《老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件》332話 穢された戦い

「酷いなこれは……」

「これだけ離れても瘴気でむせ返りそうです……」

「全員、神裝備完全開放!」

ユキムラの號令で白狼隊は神裝備を開放させる。

魔王の島は魔素が非常に濃いので最初から全力全開だ。

脈打つのラインが鎧や武を走り巡りかす度に殘像を殘す。

視覚的なあまりにストライクな演出に、ユキムラはひっそりと興していた。

その興を邪魔するのが敵の形態だ。

真っ黒なスライム。はっきりと表現してしまえばそれがぴったりだ。

周囲の地面もブスブスと音を立てて嫌な煙を上げている。

は瞬時に枯れ果てヘドロのような匂いをあげる。

「これが……魔王なのか……」

【魔人共があの穢とかいうもので強化された仲間たちに妙な魔法をかけると、すべて狀に混じり合い……

その塊を魔王様に埋め込んだのだ……、愚かだった……私たちは……】

ボロボロになった三叉の槍でを支えながらポスタルはヨロヨロと立ち上がってくる。

「三獣師は下がって、君たちはこの穢れの影響をけちゃうと思うから」

【魔王様の気配は確かにするのだ、頼む、俺達では無理だ、魔王様を救って差し上げてくれ……】

救うというのは生命の尊厳を汚されている現狀からの開放。

それが意味する2つの可能、三獣師も理解していた。

それでも恥を忍んで白狼隊に頼む以外になかった。

下げられた頭に込められた想いの重さをユキムラはじていた。

「さて、久々の5人戦闘。しかも相手は戯れの中の戯れみたいな存在だ!

