魔王との戦闘が始まった。

本人の意識はないとはいえ相手のはリーフェのもの。を傷つけるのは気が引けるが、そんなことを考えている場合ではない。相手を戦闘不能にして抵抗出來なくさせ、《消失》の力で魔王の魂だけを消し去る。

レオンは加護の力によって増幅した魔力を解放する。強化を施し、ダルク戦で見せた最終兵を発する。

魔王の周りを様々な武がドーム狀に囲み、一斉に襲い掛かる。逃げ出す隙間のない、死のみが待ちける牢獄のようだ。

「生溫いわ」

黒炎が天高く燃え上がる。襲いかかる武の數々が黒炎にれた瞬間に塵となって消えてしまう。レオンの最終兵がいとも簡単に破られてしまった。

魔王の視界が開ける。しかし先程までそこに立っていた者の姿が消えていた。

魔王は背後に殺気をじ、咄嗟にの向きを変え、首の位置が來るであろう高さへの手刀を振るう。

ヒュン！と風を切る音がするが、ただそれだけだった。

「殘念だったな」

「ぐがああああああ！！」

冷めた聲が聞こえたかと思うと、魔王は背中に激痛が走りんでしまう。

確かに背後から來ていたはず。なのにレオンがいたのは元は正面だった場所。魔王である自分が相手の気配も察せずに傷を負わされた。

それは再びこの世に戻ってくることが出來、興に震えていた魔王のプライドを揺るがすこと。

怒りのが湧き上がる。

「クソがああああああ！！！」

天を黒炎が覆う。そして隕石のように降り注いでくる。地面に當たると大きな、クレーターが出來上がる。

そんな中をレオンは縦橫無盡にき回る。しでもミスを起こせば死が待ちけている狀況下で、恐ろしい程冷靜に判斷を下していく。

命の駆け引きなどとは無縁の生活を送っていた前世。全世界という大規模なものから見れば、ちっぽけな存在だった自分。それが今、世界を救う救世主のような存在となっている。どんな皮だと思わずにはいられない。

レオンは思わず苦笑をらすが、すぐに心を引き締める。

態勢を整える為に取った距離をしずつ詰めていく。降り注ぐ黒炎を避けれるものは最小限のきで避け、避けきれないと判斷したものは斬り払う。ゆっくりと、著実には足を進める。

魔王の表には焦りが見えていた。レオンは易々と打ち破ってはいるが、今放っている攻撃は天災とも呼べるほどのものだ。辺り一面を更地にすることが出來るほど。何千、何萬もの敵ですらいとも容易く消し去る、まさに戦略兵。相手の進行を抑え、こちらを有利にするもの。

英雄と呼ばれていた男もこれには苦戦していた。

「なぜ！なぜだ！！」

気付けばレオンは目の前にまで迫っていた。

「何故だって？」

圧倒的に自の方が格上のはず。なのにレオンが放つ威圧に、思わず膝をつく。

「お前は俺の大切なものに手を出そうとしている。そんなこと、俺が許せるわけないだろ？　俺とお前の違いは想いの差だ」

「そんなもので……っ！！」

「そのだって、俺の大切な人のものだ。返してもらうぞ」

あくまで殺さないように、レオンは刀を幾回も振るう。

(後で治すとはいえ、なんか後ろめたいな)

綺麗なに刻まれた刀傷。魔王は倒れ、もうくことは出來ず、蟲の息だ。

レオンはしゃがみ、魔王のに手をかざす。早速《消失》の力を使い、魔王の魂だけを消し、リーフェを取り戻す。

「じゃあな、魔王様」

そして発しようとしたその時、魔王の口が開いた。

「やめて、レオンくん……」

「！？」

レオンは即座に飛び退く。聞き覚えのある聲が、レオンの手を止めていた。

(今のはリーフェさんの……)

どこか懐かしさをじる、リーフェの聲を魔王が出したのだ。これが何を意味するかは分からないが、嫌な予がした。

傷だらけのまま、魔王が立ち上がった。

「レオンくん、もう私は助からないの。だから私を―――」

レオンは必死に頭を働かせる。

助からない？《消失》の力では救うことが出來ないのか？しかしこれも魔王の策略かもしれない。だがほんの僅かの可能でも、否定する材料が自分にはない。もし、もしも救うことがもう不可能な程にリーフェと魔王の魂が複雑にわっていたする。そして今、表にリーフェの魂が出ているとして、あの優しい心の持ち主が言おうとしていること、それは

「――殺して」

リーフェの瞳が潤んでいる。もう自分は手遅れだと分かっているのかもしれない。だからこそ、死をむ。レオンの刀を握る手が震えている。どうすればいいのか、どんな狀況なのか分からなくなってきた。

リーフェを殺したくない。でも殺さなければ、他に被害が及ぶかもしれない。

レオンは俯いた。やらなければ、こちらがやられる。

決意を固め、顔を上げる。

目の前に、ニヤリと口角を上げ、いかにも愉しそうに笑うリーフェの顔があった。

突然こみ上げてくる吐き気。ガハッと口から飛び出てくるのは、赤い。に違和をじ、手を當てると、ぬめりとしたが返ってくる。

「簡単に騙されるとは。愉快だな、小」

レオンのを、魔王の腕が貫いていた。