事であり……

そう!この戦いも、ダンジョンで戦い続ける事を想定しての戦いなんだ!」

のままに出した言葉は、自分でも拙さがわかってしまう。

僕の言葉は無茶苦茶だ。無茶苦茶な事を言っている。

けど、これは僕の本心であり、この戦いの理由でもある。

それに対してオントは――――驚いていた。 目を見開き、見てわかるほどの驚きだった。

「まさか、俺自をダンジョンに例えるとは……初めて、お前の事を面白いと思った」

彼は、驚きの表を変化させ、笑みを浮かべていた。

僕は初めてオントの笑みを見たような錯覚に陥る。

なんとなく、僕は―――――

彼の笑みを見ながら、決著が近いと予した。

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