《負け組だった男のチートなスキル》第四十二話 重なる厄介事
「い、異世界魔人。なんだそれは」
「さあね、俺にも分かってないんだ」
そう質問されることは予想通りではあるが、答えようがない。聡明なエルフ族ならば知っていると思っていたのだが、どうやら知らないようだ。
「ファイア」
「っく、ウォーターボール」
コウスケの炎に対し、ナリオスは水の玉を作って防いだ。魔法の名稱をわざわざ変える訳には何か理由があるのだろうか。
「な、なぜだ。なぜ詠唱を省略して発できる? しかも何だその炎のは」
「え? もしかして言葉で的に言わないと魔法って発しねえのか?」
それは知らなかった。コウスケは的に想像するだけで魔法が発できていたからだ。
「ふざけるな! 何かがあるんだろ」
「って言われてもなぁ」
本當に心當たりはなかった。この世界に人たちと異世界人はの構造でも違うのだろうか。それとも育ってきた環境が異なることによるものなのか。とりあえず今の段階では判斷できない。
「そういう環境で育ってきたからなぁ」
「な、なに!? 異世界では魔法文明が発達しているのか!?」
し違う。あくまで二次元の世界では魔法は発達しているのだが、三次元では実現すらしていない。
「何て言うんだろ……イメトレ?」
「い、イメトレ?」
どうしてこんなふざけた容の會話を真面目なトーンで話しているのだろうか。段々と馬鹿らしくなってくる。
「なぁ、時間を稼いだって助けは來ねえと思うぞ?」
「……そうかもしれぬな」
さっさ決著を付けるつもりだったのに、おしゃべりが過ぎた。今のところはまだ騒ぎは起きていないから大丈夫だとは思うが、下手をするとこの國で指名手配になりかねないのだ。慎重にかつ迅速に行しなければならない。
「だが、天は我らに味方してくれた」
「なんだと?」
ナリオスは腕を天に掲げて言い放つ。その様子に怪訝な表を浮かべるコウスケだったが、すぐにその理由が分かった。何者かの足音が近づいてきているのだ。それも數はかなり多い。
「ははは、どうだ魔人」
「知るか」
「っぐ、はぁはぁ」
「もう用はねえ」
槍を一突きし、ナリオスが手から放した道袋を拾ってコウスケは走り去った。最悪まだ里の方向からは足音が聞こえない。そのためコウスケは來た道を『強化』を施した腳力で戻って行った。
殘されたナリオスがどうなろうともうどうでも良かった。
里に戻ると、さすがに寢ていた者も炎の明るさと焦げ臭さで起きだしているようだった。中にはこの件に関わっていないような人もいる可能もある。
今さら殺す人と殺さない人を選別する気は今まではなかった。だがこの中には本當に善意でコウスケに接してきてくれた人もいると考えるとやはり惜しいという気持ちになる。
「な、なんであんたが生きてるんだ!
「関係者か……」
長耳族の男が里へ戻ってきたコウスケに対して聲を荒らげた。その聲に反応する他の人々。
その男を殺すことは簡単なことだった。だがここでこいつを殺してしまえば、何も知らない人からすると、完全に悪者と見られてしまうことは確実だった。
いや里の人にどう思われようとも、それ自は別にどうでもいいのだ。だが後々の事を考えると、ここで複數人に犯罪者と見られ、國に追われるようなことだけは避けたかった。そうなってしまえば、國を抜けるまでずっと細々と暮らさなきゃいかなくなるし、もしかすると、魔人族の國にも國拒否をされてしまうかもしれないのだ。なんとしてもそれだけは避けたかった。
「もしかしてお前が、ナリオスたちをやったのか!」
その男の聲に何も知らない人たちの顔に揺が走る。先手を打たれてしまった。
「正當防衛だ」
「ふざけるな! お前ら汚らしい人の形をした化けが!」
「そうだそうだ!」
野次を飛ばすものまで現れた。どうやら関係者はもう一人いたらしい。このままでは空気に流され中立の人も向こうに回ってしまいかねない。
「クソッ」
こうなれば強手段しかなかった。コウスケ自、それが悪手だということは重々承知であるが、時間が無いがゆえにそういった手段をとるしかなかった。だがしでも印象を悪くしないように、槍や短剣などは使わず、後頭部に打撃を與えることで意識を奪うだけにしておいた。これでも十分、手を出したことには変わりないが。
