《負け組だった男のチートなスキル》第四十七話 西へ
コウスケは走っていた。それも『強化』を使っての全力疾走だ。
向かう方向は分かっている。前日にエルシィクから西へ向かうと良いと聞いていたからだ。確か西には小人族の領土があるらしい。小人と聞くと、本當に小さな妖をイメージするのだが現実はどうだろうか。
若干の期待を抱きながらコウスケは走り続けた。
なんで走っているのか? それは思いのほか長耳族の警備が厳重だったと言っておくことしかできない。いや、へまはやらかしていないし姿も見られてはいない。ただそれほど長耳族が本気であることを知ると、急がなければという気持ちが湧いてきたからだ。
それに元々朝早くから家を出る予定だった。何せエルシィクから言われていたからだ。ミュエルが起きだす前に出ることが一番スムーズに出られるはずだと。コウスケもこれには賛だったので実行したのだった。
それを了承した時にエルシィクがミュエルに対して優しい視線を送っていたのだが真相は分からない。心理看破なんて言う便利なスキルがあれば分かったのだろうが持っていないし、今となってはどうでもよいことだ。
そうして何日も経った。その間の食住? 適當にやった。もはや慣れっこなので今更気にすることではない。
「晴れたな」
久々に木々から解放されたコウスケは思わず口にした。もう目の前には木は生い茂っていない。代わりに大きな山々が遠くにそびえ立っているのが確認できた。あの山々がエルシィクの言っていた大陸を西と東で分斷している山脈なのだろう。その山のせいで大陸の西側に何があるのかは分からないそうだ。
「にしても雰囲気が違うなぁ」
今まで過ごしていた長耳族の領地は森としか言いようがない場所だ。だが小人族の領土と思われるこの土地は、どちらかと言えば山岳地帯で木々などほとんど生えていない。
そんなこんなでコウスケは歩みを進めた。
今まで木々によって視界が狹かったものが、今度は山々によって狹まっている。最近広く大きな空を見ていない気がするコウスケだった。
そんなことを考えながらしばらく歩き続けていると、大きな崖が目の前にそびえ立った。他の道がないか周りを見渡しても、山々がそびえ立っており別の道はない。更に疑問に思うことは、今まで歩いた中で一つも人工を目にしていなかった。もちろん家なんかも見ていない。
「本當にここに人が住んでんのか?」
とうとう疑問を口にするコウスケ。今から戻って探してもいいのだが、そもそも山々に囲まれたここでは探す場所なんて限られている。もし山の上に住む種族ならどうしようもないが、なくともエルシィクからはそんなことは聞いていない。
ここで悩んでいても仕方がないので、コウスケは一先ずここで一晩過ごすことにした。日が暮れてからはこんな足場の悪い所で探すのは手間がかかってしまうと考えたからだ。
念のために『超覚』を作させたまま、そこらへんの壁に背を預け目を瞑った。
それからどのくらいの時間が経っただろうか。コウスケは不自然な音に目を覚ました。
まだ暗いため、夜であることは間違いない。
「――最近、魔が――」
加えて誰かの話し聲が聞こえてきた。聲はコウスケと同じくらいの年代の男のものだ。
コウスケはあえて寢たふりを続けることにした。流れ者と思われた方が好都合だと考えた。
「おい、あそこに誰か……」
「魔人族じゃないのかこの人」
「靜かに、起きるかもしれねえ」
壁にもたれ掛かって目を閉じているコウスケの前で聲を上げる男たち。魔人族であることは直ぐにバレてしまったが、そこまで強いを持っている気配はない。
「寢てんだよな?」
「何でこんなところに……」
二人は悩んでいるようだった。というのも、実際小人族の領土はアルカナ連合國の南西に位置しており、その領土と隣接する國はない。つまり他の亜人種以外の種族を見る機會が極端にない種族なのである。それ故、人間族や魔人族に対しての知識は教育でけた程度のものしかないはずなのだ。
「で、でも魔人族って兇暴だって……」
「ああ? そんなもん誰が言ったんだ?」
「……噂で」
「っは、俺らドワーフがドリウスから出たことがあったかよ」
