《転生先は現人神の神様》35 自然災害と魔導城壁
うーむ。……これはなんとも、嬉しくないな。
「ルナ様。このままだと果実が全部落ちます」
と、グノームが言っている。
「ルナ様ー。このままだと氾濫しますー」
と、ウンディーネが言っている。
それはなんとも、嬉しくないなぁ。この世界でもあるんですね。
臺風。
いつも穏やかな気候で、暖かいファーサイス。
だが……。
この世界にも臺風、ハリケーンと呼ばれるが存在する。
割りと灑落にならない規模で存在する。それは何故か。
それは……臺風が発生するとそれに気づいた風霊達がはしゃぐからだ。
そのせいで更に破壊力が増す。強化無しだと歩けたもんじゃないレベルにまで増す。
そして、なんとも言えないことに、ファーサイスは霊達が非常に多く存在する。
ルナフェリアの家からゾロゾロと風霊達がいなくなった。
よりによって、風の霊皇であるシルヴェストルまでいなくなった。
何故か? 臺風のところに行ったに決っている。霊達に悪意なんか無い。悪気もない。
ただ、楽しそう。楽しいから行っただけだ。
臺風はファーサイスの南西から向かってくる。そして、ファーサイスは見事直撃コースである。
わりと しゃれに ならない。
バッサバッサと髪を風に煽られながら、椅子に座り眉間を抑えているルナフェリアがいた。
「何しているのかしら、あの子達は……」
「風霊達が臺風に群がるのはいつもの事です……」
「……そう……雨もすごいのだけど……」
ルナフェリアのボヤキに、の霊皇、リュミエールが返す。
「収穫祭の中止がありえますね……。今までの比じゃないのですが……」
し遠い目でそう呟くブリュンヒルデであった。
そう、現在収穫祭2日前の晝頃。
他國からも王族や貴族がやってきている時に、臺風によって強風&豪雨に襲われている王都、ファーサイスである。なんとタイミングの悪い事か。今頃國の上層部も頭を抱えている事だろう。
いや、上層部どころか、國民すら頭を抱えているだろう。
「……風の霊、1人もいないんだけど?」
「……えっ?」
その言葉にぎょっとして目を向ける3人の侍。
そう、言葉通りルナフェリアの敷地には風の霊が1人もいなかった。
つまり、ここにいた全員が臺風のところに行った訳だ。
「……あの子達が祭りに行かないはずがない」
闇の霊皇、オスクリタがそう呟く。
「風の霊にとって、臺風は祭りか」
「……うん」
「はぁ……」
楽しそう。
そう、楽しそうに臺風の中をびゅんびゅん飛び回っているのである。風霊達が。
悪意があるわけでも、悪気があるわけでもなく、ただ楽しそうに飛び回っているのである。怒るに怒れない、ルナフェリアであった。
収穫祭は、人類の都合。臺風で遊ぶのは、霊の都合。うん、つまり価値観が違うのだ。
それがたまたま、今回重なった。いや、重なってしまった。
ただ、それだけである。
それから數時間が過ぎ、臺風が更に接近してきた頃、冒頭の言葉になるのであった。
臺風の雲、渦巻いてるのがかぶり始めたそんな頃である。
既に、暴風域にったレベルの風が吹いていた。
ルナフェリア家の結界は、雨を防ぐようにはなっているが、風は防いでいない。
その為、果実がヤバい。と言うか、端の方でこれだから、中心近くになるともっとヤバい訳で。
王都、大丈夫か? というのが、4人の……いや、恐らく王都中の思いだろう。
結界に打ち付ける雨で、外が見えないレベルの雨も降っていた。
普段不可視の結界が、バッチリ見えていた。
結界に打ち付ける雨と、風の音で最高にうるさい。
そんな中、ルナフェリアは新しい魔法。強風だけ弾くような結界を作していた。
完全に防いでしまうとそれはそれで々問題がある。生には空気が必要だ。
というわけで、今回のような場合に使えるような結界を作っていた。
空中に魔法陣を展開して、うんうん唸っていた。
イメージからのオリジナル魔法なら簡単にできるのだが、魔法陣にした方が々と便利なのだ。
だが、魔法陣にする場合は魔導文字でちゃんと指定する必要があるため、大変である。
「風だから……結界に當たる強さが、一定數を超えた場合、弾くように……? それとも通過する風を全て一定の量に調整を……」
侍の3人は、ルナフェリアの前に展開されている魔法陣を、し遠い目になりながら眺めていた。
凄い速さで、部の文字が変わっていくのだ。普通じゃまず見られない景である。
「よーし、展開!」
ふぉんっと緑の結界が展開され、土地を覆った。
