《絶対守護者の學園生活記》ほっとけない
「カ……レン?」
突如現れた馴染に、驚きを隠せないレオン。
だがそんなことは気になどせず、カレンはレオンへと近づいてくる。その表は怒りをあらわにしていた。
レオンは無意識に目を閉じる。それは何かをされるのを見越してのものか。
そして次の瞬間。
カレンはレオンを強く抱きしめていた。
今度は目を大きく見開くレオン。カレンはお構いなしに語り始める。
「ごめんなさい、この部屋で起きてたことはこっそり見させてもらってたの。外であなたを探してたら大きな音がしたから來てみたら、首のない死が転がってて、他にも使用人が何人もずぶ濡れで倒れてて。もしかしてと思って屋敷の中にってみたら地下にたどり著いたの」
そう、カレンはレオンが起こした濁流の音を聞きつけてここまで來たのだ。レオンがしだけミスをし、道路の方にまで水を流してしまったために、音が聞こえてしまった。
「ねぇ気付いてる? あなた今泣いてるのよ?」
そんなはずはと、手を目元へと持っていくレオン。そこはたしかに濡れていた。レオンは自分でも気付かぬうちに涙を流していた。ユウちゃんを助けた時は悲しみはしたが涙は出ていなかったはずだった。
「あなたはきっと、罪悪に襲われてたのよ。この屋敷に侵する時に二人殺してしまった。それはユウちゃんを救うために我を忘れていたから出來た。だけど目的を果たした今は、その必要もない。でも復讐の念に負けてまた一人殺そうとした。でも心の底ではそれが嫌だった」
カレンはさらにレオンを強く抱きしめた。
「もう無理しなくていいの。私はあなたが復讐なんてまない人だって知ってるから」
そしてカレンは慈に満ちたような笑顔をした。
「だから、今は思う存分泣きなさい」
瞬間、レオンの表が崩れる。顔をぐしゃぐしゃに歪ませ、泣き崩れる。
「頑張ったわね、レオン……」
優しい手つきでレオンの頭をでる。
しばらくして泣き疲れてしまったのか、寢始めてしまったレオン。
しかしその表は憑きが落ちたかのような、安心しきった寢顔であった。
カレンは膝枕をし、レオンの頭をそっとで続けた。
※※※
私は泣き疲れて寢てしまったレオンを膝枕しながら考え事をしていた。
レオンがなぜあのような暴走狀態のようなものになってしまったのか。
発端はユウちゃんの名前を聞いたあの院長の言葉だ。
そして、この部屋での會話を聞いて分かった。
レオンは四年前に攫われたユウちゃんを救おうとしていたのだと。
それと同時にあることが浮かんだ。
前に聞いたレオンが強くなった理由――
――不甲斐ない自分を悔やんだから。
繋がった。そう思った。
最初は村での慘劇の時に山賊の頭に負けてしまったのを悔やんだからと思っていた。
だがレオンは復讐を考えるようなタイプではない。そもそも勝ってても村の人達は帰ってこなかったはずだ。その頃にはもう誰も生き殘ってはいなかったのだから。
そこでさらに前に、ある目標が出來たと言ってガルムさんに鍛えてもらっていたことを思い出す。あれは最初はレオンも男の子だなぁと思った程度だったが、時期的にはユウちゃんがピクニック中に迷子になった後すぐでもあった。さらには私も含めて子供達が村に來るまではただ普通に過ごすだけで満足そうだったと聞いたことがある。
今回の、ユウちゃんを救うことへの異常な変貌。
復讐や、勝つこと以外での強さを求める理由になるもの。
行方不明となり危うくなった子供や、他の多くの子供達を見て決めること。
もしかして子供達を、いや、大切な人達を守る為では?
それなら今までの事も理解できることが多々ある。
それと同時に思ったこともある。
どうしてこんなにも不用なのだ、と。
今回の事だってそうだ。
仮にも相手は貴族である。なら平民であるレオンがわざわざ出向いて何かあればレオンが圧倒的に不利なのは目に見えている。あまりレオンはこういうのを好まないだろうが、知り合いには王族もいるのだし、もっとやりようもあったはずだ。
だが強行突破をし、それを功させてしまった。それだけの力があるからだ。そもそもその力も一學生が持っているような範疇を大幅に超えてしまっているのだが。
レオンは責任が人一倍強く、罪悪も人一倍じてしまったが故の長であろう。
なぜ一人でどうにかしようとするのだろうか。
もっと私に、私達に頼るという選択肢はないのだろうか。
「ば~か」
気持ちよさそうに寢ている馴染に向けて言ってやる。頬ツンツンのおまけつきだ。
全ての原因は分かっている。
レオンがあまりにも優しすぎるからだ。
大切な人に苦しんでほしくない。
喜んでほしい。
楽しんでほしい。
そんな想い・・が彼の今の原力になっているのだろう。
シスコンで、いつもふざけてて、でも戦ってる姿はかっこよくて、何気に優しくて………。
そして支えてあげたいと思える、そんな人。
寢顔を改めて見る。
そのあどけない寢顔がとてもおしく思えて。
私は確信した。
あぁ、私はレオンに惚れていたんだ、と。
気付いてしまったら後には引けない。
「本當にほっとけない、馬鹿な馴染なんだから……」
院長に聞かれてモヤモヤしていた私の心は、いつのまにか晴れ渡っていた。
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