《負け組だった俺と制限されたチートスキル》第五十一話 疑わしきは罰せよ

向かった先は當然、北。

ちょくちょく強化を使い位置を確認しながら俺たちは進む。

幸いにもそいつらはそこからく気はないらしく、その場でずっとしゃべっていたので、距離はあったがすんなりとそいつらが隠れていた窟前に辿りついた。

「ミリル、分かってるな?」

ミリルに通知する。

以前のことがあったのだ。

もう二度と同じ過ちを繰り返すワケにはいかない。

ミリルはここでお留守番。これは確定事項だ。

「ううん」

「……え?」

しかし予想外な答えが返された。

何とミリルが首を橫に振ったのだ。

つまり俺の頼みを拒否したと言うこと。

かなり珍しい行を今、目にしているのだ。

「な、何故だ?」

揺を隠しきれていないことを自覚しながらも問いかける。

「一緒に言ったほうが安全」

「いやいや」

どう考えたって一緒に行ったほうが危険だ。

「一週回って?」

何故疑問口調なのか。

それに一週回って安全と言う意味も分からない。

それらを踏まえるとつまり――

「理由はないのか」

そういうことになる。

あのミリルであることを考えるととても考えられないが、それは俗にわがまま

と言うのではないだろうか。

その証拠にミリルは何も言わなかった。

やはり理由なんてなくて、ただ単にここに殘りたくないと言っているのだ。

それをわがままと言わずして何と言うのか。

無言でミリルと向き合う。

何だか気まずそうなミリル。

そんなミリルを見るの初めてで、ミリルもミリルなりにわがままだということを理解していることが伺えた。

「……分かったよ」

俺だってイベントを目前にして、その手前で待っていろ、なんて言われたら逆らいたくもなる。し甘い気もするが、俺はミリルの保護者ではないのだから、ここでわがままを聞いてあげたことで彼がどう長するかの責任なんて背負う気はない。

それにこうなったミリルを説得するのは面倒くさい……まあ一番の理由はそれなのだが。

「ありがとう」

「ああ」

素直なお禮に簡単な返しをし、俺たちはその窟へと向かう。

し時間がかかってしまったが、再び強化を施した聴覚がまだこの中にいることを告げていた。

ならばミリル付きという不安材料があっても行くしかあるまい。

イベントを前にした期待、ミリルがいるという不安。

そんな微妙な気持ちで俺は窟にった。

言わなくてもミリルは靜かなので、聴覚強化に支障がないのは助かるがそれでも一人よりは騒がしくじることは確か。

なので強化するのは必要最低限と決め、進むことにした。

それにミリルがいなくとも、これはしていたことだろう。なのでそこまで足手まといと言うわけでもなかった。

と、誰に弁明しているのか分からないが、とりあえず俺たちは進む。

幸いにもこの窟は淺いので、奧へたどり著くのもすぐだった。

ミリルと顔を見合わせる。

奧の方に男二人がいた。

相も変わらず雑談に勤しんでいる。暇な奴らだな。

それのおでここまで來れたという所もあるので良しとしたいところだが、こんな奴らのためにここまで來なければならないという思いもあるので、プラスとマイナスの計算でマイナス。

負のが勝った。

ということは々手荒いことをしてしまうかもしれないということを指していた。

今度こそミリルに「ここにいろ」という旨を伝え、従わせる。

流石に戦闘に參加させる訳にもいかない。

ミリルは頷いた。

ホッとする。

これで懸念はなくなったというものだ。

すかさず俺は強化を発した。

に力が漲ると同時に覚が研ぎ澄まされる。

研ぎ澄まされすぎると言う方が正しいか。

足に力を込める。

殺しはしないが瞬殺が目標だ。

それは力を見せつけるためというワケではなく、俺のの安全のためだ。

瞬殺出來なければ戦闘が始まる。

戦闘が始まれば、絶対に強化を使いこなしていない俺が圧倒的に不利だ。

毆られる、び聲を上げられる、閃を発せられる、その全てが俺の弱點になっておりとてもじゃないが我慢できる気がしない。

地を蹴った。

強化された腳力でを駆け抜け、強化された視覚で自分のとてつもない速度に対応する。

しかも音を立てずに走るという高度な業を、強化という狀態において強引にし遂げた。いわばスキル【隠(偽)】とでも言おうか。

ただし実態はただ単に強化された視覚で音の立たない場所を見定め、強化された筋力でそこを出來るだけ優しく踏みしめる。それを繰り返すことで隠スキルを実踐して見せたのだ。

