《負け組だった俺と制限されたチートスキル》第十九話 人里への道
拍子抜けしてしまうほど簡単に森を抜けた。
そりゃあ、あんな魔がうじゃうじゃいるような森を行き抜けたのだから、苦労するとは思ってなかったが、それにしても何もなさ過ぎた。ハッキリ言えば詰まらなかったのだ。
俺はこのように力が有り余っていたが、果たしてミリルはどうだろうか。
そう思い俺はミリルの様子を確認するために振り返った。
ミリルはいつものように無表だが、その様子から辛そうな印象はけない。
彼が俺と同じようにあの森を経験したかどうかは分からないが、なくとも彼がこれまでに乗り越えてきた困難よりは簡単だったようだ。
俺はそんな彼を見てホッと息を吐いた。
もし、この程度でへばるようなら間違いなく、お荷として置いていく、という選択肢が実行せずとも頭の中によぎってしまうはずだから。
自覚があるほど彼に甘いとはいえ、俺はそこまで彼を甘やかすつもりは頭なかった。
なので、どこかで安心していた。
これで彼に対して負のを抱かなくて済むということを。
ふとミリルが俺の視線に気づき、首をかしげた。
何か用? その顔にはそう書いてある。
「いやなんでもない」
苦笑してそう告げる。
我ながら彼のことを甘く見すぎていたようだ。
「行こう」
森が開けた先は人里、ということはなかった。
ただ明らかに人工であろう道が地平線まで連なっているのを見て確信する。
この道を辿っていけば人里にたどり著くことを。
何も目標がないまま歩くよりは、こうした道しるべがあったほうが斷然やる気が出る。それに森のような足場が悪い場所を歩くより、こうした整備された道を歩くほうが何倍も疲労が軽減されるのは言うまでもないことだ。
ミリルと並んでその道を歩いた。
今まで施設、森と言ったような見晴らしの悪い場所で生活してきたためか、何だか落ち著かない。地平線が広がるこの景にを覚えるどころか、居心地の悪さをじてしまうとは、俺のが隨分と変わってしまったようだ。
だがそうじているのは俺だけではなさそうだった。
見ればミリルも落ち著かない様子で辺りをキョロキョロと探っている。
初めは俺と同じ理由でそうしているのだと思い、微笑ましい気持ちだったが、し経つとまた別の考えが浮かんだ。
ミリルはその赤い瞳のせいで蔑まれてきたことを思い出したのだ。
その経験を考慮すると先ほどの想は全く見當違いである。
慣れてないから落ち著かないのではなく、の危険をじているから落ち著かないとでは隨分意味合いが異なるからだ。
俺はもちろん前者、しかしそうした過去を持つミリルの場合は恐らく後者である可能が高い。
人目につく場所は彼にとってはトラウマのようなものがあるのかもしれない、と俺は思ったのだ。
「大丈夫か?」
とりあえず聞いてみる。
「うん……」
いつも通りの返事ではあったが、表が芳しくないのは目に見えて分かった。やはりトラウマか何かがあるのかもしれない、と思わざるを得ない。
だからといって、今いるこの場所は平原といえるほど広々とした土地であるため、といったような薄暗い場所はほとんどなかった。
確かに今思えば俺は無警戒過ぎたのかもしれない。
何しろ俺だって彼と同じ赤い瞳を持ってしまったのだから。
「暗くなってから行しようか」
俺はひとまず近くの巖にミリルを連れて行きそう言った。
夜ならば人目につくことはあっても、目のまでは認識されないだろうと思ったからだ。
ミリルは頷き、俺の隣で腰を下ろす。
食料はあの施設から頂戴しておいた。
腰にはあの剣が、懐には短剣もある。
ミリルだってあの白銀の短剣を持っている。
大丈夫だ、ちんけなチンピラくらいなら圧倒できる。
俺とミリルはそこで暗くなるまで休息した。
とはいえ二人とも好んで會話をするタイプではないため、ほぼ無言のまま時間が過ぎていった。
そうして辺りを照らすのは月のだけの時間帯になった。
「よし、そろそろ」
俺は立ち上がり、その後にミリルが続く。
道に出た。
當然晝間に比べてかなり暗い。
街燈なんてあるわけがなく、かろうじて道の郭が見える程度だ。
これはこれで危ないかもしれない。
それでも進まなければ何も解決しない。
俺達は進んだ。
目指す場所、行き著く先なんて分からない。でも歩みを止めることはない。
進み続ければいつかは人里に著く、それを信じて。
それから長い間歩いた。
幸いにも人と遭遇することはなかったので、順調だ。
そして明け方には、遠い地平線にポツポツと明かりや建の影が見え始めていた。
俺はどうするべきか悩んだ。
疲れは結構きているが、歩けないほどではない。ミリルもまだ大丈夫そうだ。
ここでまた晩が來るのを待つか、このままあの人里へと行くか。
