《超迷宮奇譚伝 『このアイテムは裝備できません!』》サクラの現在
とある國の山奧
「親分、そろそろ時間ですよ」
親分と呼ばれた男は「うるせぇ」と一喝。
そのまま、子分と拳で毆り倒した。
「元はと言えば、お前らがだらしねぇからだろ。旅の探索者なんぞに返り討ちに會いやがって」
親分は吐き捨てるように言った。
彼らは山賊だ。
かつては、それなりの分だったが、を崩した存在。
俺たちは悪くない世間が悪いのだ。高笑いをしつつ、村や旅人を襲う。
人を殺し、食料と金を奪い……も浚う。
そんな彼らにこそ、悪という文字がふさわしい。
だが、たまたま親分が留守中に子分が手を出した旅の二人組が探索者だったらしい。
數十人いた子分の半數が、手足を縛られ衛兵に突き出されたという話を聞いたのは、住処のぼろ屋敷に帰ってきてからである。
落ちぶれたからと言っても矜持プライドはある。――——いや、落ちぶれたからこそ、矜持が無様に大化していたのだ。
底辺に落ちたからこそ、馬鹿にするものには容赦はしない。
山賊の親分とは、概ねそういう人だった。
「よっこいしょ」と重い腰を上げ、屋敷の外に行く。
そして、探索者の姿を見ると――――
「あん? 馬鹿か? アイツは? まさか、本當に1人で來るとはな」
親分の予想は、自分たちよりも多い人數の衛兵を引き連れて、現れると予想していた。
自分たちを捕えようとする數十の衛兵を探索者共々、皆殺しにするつもりだったのだ。
そうする事で自分の矜持をめ、回復させようと思っていたのだ。
親分の聲が探索者にも聞こえたのだろう。
「1人で來いという話だから1人で來たのですが、どうやら當てが外れた顔をしてますね」
探索者は、子供やのように小柄な系。
フード付きのマントで顔を隠しているが、男なのは間違いようはない。
しかし、剣といった武を裝備している様子はない。
まさか、いくら何でも、事前通達を守って武を持たずに來たわけではないだろう。
「けっ、探索者とは言え、てめぇみたいなガキに舐められたとはな……いいか? 俺はとある國では百人長だった男だ。山賊と思って舐めてきたな。てめら探索者と対人タイマンの數が違うんだよ。數が!」
親分は長剣を抜くと、ややオーバーアクション気味に剣を振る。
それを探索者は余裕をもって躱すと――――
「かかったなドサンピンが!」
長剣が消えた。――――いや、よくよく見れば親分の腕が消滅している。
探索者の背後に現れた長剣が振り落とされた。
しかし――――
長剣は探索者の頭上で止まる。
探索者は振り向きもせず、いつの間にか手に持っていた短剣を上げて、死角からの攻撃を防いだのだ。
「や、やるじゃねぇか。初見でこれを破った奴は初めてだぜ」
「……」と探索者は何か呟いた。
「あん? なんだって?」
「聞こえなかったのですか? 偉そうにしてるわりに強者との闘いは避けてただな……って言いました」
「てめぇ、舐めるんじゃねぇぞ!」
親分は取り出した小刀を投げた。
それを探索者は避ける。だが――――
親分は異能の技を持っていた。
先ほど見せた腕だけを別の場所に出現させるのも、その技だ。
「バカめ! そいつは遅殺のナイフ。俺の技を合わせて、てめぇのの中に転送させてやんよ!」
『遅殺のナイフ』
それは人の部にるとバラバラに砕け、を切り裂きながらを巡回する処刑道だ。
「ひゃっはー! バラバラになりやがれ!」
親分は絶する。
だが、そのテンションは長続きすることはなかった。
「ふ~ん、これが『遅殺のナイフ』ですか。これの持ち主だと、ガレッド國のクシュさんですかね?」
放たれたはずのナイフは探索者が握っていた。
「なんで、俺の名前を――――いや、そんなことよりもどうやって防いだ!?」
言うが早い。探索者は親分――――クシュの前から唐突に消滅した。
「なっ、ななな!」
「『転送の指』を使いました。これで避けても良かったのですが、にった異は瞬時に外部へ排出させる二次効果もあるので、避けるのがめんどくさかったのでけました」
「て、転送の指だと! そんなもんをただの探索者ごときが持っているはずが……」
「別にただの探索者なんて自己紹介はした覚えはないですが……」
そこで探索者は言葉を止めた。どうやら、自己紹介を忘れていたことを思い出したみたいだ。
「言い忘れていましたが僕の名前はトーア・サクラです。褐で踴子風の服を著た。あるいはドラゴンを探していますが心當たりはないですか?」
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