《負け組だった男のチートなスキル》第五十四話 地下都市ドリウス
「うぅん……」
びをしてコウスケは目を覚ました。起きた先に広がる巖の天井。どこか既視を覚えるが、あの時とは事が違っていた。
調は萬全に近い狀態。もちろん四肢は全て揃っている。
寢かされているのは、巖の臺座のような場所。地べたではない。
それらのことからまず第一段階はクリアしたことが分かった。
今の狀況、それはあの場に見捨てられずにどこか別の場所に運ばれたということになる。つまりは治療と言う形でも、拘束という形でも、地下都市にることが出來たということを意味していた。これこそがコウスケの立てた目標の第一段階だ。
最終目標は、もちろん小人族長との謁見の機會を貰うことである。だがそれが簡単な事ではないことぐらい理解している。それゆえに、コネであるドランを利用しようとしたのだが、そのドランの行方が分からなくなってしまったため、振り出しに戻っている狀況なのであった。
「病室じゃない、か」
辺りを見渡しながらコウスケは呟いた。もし病室なら、他にもあの魔たちに巻き込まれたけが人たちがそこら中に橫たわっているはずである。
そもそもベットの代わりであろう巖の臺座が、コウスケの一つしかないところを見ると、ここが一人部屋であることが分かる。とはいえ他種族専用の個室がある可能は否定できない。
「お、起きたか」
部屋の外から聲がかかった。この部屋には扉がないので、部屋のすぐそこで見張っていたのだろう。
「ここは?」
まず自分の置かれている立場を理解したいため、そんな質問を飛ばす。この部屋が隔離部屋や牢獄のような、穏やかではない部屋なのか、客室や病室のように、とりあえず好意的に扱われているのか知る必要があった。もし前者なら何らかの策が必要になってくる。
「安心しな、ただの客室だ」
コウスケの警戒を知ってか、小人族の男がそう言った。
その言葉からは棘のようなものをじない。
「あんたは……」
コウスケは目を細めて、姿を現した小人族の顔を見た。どこかで見た顔である。
「あぁそうだ、あの時あの場にいた者だよ」
あの場というのは、魔大発生の地獄のことだ。つまりは、あの魔たちから実質的にコウスケが助けた人にあたる。
「あの時は本當に助かったよ、何度諦めたことか」
笑顔をコウスケに向けて話す男。今のところは何か怪しい素振りは見せていない。
「まさか魔人族の方が助けにくるなんて目を疑ったよ。だけどきっと信じてもらえない話になるんだろうな」
どう返答していいか分からないコウスケ。
しばらく男の一人語りが続いた。
「それにあの魔法、魔人族は皆あんな威力の魔法を打てるのか? 俺ら小人族は魔法に関してはからっきしでなぁ」
種族によって魔法適があると言う話は知らなかった。
ならば、なくとも長耳族のナリオスは魔法に自信があったようなので、長耳族にはそういった魔法の文化があるのかもしれない。
「所で、お前さんはどうしてこんな辺境に?」
小人族の男の質問にコウスケは頭を悩ませた。
馬鹿正直に小人族に追われているなんて言えるわけもなく、かといってドランたちには通じた迷子です、作戦も通じそうにない。
「えっと……」
こんなにも自分のアドリブ力がないのかと、コウスケは呆れかえる。
「言いにくいことなら言わなくても良いさ。まあ俺ら小人族に害を與える事があるなら話は別だが……」
途端に表を無くしてコウスケを見る男。否定できないその問いにコウスケは冷や汗を流した。
だが次に口を開くと同時に、顔には笑顔が戻った。
「何てな、冗談だよ。俺らを助けてくれたんだ。なくとも今のところは害どころか、益をもたらしてくれてる。働かない同族よりはよっぽどマシさ」
返答のしにくい冗談を飛ばしてくる男。この微妙な距離での會話は、下手なことが言えず大変だ。
「あの、魔は?」
一方的に話させるのも悪いと思ったコウスケは、質問をした。