いつも通り冷靜に、ただちょっと熱く戦おう!」

戦闘態勢にると、顔面部分や鎧同士のつなぎ目などに格子狀のギミックが展開して、全を鎧で包み込む。これが対穢れ戦の最終形態。

を隙間なく裝甲で包み込むことで、生を穢れに曬すことなく戦闘が可能だ。

ユキムラ発案で可変型鎧。ロマンが詰まっている。

4人は簡単に説明してしまえば変ヒーローのようだが、タロの姿はサイボーグバトルドッグのようで最もユキムラもヴァリィもそしてレンも張り切っている。

完全展開の狀態でもきを阻害せずに高い能力を維持する。當然作も一人ひとり完全なオーダーメイドとなってしまうために、完品は白狼隊の分しか用意できていない。

VOで存在しない魔道と鍛冶を融合させたようなオリジナル技なために、レシピなども失敗の連続から生み出されている。

この開発中のユキムラは、脳みそまで溶けそうなほど幸せそうに沒頭していて、し気味が悪かったとソーカはコメントしている。

ボコボコと周囲の環境を汚染する穢れ魔王。

白狼隊は慎重に敵の出方を覗う。

しかし、ズルズルと移はするものの積極的な攻撃行に移ってこない。

「レン、仕方がないからこちらから仕掛けよう。まずは遠距離攻撃で様子を覗う……

はなんだろ?」

「毒とか闇ですかね……穢れだから神は刺さるはずかなと……」

「だったら無屬攻撃かな……」

ユキムラは弓を取り出す。

鎧などと同様にのラインがしい。

ユキムラが弓を振り絞り矢を放つ。

まるでレーザーでも放たれたように魔王を貫き、矢は地面に突き刺さる。

貫かれた部位には大きく空間が生じるが、すぐにどろりと穢れの泥が埋めてしまう。

にも何か影響が起きたようには見えない。

「これは、理無効化?」

ユキムラが首をかしげた瞬間、魔王から手が鋭くユキムラを貫く。

「あっぶな……」

ジュウジュウと音を立ててその攻撃をけた弓が侵食されていく。

「全開!」

まばゆいを弓が放つと侵食はブスブスと煙を上げて消滅していく。

「魔力を神エネルギーに変えてぶつけるしかなさそうだね……」

連続してユキムラに襲い掛かってくる魔王からの攻撃を避けながら戦い方を考えていく。

次々と槍のようにを変形させながらユキムラを狙い続けていく。

「戦い方が……あまりに拙いような……」

試しに魔王の足元を陥沒させるように作するといとも簡単にそのに嵌って、うぞうぞと蠢きながら這い出して、また工夫もなく攻撃を再會する。

「レン、ソーカ、ヴァリィ、タロ。

全員でエネルギーをぶつけて穢れ部分を浄化してみよう。

萬が一にも魔王が生きていて助けられるとしても、この狀態だとそれしか無いと思う。

すでに、自我のようなものもなく、ただくものを攻撃している狀態みたいだし……」

ユキムラは、し悲しそうに他のメンバーに指示を出す。

5人同時攻撃、純粋な神エネルギーをぶつけて、穢れの浄化を目指す。

全員の武が完全開放モードになりエネルギーが集中していく。

淡々とユキムラを追うように攻撃を続けている魔王を中心に5人は展開する。

ユキムラは橫方向に避け続けていたきを急に縦のきへと変化させ、一気に魔王との距離を詰める。

白狼隊はそれに合わせて攻撃を放つ。

5人の攻撃のクロスポイントに魔王本は飲み込まれる。

槍のように変化していた外郭は、そのれて本からグズグズと灰のように変化して風に消えていく。

部分も全方向からのエネルギー攻撃をけて、見る見るうちにその巨大な積を減らしていく。

攻撃してくるエネルギーの塊に無駄に手をばしては灰になって消えていく。

それは戦闘といえるものではない。

以前の魔王の戦いを知ることはなかったが、意思をじさせない、無駄とも言える攻撃を繰り返す景を見て、ユキムラは怒りに似たと、ただ、哀しさをじていた。

「なんか、頭にくるわね……」

「ヴァリィ……俺もだ……」

「師匠……魔王はもう……」

「……穢れを払おう……俺達にはそれしか出來ない」

神より與えられし浄化のが穢を払っていく。

斷末魔が上がることもなく、ただうぞうぞと蠢き、手をばしては灰に変わっていきながら積を減らしていく。

としての意思はじられない。

文字通り、魔王としての尊厳は穢されてしまった。

最後の一片に至るまで、魔王だったものは浄化ので灰となった……

地面の下も含めて、周囲から穢を完全に除去したことを確認する。

「師匠! これ!」

あの質がいた中央部に漆黒の真珠のような玉が殘っていた。

「ほのかに魔力をじます!」

「ヴァリィ、三獣師を呼んできてくれないか!」

すぐに離れて休んでいた三獣師が駆けつけてくる。

周囲の慘狀と、何も殘っていない結果に、絶は否めない。

【……魔王様は、駄目だったか……】

すでに獅子としての威厳は消え失せ、絶の表でユキムラに語りかけるライオネル。まるで去勢された後の貓のようだ……

「それなんですが、唯一殘されたのがあの球なんですが、何かわかりますか?」

ユキムラの言葉にうなだれていた三獣師がバッと顔をあげる。

何かに集中するようにその黒い珠を凝視する。

そして三人は同時に駆け寄る。

【魔王様!】【魔王様の気配!】【今力お分けします!】

3人はまるで祈りでも捧げるよに黒い珠に自分たちの力を分け與えていく、魔人や穢れとの戦いで傷ついていた彼らにとって、それは自殺行為にも等しかったが、迷いはない。

ボロボロとの端から崩れ始める。

「レン、魔力を彼らに提供するぞ、このままだと消え去ってしまう」

「分かりました!」

「私達も協力します!」

「ワンワン!!」

「師匠! タロが自分に魔力を集中しろって!」

「みんないいな、タロに任せるぞ!」

白狼隊はタロに自分たちの魔力を注ぎ込む。

全員の魔力をけてタロが黃金に輝く。

「アオーーーン!」

タロが遠吠えをあげると三獣士の足元にり輝く魔法陣が現れる。

【こ、これは……力が溢れ出す!】

【かたじけない!】

【これなら思いっきりやれるわ!】

力強いエネルギーの流が黒い珠に注ぎ込まれていく。

凄いエネルギー量だな……」

「ユキムラちゃん……これ、魔王様がご機嫌斜めだったら私達が危ないんじゃないのー?」

「ははは、そうかもね……」

「まー、師匠の考えなく困ってる人を助けちゃうのには慣れっこですから」

「あら、レンも言うようになったわね」

ユキムラ達は大量の魔石を魔力回復に當てながら、タロへの譲渡を続けている。

凄まじい量の魔力があの黒い珠へと送られたことになっている。

もし、この魔力の持ち主が人間に牙を向いて敵になった場合、脅威であることは間違いない。

そんなことを考え始めた頃、珠に変化が現れる。

ピンポン玉程度の大きさだった珠が徐々に大きくなって來た。

野球の球、バレーボール、1メートルくらいの大きさになると部構造がけて見えてきた。

「……赤子……?」

まるで母の胎で眠っているかのように赤子が浮いていた。

ビシリ……

その姿が見えると同時に黒いガラス玉のように変化した珠に亀裂が生じる。

「大丈夫なのか?」

【ああ、間もなくだ!】

ビシビシとひび割れは珠の全域に広がっていく。

そしてついに魔力をらしながら外郭が崩れていく。

外郭がなくなると殘されたのは赤子、ふわふわと浮いている赤子をおしそうにスカーレンが布で包みけ止める。

【魔王様……ああ、魔王様……】

スカーレンの抱く赤子にポスタルとライオネルが優しい笑顔を向けている。

【ユキムラ、心から謝する。

魔王様はこれから我ら三獣師が育てていく。

魔族は……戦闘を出來る者は須らく、穢れの犠牲となった……

もう、人間に侵略をすることなどまない。

この地で靜かに暮らしていく】

【我らが希を救ってくれた人間族を我らは忘れない】

【ユキムラ、もし頼めるなら一つだけお願いしたい】

ライオネルの瞳に決意をじたユキムラは正面から彼の瞳を見つめて頷く。

【あの魔人達、やつらを倒してくれ。

甘言にのった我らが愚かだったのは100も承知な上での恥の上塗りのようなお願いだ。

だが、それでも俺はアイツラを許せない! 頼む!】

「もちろんだ。

そしてそのお願いを聞くために、こちらからもお願いがある。

『異界の門』魔族なら、この言葉の意味がわかるはずだ、その門を使わせてしい」

ライオネルをはじめ三獣師は、人間の口からその言葉が出たことに驚きはしたが……

【了解した。それでは、ぼろぼろになってしまったが、魔王城へと向かおう。

そこの地下に、異界へとつながると言われている開かずの門がある】

ユキムラは確信していた。

その門の先が、この世界を壊そうとしている魔神との最後の戦いの場所になるということを。

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