街燈すらない夜の田舎道。月は分厚い雲に覆われて、辺りは暗闇に包まれている。ほとんど、視界の効かない夜道を全力で走り、僕は得の知れない何かから逃げている。

その何かは人間ではないだろう。

では、だろうか。確かに僕の住む暮無町では、野が多く出沒する。たぬきやイタチが多いが、山から降りてきた豬に田畑を荒れた農家の話をよく聞く。山で捨てられた野良犬が人間を襲う場合もある。

しかし、あれは違う。

単純な野ではないと本能的な覚が告げている。

あれは本來、この世界にあってはならないものだと告げている。

もしも、あれに捕まってしまえば、待っているのは確実な死だ。それだけは、僕の頭でも理解できる。理解できてしまう・・・。

力には自信があったはずだが、いつの間にか息はれ、油斷をすると足がもつれて転倒しそうになっている。　やがて、を突きかしているものは死の恐怖だけになってしまった。

しかし、それすらをかすにはいたらなくなり、ついには足を止めてしまった。

その瞬間を待ってたかのように足に何かが纏わりつき、耐えることすらできずに倒れてしまった。

振り向くそこには、怪がいた。

全が黃緑の蛍の。と個の中間のようで、どこかクラゲを連想させる。

ソイツは強烈な悪臭を漂わせている。ソイツが近づくにつれ、腐臭に混じっての匂いがして、思わず吐き気がこみ上げてくる。

コイツは人間を殺して食っている。何なんだ、これ？

「何だ？何なんだよこいつ・・・・・・　助けてくれえええええ！」

今まで曖昧だった恐怖の正に気づき僕は再び逃げようとするが、そこで始めて足に絡まっているものを見た。それは、アイツのからびてる手だった。　思わず、小さな悲鳴が口かられる。

よく、見ると服から白い煙が上がっている。服を溶かしているんだろう。　そして、たぶん、このまま僕のも溶かされていくのか。

「うわぁああああぁぁあああああああ」

狂うほどの悲鳴を上げ、なんとか逃げようとを暴れさせるが、ソイツの手が僕の足を捕えて離さない。　一層のこと、本當に狂ってしまえれば、どんなに楽なんだろうか。

「誰か。誰か。誰かああああ。助けて、助けて、たすけててて！」

「流石に慌てすぎや。ジュース1本奢ってくれればええで」

この迫した狀況にふさわしくない間延びした聲が聞こえ、思わず辺りを見回す。

一、いつの間にいたのだろうか？　僕の真橫に人が座っていた。

ごく自然に、まるで異常なんて存在しないように、あぐらを組んで座っていた。

ようやく、月が雲から顔を出してくれた。それまでシルエットだった謎の男の風貌が徐々に明らかになっていく。

短く刈り上げられた髪は赤く染められており、その下には整端な顔があった。

右手には巨大な棒狀のを握っている。あまりにも異質でソレが巨大な鎌だと気がつかなかった。

それよりも、そんなことよりも異常なのは、彼のに黒い炎が纏わりついていることだ。

「ほんじゃ、ジュースは約束やで」そう言って立ち上がると、僕の足に絡みついた手を手にした鎌で簡単に切斷した。

「やれやれ、今夜の獲がレベル１のスライムってのが悲しいけど、ジュース分働かせてもらいますわ」

そう言うと、ひと振りだった。僕を絶の淵に叩き落とした怪を鎌でひと振り。

ただ、それだけで怪を四散させてしまった。