《負け組だった俺と制限されたチートスキル》第四十五話 殘り火

「終わり」

ミリルから告げられた直後に俺はを起こした。

よし、確かに痛みは引いているし、かしにくい部分もほとんどなくなっている。

何より倦怠が取れているのはこれからき回るのに最適な結果だった。

「助かった」

「うん」

ミリルにお禮を告げ、リーフに顔を向ける。

彼もミリルと同じように俺に対して負い目をじているようで、あまりこちらに顔を向けてこなかった。それどころか今まで一度たりとも言葉をわしてない。流石にそれはこれからに支障が出るため、俺は歩み寄る。

「リーフ」

「っ、はい」

見るからに覚えた様子のリーフ。

何だか、俺が苛めたようにじるのでその反応は止めてしい。

「大丈夫か?」

「……え?」

何だその顔は。

俺が他人の心配をするのがそんなに珍しいか?

「なんだ?」

「い、いえ、てっきり怒られるのかと」

「怒りたいところではあるが……今日のところは差し引きゼロだからな」

リーフのせいで問題に巻き込まれたといえなくもないが、そのお報と力を得た。それに月を説得する時間を実質、稼いだ彼を怒る気になれない。

流石に俺は危害を與えてきたからといって考えなしに害するような鬼ではない。恩はちゃんとじている。恩返しなんて甘い考えはないが、こちらから危害を加えるようなことはしないようにすると思うくらいには謝していた。

これは復讐を目指す俺にとって最大の譲歩であることは分かってしい。

「そ、そうですか……」

「じゃあ早速案してもらうぞ」

「え?」

おいおい、まさかもう忘れたのか。

「お前の里だよ」

「あっ! そうでした」

「しっかりしてくれよ」

苦笑しながらリーフに告げる。

すると、ミリルとリーフが揃って間抜けな顔で俺を見ていた。

二人にそんな顔をされて気にならないわけがない。

「なんだ?」

「コウスケ……?」

「コウスケさん……?」

「な、なんだ?」

し気味が悪い。

二人して全く同じ表なのだ。

驚きと喜び? が混ざったような微妙な顔。

そんな顔をする要素など今の狀況であっただろうか……分からない。

「変わった?」

ミリルがまずそう口にした。

変わった? 一どういう……?

「コウスケさんが僕にあんな優しく笑いかけるなんて思いませんでしたから……」

続いてリーフ。

優しく笑いかける? 俺はお前に笑いかけたのか?

ただ苦笑いを……ああ、確かにそうかもしれない。

ミリルがおかしくなってないかと気を張っていた自分が馬鹿らしい。むしろおかしくなっているのは俺の方だったのだ。

「そうかもな……」

どういうわけかあの醜くどす黒いが消えかけている。

目を覚ました時からだ。

完敗を喫した直後だというのに、絶、憎悪、憤怒といったマイナスのはまるでじない。それどころかこれからの目標に向かう希や力を手にれた歓喜といったプラスのが俺の心を支配している。

こんなこと異世界に來て初めてといっていい。

唯一まともに會話したアルトと話していたときだってこんなにはならなかった。アルトと話していたときは表面では笑っていたものの、裏では何か別の暗いが疼いていたのだから。

