《負け組だった俺と制限されたチートスキル》第五十二話 事聴取

男が今目覚めたのは俺にとっての幸運であるが、逆にこの男には同するほど運がない出來事。

しだけ気の毒に思いながらも……というのは噓で、ウキウキしながら俺は男へ近づく。

男は呆けていた。

それもそうだ。

さっき気絶して直後覚醒させられたのだ。

狀況が読めるほうがおかしい。

だが優しくしてやる義理はない。

「答えてもらおうか」

「は? 誰だよ……っ!」

男は俺の顔を見て固まる。

あの一瞬でもちゃんと顔は見えていたようだ。いや、それともどこかであったことがあるのかもしれない。

「俺の顔に何か?」

何故だかそれが気になり聞いてみることにした。

しかし答えない。

當たり前と言えば當たり前の行だ。

しかし最善ではない。

「もう一度気絶します?」

「…………っ」

僅かに恐怖が見えた。

「それともジワジワ痛みが來るほうがお好みですか?」

悪役のセリフであることを自覚しつつ尋ねる。

リーフの時は裏目に出てしまったが、さてどうなるか。

「もう……遅いんだよ」

「遅い?」

思いのほかあっさりと口を開いた。

しかし容がいまいちピンと來ない。

遅い? 何が遅いのだろうか。

考えられるのは、もうお姫様の命がないことくらい。だがもしそうだとすると、何故一度攫ったのか。それが不自然だ。殺すならその場で殺せばいいのだから。

「これからはリーンド様の時代、エルフ族の時代だ!」

腕を掲げ、聲を張り上げ、誇らしげな顔で言い切った男。

男を蹴った。

苛立たないわけがない。

ただ強化狀態にない俺の蹴りに人を気絶させるほどの力はないので、相手を痛めつけただけとなる。

「ぐっ……今更俺に何をしても無駄だ、もう済んだころだからな」

しかし狙いが分からない。

何が無駄なのか、何がもう遅いのか。

それにリーンドの名。

エルフの時代と言う言葉。

こいつらは一何がしたいというのか。

「リーンドの奴は何が目的だ?」

「はっ、下劣な魔人族には分かるわけがない、あの高貴なお方の思想など」

「そうか……下劣の魔人族か」

なら下劣らしい態度を取ってやろう。

「ミリル、ちょっとどいてろ」

俺はもう一人の男の元へ向かっていたミリルへとそう言葉を投げた。

ミリルは何も言わずそこから退き、道を開ける。

「……何をする気だ?」

不安げな男に俺は目もくれず、剣を抜いた。

目の前には未だに気絶している男だ。

「まさか……止めろ!」

「ごめんなさい、下劣なもので何を言っているのか分かりません」

軽口を叩きながら剣を振り上げる。

男の喚き聲がうるさい。

黙って見ていることも出來ないのか。

「止めろ! 止めてくれ!」

さっきまでの威勢はどこへいったのか。男は喚いていた。

人の心配より、自分の心配をするべきなんだがな……

「じゃあ全てをこの下劣な魔人族に教えてくれます?」

「分かった、教える……全部話すから!」

その言質を待っていた。

俺は笑みを浮かべて口を開く。

「それは良かった」

そしてそのまま剣を落とす。

「あ、ああ……」

「あ、間違えた」

もちろん噓だ。

はなからこいつらを生きて返すつもりはない。

「さて、全部話してもらいましょうか」

「……悪魔が」

またそれか。

エルフ族と言うのは悪魔とやらを崇拝しているのだろうか。

それともただ単にそれくらいしか罵倒する単語がないのか。

何はともあれいまだら俺に罵聲なんてやわな攻撃、通じるわけがない。

「答えなければあなたもああなりますよ」

を逸らし男から刺された仲間の死を見せる。

そのエルフのは俺の剣が刺された箇所から段々と黒ずみ、不気味な気配を漂わせていた。

「な、なんだよ、あれは……」

「なんなんでしょうね」

俺だって分からない。

今のところ、敦の言っていた「呪い」という言葉があるだけだ。

「は、はは、悪魔ってのは本當にいたのかよ……」

全てを諦めたように男は笑い出した。

あ、これは……やり過ぎたかもしれない。

「あのー」

「はははっははは」

ダメだ。

この男、考えること、生きることを諦めている。

俺は助けを求めるようにミリルを見た。

は無表。何も言う気配もない。

ダメか……はぁ、どこかで拷問、尋問のやり方を勉強したいなぁ。まあ無理だろうけど。

「答える気は……」

「はっははは」

「ないみたいですね」

俺は首を切り落とした。再び靜寂が訪れる。

殘念だ。折角のチャンスをふいにしてしまった。

「すまん」

ミリルへ謝る。

付き合ってもらったのに果も何もない。

「いい」

ミリルは首を振って許してくれる。

それにどこか安心しているような顔だった。

……何だ?

