さて―――ー現狀を説明しようか？

今の僕は、知り合いの子から尋常ではない殺意を向けられ、きを止められている。

理的な腕力で……だ。

彼の親指と人差し指が、僕のに食い込み、片手で校舎の壁に押さえつけられている。

日は落ち、周囲は徐々に薄暗さを増していく。

もちろん、人の気配は――――

ない。

さて、僕がこの狀況で取りしたりせず、冷靜さを保てているように見えるだろう。

もしも、そう見えるのならば、僕はこうんで答える。

「とんでもない！　これは現実逃避で客観視している最中なんだ」

これはもしもの話だ。もしもの喩え話。

もしも、第三者が、先ほどの３人の會話を――――僕とアリス……そして、サヲリとの會話を聞いていたとしたら違和が生じていた事だろう。

その違和は、僕がアリスに対して異常な恐怖を持っているから……ではない。

察しが良い人間なら、3人の立場――――パワーバランスの異常に気がつくのだろう。

そう、サヲリは僕に対して対等な立場で話しかけている。

しかし、アリスは僕に対して恭しく振る舞っていた。

それは正しい。　僕とサヲリは同級生であり、クラスメイトだ。

そして、アリスは學年が2つ下の13歳だ。

だとしたら、それはそれでおかしいと気がつくかもしれない。

なぜ、15歳のサヲリと13歳のアリスが同室なのか？

もちろん、學生の寮でありながらも、學年が違う者が同室なのは、それなりの理由がある。

彼は――――ラン・サヲリの正は、アリスの近衛兵ガードであった。

貴族の頂上であるトクラター家の令嬢を守護するために、アリスの直屬の近衛兵。

クリスの近衛兵ガードは彼だけではなく、學園に複數人いるわけだが、アリスの側近を許されるサヲリは別格と言っても良い。

まぁ、なんだ……

そういった理由で僕は、片手で拘束されているわけだ。

君主であるアリスが好意を抱く人間。それを、それだけを理由に排除するわけにはいかない。

だから――――彼サヲリは僕に、アリスの理想を演じる事を強要している。手段に暴力を持ってだ。

「害蟲サクラ、よくやったな。今日は及落點くれてやろう」

ごくりと、極度の張でが鳴る。

サヲリは、アリスといた時に見せた面影はない。

おちゃらけた雰囲気はなく、膨大な殺気を僕に向けるだけの存在に変わってしまっている。

殺気……つまりは人を殺そうとする狂ったであり、サヲリはそれを抑えようともせず、僕に伝えている。それなのに――――僕を殺そうとしながらも――――ギリギリで理を保っている。

僕からしてみれば、彼も――――怪の一種だ。

「あん？どうした返事がねぇぞ！」

「は、はい！ありがとうございます！」

僕は、できるだけ大きな聲で返事をした。もちろん、周囲に聞こえて、できれば助けが……

「がはぁ！」

腹部からけた衝撃。肺から空気が絞り出されるような音がした。

見れば、腹部にサヲリの膝がめり込んでいた。

「いいか？私の役割は害蟲を駆除するであり、アリス様からの溫がなければ、貴様なぞ……わかっているのか？」

僕は無言で頷いた。

（聲を出したくても、サヲリが膝に力を込めて、聲をださせてくれないからだ）

この狀況をどうやって説明すればいいのだろうか……非常に難しい。

どうやら、僕は――――アリスに惚れられているらしい。

その理由は、よくわからない。　なぜ、僕に好意を寄せているのか？

わからない。

例えば、僕の同居人ケンシだったら、「人が人を好きになるのに理由はないだろ？」と嘯くかもしれないけど、それが正しいなら――――

逆説的に「人が人を嫌いになるのに理由がない」となる。

どうだろうか？　僕は嫌だ。

他人を好きになるにも、嫌いになるにも、理由がほしい。

嗚呼、それは厚かましいのか？　僕はアリスに、僕が好きな理由を求めているから……

「……うむ、鍛錬の練度は上場だな」

「え？あぁ、膝で僕の筋量を量ってた……って事？」

サヲリは頷く。

「それ以外に何のために、お前の腹筋を打ち抜いたと思っているんだ？」

……いや、それじゃ、膝蹴り直後の恫喝はなんだったんだ？

もちろん、口が裂けても直接聲に出したりはしない。

一応、無言の抗議はしてみた。……一応ね。

「そう言えば、君にもお禮を言ってなかったよ」

「ハッ！私が害蟲などにお禮を言われて、喜ぶとでも思っているのか？それなら、隨分とめでたい頭を――――」

「ありがとう。サヲリの指導も參考になったよ」

「……」

オントとの戦い。僕は戦面でサヲリにアドバイスをけていた。

校でオント以上の実力者は、教員を除くと、皆無と言ってもいいだろう。

僕の知人の中、実力者を思い浮かべて出て來たのがサヲリだった。

近衛兵として対人に特化した技スキルなら、おそらくはオント以上だろう。

もちろん、僕はサヲリに対して恐怖を持っている――――否。恐怖をけ付けられている。

彼の目を真っ直ぐに會話をしている今でも、両ひざはブルブルと震えている。

でも、それを差し引いてもなお、オントに勝ちたいというが優っていたのだ。

最初は斷られた。僕の人格を否定する言葉を投げかけて、斷られた。

しかし、僕がオントと決闘を考えているとアリスが知ってしまった。（報源は例によってケンシだ）

それから、サヲリの態度は一変した。

自分の君主が、訓練用の鎖を送るというお膳立てをした。

「もはや、貴様に敗北は許されないな！」

そう言って、夜な夜な、スパルタ方式の訓練が裏に行われていた。

だから、僕はサヲリが拒もうが、謝の気持ちだけは示そうと決めていた。

そんな僕に彼は――――

「鍛錬を続けよ」

小さな聲に僕は「ん？え？」と聞き返す。

「貴様が姫の想い人であり続けたのならば、鍛錬を続けろ。実力で姫の橫に立つ権利を勝ち取ってみろ」

そう言って、サヲリは背を向けて歩いて行った。

彼の言葉は、彼なりの激勵だという事がわかる。

そんな彼の後姿を見送りながら、僕は疑問符を浮かべる。

（なんで、みんな……僕がアリスの事を好きって前提なのだろうか？）

僕は自室の戻ると――――ケンシとの會話も置き去りに――――ベットへ倒れ込んだ。

今度こそ、寢よう……

明日からは、いよいよ……ダンジョンだ！