《負け組だった俺と制限されたチートスキル》第三十一話 目指すべき場所は
王都グラインへの道のりは地図を見る限り、そんなに離れていないことが分かった。
全ての始まりにして、最終目的地である場所。
俺の復讐はそこへ行けば全てし遂げられる。
そんなまるで寶庫ともいえる場所が王都グラインなのだ。
そうと決まれば善は急げ。
迷いなく里を出ようとした。
そんな時だ、
ガチャンガチャンと金屬音が遠くの方から聞こえて來た。
嫌な予がする。
「こっちだ」
ミリルを連れ、里に引き返し壊れかけの家へとり息を潛めた。
間もなくすると、里に數十人の甲冑を著た人たちが現れる。
予が的中した。
こいつらは見た目からして騎士。
見たじだけで所屬は分からないが、普通は自國領なので、ロイヒエン王國の騎士だとは思うが、確定出來る証拠はない。
とはいえ所屬なんて俺たちには関係なく、敵であることは変わりないのだが。
にしても何でこうも障害ばかりが……
大方この里から逃げられた誰かが助けを呼んだのだろう。
當たり前の理由だが、いかんせん煩わしい。
「靜かにな」
俺はミリルに小聲でそう告げ、彼ら騎士の様子をくまなく確認する。
ここで見つかってしまえば、ここでの慘狀全て俺たちのせいにされかねない。
間違っても里の生き殘りとは思われないだろう。
それもこれもこの見た目のせいである。
「おい、誰かいないか!」
騎士の聲が聞こえた。
それを聞く限り、本當にただ救助に來たようだ。
「隊長、生存者は……」
続いて若い男の聲。
彼はこの隊の中で唯一剣を持っている男にそう聲をかけていた。
なるほど、あいつが隊長か。
もしもの時は、あいつを優先的に狙うとしよう。
「そうか……」
甲冑で覆われいて表は読み取れないが、聲音からして落ち込んでいるようだった。あの態度を見る限り、こいつらは真っ當な騎士であるらしい。
懸念としてあった、以前シンギルが言っていた第二皇子派なる外道集団直屬の騎士である可能は低いようだ。
しかし安心は出來ない。
いくらあちらが清廉潔白な騎士であっても、俺たちを手放しで助けてくれるとは思えない。
そもそも俺はこの里の住民をなくとも數人は殺しているのだ。その事実がある限り、正當防衛だったとしても何らかの罪に問われる可能はないわけがない。
それに捕まればまたあの獨房にれられる。
あの地獄の始まりの獨房に。
今はそこには戻りたくない。
「……っ」
足音が近づいてきた。
息を呑む。
大丈夫、この家はほとんど原型を留めていないくらい壊れている。
人が居るなんて思わないはずだ。
「……報告」
そう言ったのは近くまで來ていた何者かだ。
騎士の一人である事くらいは、確認せずとも分かる。
ただ隊長と呼ばれていた人、隊長と呼んでいた人のどれでもないことは聲を聞いて分かった。
しかし一何を呟いているんだ?
