《負け組だった男のチートなスキル》第三十八話 激戦の果て
「はぁはぁ、痛ぃ」
コウスケは更地となった森の一部で倒れたまま呟いた。ただただ痛い。勝利の余韻など味わう暇もなく、痛いという覚が上書きされていく。ただでさえ腕を咬みちぎられた痛みが、『強化』で上乗せされているのだ。あの地獄を味わったコウスケでなければとっくに痛みで失神している。
とはいえ、コウスケの異世界に來てから換算した痛みランキングでは三位に位置する。
幸い、腕が無くなるのは初めてではないので、神的な揺はあまりない。
だがあの時、コウスケはむしろ自分から腕を食わせたのだ。『吸収』によって獲得した『毒』を含んだ腕をキマイラに食べさせるために。
登に加え、魔人族とキマイラ、戦闘結果は偶然同じになってしまったが、キマイラは除いて、奴らには自分の力によって殺されるのがお似合いだ。
力を過信しすぎた結果、を滅ぼした。特に魔人族の男はそれが顕著に表れていた。何せ、隠蔽でステータスを隠していたのに、わざわざコウスケに口で明かしたのだ。それが奴の命を奪うことになるとは知らずに。
ともあれコウスケは痛みのあまりくことが出來ない。このまま倒れたまま休んでいたかった。だが、出は休むことなく右腕の切り口から大量に出てきていた。これを放置してしまうと命の危険が及ぶ。現に今、めまいの癥狀が現れ始めていた。
「……ステータス」
意識が朦朧とする中、そう呟いた。気でもれたわけではない。ちゃんと目的を持って行っている。
名前 コウスケ・タカツキ
種族 異世界魔人
レベル 50
スキル 技能創造 隠蔽 鑑定 聖域 強化 吸収
やはりレベルが上がっていた。そして50というキリのいい數字である。これまでのスキルスロットが増える時はそういった數字の時に起こっていた。つまり今は一つ以上スキルスロットがあると考えられる。
『スキル「転化」を作りました。裝備しますか?』
もちろんその問いはイエスだ。
『転化』スキルは、忌まわしき窟で會った、恐竜型の魔獣が持っていたスキルだ。今まで気にはなってはいたのだが、イマイチ使いどころが分からないスキルだと思いお蔵りしていた。
だがコウスケは、今この狀況を打開するたった一つの方法としてそのスキルしかないと思ったのだ。
「転化開始」
ボソリとそう呟くと、いつものように脳にアナウンスが響く。初めて発する時や、使い方が分からない時に出てくる聲にはよく助けられている。
『転化を開始します。転化するを指定してください』
「……」
薄れゆく意識の中で、右腕から帯びたたしい量を流しているを見ながら答えた。今自分が差し出せるものなんてこれくらいしかない。
後の流れは、コウスケが考えている通りに進んでいった。気持ちも汲んでくれるようで助かる。ならわざわざ確かめを求めるのは、何故かと疑問に思うが、恐らく、思うだけではなく、決斷するのも大切だと判斷してくれているのだろう。それもコウスケの意志によるものかもしれないが、確認する手立てはない。
『損傷個所確認。確認。の転化を開始します』
「うっ」
一気にが寒くなる。がごっそり持っていかれたのだ。當然の反応だった。
そして、コウスケは意識を失った。
「――スケ様、コウスケ様」
誰かが肩をさすり、名前を呼んでいる気がした。いや、実際に呼んでいるのだ。
「うぅん」
若干の気分の悪さをじながら、コウスケは瞼を開いた。目に映ったのはあの里の村長、ナリオスの顔だった。最近、目を開くと老人が映る機會に恵まれている気がする。嬉しくはないが。
「ああ、コウスケ様、大丈夫ですか?」
「ええ、なんとか」
「……その腕は」
「腕?」
ナリオスの視線の先には自分の右腕があった・・・。
「なんだこれ!?」
コウスケも思わずんだ。そこにあったのは今までの右腕とは言い難い、赤黒いをした右腕だったのだ。不気味ではあるが、赤いというよりは黒ベースなので気持ちの悪いほどではなかった。
だが今までの右腕とはまるで違うそのに戸いを隠せない。まさかまた種族が変わったのかと、不安になってステータスを開いたが、そこには今まで通り『異世界魔人』の表記があったので今回は関係なさそうだ。もし種族変異なら『更新』スキルの通知も來ているはずで、しかもあの時の痛みもあるはずだ。思い出すだけで、寒気が走る。本當になくてそうではなくて良かった。
「そうか、を使ったから……」
は凝固すると赤黒くが変化するのを思い出す。右腕はちょうどその乾いたのをしていた。どうやら『転化』は功したようだ。しは予想外だが、右腕は自由にく。しの弾力がないのは仕方がない。
「あの、コウスケ様?」
「問題ないです」
コウスケはを起こして問いに答えた。し気味悪げに見ていたのだが、その言葉を聞いてナリオスはコウスケの顔に向きなった。
調は相変わらず悪いもののけないほどではないので、起き上がって周りを見渡してみる。
「それで……あの魔は」
ナリオスはキマイラの死を見て訪ねてきた。それもそうだ。あんな魔見たこともない。
「キマイラという魔獣です。あの窟の中に魔人族の男が飼っていたようです」
「魔人族の男……!?」
「ええ、本人は國のスパイと名乗っていました、それに最近の魔騒もそいつのせいでしょう」
「そんな奴が……」
村長に次々と報を與えていった。どれも吉報なので話している分にはいい気持だ。だが村長にしてみればせっかく種族平等を訴えているのにもかかわらず、悩まされていた魔が他種族の男が仕掛けたものであったのだ。複雑な心境なのだろう。
「コウスケ様、此度は何とお禮を言って良いか」
「いえいえ、偶然出くわしたので、ついでです」
「あなた様は里を救ってくださいました。里を代表してお禮を申し上げます」
ナリオスは綺麗なお辭儀をコウスケに披した。最近ご老人に頭を下げられる機會が多い気がする。もちろん嬉しいが、多気まずい。
「今夜は里中の素材を使って、コウスケ様に馳走をお作りします」
「そうですか! ありがとうございます」
思わず聲を上げてお禮を言ったコウスケ。近頃味しい食べに目がない。ずっと不味いものばかり食ってきたから仕方がないと言い訳をして。
「立てますか?」
「はい……おっとっと」
立とうとするコウスケはふらついてしまった。やはりまだ力は回復しきっていないようだ。
「おっと、大丈夫ですか」
「ありがとうございます」
「いえいえ、里の救世主様ですから」
すかさずナリオスに支えられた。とはいえ、ナリオスも結構な年齢をいっており、加えて足場の悪いこの森では逆に心配になってしまう。
「大丈夫ですよ」
コウスケは『強化』を施して、を補強した。やや強引な手段だが致し方ないだろう。
そして逆にナリオスを支えるコウスケ。このままだとナリオスが転倒して怪我をしかねないと思ったからだ。
「いやはや、面目ありません」
「いえいえ、今までの借りを返しているだけです」
どっちがけが人か分からない景に、二人は笑いあう。
そうやって、コウスケはナリオスの里へ凱旋した。
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