《負け組だった俺と制限されたチートスキル》第四十九話 深夜の訪問者
西。
それは俺たちが進むべき方向でもあった。
ただしお姫様を助け出して、この里へと戻らずに颯爽と立ち去る、だなんてアホな真似はするつもりはまるでないので、あまりそれについては関係がないな。
だが下見という意味ではちゃんと意味があるか。
俺は今、エルフの里二階層にいる。
ついでに説明しておくと、一階層は平民達の住居、二階層は貴族を初めとする権力者やお金持ち達の住まいが立ち並び、三階層は學校や役所などの公共施設、そして四階層は前に言ったとおり政治に関わる層で、裁判所などもそこにあるらしい。
そして最上層は権力のトップが住まう場所らしく、それは言うまでもなく王族たちの層である。
ロイヒエン王國もそうだが、この世界では王族が権力を持っていることが多いな。
地球では隨分前に統治しなくなっているので、それをを持って味わうのはかなり新鮮である。
筋で決まる地位。
そんなもの、教科書でしか見たことがない。
努力したくない人はその方がずっと楽なんだろう。
もちろん俺はそんな運命付けられた人生は嫌だがな。
あと一つだけ付け足しておくと、この層間の移は枝を伝っていくという方法が當たり前のようにされていた。
だが俺はともかくミリルは無理だ。
なので急用の梯子を借り、俺たちは下の階層へと降りたというどうでもいい話があったことだけは言っておく。
さて話は逸れたが、今するべきことは一つしかない。
それは――
「寢るか」
「うん」
人間の三大求の一つ、睡眠を満たすことだ。
ありがたいことに、戦士長リフリードから一軒貸して貰っている。
さすがは戦士長、太っ腹も極まっている。
何だ一軒って、一部屋を軽く超えてきたのは素直に驚きだ。
もちろん斷った。
一部屋か二部屋で十分だと。
だがリフリードさんの押しがいかんせん強すぎた。斷ろうとすると、スキルとはまた別の威圧を飛ばしてくるのだ。あれでは斷ろうと思っていても斷れない。
その息子のリーフも苦笑いだったのだから、あれはいつもの行なんだろう。
しかし今、そのリーフはこの場にいない。
きっと今は一人になりたい時と言うやつだ。
彼は今日一日良く頑張ってくれた。
心は辛いだろうに、俺たちをここまで連れてきてくれたのだ。賞賛に値する。
もしかするとリフリードさんもああ見えて心はあまり穏やかではなかったのかもしれないな。
親族の死、それも殺人だ。
冷靜でいられるワケもないか。
あぁ……だからこそ一部屋ではなく、一つの家を貸してくれたのかもしれないな。
もう寢よう。
明日は早い。
それに他人の心配なんてしている暇も力もない。
俺は眠りについた。
――
夜中。
俺は何かの音に目を覚ました。
誰だ?
遠慮なく【強化】を発する。
音がより鮮明に聞こえた。
だがまだ不審者かどうかは分からない。
リーフかリフリードさんの可能だってあるのだ。
それかその従者が何かの用で訪れた可能もある。
だからこそ俺はむやみに騒ぎ立てるようなことはしなかった。
幸いにもミリルも同じ部屋にいるので用心しないといけない部屋はここだけだ。
まあこれはこの事態を予見しての対応ではなく、例の如くまたしてもミリルがどうしても同じ部屋が良いというので仕方なくそうなったと言うだけの理由ではあるが、今はそれが幸運となっているので良しとしようか。
しかしこんな深夜に何を?
見ればまだ外は真っ暗。
電気もないこの世界は本當に夜は真っ暗だ。
それなのに、わざわざ作業をしにくるなんて考えにくい。
それに急事態ならああもコソコソとする必要はない。んで注意を促せば良いのだから。
ならやはり黒なのか?
強化によって増した聴覚を研ぎ澄ます。
足音は三人ほどか。
これはますます怪しいな。
これでリーフかリフリードの可能が極めて低くなった。
よし、もしこの部屋にろうものなら問答無用で捕らえることにしよう。
俺はそんな最終ラインを決め、布団の中でその時を待った。
ガサガサと続く音。
しかし一向にこの部屋へと近づいてくる気配はない。
困った。
何も起こらないというのはそれはそれで良い、だがこうも警戒しっぱなしだと俺がまともに眠れない。
まさか俺の睡眠を阻むために……?
