《負け組だった俺と制限されたチートスキル》第四十六話 俺という自分
俺自のことで一悶著あったが、一応は何事もなくエルフの里へ俺たちは向かっていた。
その際ミリルの視線がかなり痛いが、俺は心苦笑ものだった。きっと彼はこの俺をまだ認めるわけにはいかないのだろう。
それを俺は認めろと強要するつもりもないし、それにミリルには元々の俺を覚えておいて貰うという考えも見ようによっては出來るので、特に気にする必要はないと判斷した。もしミリルが不快で、一緒に行するのも嫌だと言われればさすがに考えるだろうが、今のところはただ疑問に思っているというだけで、不快というではなさそうだ。
「ここです」
いつの間にかエルフの里のり口についていた。見れば生い茂る木々の隙間に梯子のようなものがかかっている。
しまった、考え事をしすぎたせいで道筋を何一つ覚えていないぞ。となると、これからもエルフの里に行くときにはリーフの力が必須になる。
つまりリーフとはこれからも行を共にしないといけないな。まあ代わりにエルフの里から派遣してくれるのであれば話は別だが、きっとそんなことはしないはずだ。何しろ、俺たちは今問題の魔人族なのだから。
ん? ということは村にること自難しいような気がするんだが……大丈夫なのか?
そうした懸念が吹き出る。
しかしリーフはお構いなしにずんずんと進んでいく。
もちろんその里の者でない俺よりも、リーフの方が里に詳しい。だけど不安だった。
なので、
「大丈夫なのか?」
と堪らずに聞いた。
しでも不安の種は消しておきたい。
「えっと……何がですか?」
しかしリーフはその不安そのものを認識していないらしい。
俺が神経質になりすぎているだけなのか?
そう思いミリルを見た。
しかしミリルにとっては、そんなことより俺の方が気になるらしく、心ここにあらずといった態度だ。
彼を當てにするのは止めた。
「あぁ、お前たちのお姫様とやらを攫ったのは俺たちと同じ魔人族なんだろ? なら俺たちに対してなからず反を抱くんじゃないのか?」
「あ、なるほど」
ようやく要領が得たとリーフは頷く。
何だか俺がこうなってからこいつも張というものがなくなったような気がする。
これはしダメな気がする。
「ちゃんとしてくれ、俺だって切り捨てたくはないんだ」
なのでそれっぽいことを伏し目がちに言って脅した。
「あっ、す、すいません」
効果は抜群だった。
リーフは真っ青な顔で俺に頭を下げてきた。
相當前の俺が怖かったようだ。
自分自のことなのに他人のように思える。その時點で異常なのだが、まあ今は良いとしよう。それを楽しむという考えも出來るんだから。
ただ冗談だとは言わないでおこう。
し浮かれていたリーフには良い薬だ。
「それでどうなんだ?」
話はしそれたが、結局のところどうなんだ。
もしリーフが本當にただ浮かれていて何も考えなしに里へ向かっていたというのなら呆れたものだが。
「あ、はい、それについては大丈夫だと思います」
「どうして言い切れる?」
「それは……僕の父がそれなりに偉いので……」
し言いよどんでリーフは答えた。
なるほど、親の七りか。
俺にとってはあまり好ましくない単語だ。何しろ俺はその親の七り、詳しく言えば叔父の七りのせいで痛い目にあったのだから。
しかしそれが自分にとって特になるものであれば俺は是非とも使うべきだとは思う。親の威だろうと、それは自分の力の一つであると俺は考えているのだから。
そもそも親の影響を何もけないで生きていく方が難しいことくらい誰だって知っている。
それがメリットだろうとデメリットだろうと、それを背負っていくのがその親の子として生まれた者の責務なのだ。
とまあ、し持論が過ぎたが、俺は親の威を使おうとしているリーフを批判する気はないという姿勢だけは貫かせてもらう。
「なるほど、それなら思う存分使ってくれ」
「あ……はい」
「何だ? 気乗りしないか?」
「えと、一応……はい」
そりゃあそうか。
親から自立したいとじる頃だろうから、親の力は極力頼りたくないんだろう。
だけど今はそんな自分の都合でくべきでないことくらい、リーフだって知っている。だからこそ俺に親を使うと告げたのだ。
「でも分かってます、今は選り好みしている場合じゃないってことくらい」