「すいません」
呆然とする者や驚愕、恐怖といった表を浮かべる里の人々に一つ頭を下げて立ち去る。これでしでも誤解が無くなるといいのだが、きっとそれは無駄に終わるということぐらい分かっていた。もう里のほとんどの男たちを殺したのだ。どちらが先に手を出したかは関係なく、がやられて許す人なんていない。
自分の甘さに舌打ちしながらコウスケは里を去って行った。
行き先なんてない。とりあえず足音の來る方向から逆の方角へ走るしか道は無かった。その方角がどこに向かっていようが、今はそれが最善だと信じて。
「はぁはぁ、ここって」
走ったあげくたどり著いたのは、あの崩れ去った窟の前だった。未だ魔人族とキマイラの死は殘っていたので、間違いなくあの戦闘場所だ。
「今は隠れるしかねえよな」
あの魔人族の死を自分に見せかけるように、自分の著ていた服などを死に著せ、加えて周りの木々に火を放った。現に魔人族の男は焦げているのでしでも自然に見せるためだ。
こうしておけば、しはキマイラと偶然出くわした魔人族の犯人が、火の魔法を放ちながら戦って相討ちした戦場跡に見えなくもない。
ここで時間を稼ぐとして、コウスケは窟の巖を一か所だけ取り除き中にった。もちろんまたり口は塞いぐ。
「ライトニング」
槍に電気が迸る。これで真っ暗な窟も足をつまずくことなく歩けそうだ。『強化』を使っての視力強化も良いのだが、この窟がいつ出口に通じているか分からない。もし所々にがあって、が差し込もうものなら、『強化』を使った目がまぶしさのあまり使えなくなる未來が容易に思い浮かぶからだ。実際に、登とやった時も目くらましにやられたという苦い思い出もある。
窟は思ったよりも深かった。だが下っている覚は無い。つまりいつでも天井を破壊すれば地上に出られるという事だ。まあ今の所そんな目立つ行を起こす気はないが。
「……ん?」
コウスケは歩みを止めた。そして『超覚』を発させる。
この窟にある自然の音ではない音が聞こえたからだ。
ゆっくりと慎重に窟を進む。念のために槍の電気も消しておく。もし追手なら仲間を呼ばれる前に殺さなきゃならないからだ。
その音源がすぐそこまで近づいた所でコウスケは再び立ち止まる。近づいたことであることだ分かった。
人だという事が。
今は向こうも立ち止まっているためか、先ほどのような足音のような音は聞こえない。だが息遣いは聞こえた。しかも何かを呟いている。
コウスケは何とかその音源の背後に立ち、覆いかぶさるように襲い掛かった。
「きゃっ!」
それはの甲高い聲だった。だがまだ油斷はできない。
「え、な、なに?」
コウスケの腕の中で暴れる何者かが聲を発した。追手にしてはは細く、力も弱い。
「だれだ?」
思わずコウスケは腕を解放して話しかけた。何故かその人が追ってだとは思えなかったのだ。
「ひ、ひと!?」
「あ、あぁ、そうだが」
「良かったぁ」
恐らくその場にへたり込んだその人。
「人に會えたぁ」
この窟に閉じ込められた人なのだろうか。そうならその閉じ込めたのは自分である。
微妙な罪悪が芽生える。
「で? 誰なんだ?」
「ぁ、私は、ミュエル・カナアウスと言います」
コウスケは頭を掻いた。名前を尋ねたようになったのは確かだが、名前だけでその人が何者かは分からないからだ。
自分の質問が悪かった自覚はあるので再び質問を返す。
「えっと、どうしてここに?」
「拐されて」
「拐?」
拐されるということは、それなりの有名人なのだろうか。そう軽く考えて再びコウスケは尋ねた。
そのが新たな問題の種になるとは知らずに。
「ぁ、はい。私は長耳族長の娘でして……」
「……長耳族長?」
「あ、はいそうです」
コウスケは引き攣った笑みを浮かべて、次にやってきた大きな問題の局面に立たされて大きくため息をついた。
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