それを俺は迷っていた。
いやあと一つ、懸念があった。
そもそも俺達が人里にれるのかという懸念だ。
ミリルは痛いほど知っているだろうが、俺にはまだこの赤い瞳を持つ者がどれほど世間から疎まれているのか分からないのだ。
だがそれをミリルに聞くのは気が引けた。それは下手をすれば彼の心の傷を抉りかねない。そして被害者としての意見だと、しばかり報に偏りが出てしまうと思ったからだ。
理由も分からず除け者にされていた可能だってあるのだ。下手に聞くことは出來ない。
「あ……」
いつの間にかミリルに凝視されていた。
自分の世界にり過ぎたかもしれない。
「し考え事をな」
そう言ってもミリルは俺から視線を外さない。
その考えを答えろと言わんばかりに。
隨分と主張するようになってきたな。
「今日の晩飯のことを……」
ミリルからの視線が強まったような気がする。
そうだよな、この程度の噓は簡単にばれるよな。
「この剣について……」
今度はそれらしいことを言おうとしたのだが、それさえもミリルという名の人型噓発見は主張を緩めない。
「あー……このままあの里にって良いのかと思って、な」
ついには噓もつけず、ありのままのことを言ってしまった。
俺ってここまで噓下手だったのか。
自分でも落ち込むレベルでひどいんだけど。
そのように落ち込む俺を置いたまま、ミリルはミリルでその俺が行った言葉について考しているようだった。
まあミリルが一番知っていることは間違いないし、ここはミリルの判斷に任せたほうがいいのかもしれない。
俺はミリルの答えを待った。
ミリルはコクリと頷く。
……いや、流石に分からん。
なので、
「……何に対して頷いたんだ?」
と聞くしかなかった。
その質問に対してミリルは、
「里に行くこと」
と呟く。
つまり里に行った方が良いというのがミリルの判斷なわけだ。
だが本當に良いのか?
俺はミリルの瞳を見つめた。
「行って見ないと分からないから」
ミリルからこう言われた。
確かに言って見ないと分からない。
なんか俺よりも男らしいな。
俺は思わず苦笑した。
ミリルの頭にポンと手を乗せる。もちろん義手じゃない右手でだ。
今更俺達にはやらないという選択肢なんてないのだ。
今まで以上に落ちることなんてそうないのだから。
「じゃあ行くか」
「うん」
俺とミリルは決意新たにその里へと歩みを進めた。
道中意外なことに魔と出くわした。
それに旅人の人たちもセットで。
さて……どうしようか。
きっと前までの俺なら問答無用で助けていただろう。
しかし今は合理主義に近い考えでく予定だ。
だからこそ今ここで俺が無駄に力を使うことは決してメリットにはならなかった。何しろ、魔に無傷で勝てる保障すらないのだ。まだ里に著かないうちに怪我などしたくもない。
悩んだ。
その間にも魔が旅人達へ襲い掛かっていようとも、俺は悩み続けた。
どうする……助けた方が良いのか?
そこで俺は心のどこかであの人たちを助けたいと思っていることに気が付いた。
俺にはまだ甘いところもあったのか……
まあいい。完全に失うよりは、そういう心も持って置けばいずれ役に立つかもしれないしな。
しかしだからといって無駄なことはしたくないのは事実だ。
そうだな……ならばメリットを探そうか。
あの旅人を助けることによって得るメリット。
一つ、恩を売れる。これは返ってくるかが分からない。
二つ、魔との戦闘経験。これはもう結構経験済みである。
三つ、気分が良くなる。これは一番薄いメリット。それに今の俺がそうなるかはし怪しい。
結論、助けるメリットはあまりない。
「だ、誰か……!」
旅人の一人が聲を上げた。
ミリルが俺を見た。
俺は息を吐いた。
ミリルのその赤い瞳は「助けないの?」と告げていたからだ。
彼だって人に恨みを持っていても可笑しくない経験をしてきたというのに、そんな顔が出來るというのは素直に驚きだった。
そしてそんな彼の綺麗な気持ちを尊重したくなった。
「はぁ」
もう一つ息を吐く。
「分かった、助けてくる」
メリットなどほとんどない。
だがデメリットも正直言ってあまりないのだ。
強いて言えば怪我をする可能があるくらい。しかしこれはミリルのスキルによって治せるし、同化スキルもある。つまり実質デメリットはゼロだった。
そうだな、よくよく考えれば助ける方がいいかもな。
俺は無理やりそう結論付け走り出す。
そして剣を思い切り投げた。
「えっ……」
旅人のけない聲。
それも仕方がない。
何しろ、今にも旅人は食われる寸前だったから。そこへ俺が剣を投げたことで、魔の眉間に剣が突き刺さり、魔は停止したのだ。
「まだ死なないか」
流石は魔。
