《負け組だった俺と制限されたチートスキル》第五十四話 求めた先にあるものは
ウリスの導きの元、俺たちは大木の幹からかなり離れたところまで來た。
信用はしているつもりではあったものの、正直、案中猜疑心に近いものが芽生え始めていたことは否定できない。
――本當に信用して良いのか。
という他人を信頼すること自を懸念するのほか、
――里に行くのではないのか?
と目的地である大木から離れていく疑問によって疑いのが高まっていく。
「もうしです」
ウリスから聲がかかった。
一何がもうしなのか。
いちいち疑念を持つ自分をけなく思いながらも、足を進める。
もうこれしか手段がない、ならば騙されていようとも構わないとばかりに進む。それに騙されていたとしても、それはそれで事態が進むことには間違いない。それが悪い方向に進むのだとしても前進には間違いないのだから。
「著きました」
「ここか?」
ウリスから案された場所は、待ち伏せしていたエルフの戦士たち……ということはなく、今までと何も変わりない木々が生い茂っている場所だった。
こればかりは敵意に満ちた疑念ではなく、素直に困の表を向ける。
「はい、ここにある木を登って、そこから順々に大木方向に木を渡り歩いていくと里の手前まで行くことが出來るんです」
「な、なるほど」
ウリスの自信に満ちた顔を見て俺は顔を引き攣らせた。
まさかそんな原始的な道だとは予想していなかったからだ。文化レベル的に言うと、最高で初めて里に行ったような転移があるのか、もしそれがなくとも最低でも蔦か何かを使って登るくらいだと思っていた。
しかし現実はその最低の更に下をいったのだ。
まさに原始的という言葉がよく當てはまる。
それ以前にだ。
ウリスのその方法は、俺たちが木の上を平気で伝っていけることを前提に話している。
いや、普通に考えて無理だろ。
俺たちは森で育った民族じゃない。そんな俺がスイスイと木の上を登って、伝っていくことなど並大抵の難易度ではない。
まあ強化があるため、何とかなりはするが……それでも無茶なことには変わりない。
もしかしてエルフという種族は……
「ウリス、一つだけ確認させてくれ」
「なんでしょうか?」
「エルフの里に多種族が來ることは結構あるのか?」
「エルフの里にですか? ええっと……あまりないです。コウスケさんの前の正式に里を訪れた多種族の方は今から三年前くらいでしょうか」
「……そうか」
やはりエルフ族という種族は多種族との流が盛んではない。
森に住んでいるという質上、仕方の無いことかもしれないが、そのせいでこいつらエルフ族は多種族の事柄にかなり疎いのだ。だから自分たちに出來ることんだから、と當たり前のことのように進めてくる。
もちろん排他的とまではいっていないので、それが悪いとは言わない。
だけどし理解してしいというのが本音だった。
「どうしました?」
突然黙り込んだ俺にウリスが不思議そうな顔をする。
知識として教えてあげてもいい。別に彼の機嫌を損ねるようなことではないはずだ。
だがそれを端から見ると、説教臭いような気がして気が引けた。それに他人の文化、慣習に口を出すのもおこがましいような気もする。
そして正直に言えば、面倒でもあった。
なので結果として俺は何も言わないことにした。
「ここから行けばいいんだな?」
「あ、はい、そうです」
とりあえず今するべきことは説教、助言などではなく、一刻も早く里の中へることだ。
「助かる」
そう一言告げた後に俺はすかさず【強化】を施しミリルを背負う。そして言われたとおり木をよじ登った。
「え……まさかその子を背負っていく気ですか?」
下からウリスの聲が聞こえる。
「それは仕方ない、こいつは木登りが出來ないんだから」
「木登りが出來ない……?」
「ああ、平人族や魔人族っていうのはエルフ族と違って森育ちじゃないからな」
結局言ってしまったその言葉。
あれこれとしだけだが、そのことについて考えたあの時間は一なんだったのだろう。
しょうもないことで悔やむ俺を余所に、ウリスはウリスで思案していた。
何はともあれ、考えるきっかけになってくれれば良いか。
俺はそんなことを思いながら木の上を移していった。
それから數分経ち、里がある大木が見えてきた頃……ってかとうに里の一層の高さは超えている気がするのだが、気のせいだろうか。
「……ほっ!」
俺はかなり集中しながら、木の上を登り駆け回っていた。
文面では簡単に聞こえるが、実はかなり難しいのだ、これが。