それに若干を発しているような。
「フォール様へ」
が瞬き、直ぐに消えた。
ワケが分からない現象だ。
つまりそういうことになる。
魔法だ。
そこへ、
「何してるんだ?」
「ん、あぁ、し用を足してた」
「おいおい、隊長に知られでもしたらただじゃ済まされねえぞ」
新しい人が來て、先ほど魔法を唱えていた人に話しかけた。
あの様子では、あの魔法は裏にやっていたみたいだ。
騎士の中にも派閥のようなものがあるのだろうか。
大人の世界は難しいものだ。
「皆集まれ」
隊長と呼ばれていた男から聲が飛んだ。
ガチャガチャと辺りから音が起こる。
皆あの隊長の元へ移したようだ。
ここで元を知るために鑑定をしたいところだが、悩む。
あの魔人の男を鑑定した時に學んだ事、それは察知というスキルの存在だ。
自分に鑑定がかけられていることに気づくスキル。
そのおで鑑定が萬能でないことを知ったのだ。
相手にバレないで勝手にステータスを覗けるとい思い込みが幻想だったこと、鑑定で全てを覗けるわけではないということを學んだ。
それを知った上では、そうむやみやたらと鑑定を使う気にはなれない。
ここで何か些細な事でも気づかれてしまえばジ・エンド、お終いなのだから。
ミリルと目配せし、一切音を立てないようにと確認しあう。
だがそんな時に限って何かが起こるわけで、
ガタッと俺たちのいる家が音を立てた。
もうししたら全壊してしまうことは見ないでも分かった。
これは早く別の場所に移しないと、生き埋めになってしまう。
そうなると見つかって収監されるのとそう変わらないエンディングを迎える。
それも免だ。
「何の音だ?」
「恐らくは倒壊寸前の家かと」
騎士達の間で俺たちのいる家の話題が始まってしまった。
ただ今のところ怪しまれていない。
このまま何事もなく終えてくれればいいのだが。
「そうか、し見てこよう」
「た、隊長?」
隊長!?
何で見に來るんだよ!
「し気になることがあるんだ」
「そうですか、では私達も……」
「いやいい、私だけで十分だ」
「分かりました」
足音が言葉通りに近づいてくる。
おいおい、灑落にならねえぞ。
こうなったら……やるしかない。
俺は拳を握り締めそれを待った。
ミリルが心配そうにこちらを見つめる。
大丈夫だ、なんて気の利いたことはいえない。
大丈夫じゃないんだから。
足音が止まった。
丁度俺たちと壁を隔てて真正面。
ここから壁を貫くように、剣を突き刺せばギリギリ屆くかどうか微妙な所である。
ならまだ気を待つべきなのだろう。
わざわざ自分から危険に飛び込むような事はしない。
隊長と呼ばれる人は一言も発さずにただそこに佇んでいるようだった。
こっちはハラハラしているというのに、呑気なものだ。
何もしないのならさっさとどっかに行ってくれ。
「……そこに誰かいるのか」
何で気づかれたんだ。
俺もミリルも何も怪しいアクションはしていないはずなのに。
「こう見えて視スキルを持っているんだよ」
どう見えていると思っているのか。
しかし視スキルときたか。
確か神が教えてくれたスキルにそんな名前のものがあった気がする。
能力は名前の通りだと。
だったら俺たちが隠れているのなんて丸見えだったんだろう。
何だか悔しい。
「安心してくれ、私は君達の正を知って上で話している」
魔人に敵意はないと。
だが信用するにはまだ早い。
アルトの件は置いといても、無償で善意を振りかざす奴に碌な奴はいない。
そう思わなければ生きていけない。
「分かっている、君達がどれだけ苦悩の道を生きてきたのか」
分かるわけがない。
俺がどれほどの地獄を味わったかなんて。
普通に生きてきた人は、実際に経験しないと、この地獄、想像すら出來ないはずだ。
「何も出てきてくれとは言わない。ただ教えてしいんだ、ここで何があったのかを」
言われなくても出て行ったりしない。
それにこの男も俺たちには出てきてしくなさそうだ。
小聲で話している辺り、他の隊員には俺たちのことを知られたくないのだろう。
隊長さんはこう言っているが、他の隊員には魔人を快く思っていない者がいるということなのだ。
だから裏取引のようなじで俺たちに提案している。
「こちらにメリットは?」
取引においてそれを聞くのは當然だろう。
ただで教えてやる有益なものなんてこの世にはない。