それは考えすぎか。
だけど、
「……もういいか」
我慢の限界だ。
人が寢ている所でそうも騒音を立てられて黙っていられるほど俺は立派な人間じゃない。
むしろ睡眠妨害されてイライラが溜まりに溜まっている。
これは懲らしめるだけじゃ済まないかもしれない。
――行くか。
俺はミリルを起こさないように、というより快眠スキルを持っているミリルが起きるとは思えないが、一応はそれなりの配慮をして立ち上がり、強化によって増された能力でその何者かの元へ一瞬のに近づいた。
目と鼻の先にいる男三人。
視覚の強化をしていなかったら、俺は自分のスピードで目が回っていたところだった。危ない危ない。
とはいえそれくらい速いスピードで俺は何者かの元へ近づいた。
まだ彼らは気づかない。
なので一人の男の肩へ手を置いた。
ビクッと反応する男。
だがまさか俺がいるとは思っていないのか、仲間の男の方を睨みつけるだけ。それも聲を発さない上でのその行のため、睨みつけられたお仲間はそれに気づかない。となると、またしても俺がいないものとなったワケだ。
沈黙。
何だろう、イラッと來た。
「何してるんですか?」
なので今度は強めに肩を叩いて聲を発する。
「ぐっ……なっ!?」
肩に打撃をけた男は顔を顰め俺を見て、驚愕の表へと変わる。口をパクパクとさせながら目をキョロキョロとかす。
これじゃあ質問に答えてくれそうにもないな。
「もう一度聞きます、何をしているんですか?」
今度はもう二人へ向けても尋ねる。
流石に聲が屆いたため気づく二人。
彼らもまるで幽霊でも見たかのように唖然とこちらを見て固まっていた。
「最後通告ですよ?」
小首を傾げて忠告する。
しかし男三人は何も言わない。
これはあれだな。
口止めされているとかではなく、ただ単に驚きで思考が停止している。
參ったな。
し驚かしすぎたか。
なら……
恐怖によって冷靜にさせよう。
「……は?」
男の一人が間抜けな聲を上げた。
そりゃあそうだ。
急に目の前から男が一人消えたように見えたんだろうから。
ただ俺がやったことは極めて簡単なことだ。
強化の腕力で男を出口へと投げ飛ばした。それだけだ。
だけどそれが予想できないことであることに加えて、暗闇という視界不良も合わさり、本當に消えたように見えたのだろう。
本當は、マンガに出てくるような首に手刀して、気絶させたかったんだが、あれって結構危ない行為らしいので止めておいた。この人たちがリフリードさんの使者だった場合を考えてだ。
「はい、質問に答えてくれますか?」
「な、何を……」
「あなたも消されたいんですか?」
脅すだけなら何も的に後癥は殘らない。なので今一番、推奨される行為だ。
「……っ」
「次はどうしよっかなぁ……」
今度の沈黙は思考停止によるものではなかった。
そう俺の強化によって向上した視覚、観察眼が告げている。
と、言うことは、こいつらは何かやましいことがあるという可能が増したってことだ。
楽しくなってきたな。
俺は口角を上げた。
演技のつもりだったが、いつの間にか自然のものとなっていた。
「お、俺たちはリフリードさんに頼まれて……【偽】」
「へえ、リフリードさんの使者でしたか」
「そ、そうだ、だから何も変なことはしていない【偽】」
噓が出る出る。
だが暴くのは最後。
今はこのアドリブの茶番劇を楽しみたい。
「なら何をしていたんです?」
「そ、それは……」
「この部屋の警護だよ! 【偽】」
一人の男が口ごもると、もう一人がフォローする。
素晴らしい仲間意識だ。
「噓じゃないんですね?」
目を細めて明らかに疑っていますよを出す。
「ああ! 【偽】」
「もちろんだ! 【偽】」
こいつらずっと噓しか吐いてない。
逆に凄いな。
「そうでしたか、それは申し訳ないことをしました」
「あ、ああ、分かってくれたならいいんだ」
「そ、それで、あいつは……?」
あいつと言うのは俺が外へ投げ飛ばした男のことだろう。
そんなの、外に転がっているので、教えるまでもないんだが。
「あー、最後にいいですか?」
安心し始めていた男二人の顔が再び強張る。
何だかもうし続けていたい気持ちになるな。
だが楽しい時間はすぐに過ぎてしまう。
もう茶番は終わりだ。
「この指示はリーンドさんによるものですか?」
「なっ……」
……おいおい、その反応は偵者としてダメだろ。
これでは真偽スキルを使うまでもないんだが。
「そうなんですね?」
「ち、違う! 【偽】」
満足だ。
言質は取れた。
今出來る最高の優しい笑みを浮かべて俺は言った。
「ありがとうございます、それではおやすみなさい」
この男達がリフリードさんの使者ではなく、リーンドの刺客であることが分かった今、むしろ痛めつけてはならなくなった。
あの男はリフリードさんと並びたつ、いや凌ぐほどの権力を持っているのだ。これを理由に因縁をつけられるのは困る。
捕虜は手厚く保護する、それは地球でも行われていた。
なら俺もするべきことは一つだ。
こいつらを人質にしてリーンドの裏の顔を暴く。
これからするべきことが段々と見えてきた。
そもそもおかしかったのだ。
お姫様クラスの立場の人が早々攫われるだなんてこと起こるわけがない。しかも魔人族という明らかに目立つ奴に。
ならば裏に協力者がいると考えるのが普通だ。
それも第五層に近づけるほどの権力者が。
だから俺は今知っている権力者の一人であるリーンドの名前を出したのだ。
それが予想外にもドンピシャで當たったというだけの話。
まあ元々し怪しいとはじていたが、まさかここで繋がるとは思っても見なかった。嬉しい誤算である。
しかしまだお姫様を攫った魔人族の男が見つかっていないので、リーンドを黒幕と決め付けるのは早計だ。
逆にお姫様を攫われたことに対する魔人族への恨みで俺をそれと決め付け、刺客を差し向けた可能だってあるのだ。
だからこそここは慎重にくべきだろう。
冤罪で権力者を裁こうものなら、よそ者である俺の方が悪人になる。
それに俺だって出來るならば族の権力者一人を敵に回したくなどない。
そうだな、落ち著こう。
まずはお姫様とそれを攫った魔人族の柄の確保。
それが今すべきことだ。
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