「そうか」
言ったとおりだ。
リーフは大丈夫である。
後は勝手に事が運ぶのを待つだけだった。
俺やミリルが口を出して事態をややこしくすることだけは避けるべきなのも重々理解している。
と心の中で決めたところで見張り番らしき人のところに辿りついていた。
さあここからが本番だ。
俺たちは魔人族どころか不法國者に近い。
笑えないくらいに怪しい人である。
「リーフ! 大丈夫!?」
見張り番の人はリーフの顔を見て大聲を上げて詰め寄った。
初め何故そんなに焦っているのかと思ったが、それはこの後の會話で直ぐに分かることになる。
「うん、見ての通りだよ、ウリス」
「良かった……かなり前にアーウッドさんが出て行ってから帰ってきてないから何かあったかと……」
「……それは」
リーフの顔が曇る。
それを見て見張り番をしていたウリスという男は心配そうにリーフを見つめた。
そこでようやく俺も理解した。
敦や守人との印象が強くて忘れていたが、勇人に殺されたエルフ族が數人いたのだ。そしてその中にリーフの知り合いがいたことは間違いない。
恐らくアーウッドという名はその知り合いの名なのだろう。
「リーフ?」
「おじさんは……死んだよ」
「え……」
ウリスという男は絶句。
リーフは伏せた顔。
そうか、俺に対して見せていたあのやけに明るい態度は自分の心をごまかすためにワザとしていたのか。なるほど、だから俺の問いも直ぐに理解できなかった。きっと自分のことで一杯だったのだろう。
今思えばリーフがあそこまで元気良く接してきたのは不自然だ。
自分の狀態の異常にばかり気を取られていて全然気づかなかった。
「それって……」
「本當だよ……」
二人の沈んだ空気に俺たちは極力らないようにした。ったところで事態を悪化させるだけ、決して改善など出來ない。
そこでリーフがこちらを見た。
この場面で視線を向けたことに意味がないわけがない。
……何だ?
「コウスケさんはあの人たちのことを知ってるんですよね?」
……なるほど。
確かにここで斷ってしまえば、俺はリーフへ恩を売れず里へれない可能が出てくる。
こいつ、考えていないように見えて、かなり計算高いな。正直驚きだ。
「一応な」
「……え? リーフ、この人たちは?」
「々ワケがあって一緒に行している、でも敵じゃないから」
「……そう」
ウリスはそうとだけ言ってまた顔を伏せた。
流石に知り合いの死をそう易々とけれられるわけもないか。
「コウスケさん」
「……分かった」
リーフに促される。
そうだな、答えないメリットがないし、別に隠す事ではないので構わない。ただ俺が異世界人であるということは隠しておくが。
「あいつらは勇者だ」
ごく簡潔に述べた。
ウリスという男はビクッと反応し、リーフも困した顔を浮かべていた。
やはり勇者という存在はこの世界ではかなり有名なのだろう。
そしてその勇者は多分アルトあたりを指す。
つまり悪逆を盡くすあいつらとは似ても似つかない存在が勇者なのだ。
だからこそその表なのだろう。
俺は続ける。
「恐らくロイヒエン王國に所屬しているんだろうな」
「ロイヒエン王國……」
噛み締めるように二人のエルフが呟いた。
二人にとってはロイヒエン王國の勇者が仇敵となったわけだ。
そこで自分が知らずうちに笑みを浮かべていることに気が付き、慌てて後ろを振り向く。
それは自分でも無意識のことだった。
そのことは俺が善意でその報をあげたということではないことを指していた。
もちろん取りるために報をさらけ出したという理由もある。
しかし俺がそういった報を吐くことで一番得する、別の言い方をすれば一番嬉しいと思う理由はこのエルフに気にられることではない。
その一番の理由、つまり俺が無意識に笑みを浮かべた理由は、奴ら勇者の敵が増えると確信したからだ。
あんな言い方をすればなくともリーフとウリスというエルフはロイヒエン王國に対して良いを抱かない。むしろ悪を抱くはずだ。
俺はまだどこかであいつらに対して嫉妬のようなものをじていたらしい。
あいつらが「勇者」と呼ばれることに対してだ。
だからこそ俺はその「勇者」の名を貶めたかった。
そしてその勇者の評判が下がったことに無意識のに喜びをじていたのだ。