「誰にも見つからずに出させる、というのはどうだ」
「そうだな……」
悩んだ口ぶりだが、端からそう言われることは想定済みだ。そしてその條件を呑む事も。
「では安全なルートも教えよう」
これを待っていた。
あのままあっさりと引きけていれば追加の條件も告げてこなかっただろう。
渉なんてしたことはないが、とりあえずは上手くいったようで何よりだ。
「分かった、教えよう」
「ありがとう」
取引に謝のクソもないのだが……まあいいか。
では対価に見合う報を提供してやらんとな。
「まず俺たちは実験臺だ――」
と俺はこれまで起きた事、知っている事をそれなりにまとめながら隊長さんに話した。
もちろん自分が不都合になる事は言わずに。
「そうか……確かにこの里はそういった報もあったな」
アルトも同じような事を言っていた。
そういえばアルトもこの國の人なのだろうか。
「二つほど、こちらから聞いてもいいか?」
しくらい許してくれるだろう。
「ああ、構わない」
ほら、やっぱり。
「あなた方はどこの國の騎士なんだ?」
とりあえず気持ち分だけ丁寧な言葉遣いを心掛ける。
しでも気を損ねるわけにはいかないからな。
「ロイヒエン王國所屬の騎士になる」
やっぱりそうだったか。
なら俺が敵対するであろう國の騎士様になる。
それはいずれ、魔人関係なくただ一人の人として敵となる事を暗示している。
もちろんそれを正直に告げるわけはない。
今はただ単に敵味方関係なく互いに利を分け合う関係なのだ。
「ではロイヒエン王國において勇者とは何だ?」
「質問の意図が分からないな」
確かに象的過ぎるな。
もうし突っ込んでみようか。
「ロイヒエン王國の勇者とは異世界人だけか、と聞いているんだ」
「……どうしてそれを知っている」
「風の噂でな」
その様子からやはり王國の勇者が異世界人であるという認知は大っぴらにされていないようだ。
ふむ、これは使えるかもしれないな。
「そうか、では一つだけ言っておこう、彼ら異世界人はロイヒエン王國だけの勇者ではない」
「……どういうことだ?」
確かにこの王國で召喚されたはずだ。
なのにこの王國所屬ではないのか?
「簡潔に言うとしよう、そろそろ部下達が勘付きそうなんでね」
確かに長話が過ぎた。
報を得ることに対して前のめりになり過ぎてしまったようだ。
これからは気をつけよう。
寢首をかかれかねないからな。
「異世界から召喚された勇者様方は魔王に対抗すべく大陸三國にそれぞれ配屬されるという協定が結ばれてね」
つまりあいつらはロイヒエン王國の一箇所に固まっているというわけではないと。
「今頃はそれぞれがその三國に配置されているはずだ、これで良いかい?」
確かに良いことを聞いた。
だけどもう一つだけ聞いておかなければならない事がある。
気持ち的にはその三國を聞いておきたい気持ちもあるが、今は、
「最後に一つだけ」
「早めにしてくれ」
「アルトという勇者はどこの國のものだ?」
アルトの所屬。
それだけは知っておきたい。
今のところ俺のかなりの障害となるのが彼なのだ。
彼がどこの所屬かで、どこの國から攻めるかが変わる。
「アルト……聖剣の勇者アルトか、彼はどこの國所屬ということはない」
「どういう?」
「彼はいわば歴史にたびたび出てくる勇者、そうだな正當な勇者といえる存在だ」
言っている意味が良く分からないが、この男の言い方では、この世界には度々勇者なる者が現れているというように聞こえる。そしてそれが常識のようにも。
「だから勇者アルトはどこの國にも所屬していない、強いて言うならこの大陸所屬と言ったところか」
「……分かった」
この報は手放しで喜べないな。
アルトがどこの國にも所屬していないとなると、どこの國にいっても出會う可能があるという事だ。
これは厄介だな。
「ではし待っていてくれ」
そう言って隊長さんは去っていった。
そういえばここで裏切られれば向こうの一人勝ちである事に気が付く。
……不味くないか?
あまりにも自然な流れで気が付かなかった。
だからといって出て行っても地獄が待っている。
これは……詰んでる。
後はあの隊長の善意にかけるしかない、か。
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