《負け組だった男のチートなスキル》第五十六話 被害
「グラウンド」
コウスケは後始末と稱して、地面に槍を突き刺し、そこからありったけの魔力を地面へ注ぎ込んだ。未だ魔はこちらへ押し寄せてきているのは周知のことだが、コウスケの発した魔法はそれさえも飲み込まんばかりの広範囲の魔法だった。
その発した魔法は、コウスケの立つすぐ手前の地面、全てが前方の方へ波のように向かっていき、魔もろとも向こうへ追いやったのだ。ついでにその地面が坑道を塞いだ。
「ふぅ、ギリギリだったか」
覚的にもう大規模な魔法は使えない。コウスケは一息吐いて、先ほどからコソコソと話している小人族たちのいる方向へ振り返る。
「すげえ……」
「これが魔人族……」
「魔王なんじゃないのか?」
とまあ様々な言われようだった。特に「魔王」という単語が聞こえてきた時はしドキリとしたものだが、これといったアクションをしてこないため、今のうちは何もないように裝うことにしたコウスケだった。
「あの」
びをしながら地下都市に戻ろうとするコウスケの元へ、小人族の一人が恐る恐るといったじで話しかけてきた。
そんな小人族に対しコウスケは先に口を開いた。
「あ、すいません。坑道を塞いじゃって」
「え、いえ! 気にしないで下さい」
不意を突かれたように小人族は必死に首を振って否定した。まさか謝られるなんて思いもしなかったのだろう。とりあえずこの展開はコウスケの作戦通りだった。あのままの雰囲気だと、上辺だけの會話しか出來ないと判斷した。そして上辺だけの會話だと逆に不都合が生じる可能があったからだ。例えば、どうしてここにいるのか、何故助けたのか、など今のコウスケにとって正直に答えにくい質問をされるのは避けたかったのだ。
「ごめんなさい、し休憩してきても良いですか」
「あ、はい、どうぞ」
しよろめく演技をしてコウスケはその小人族から離れた。小人族の間を通る間に、好奇の眼差しで見られているのをじながらも、気にせずに顔をし俯かせて進む。
実際はまだ元気とはいえ、魔力がもう限界なので倦怠は確かにあったので噓は言っていない。
とりあえずコウスケはここに來る前に寢かされていた部屋へ向かった。生憎、道を覚えているわけではなかったので、『強化』を施したままでなんとなく進んだ。
そんな時だった。『強化』された聴覚がある音を捉えたのは。
「まさか……いや、そんなはずは」
コウスケは思わず走り出した。その音のする方向へ。
「そういえばまだ後三つ……」
魔が発生している坑道はコウスケが塞いだものを除くと三つだ。違う言い方をすると、まだ三つもあるということだ。
だがコウスケは目の前にあることに集中しすぎてしまったことと、二つも坑道を塞げば殘る三つは小人族だけで何とかなるだろうという希的憶測があったせいでで、そのことの注意が逸れてしまっていたのだった。つまり忘れていた。
しかしそれが不味かった。
「……これは」
まだコウスケが介していない坑道にたどり著いたコウスケは言葉を詰まらせた。
その坑道はどうやってやったのかは分からないが塞がれている。それだけなら良かったのだが。
その坑道にいたのは、先ほどの坑道前にいたような、疲れてはいたものの傷をあまり負っていない小人族たちとは比較にならないほどのひどい有様の人達だった。
加えて、この慘狀を表すかのように、一面、、、。
々な箇所を包帯で巻いた者やそのまま寢かせられたままのもの。ひどく泣いている者。看病している者。そしてかなくなった者。
コウスケは油斷していたのだ。今までの坑道での小人族の対応を見ていたがゆえの。
今までの坑道では、剣など不安材料があったものの、しっかりと魔に対して対応できていた。なのでコウスケは勝手に他の坑道も上手くやっていると思い込んでいたのだ。
「あれは……」
そこでコウスケは見た顔を見つけた。ドランである。
ドランは、仰向けに倒れている一人の男の元で必死に包帯を巻いていた。
ゆっくりとその元へ近づくコウスケ。するとドランはこちらに気づき、涙で充した目をこちらに向けた。
「……コウスケさん」
「……ドラン」
橫たわる者には見覚えがあった。
「アービスか……」
それは盾の使い方で語り合ったアービスだ。そしてその隣にはアービスが作ったのか、盾が置かれていた。あの傷つきようを見るに、相當無茶をしたのだろう。
それに盾だけではなく、アービスのの狀態も素人目に見てもかなり悲慘な狀態であることがわかった。覚だけでいうと窟に捨てられたときの自分よりもひどい狀態だ。口には出せないが、もう二度と目覚めないのではないのかというほどに。
そんな中、驚くべきことが起こった。
「う、あ、ぁ」
「アービス!?」
あの狀態のアービスが意識を取り戻し言葉を発したのだ。だがもやられてしまっているためか、その聲は人の言葉をしてはいなかった。
「アービス!」
そんなアービスに対しドランは必死に話しかける。彼も分かっているのだろう。このままアービスが意識を手放したら、もう意識を取り戻さない可能が高いことを。
「う、るせえ、な」
ボソボソとアービスは話し出す。『強化』を使っているためギリギリで聞き分けることの出來るほどの聲である。
泣き喚くドランにアービスは、ほんのし口角を上げてそう言ったのだ。
「あ、こ、うす、け、さん」
アービスのほぼ開いていない目がコウスケと合った。
「アービス……」
「あ、りがと、うござい、ます」
「何もしてないよ」
突然お禮を言い出すアービスにコウスケは腰を下げて告げた。むしろ自分は何も出來なかったのだから。
「い、え、いまま、では、たて、なんて、ダサい、って思ってた、んです、でも、こうす、け、さんの、おかげで……」
アービスは自分の隣に置いてある盾に視線を向ける。もう口を開くことが出來ないほど力が低下しているようで、これ以上、アービスが口を開くことはなかった。
盾で何かをしたことは確かなのだろう。
そのアービスの代わりに、しばらく泣いていたドランが口を開いた。
「……アービスは、あの盾でヨハネを助けたんです。でも代わりにアービスが魔の群れに飲み込まれてしまって……」
その言葉を聞いてコウスケは納得した。この場にヨハネがいない理由を。
「それで、ヨハネは?」
「きっとどこかで泣いているんだと思います。自分がアービスを殺したんだって思ってて」
「そうか」
ヨハネを探しに行く気にはなれない。こういった場合、どう聲をかけて良いのかコウスケには分からなかった。もちろんドランやこの場にいる俯いた人たちにも。
「アービス? アービス!」
ドランがびだす。
さっきまでしだけ上下にいていたが止まったからだ。目も完全に虛ろを見ていた。
間違いない。
アービスは死んだ。
辺りが一段とシンと靜まり返り、しばらくの間ドランの泣きぶ聲だけがこの場に響いていた。
しばらく経った後、その空気が一変する出來事が起こった。
「お前のせいだ!」
この場に似つかわしくない聲が響く。誰もが反的に聲の主を見た。もちろんコウスケもドランも。
「……ヨハネ?」
ドランがボソリと呟く。そう、その聲の主はあのヨハネだった。
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