だが今は違う。

表も裏も

普通の人なら當たり前のことなのだろうが、俺の場合は、自分でも自覚しているくらいにありえないことなのだ。

復讐のみに囚われた俺がそんなを抱くなんてありえない。俺が抱くのはいつだって憎悪や憤怒、そうじゃなくても疑念や罪悪、背徳なのだ。間違っても明るいではない。

心當たりはない。

何しろ自分でもこのに驚いているのだ。分かるわけもない。

「お前たちはこっちの方がいいのか?」

なんて今まででは考えられないことを口にする俺。

人の評価なんて気にするだけ無駄だと思っていた俺が、その発言。

見ろ、二人が驚き過ぎて固まったぞ。

「本當に大丈夫ですか?」

リーフが失禮なことを聞いてくる。その言い方は誤解を招きかねない。

しかし怒る気にはなれない。

それどころか納得していた。

確かに今の俺は大丈夫じゃないのだ。

「コウスケ、変」

「へっ、変か……」

ミリルには直球の言葉を投げられる。

ありえない、信じたくない。

だけど俺は確かに揺した。

たったそれだけの一言でだ。

「……すまん、し落ち著かせてくれ」

流石にこればかりは看過出來ない。

これではまるで弱い頃の自分に戻っているではないか。ちょっとしたことで揺し、直ぐに傷つく。

しかしまるで同じというわけではないことも確かだ。それは俺がこの場で平気でいられていることでも分かる。

俺が弱い俺に戻っていたなら、きっと殺人をしたという事実に心が折れているはずなのだ。だが今の俺はそれを悪いことだと認識はしていても、決して後悔なんてしていない。

やはり分からない。

俺という人間の本質はどこにあるのかが分からない。

考えを巡らせ落ち著きを取り戻そうと努力する。

そして恐らくしはマシになった。

だがきっとまだ元通りにはなっていないだろう。

これは多分気分という簡単なことではないのだ。きっと俺の知らない何かによって一時的に俺の気持ちに不合が生じているのだ。世界が一転したようにじたあの時の俺や、一時的に態度が様変わりミリルと同じような現象なのだ。

俺はそれが現実逃避だと認識していながらそう思うことにした。

それをしている時點で俺が弱くなっていることを確定付けているのだが、それに気づかない振りをして前を向く。

「じゃあ行こうか」

「……大丈夫?」

「ああ」

普段の俺を知っているミリルからしたら、きっと俺は大丈夫ではないのだろう。

「……っ」

顔を顰めた。

不意にじたことがあったのだ。

何が大丈夫で何が大丈夫ではないのかが分からなくなったのだ。

俺のはミリルが治してくれたから大丈夫だ。心だっていつもと違うという點ではかなり心地がいいから、それは大丈夫といえるのではないか?

なら何が大丈夫じゃないんだ?

を膨らませることの何が間違っている?

歓喜に顔を輝かせることの何がダメなんだ?

分からない、分からない、分からない。

普段の俺がおかしかったんじゃないのか?

今こそが正しい姿なんじゃないのか?

やはり俺という自分の本質が分からない。

だけどし見えてきた気がする。

今まで築いてきた心の黒い塗裝が剝がれたような、解けていくようなそんな覚に包まれた。

いや違うな。

この場合は憑きが取れたというのかもしれない。

そうだな、そう考える方が楽だ。

……とりあえずもう考えるのは止めにしよう。いつまでも同じことをうじうじと考えることこそ弱い者のすることだ。

「はぁ」と息を吐き顔を上へ向ける。

これではまるで緒不安定な面倒くさい奴だ。

し冷靜になろう。

もう一度大きく息を吸って吐いた。

するとミリルとリーフが不安げな顔で俺を見ていた。

はは、こんな子どもに心配されるなんてけない、けなさすぎる。

今更この程度で悩むなんて相當変だな。

それに今までも俺は神が不安定な所があったじゃないか。

「すまん、どうかしてた」

俺は顔を上げそう告げる。

ミリルは無言で俺の顔を見て、リーフはしだけホッとしたような顔をしていた。

流石は一番長い付き合いのミリルだ。まだ俺が割り切れていないことを知っている。

だけどもう悩むのは仕舞いだ。

いくら考えていても答えが出ないのであれば、考える意味などない。

考えるくらいなら前へ進んだ方が良いに決まっている。

「じゃあリーフ頼んだ」

「あ、はい!」

ハッと背筋をばしたリーフは元気良く返事をした。

頼もしい限りだ。

またしても俺の顔には笑みが浮かぶ。

もうそれくらいでは悩まない。

今までが歪だった。

自分でも気づかない所で無理をしていた。

ただそれだけの話。

そう思うしかないのだ。

「何か今のコウスケさんもいいですね」

「うるさい」

リーフが笑みを浮かべてそんな恥ずかしい言葉を言ってくるので、俺はそう言葉を吐き捨てた。

正直なところ、素直に喜んでよいのか分からないのだ。

この狀態が素の俺なのか、何かの干渉によって生まれた俺なのか、はたまた別の俺なのか。

もしこれが俺ではない何かなら、その言葉は喜べない。だってそれは俺でないのだから。

まあいいか。

結局は今の俺は俺なのだ。

客観的に見てイカれた狂人だった俺も俺。

このアホみたいに平和ボケした俺も俺。

いつかは戻るのだろうか。

もしその時はこの気持ちも忘れたくないものだ。

ずっと復讐を考える人生なんてとても辛くて、救いがないのだから。

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