當然地上と比べて葉が生い茂っているので視界は悪く、足場も木の枝なので不安定。加えてミリルを背負っているのだ。
もし強化がなかったら、初めの木を登る時點でおしまいだったことだろう。無茶をしても木々をジャンプして伝っていくことなど不可能だ。
そんなことを考えている時だ。
「っ……!」
次なる枝に足を乗せた瞬間、その枝が俺とミリルの重によって大きく揺らめいた。當然そうなればバランスを崩す。
「く、くそ……!」
慌ててバランスを取ろうと腕を前方へばす。
しかしミリルが後ろにいるのだから、重のバランスが吊りあうわけがなかった。
――落ちる。
確信。
もうどうやっても勢を立て直すことは不可能だ。
不幸にも摑めるような丈夫な枝がないのに加え、今立っている枝だって今にも折れそうだった。
視界が九十度傾いた。
「くっ……」
ミシミシと言う嫌な音を立てる枝。
間違いなく俺は落ちた。
だがその足場となっていた枝に辛うじて摑むことが出來たのだ。もちろんミリルも無事。しかしミリルが摑まっている場所は紛れもなく俺の首。ミリルはその腕で俺の首を絞めていた。
このままじゃやばい。
落ちて死ぬことよりも、ミリルに殺される。
そんな下らない死因は嫌だ。
俺は強化狀態を維持したままの腕の力でミリルもろともを持ち上げた。
ミシミシと不穏な音が一層大きくなる。
頼むから今は折れないでくれ。
そう祈るもダメなものはダメ。
ついに、バキッと枝が音を立てた。
「くそっ!」
「きゃっ!」
俺とミリルの聲が重なる。
それほど一大事なのだ。
それも誰かに襲撃されたとかではなく、ただの自分のミスによって招いたことに対してだ。
浮遊。
落ちている。
木々の合間を俺のがすり抜けているのをじていた。
今自分がどのくらいの高さにいるのかなど分からない。
それほどまでにひたすら登っては前に進んでいたのだ。
地面なんて確認しようものなら、恐怖で足が竦む可能があったから確認していない。それに下にも木が生い茂っているので、例え見ていたとしても地面なんて見えなかっただろう。
なんて、落ちている間に俺は誰に言い訳をしているんだ。
間違いなく俺の不注意。
強化狀態を過信したことによって引き起こった事故だ。
そして間違いなく怪我では済まないだろう。
いや、俺はもしかしたら強化狀態によって、激しい痛みを代償に怪我程度で済むかもしれない。
ただミリルは間違いなくただではすまない。
俺のせいだ。
俺が殺したのも同然だ。
俺はもがく。
必死に何かに摑まれないかと腕をかした。
だがどの枝も細すぎた。
摑んだ瞬間、俺の重に耐え切れず折れた。
ダメだ。
いくら強化というスキルがあっても、この狀況を打破できることは出來ない。
ミリルを助けることは出來ない。
なんだこれ……
無力。
そんなことは分かっている。
前の世界でも、今の世界でも、何度も何度も味わったことだ。
だがそれらを味わった時とは明確に違うことが一つだけあった。
それは予想しうる結果だ。
俺が無力をじる時は、決まって自分自の死を直した時だった。
魔に襲われた時、カインに刺された時、敦を前にした時。
全て、俺自の死を直し、絶した。
だが今は違う。
俺自はまだ助かる可能があるのだ。
それが今までと今との明確な違い。
俺自、助かる可能があるっていうのに、俺は無力を絶しているのだ。
一何故だ。
自分が助かるのであれば、それでいいじゃないか。
……気づいている。
ミリルの死の予見だ。
俺は無意識にミリルが死ぬ可能があることに絶しているのだ。
その事実は変えようがない。
自分のなんて自分がよく知っている。
隨分と俺も変わってしまったものだ。
人のことなのにまるで自分のようにじてしまうとはな。
それほどまでにミリルという存在は俺にとって大事な要素となっていた、と言うことなのだろう。
認めたくはない、というワケではない。
別に認めたって何も変わらない。
俺はミリルと復讐、どちらを選ぶかと問われれば間違いなく復讐を選ぶ。
それだけは何があったって変わらない。
だが復讐の次にはミリルを選ぶ、というくらいにはなったのだ。
だから俺は……助けたい。
俺は落ちていく中、ミリルの姿を探した。
多分、後ろに……いた。
見つけた。
ミリルも俺の方を探していたようで、丁度向き合う形になり眼があった。
そしてその事実を認識した直後、どういう訳か、俺の目の前は真っ白に染まった。
次の瞬間、
「……どなた様ですか?」
可らしい聲が耳に屆いた。
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