あれから數日、銃、盾、槍の使い方を4人で考えては、実踐するという微笑ましい日常が続いた。もうこれで信頼関係は築けたところだろう。

「ドラン、一つお願いがあるんだが」

「何でしょうか？」

コウスケがここに來た理由はただ一つだ。

「お前の父親、族長に會わせてほしい」

長耳族の包囲網が出來上がる前に、自分の人脈を広がらせることだ。

それには族長クラスの地位の人と繋がりを持つ必要があった。ドランも族長の息子という結構な立場にあるのだが、どうやら小人族は世襲制ではないようだし、加えてドランの待遇もすこぶる悪い。これでは大したアドバンテージにはならないと踏んだのだ。

「……父にですか」

ドランの顔はあまり良くなかった。勘當されたという間柄ではないとは思うが、やはり小人族として負い目をじるところがあるのだろう。

「見返すチャンスかもしれないだろ？」

「どういうことですか？」

コウスケの言葉にドランは顔を上げた。

何も口から出まかせを言ったわけではない。

「お前の武の凄さを俺が証明してやる」

すっかり頼れる兄貴的なキャラクターになってしまっているコウスケ。

そうせざる得ない理由があるが故のキャラ作りなのは否定できないが、嫌々ながらやっている訳でもなかいコウスケだった。どこかで誰かの上に立ってみたいという願が眠っていたのかもしれない。

「……分かりました。頼んでみます」

ドランはし悩んだ素振りを見せたが、コウスケの事を信用してくれた。コウスケにはそれよりも族長に會う方が目的なので多の罪悪は抱いてはいたものの、それはそれとして割り切っていた。

「コウスケさんはここで待っていてください」

ドランはそう言って基地から出ていった。アービスとヨハネによると、小人族の町ドリウスに他種族がること自あまり例がない。そのため魔人族であるコウスケを何も報告しないでれると下手に騒ぎが起きてしまいかねないと判斷したのだそうだ。

「ドラン、大丈夫かなぁ」

「族長はどんな人なんだ？」

ヨハネの弱気の呟きに反応したコウスケは、二人に質問を飛ばした。

気難しい人でないことを祈るのみだ。

「えっと……」

「族長様は心の広い方だからきっとコウスケさんとも會ってくれるはずさ」

「それならいいが」

そんな會話をわしてしばらく経った。時計がないためどのくらいの時が進んだかは分からないが、結構な時間が経過したはずだ。

「遅くないか？」

「だよなぁ」

アービスと顔を見合わせて頷く。まさか拘束されたなんてことはないだろうな。

「し様子を見に行って來てくれるか？」

「任された！」

「え？　ぼ、僕も？」

コウスケの言葉にアービスが元気の良い返事をし、ヨハネを引っ張る形で外に出ていった。

「念には念をだな」

一人になったコウスケは、もしここが奇襲された時の事を考えて、ヨハネの試作品である銃一丁を道袋にれ、懐には短剣を忍ばせていつでも対処できるように準備した。

「……遅い」

アービスらが出て行ってかなり経った。だが誰も帰ってこない。

不測の事態があったと考えるのが常であるが、もしそうなら小人族數名がこちらに攻めって來てもおかしくないはず。しかしそれすらもここには來なかった。つまりそれとは別の事態が現在進行形で進んでいる可能がある。

「行くしかないか」

このままここで指をくわえて待ちぼうけなど、今のコウスケには我慢ならなかった。厄介ごとがあるなら進んで排除していく。それが今の彼の生き方だ。

だがある問題があった。

「どこに行けばいいんだ……」

気合いをれて外に出るには出たが、コウスケはドランたちからドリウスへのり口を教えてもらっていない事に気づく。つまりどんなに頑張っても、地下都市であるドリウスにはり口を見つけない限りはれないのだ。

「……はぁ」

せっかく膨らんだやる気がしぼんでいく。気合いで地下都市へのり口を眼になって探すなんて面倒なことはしたくない。

そこら辺の壁をぶち壊せばり口が現れるかもしれないが、そんな事をすれば破壊行為をしたとして罰せられる可能さえあるので、やりたい衝を必死に抑えつけた。

「仕方ない、か」

探すなんて面倒なことはしないが、このまま何もしないというのも時間の無駄な気がしたコウスケはある場所へと向かった。

その場所というのも、先日、魔を退治した坑道である。そこならもしかするとドリウスに繋がる通路があるかもしれない。それに魔が出ることは分かっているので、それら相手に銃を使った戦闘方法の練習も出來る。まさに一石二鳥だ。

そうしてたどり著いた坑道り口。あの時は夜だったので人気がなかったが、今は晝だ。そのため坑道にはいくつかの人の気配があった。

念のために『超覚』を発させるコウスケ。坑道に突然他種族が現れればパニックになってしまうかもしれない。小人族を配慮して行しなければならない。

それに靜かに後をつければドリウスへの道が分かるかもしれない。

そうしてコウスケはゆっくりと坑道にっていった。

坑道は相変わらず薄暗く気も高い。先日と全く変わらない坑道だ。

違うところと言えば、時々響き渡る人の聲や作業場らしいい同士が當たる音など小人族が活している音が聞こえてくるくらいか。

「……にしても」

いくら人がいるとはいえ、その音に何かし違和をじるコウスケ。もちろん小人族がどういう風に炭鉱で働いているかは分からないが、それを踏まえてもし変だった。

人の怒鳴り聲が響く、それ自は変ではない。だがそれが何回も何回も覚を空けずに続いている。加えて、何かの唸り聲や金切り聲、地鳴りに近い恐らく足音が坑道に響いていた。

「魔か？」

悲鳴を上げているのは魔の聲に近い。坑道に魔がいるのは把握済みだ。だがそれにしては聲の數が多い。

「まさか……」

その時コウスケの額に冷や汗が流れた。

坑道にってからずっと聞こえる地鳴りのような音。それが足音だということは分かっていた。だがてっきりそれらの足音は小人族のものだと思っていたが、実はそうではないとしたら。

「くそっ！」

全に『強化』を施して、坑道を走り抜けるコウスケ。

あれがもし人の足音ではないとしたら、そこに広がる景は絶に染まっている。

「抑えろー！」

「うわ、來るなあ！」

「クソ！　こんなの多すぎる……」

小人族のび聲が聞こえてくる。

「……なんだこれは」

コウスケは目の前に広がる真黒な景に聲をらす。

それは、おびただしいほどの魔が同じ方向に向けて、一斉に行進している現場だった。

そう、このずっと続く地鳴りのような音は、大量の魔の足音だったのだ。

今の所、小人族は目の前の魔に集中しておりコウスケの姿は見られていない。今なら見なかったことにして立ち去ることが出來る。

そう悪魔のごとき囁きが聞こえた。

「本來ならそうしてるんだけど」

そう呟いて足を前に運ぶ。

今のコウスケにある選択肢は前に進むしかないのだ。生憎後ろに下がるなんて選択肢は、長耳族に追われているため選べない。

「これなら長耳族の方がマシかもな」

苦笑いを浮かべて槍を取り出す。

「いくか」

覚悟を決めた面持ちでコウスケは魔の群れへ飛び込んだ。