その直後、靜かになったのだが……。
「あの……ルナ様……」
「……言うな……私は悪くない、風が頭おかしいのよ」
皆の見る先では、結界が歪んでいた。軋んでいた。
結界をもう1つ展開し、最初のを外す。
すると、今度は風はじるものの、強い風ではなかった。
「あ、歪んでないですね」
「ルナ様の顔が歪んでるけどね」
エブリンが言うように、ルナフェリアは不満そうな表をしていた。
最初の結界は、一定以上を完全に弾き、以下のはそのまま通す結界。
次の結界は、設定した以上の風を設定値に抑え、以下のはそのまま通す結界。
前者のは、結界の強度が魔力消費依存。
後者のは、結界に當たる風の強さによって消費量変。
……となる。
前者は発時に大量の魔力を使えば、それ以上の風が來ない限り問題ない。
後者は発魔力はないが、風次第で魔力消費が変するタイプ。
そして今の狀態で、発者がルナフェリアの場合、前者が良いだろう。
ということで、ルナフェリアは最初の結界を魔力を注ぎ張り直した。
今度は歪んでいなかった。
「ふぅ……」
非常に満足そうな顔をしていた。
「もうしで果実がやばかったです。何個か落ちましたけど」
グノームが帰ってきた。
グノームは地の霊であり、ぶっちゃけ果実については見ているしか無い。
落ちないように踏ん張らせるには、森の妖ドライアドならできそうだ。
尚、どの道ダメなのが、水路である。
今は水の霊達が、敷地にある池につながっている水路を制限していた。
池は土地の中央に位置しているので、反すると普通に困る。
そして、この水路を制限するということは、こっちに來るはずの水が別の所に行くわけで。
既に王都の水路も水嵩ギリギリの氾濫寸前であった。
「臺風はまだまだこれから……と言うか、まだってすぐなのだけど?」
ルナフェリアがそう言うと、侍の3人が苦笑していた。
そして、ルナフェリアはまた別の作業を開始した。
「今、できる限りの収穫をしているんでしょうね……ご苦労様です……」
ブリュンヒルデは全てを諦めたような目をしている。
この収穫祭。祭りの間に収穫しながら料理に使う。
下味などが必要な場合は、事前に収穫して準備をし、また収穫してきて、準備をする。
というのがいつもの事なのだが、今回はこの有様である。
放って置いたらダメになってしまうので、風に逆らいながら収穫している事だろう……。
騎士達が強化しながら行う全力の収穫である。
それが容易に想像できたブリュンヒルデの言葉だ。
そして、更に時間が経ち、氾濫が始まる。地獄の始まりである。
外に出て対策なり、処理しないと家がヤバい。でも外に出ると自分がヤバい。
そして、そうなると治安部隊の騎士達も、流された國民達の救助などに駆り出される訳で。
右往左往の大忙しである。
更には強化できる冒険者達まで駆り出され、地獄絵図である。
ある程度の氾濫なら、當然対策はされているが、でもそんなの関係ねぇ! とばかりの大氾濫である。
尚、風の霊は元気にびゅんびゅん飛び回っている模様。
こいつらに悪気は無いが、人間側から見たらぶっちゃけ元兇である。
「よし……これでいいわね……」
ルナフェリアは行っていた作業をやめ、次の工程にる。
王都全に通るように拡張し、魔力を乗せた言葉を発する。
『マイスター権限使用。魔導城壁自反撃機能停止……完了。エネルギー供給切り替え……完了』
ルナフェリアの言葉が大荒れの王都に響く。
しかし、誰も何をしているのか、何をしようとしているのかが分からない。
ただ分かるのが、城壁で何かしようとしている事だけ。
『拡張として魔法陣を接続……完了。魔導回路の最適化……完了』
王都の上空に巨大な魔法陣が展開される。
人々が何だ何だと思っている間にどんどん進んでいく。
『全リソースを防衛システムに接続……完了。……防衛システム異常なし。エネルギー供給を開始』
ルナフェリアがエネルギーとして魔力を注ぎ込む。
『防衛システム……起』
王都を囲んでいる、ファーサイス魔導城壁。
それは、1人のによって作された巨大な魔裝。
普段は非常に立派なただの城壁……でしかないが、エネルギーとなる魔力を得ることにより、魔裝としての本來の姿を見せる。
ファーサイス魔導城壁の側に刻まれている、一見壯大な壁畫に見えるそれ。
それはルナフェリアが思考加速した上で悩みに悩んだ傑作である。
當然ただの絵なんかではなく、その絵のおかげでこの城壁は魔裝となっている。
絵に見せかけた、魔裝が魔裝であるためのもの。