「でも……」
「なら殺すか?」
「……それは」
一人は魔人族に恐怖心、警戒心を抱いており、もう一人はどちらかと言えば好奇心の方が勝っているようにじた。
「取りあえず俺らだけでは何も判斷出來ねえな」
「じゃあどうする?」
「ドランを呼んで來い」
「え、ドランを?」
「腐ってもあいつは族長の息子だ。あいつが傍にいれば罰せられる可能は減る」
「分かった」
そう言って一人はどこかへ去っていった。念のため寢たふりを続けているコウスケに、殘った男か近づいてきて、ウロウロとコウスケの周りを歩いて回る。観察でもしているのだろうか。正直いい気はしない。
「にしても何でこんなところに……」
ボソッと男が呟く。確かにここは魔人族が間違って迷い込むような場所じゃない。
そこへ先ほどどこかへ走り去っていった男が息を切らしながら戻ってきた。
「はぁはぁ、連れてきたよ」
「……こんな夜中にどうしたの?」
新しい聲が聞こえた。その聲は眠そうな聲で男に尋ねた。話の流れ的にこの人がドランという人なのだろう。
それにしてもドランという名前にはどこか聞き覚えがあるような気がしてならない。族長の息子と言っていたので何かしらの形で聞いた可能もなくはないが。
「來たかドラン。見てみろよ」
「一……え? ま、魔人族!?」
「っし、起きるだろうが」
「ご、ごめん」
ドランも他の二人と同じように驚き聲を上げた。本當に他種族と関わりを持っていない種族らしい。長耳族のような中途半端に他種族と関わって、一部が他種族に嫌悪を抱いている狀況とは若干違う。本當に接點がなく、先観というものがほとんどないのだ。
「どうする?」
「どうするって言われても」
「俺は起こして話を聞いてみたいと思っている」
「えぇ!」
聲を上げたのはドランを連れてきた気弱な男だった。彼からするとその提案は常軌を逸しているものなのだろう。
地球での狀況を例えると、コウスケをエイリアンに置き換えると分かりやすいかもしれない。いや、やっぱりエイリアンに対しては結構悪い先観が差し込まれているのでし違うかもしれない。
「ドランはどうだ?」
「うーん、危険がなきゃいいんだけど」
「なら縛っておけばいいんじゃね?」
段々と話がを帯びてきた。このまま縛られるのは堪らない。
「で、でも縛っている途中で起きたら……」
「お前は臆病すぎんだよ」
「一理あるけどね」
三人の間でなかなか意見がまとまらずしばらく話し合いが続いた。そろそろ自然に起きるふりをしても良い頃合いだ。というよりもう寢たふりをするのは神的に辛かった。
「うぅん」
わざとらしくびをしながら聲をらすコウスケ。その途端、話し合いを白熱させていた三人が口を閉ざした。
そしてゆっくりと目を開いていくと、
「え……」
驚きの聲を上げるコウスケ。しかしこれは演技ではなかった。
聲だけで判斷していた想像図と彼らの姿が結構異なっていたからだ。
「あ、そうか小人族……」
ここが小人族の領土ということを思い出したコウスケはそう呟いて納得した。
そう、彼らはコウスケが思っていた想像図のシルエット、つまり自分と同じくらいの長だと思っていた。だがそうではなく、彼らはそれの半分程度の長しかなかったのだ。
「ま、ま、魔人だーーーー!」
一人の小さな男が大聲を上げて走り去っていった。聲から判斷すると、臆病だった奴だろう。
対して他の二人はその場をかない。
「あの……」
ずっとその場をかない。というよりはピクリともかない二人に思わず聲をかける。
だが反応がなかった。
「す」
「す?」
「すいませんでした!」
一人が全力で頭を下げる。こいつがドランだ。
「は?」
もちろん謝られるようなことをされた覚えはないコウスケ。
「あ、あの、眠りを妨げてしまって」
「うるさくしてしまい」
「「申し訳ございませんでした!」」
次に二人は、綺麗に言葉を合わせて頭を下げた。てっきりじていないと思っていたのだが、そうではなかったらしい。
どうやら彼ら、小人族から恐怖心を取り除くには手が折れそうだ。
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