ミリルは答える。

「やっぱりコウスケだ」

「……ああそうだな」

何となく言いたいことが分かった。

そういえば今気づいたが、俺は結局自分の目的のためなら簡単に手を汚した。

いや、手を汚したという発想すらなかった。

やっぱり本質は変わってなんかないのだ。

と、一通り現狀を考え、まとめ、結論を出した。

「ひとまず里に戻ろう、何か嫌な予がする」

遅いという言葉は未だに分からないが、リーンドという名が出たからには、今リーンドがいる里に行くのが一番手っ取り早い。

これは調査をしに外へ出るより、リーンドを見張っていたほうが果が出そうだ。

これはリフリードさんにも告げるべきだろうか。

……いや、今リフリードさんに言っても、彼の配下は外に出ているため人員を割くことは出來ないはずだ。それにリフリードさんもリフリードさんでリーンドのことを気にかけていた。今更言う必要はないかもしれない。

……待て。

外にいる?

「……そういうことか」

全て分かった。

もう遅いとはそういうことだったのだ。

勝手に自己完結した俺に対して、ミリルが首を傾げ答えを求めてきた。

だが今はゆっくり話している暇はない。

「背に乗ってくれ」

「え?」

「いいから」

「……うん」

若干の戸いの後に、ミリルは俺の背に乗った。

俺は走る。そして口を開く。

「簡潔に言うとだ、黒幕はリーンドだ」

「あの宰相……?」

「そうだ、目的は多分里を乗っ取り権力を手にすることだろうな」

「なんで?」

「流石にそこまでは分からない」

だが間違いなく今、リーンドはいている。

何せ、政敵ともいえるリフリードの部隊がほとんど外に出ているのだから。

恐らくもっと早く実行する手はずだったのだろう。

だが出來なかった。

俺と言うイレギュラーが里へ來てしまったから。そしてそのイレギュラーがリーフからリフリードへと繋がってしまったから。

だからこそリーンドは里につくなり俺をこちら側に引き込もうとしたのだろう。

「だが今間違いなくあの里は何かが起こってるだろうな」

「大丈夫?」

「大丈夫じゃないと思う」

多分普通に里にることすら無理そうだ。

転移は俺には使えないし、あの幹のにあった階段を使うのも多分無理だ。魔人族をれないように、又は誰一人れないようにとリーンドからお達しが出ている可能が高い。

「どうするの?」

「強引にいくしかない」

「強引?」

ミリルの疑問も分かる。

これは普通の人も発想はするが実行はしない考えだ。

「木登りだ」

「……木登り?」

思ったとおりミリルの聲からは戸いのが読み取れた。

そうだよな、あんな馬鹿でかい木、よじ登ろうとは思わないよな。

だがそれは普通の人ならだ。

今の俺には強化がある。

恐らくそれで何とかなる。

「大丈夫だ」

「……うん」

最終的にはそう落ち著いた。

ミリルの肯定を背にじ、次に俺がすることは一つ。

【強化】

の力、覚が跳ね上がる。

足の回転が速くなり、目の前の景も流れるように過ぎていく。

ミリルはきっと今、ジェットコースターに乗っているような気分だろう。何も言わずそうさせてしまったのは申し訳ないが、強化をしてしまった手前、會話をするわけにもいかないので、仕方なく放置した。

走る。

あの長い道のりを逆送する。

幸いエルフの里への帰り道は南下するだけで著くので、道は迷わなかった。

そしてたどり著く。

その馬鹿でかい木の元へ。

後はこれをよじ登るだけだ。

そう意気込んだ俺の元へある人が姿を現した。

「リーンド」

今回の黒幕候補筆頭の男だった。

「魔人族様、此度はエルフの特別な祭事のため多種族をれることは出來ないのです【偽】」

「本當ですか?」

噓に決まっている。

真偽スキルの結果もそうだが、もしそうならリフリードから一言あったはずなのだから。

「もちろんですとも、私が噓をつくとでも?」

「いえ、すいません」

目に見えては反抗するワケにはいかない。

あれでも相手は宰相という立場なのだ。間違った対応をすれば、関係のないエルフ族まで敵に回してしまいかねない。

「いいんですよ、ここへ來てから々問題が発生してしまっていますので」

「……そうですね」

リーンドは心の底から出たような笑みをこちらに向けてきた。

白々しい。

全てお前の仕業だろうが。

「どうしてもりたいと言うのなら……そうですね、姫様を連れて來てもらえれば、門を開くかもしれません」

「……そうですか」

顔の引き攣りが我慢できない。

きっとその言葉は噓ではないのだろう。

真偽スキルにも反応がない。

つまりリーンドは言っているのだ。

お姫様を連れてくる他、この里へることは出來ないと。

そしてそれをすることは不可能だとも。

苛立ちが募った。

こいつは他人を魔人を……いや、俺を完全に見下している。

それは挑発なのだろう。だが乗ってやろう。

こいつの驚く顔が見たい。

今すぐにでも連れ來てやる。そのお姫様とやらを。

「では捜索に戻りますね、一刻も早く見つけなければお姫様のが危険そうなので」

「そうですか、エルフ族の事なのに申し訳ありません【偽】」

「いいんですよ、人助けが趣味なので」

「良い心がけですね【偽】」

「いえ、ただの自己満足ですよ」

「その心意気、見習いたいものです【偽】」

噓にまみれた會話。

これを真偽スキルを持つ第三者が聞いたらどう思うだろうか。

俺ならまず苦笑は免れないだろう。次に心するかもしれない。

最後には呆れるな。

何はともあれ俺は挑発に乗った。

本腰をれてお姫様を探し、どうどうと里へる。

これが今の目標だ。

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