《負け組だった俺と制限されたチートスキル》第二十三話 大海を知らず
次の日の朝が來ていた。
俺は考えをしている間に寢てしまっていたようだ。
まだアルトのスキルについてや、ミリルの様子について考えようと思っていたのだが、一眠りしたせいか、もうそんな気分ではなかった。
し外の空気を吸いに行こう。
そう思って俺は今もなおスヤスヤ寢ているミリルを起こさずにその部屋から出た。
靜かだった。
てっきりアルト辺りは朝から起きていて、挨拶でもして來そうなものだと思っていたのだが、どうやら違ったようだ。それどころかこの建に人の気配がない。
皆がまだ寢ているならば納得するのだが、今が朝、それも日の傾きを見る限りそんなに早い時間ではないことを考えると、どうもおかしかった。
おかしい
警戒心が高まる。
アルトのあの善意には裏があったのでは、と勘繰ってしまう。
そもそも無償の善意なんて信じる質たちではなかったというのに何故俺は當たり前のように彼を信用してしまっていたんだ?
考えれば考えるほど分からなくなる。
アルトという青年はスキルさえも分からなかったのだ。
今思えば、その怪しさはあの赤目の男と同じくらいになるではないか。
「……考えても仕方ないか」
とりあえずまだアルトが黒とは決まっていない。
ミリルを置いていくのはし気が引けるが、起こしたことで相手側に勘繰られるのも良くない。
俺はそのままその建を出た。
「……あんたは」
建の外には、昨日のように見張りの男達はいなかった。
変わりに昨日の赤目の男が立っていたが。
「また見まみえようと言ったであろう」
言ったにしても、昨日の今日なんだが。
それにこの不可解な狀況でこの男の登場。これではますますあの青年、アルトが怪しくじてしまう。
二人で手を組み俺をどうにかするつもりなのかと。
いや、俺の報がまだ世に出回っているとは限らない。
なら……ミリルか?
俺はミリルを連れて來なかったことをし後悔した。
どうも薄気味悪いのだ。
この狀況が。
「何のようだ」
心は興していたが、あくまで冷靜な態度を表に出す。
ここで襲い掛かっても、この男には勝てないと昨日のあの一撃で分かっているのだから。
「なに、ただ同族として話をしようと思ってな」
「それだけのためか?」
「ああそうだ」
この男の言っている事は、今のところ真偽スキルが反応していない。
なら本當のことを言っているのか。
しかしそう考えるのは早計である。
「その前に一つ聞きたい」
「なんだ?」
聞く事は決まっている。
「この靜けさは何だ?」
建が靜かなのは、まだ外出によって誰もいないということで理解できる。
しかしここ屋外まで人の気配がないのは明らかにおかしい。もしこの里全てがグルになっていて、俺を嵌めようとしていたとなるとかなり厄介である。
そうなっていないことを願うしかないのだが。
俺は目の前の男に警戒心むき出しで睨みつける。
いつ攻撃が來てもいいように。
「まあそんな警戒することはない、なくとも今のところはお前達の味方だ」
「ならこの靜けさにお前は関係ないと?」
「いいや、間接的とはいえ関わっている」
そもそも何が起こっているのか分からないため、間接的だろうが直接的だろうが、俺にとっては害ある者にしかじられない。
「貴様はこの里で何が起こっているのか分かっているのか?」
「……いや」
俺の様子から察したのか、男がそう口にした。
報がしでもしい今は素直に本當のことを告げるしかない。
「だろうな、では簡潔に説明するとしよう。なに、魔が近場で複數目撃された、ただそれだけの事だよ」
「魔だと?」
魔と聞いてが揺れないわけが無かった。
魔に対する恐怖ではなく、それよりも魔に痛めつけられた過去をが覚えており、それで憎悪が燻るのだから。
しかし男の言い分は納得出來る者だった。
それでこの靜けさ。
なるほど、男は魔討伐に行き、、子どもは家に篭っているわけか。
「ああ、だがすぐに討伐されるだろうがな」
「どういうことだ、そしてそもそも何故そこまで詳しく知っている?」
あの魔の危険は俺がこので良く知っている。だからこそ言えるのだ、そう簡単に倒せるような奴ではない事を。
なのにこいつの言い方では、難なく倒せるように言う。そりゃあこの男ほどの実力があれば難なく倒せるかもしれない。だが出たのは里の人だ。
だがもしかすると魔にも個差があって、弱い部類が近くに現れた可能もあるが、それにしてもだ、何でこいつはそんな事を知っているのか、それに魔が倒される事に対しての発言もおかしい。まるで自分が魔側に立っているかのような言い方ではないか。「討伐される」というではなく、「討伐出來る」が里側の人間としては正しいはず。
疑問が盡きない。
「貴様なら分かると思ったのだが、見込み違いか?」
「なに?」
その言いに眉間に力がる。
勝手に期待されて、期待外れなのか? と言われたのだ。當然ながら腹が立つ。