生命力はの比ではない。
俺は魔に近づき、剣を摑んで、上へ引き上げた。
魔の眉間から頭頂部まで切り裂かれる。
結構重かったが、全重を乗せることで何とかし遂げられた。これでしは格好もついただろう。
「後は……」
それでもまだ生きている魔。
トドメだ。
俺は魔の脳天から剣を突き刺した。
相當弱っていたから結構簡単だった。
「終わりか」
地面へ著地し呟く。
思いのほか呆気なかった。
もしかしなくても、あの施設にいた魔よりかなり弱い。
そんな思いに耽っていると、旅人から聲がかけられた。
「あ、ありがとうございます」
謝の言葉だ。
ただし、それだけなら俺は何も嬉しくない。
「通りかかったついでだ」
だがをせびるのはみっともない。
相手側から何かくれないのであれば、俺はわざわざ何かを言う気はなかった。
なのでそれだけ言って立ち去ろうとする。
だが、
「ま、待ってください!」
「……何だ?」
旅人に止められた。
「お禮をさせてください」
「お禮?」
怪訝そうな顔を演技で作る。
心は結構思い通りに言って喜んでいた。
「はい、あまり良いものではないんですけど……」
そう言ってゆっくり差し出した來たのは、使い込まれたブレスレット? だった。
「これは?」
「私の故郷のお守りなんですけど……いりませんよね」
「……一応貰っておこう」
正直何に使えるか分からない、いや正直日本だったらけ取っていないが、この世界では何に不思議な力が宿っているか分からない。
なので一応は貰っておくことにした。
そして形式上、直ぐに腕に通す。
「きっと私の村の者に見せたらよくしてくれると思います」
「そ、そうか」
「では、この度はありがとうございました!」
綺麗なお辭儀。
俺は苦笑いを堪えながら立ち去った。
あまり人助けをするものではないな、と思いながら。
「終わったぞ」
ミリルへ報告。
ミリルは満足気に頷いていた。
お気に召して何よりである。
そうして俺たちは再び道を進む。
そしてたどり著いた里のり口。
もう辺りの空は薄明るくなっている。
まあ暗かろうと、近距離で顔を合わせてしまえば確実に赤い瞳であることが分かってしまうので今更明るさなんて関係ない、といいたいところだが、もうし遅く到著していれば人々が起き始める時間帯だ。この瞳が見られてしまうことを前提にしているが、それでも最善としては見られるのは人數であることが好ましい。大人數ではそれだけ赤目を嫌う人がいる確率も増えてしまうし、何より集団相手では分が悪い。
なのでギリギリ間に合ったといえるだろう。
俺は一つ息を吐いて、その里のり口である関所のような場所に足を踏みれた。
一人の門番と思われる男が現れる。
流石に張した。
これから天國か地獄か決まるのだから仕方ない。
男が訝しげな表を浮かべてこちらを見ていた。
ちなみに俺とミリルは顔をあまり見られないようにフードを被っていた。確かに怪しさは十分である。
「旅人か?」
男が一つ言葉を発する。
「はい」
間違ってはいない。
「そうか……」
しばしの沈黙。
迂闊に目を合わせられないこちらとしては、その時間が凄く長くじた。
張で冷や汗はもちろん鼓も早くなっている。
まさか早速あの施設で鍛えた神が揺さぶられるとは。
心苦笑してしまう。
そうして運命を決めるかのように男の口がゆっくりと開いた。
人類最後の発明品は超知能AGIでした
「世界最初の超知能マシンが、人類最後の発明品になるだろう。ただしそのマシンは従順で、自らの制御方法を我々に教えてくれるものでなければならない」アーヴィング・J・グッド(1965年) 日本有數のとある大企業に、人工知能(AI)システムを開発する研究所があった。 ここの研究員たちには、ある重要な任務が課せられていた。 それは「人類を凌駕する汎用人工知能(AGI)を作る」こと。 進化したAIは人類にとって救世主となるのか、破壊神となるのか。 その答えは、まだ誰にもわからない。 ※本作品はアイザック・アシモフによる「ロボット工學ハンドブック」第56版『われはロボット(I, Robot )』內の、「人間への安全性、命令への服従、自己防衛」を目的とする3つの原則「ロボット工學三原則」を引用しています。 ※『暗殺一家のギフテッド』スピンオフ作品です。単體でも読めますが、ラストが物足りないと感じる方もいらっしゃるかもしれません。 本作品のあとの世界を描いたものが本編です。ローファンタジージャンルで、SFに加え、魔法世界が出てきます。 ※この作品は、ノベプラにもほとんど同じ內容で投稿しています。
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