見る見る男たちへ近づいていく。

しかもまだ気づかれていない。

我がことながら誇らしい結果だった。

だが最後の最後で男たちの視界に俺が移りこんでしまったようで、二人の男がこちらを振り向き、唖然としていた。

もう遅い。

俺はもう男たちへと後一歩で屆く距離にいたのだ。

そして強化狀態である俺の一歩が、男たちの反応速度に負けるわけがなかった。

「なっ――」

聲を上げる前に拳を突き出し男一人を毆り飛ばす。

「くっ!」

當然痛い。

かなり痛い。

だがここで怯むわけにもいかない。

「この――」

言う前に回し蹴り。

見事に蹴りは男の顔にぶち當たり、跳んで行った。

いくら蹴りだとはいえ當然痛い。

攻撃するごとにこの痛みは気が滅ってしまう。

早くこの痛みに慣れるか、何かしらの対処法を見つけなければ使いにならないことを改めて認識し直すも、結果としては瞬殺だ。

その証拠として目の前には男二人が俺の打撃によってびていた。

目標は達

俺は一息吐いて強化狀態を解除し、ミリルへ向けて手招きする。

強化狀態で安全は確認済みだ。

この場所にこの男二人以外いないし、何かしら仕掛けがあるようなこともない。

「凄い」

トコトコとこちらへ來たミリルから開口一番そんな言葉が告げられた。

もちろんそれは褒め言葉なので素直にけ取る。

しかし何だかむずかった。

そういえば今までこうも直接的に褒められたことなんてあまりなかった。

俺には褒め言葉にあまり免疫がないようだ。

この歳でそれはかなりけない気がする。

俺は落ち込んだ。

褒められたというのに落ち込んだ。

ミリルにして見れば、意味不明な態度だろう。

現に首を傾げて、良く分からないものを見る視線でこちらを見ていた。

「いやなんでもない、ありがとうな」

ごまかした。

これ以上けない姿を見せるわけにもいかない。

それに今はそんなワケの分からないことで時間を使うのは勿無い。

俺はびている男二人を見た。

これは……今すぐには起きそうにないな。しやりすぎたかもしれない。

強化狀態での力の加減も覚えないといけないな、と新たな目標も見つかったところで、びている男二人は諦め辺りを見渡す。

人から報を得られないのであれば、から報を仕れるしかない。

しかし生憎とこの場所にはというはなかった。その中であるものといえば、矢との皮、食べくらい。

とてもじゃないがお姫様拐事件に役立つものとは思えない。

今度は男たちのなりを漁った。

結構しっかりしたなりな辺り放浪者ではなく、普通の市民なのだろう。ちなみに男は二人ともエルフである。

ということは捜索隊のサボり二人組みかそれ以外の所屬のものかの二択。

魔人族ではないので、実行犯ではないことは確定だ。

その事実を知ったことは、小さすぎる一歩、というより前進していない。

それにそういえばこの人たちが黒だと確定していないのにも関わらず気絶させてしまうほどの暴力を振るってしまったことに今更ながらに気づく。

何て短絡的なことをしてしまったのだろうか。

昨日の襲撃のせいで、エルフという種族に対して疑心が芽生えていた証拠だ。

もちろん言い訳に過ぎない。

だけど確かにそれが原因と言えるのだ。

――今まで人と協力関係になったことがない弊害か。

他人を妄信的に信じているのであれば、こんな短絡的な行には出なかった。

まあそれは極端な例で良いことだとは到底思えないが、他人を信じることは人として大事なことなのだろう。

そうでなければ協力して一つの事件を追うなんて出來るわけがない。

向こう側から報を提供されても信じなければ、実質なにも進展していないのだから。

ただ俺はこんな自分を直ぐに変えようとは思わない。

人を信じることが大事なことくらい知っているし、その方がずっと楽なことも。

ただ疑うことで見えてくることがあるのも確かなのだ。

それに今はお姫様の拐事件という重大な事件を追っている。

事件を追う限り、人を疑うのは當たり前。

まあそもそもそんな事件も噓であれば、全てが無に帰り、俺たちはまんまと嵌められていたことになるが、それはその時だ。

それにエルフ族の戦士の大半を使って、俺一人を騙す理由もないのだから、その可能は今のところ低いはずだ。

何だか考しているに、全てに対して疑念が生まれてきたので、慌てて思考を中斷する。

これ以上疲れることを自分から増やすメリットがない。

今は目の前のことに集中していこうか。

「ミリル、こいつらを治療してやってくれ」

「……うん」

ミリルの目は言っていた。「自分で怪我をさせておきながら、人に治させるなんて」と。

ただの考えすぎであるかもしれないが、ミリルが頷くまでの間がそれをリアルにじさせる。

だがミリルは確かに頷き、一応は治療してくれた。

俺は服を漁り終わった男から離れ、その男をミリルに任せる。

俺はもう一人の男へと近づき、さっきと同じようになりを漁った。

「ん?」

何かがっていた。

紙だ。

當たり前だが現代の綺麗な紙ではない。

ならば正確には紙とは呼ばないのかもしれないが、この際どうでも良いこと。

肝心なのはその中だ。

俺は紙を開いた。

幸い読める文字だった。

とはいえ書いたもの、つまりペンの能が悪いためか、そもそも紙の質が悪いためか、文字が所々掠れていた。

しかしその書かれていた容だけでも十分すぎる容であったことは幸運と言える。

『王様――拐―――ド――』

まだまだ文字は続いているが、この部分だけでも十分すぎるほどの報量だ。

つまりこいつらは直接的では無いにせよ、姫様拐事件に関わっていたということになる。

俺が暴力を振るったのは何も間違いではないのだ。

俺は自分を正當化することに功した。

そんな俺の元へ、

「う、ううん」

ミリルに治療されていた男の意識が戻るという続けての幸運が起こった。

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