あの蜘蛛の魔たちがあそこの道だけとは限らないからだ。
「ああ、心配しなくても大丈夫だ。お前さんの塞いでくれた坑道は今の所は安全。だが他の坑道は……」
男は顔を曇らせて口ごもった。やはりあの道だけの事件じゃなかったようだ。
「他にいくつほど魔が?」
「なに?」
「だから後はどのくらいの坑道で魔が大量発生しているんですか?」
「4つだが、まさかお前さん、今から他も塞いで回るなんて言わねえだろうな」
男は信じられないものを見るような表でコウスケを見た。
確かに一つの坑道で果を上げただけでも十分な功績であり、他に回る理由もほとんどない。しかも他種族の、それに無関係の人が、他種族の事件を解決しようとしているのだ。信じられないのも無理はない。
だがコウスケにとって、この事件はチャンスだった。ここで名を上げれば、小人族のコウスケに対する評価も上がる。族長に會える可能だって増えるのだ。
「ここまで看病してくれて有難うございます。行ってきます」
「ちょ、ちょっと待て。何をそんなに……」
男の問いにコウスケは笑顔で言った。
「ただの自己満足ですよ。他人から好かれたいがための」
そう言い殘しコウスケは部屋を出た。
部屋の中にポカンと呆けている男を殘して。
「格好つけたのは良いけど、道を聞くの忘れてた」
今更ながらに後悔するコウスケ。
しかも、魔からの侵攻を止めるためにほとんどの人が出払ってしまっているのか、全くと言っていいほど人が見當たらなかった。
そこで仕方なく『強化』を使い、魔や人の聲を辿ることにした。
「……あそこか」
所々で爭うような聲が聞こえるが、一番近い箇所から潰していくことにし、目の前の曲がり角を曲がった。
「きゃっ!」
「おっと、すいません」
曲がり角で小人族のと鉢合わせしてしまったコウスケ。
流石には戦いには赴いていないようだ。
「え……魔人族?」
「あー、そうです」
驚くに苦笑いを浮かべながらコウスケは言った。ここで騒がれたら面倒なことになる。
「じゃああの人が言っていたことは本當だったの?」
だがはぶことなく、何か心當たりがあるような事を呟いた。
「あなたが第一坑道の魔を掃討してくれた魔人族の方?」
「え、あ、はい」
「そう! 本當に有難うございますね。主人を助けてくれたそうで」
「いえ、り行き上といいますか」
長耳族とは違い、好意的に接せられ戸うコウスケ。
こう初対面で謝の気持ちを言われるのは久しぶりだったのだ。
「あの、用がありますので」
「え、今からですか? 病み上がりでは?」
「すいません、失禮します」
「あ、ちょっと」
颯爽と走り去ったコウスケ。
魔の侵攻に時間的に余裕がないという理由もあったが、ただ単に照れくさかっただけであったコウスケだった。
「そろそろ代しろ!」
「換われ!」
坑道のり口は、大勢の小人族で埋め盡くされていた。どうやら最前線の人の負擔がピークに達する前に代するという方式をとっているらしい。それも坑道が狹いがゆえにやらざるを得ない戦略なのだろう。
「やっぱりか……」
コウスケは苦々しい顔で呟いた。
さっきの小人族の防衛線を見ていても思った事だったが、彼らの武は剣だけだ。弓はもちろん、防衛線に必須とも思える盾さえ持っていない。そればかりか狹い坑道であるのにも関わらず槍さえ持っていないのだ。
「ドランの言っていた通りか」
ドランの言っていた、剣至上主義の弊害がここでも出ていた。
この狹い坑道で剣のメリットなどほとんどない。しかも下手すると味方にさえ當たる可能があるのだ。
彼らは頭のどこかで本能的に分かっているのだろうが、文化だからと言ってそこで思考停止してしまっている。
「厄介な文化だよ、本當に」
コウスケは、槍を手に持ち坑道のり口に立った。
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