いや冷靜になれ。
このまま真っ向からこの男と戦っても無傷では帰れない。
「お前が魔をけしかけた、どうだ違うか?」
先ほどの発言に加え、カノスガが魔をった旨の発言をしていたことを思い出した。
あんな小にも出來たのだから、この男にも出來ると踏んだのだ。
「ほお、やはりオレの目に狂いは無かったか」
やはり癇に障る言いだ。
俺が當てたというのに、そんな俺の本質を見抜いたとして自分を褒めるその姿勢に苛立ちが募る。
そのためついつい口調にも力が加わる。
「で? 何のためにそんなことをしたんだ」
「そう急くな、オレは逃げたりせん」
ああ、ダメだ。
こいつイラつく。
「いいから早く答えろよ」
つい口調が荒らぐ。
しかし男は何ともないように淡々と告げる。
俺の怒りに油を注ぐようなことを。
「そうだな、これ以上は貴様の堪忍袋が持たなさそうだ」
「お前な……」
もう我慢の限界だ。
俺は腰の黒剣に手をかけた。その時だった。
「きゃあああああ!」
のび聲が里中に響いた。
見れば、いつの間にかそこにいたが俺たちを見て目を剝いている。今気づけば結構な人たちが外に出ていたようだ。
皆決まってこちらを見て固まっている。
何だかそれを見て、冷靜になっていった。
他人の間抜けな面を見たら、自分は落ち著く、そういうものだ。
「ああ、そうかフードが」
俺は男を見ながら、自分のを見た。
昨日はフードを被っていたから、大騒ぎにはならなかったのだ。
それが今は二人も表に顔を曬して立っている。それも片方は剣に手を添えて。
日本基準でしか考えられないが、そんな奴らがいたら、まあ怖いだろうな。
「興を削がれるとはまさにこのことだな」
男の半笑いめいた表からそんな言葉が述べられた瞬間、男のがぶれたようにじた。
そして次に聞こえたのは、重たいものが水溜りに倒れたときのような音。
俺はゆっくりと先ほど悲鳴をあげたの方を向いた。
「……っ!」
予想通りだった。
そこにあったのは、首から上がないの。
間違いなくこの目の前の男がやったことだ。
「……何をしてんだ」
震えが止まらない。
昨日の時點で実力差はじていたつもりだったが、それさえも超えていくとは思っていもいなかったのだ。
そんな相手に俺は剣を抜こうとしていた。
今考えれば、俺は何て愚かな行為をしているのかが分かる。
それは自分の命を自分で捨てる行為に等しいのだ。愚かといわずして何という。
しかしそれを踏まえても問わずにはいられなかった。
その行為の意図を。
「何をだと? 見て分からないのか、口封じだ」
それぐらい予想がつく。
確かに口封じの手段として、殺しは最適解かもしれない。だけどそれは暗殺に近いやり方の場合だ。
「貴様はオレがあれを殺したことについて批判するのか?」
その時の顔は無表、下手な事を言えば殺す、まさにそういわんばかりの態度だった。
本能が理が、こいつを恐れていた。
「ああ、そうだ」
「そうか……」
殺気が襲い掛かる。
ただそれだけで息が詰まる。
「何故ここで・・・殺したんだ?」
「何だと?」
殺気が揺らいだ。
「場所の話だ、ここで殺した結果、こうして嫌でも人の目に付いている」
「それがどうした」
目を細め俺を睨みつける。
その目は真意を聞かせろ、そう言っていた。
「それだけ口封じをしないといけないってことだ」
「……つまり効率が悪いと」
「ああ」
何も俺は殺し自を批判したわけではないのだ。
人殺しなんて俺も十分にやっているのだ。
そんな俺が人殺しについて他人を批判出來るワケがない。
「確かにそうだな」
男が頷いた。
これで収まった、そう思ったのだが、
「しかしそれは貴様の次元の話ではないか?」
とまたしても突っかかってきた。
もう話をしている場合ではないのだが、無礙にしてしまえばご機嫌を損ねてしまう。
「どういう意味だ?」
「簡単な事だ、貴様なら人一人殺すのに何秒ほどかかるかもしれん、だがオレは數人を秒単位で殺せる」
「……な、なるほど」
思わず俺は納得した。
つまりアリのような存在、いくら殺したって手間は変わらないといいたいのだ、この男は。
次元が違いすぎて、口論はもう諦めた。
「ではこの事態を収拾させよう」
その男の言葉。
その言葉の意味は聞かないでも分かる。
皆殺しだ。
この事態に発展してしまえば、目撃者で無かろうと一人殘さず殺したほうが証拠も何も殘らない。
確かにその選択は正しいだろう。
だが何も無関係な人を巻き込むことに、俺は未だ躊躇があった。
そんな事を思っているとき、男からある事を告げられた。
「良いことを聞かせてもらった代わりとして、良いことを教えよう」
それは、
「ここは我々のような魔人を拘束し研究する者たちによって構された里だ」
俺の躊躇を吹き飛ばす言葉だった。
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