我ながら規模の小さい話であるが、小さな一歩でもそれは一歩に違いない。
塵も積もれば山となる、とも言うのだから、決して無駄ではない……はずだ。
ひとまず言えることは俺はいくら変わったところで、あいつら勇者に対しての悪は消えない。
結論はそれだった。
「……コウスケ?」
そんな時、ミリルが聲をかけてきた。
目ざとく俺の心境の変化に気が付いたようだ。
「いや、し考え事をな」
ミリルの頭に手を置き告げた。
俺は何も変わっていない、安心してくれと言った意味合いを乗せて。
何も上っ面が変わったからといって、っこまでも変わっただなんて決め付けるのも可笑しな話だ。
人間のっこはそうそう変わることはない。本質と言うものはそういうものだ。
だから俺が復讐の道を外れるわけがない。
もう決めたのだ。
もう踏み出したのだ。
今更逃げられるだなんて思ってもいないし、逃げようとも思わない。
俺の目標はあいつらに絶を與えること。
それが命を奪うことか、それとも人生を壊すことかは場合によって変わるだろうが、目的は同じなのだ。
しばかり心に余裕が出來たように見える心境の変化をしている今。もちろんそれを楽しもうという気持ちもあるが、だからといって復讐を辭めるという結論には落ち著かないとだけは言っておく。
もしかしたら、敦が俺の心を弄ったのかもしれないが、そんなことを考えても答えなんて出ないし、そもそもそんなことをするメリットが敦にはない。
あいつは俺が復讐をすること自には否定的ではなかったからだ。わざわざ俺が復讐以外の楽しみに気づくように調整するとは思えない。
々考えたが何も答えは出ない。
……まぁ、そんなこんなで俺はただ何となく今さっき創った強化スキルを使いたいと思った。
理由はない。
ただの好奇心から。楽しみたいから。
それにこのまま俺がここにいても何も言うこともすることもない。
俺が出來るのは々事実を告げることくらい。勵ますなんて柄じゃないどころか、出來る気がしない。
それに今はあの二人でゆっくりと語り合って傷を舐めあってもらいたい。
リーフが壊れたら俺たちは何のつてもないのだ。
出來ることなら、しでも萬全にしてもらいたい。
だからこそ暇つぶし程度に発した。
【強化】
「……なるほど」
全に使うイメージで発したそれは、使った瞬間全ての覚が研ぎ澄まされ、力がから漲ってくるような覚に覆われた。
軽いハイ狀態と言うべきか、それともゾーン狀態と言うべきか。
とりあえずそんなじの狀態である。
しかし、
「これは……」
予想外なこともあった。
俺は顔を顰める。
「それで……リーフは……」
「僕は……今のところは……」
確かに全ての覚が研ぎ澄まされるものの、これは々強すぎだ。
小さな聲で語り合っているはずのあの二人の會話をいとも簡単に聞き取れている。聴覚の強化だ。
それだけじゃない。
全く風が吹いていなかったはずのこの場で、俺は風をじていた。
いや、これは風と言うより、空気の流れと言うべきだろう。
ともかく俺はそれを覚の強化によってじていたのだ。
こればかりは恐ろしさをじる。
ただの空気の流れをじられる。つまりそれ以上の刺激がこのに降りかかるのだと思うと、ゾッとするものがあった。
俺は勇人を思い出す。
確か俺はあいつの後頭部を思い切り毆ったのだ。それもあいつが強化狀態の時に……強化を手にした今だから分かる、あいつはかなりヤバイことが。
俺の想像もつかない痛みだったはずだ。
様々な苦痛をけてきた俺だって、それを想像するのは恐ろしい。
けたいとなんて當然思わない。
俺は改めて勇人の異常さに気づく。
流石は勇者だと褒めるべきなのか、貶すべきなのか。
まるで言葉が見つからない。
まぁどうでもいいか。
俺は今につけたこの力の使い方を考えながら、強化をに慣らすために、しばらくそのままあの二人の會話を黙って聞く。
退屈だと言えば噓になるが、それを口にした日には信用を失う。人間を疑われる。
いかに価値観が狂ってしまったとはいえ空気だけは読めるようにしなければ、世知辛い世の中を生きていけない。
何となくそんな、この場には的外れなことを考えながら俺は黙っていた。
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