ファーサイス魔導城壁に作製者からエネルギーが供給され、起が命令された。
よって、作されてから初めて、魔裝として起する。
魔導城壁側の壁畫、それが下から上に、っていく。
徐々に、徐々に輝いていく壁畫。大樹や果実、霊はもちろん太や月、畑などの絵がっていく。
そして、全ての絵がった頃に、変化が訪れる。
櫓やぐら部分に書かれている大樹。それぞれ16箇所からの柱が発生し、上空に浮かんでいる魔法陣に魔力が供給され、の柱が側に倒れてくるように王都の中心、上空でそれぞれのが差し、結界が展開された。
それと同時に、吹き付けていた風と、叩きつけるような雨が結界に阻まれた。
『……よしよし、風除けの結界も今のところ問題なさそうね。ウンディーネ、水路全の水を制して貰える?』
『構いませんがー、余分な水はどうしますー?』
『そうか……そうね……。……ああ、そうだ。"ゲート"』
『なるほどー、海ですかー。ではそちらに流しますねー。《作リキッドコントロール》』
雨を防いでも川から流れ込んでくるので、増えた分をウンディーネが海と繋がれた"ゲート"に流し込む。これにより、王都部だけは安全になった。外は當然大荒れである。
頭上に魔法陣が浮き、城壁の側の絵がっているが、だいぶ落ち著いた王都。
ウンディーネ達、水の霊により氾濫も収まり、結界により雨と風も防がれた。
騎士達も強化による全力の収穫もストップし、ホッとしていた。
國民がちょくちょく不安そうに空を眺めているが、特に問題もなく時間は過ぎていった。
そして、臺風の中心に近くなってきた頃、結界がミシミシ歪んだが、供給魔力を増やし強化したため割れることは無かった。
その際、雨量も當然増えたが水の霊達により、ルナフェリアの"ゲート"を通じ海に流されたので、こちらも問題なかった。
「シルヴェストルを戻せば多ましになるのでは?」
「……まあ、マシにはなるでしょうが、あれがいつものことなのでしょう?」
「いつもの事ですね」
「ならさせておけばいいわ。楽しそうだしね。私が結界張っておけば良いことだし。どうにでもなるのだから、好きにさせておきなさい」
「ルナ様がそう言うなら……」
「子供は元気が1番よ。……あれを子供と言っていいかはあれだけど」
「……霊としては最年長の1人ですね……」
「まあ、霊達の格は屬でそれなりに方向が決っているようだから、こればっかりはね」
ルナフェリアとリュミエールが何とも言えない顔で風の霊達を眺めていた。
そんな風霊達は、臺風が王都を過ぎた後も、しばらく帰ってこなかった。
◇◇◇◇
臺風を無事……とはいい難いが乗り越え、なんとか予定通り行えそうで、ファーサイス上層部はホッとしていた。當然魔導城壁も通常モードに戻り、上空に浮いていた魔法陣も消えている。
その後、ブリュンヒルデ経由でお城のパーティーに招待された。
「一角を占領して霊達と食べつくそうと思います」
「やめてください。程々にしてください」
ブリュンヒルデに止められた。流石にダメか。
お城のパーティーに參加しているならそれなりの権力者。その達とのコネができると考えると、悪くはないんだろうけど……正直人間の時とは違って、必須ではないよなぁ……。
人間との接し方、そろそろ真面目に考えないとダメかね……。
正直、バレたらバレたで良いかな? とか思ってる。正を隠しながらとかって、結構ストレスだし。
んー……いいや、好きに生きよう。生きようっていうか、存在しよう。
何だかんだ理由を付けようが、結局は自分のためだ。邪魔をするなら薙ぎ払えばいい。
私に関係ない、影響ないのは今まで通りスルーだな。
結論、今まで通り。ありのままの私でいます。
王様にを差しれしてやるか。ああ、を使ってローストビーフを作ろう。シードラゴンのを使ったローストビーフ。不味いわけがないね。
花より団子。コネより食い気。
ぶっちゃけ、『私が王族や貴族達とのコネを』というよりは、逆だよね。
『王族や貴族達が、私とのコネを求める』だと思う。
忘れがちですが、わたくし、神であります。ええ、これでも神なんです。
冒険者ランクSSS目指すのもいいかも。Sランクだと國によって中位、上位貴族レベルの扱いされるようだし。國作る時期になれば正明かしてもいいんだけど。
さてと、準備しますかね。タレとか作らないとね。
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