《負け組だった俺と制限されたチートスキル》第五十五話 真実を見る眼

何が……?

俺は確かに落ちたはずだ。それは間違いない。

あれが全て夢だった、なんてことはあり得ない。

だというのに、今俺は何事もなかったかのように座っていた。どこも痛いところはない。至って健康である。

あり得ない。

正確な高さこそ分からないが、なくとも無傷で済むような高さではなかったはずだ。それなのに健康。そんな馬鹿な話があるものか。

じゃあそうなった理由を考えてみる。

強化でカバーしたのか?

いやそれならば、傷の変わりに痛みが襲ってきているはずだ。

なのに今の俺には傷どころか痛みもない。

なら痛みを超過し過ぎて、何もじなくなったのか?

それはハッキリ言って自分でも何を言っているのか分からない。

「一何が……」

自分のを確認しながら呟く。

そうだ、ミリルはどうなった。

俺は自分が助かったのだからと希を持ってミリルの姿を探した。

しかしミリルよりも先に別の人が俺の目に移りこんだ。

思わず視線を固定する。

まさか誰かがそこにいるとは思っていなかったからだ。

それにも気づかないほど俺は転していたということか。

そのけなさを噛み締めながらも、その人の全像を確認した。

もちろんミリルではない。

まず背丈が違う。

他にはそうだな。

本來ならばどうでも良いことなのだが、あえて特徴付けるならば、その人だ。そしてエルフ族の特徴である金緑の髪に尖った耳。その姿はまさに語りに出てくるようなエルフそのものだった。

俺が思わず見惚れてしまいそうな程なのだから、きっとエルフ好きな日本人が見たら一目惚れしてしまうだろう。間違いない。

しかしそのエルフは何も言葉を発さなかった。

まるで俺の言葉を待っているかのように。

そこで思い出す。

確か、落ちたと確信した直後に眩いに包まれ、そして聲が聞こえたことを。もしかするとあれは彼の聲だったのだろうか。

「えーっと……」

ピクッとエルフが反応する。

もしかして……俺の言葉を待っていたんじゃなくて、ただ警戒していただけだったりするのか?

そんな俺を余所に、エルフが口を開いた。

直後、顔が強張ったのは俺の方になる。

「変わったお客様ですね、まさか魔人族の方が……いえ、異世界人の方ですか? 驚きました、まさか異世界の方が來るとは思いもしませんでしたので」

「……は?」

突拍子もない発言に言葉を失う。

何を言っているんだこのエルフは。

俺が異世界人だってことを當たり前のように口にした。そんなことミリルでさえも知らないことだと言うのに。

俺が異世界人だと知っているのは、俺と同じ異世界人たちのみ。つまりあの勇者たちだけのはずなのだ。それなのにどうやってこいつは俺が異世界人だってことを見抜いたのか。それも一目で。

一目で見抜くことなんて、恐らく勇者達でも不可能なはずだ。現に月だって俺があの助だとは一目では見抜けなかったのだから。

すると考している俺を見てか、エルフが頭を下げた。

「失禮いたしました、他人の素を勝手に覗くのは無禮でした」

「どうやって見抜いた?」

厳しい視線をエルフへ向け問い詰める。

こればかりは見逃すことは出來ない。俺が異世界人と知っているということは、奴らと繋がっているという可能も出てくるからだ。

「鑑定というスキルがあることはご存知ですよね?」

「ああ」

自然なその言いに思わず頷く。

「それがもっと深くまで見えるようになったスキルを私は持っているのです」

「……だから俺が異世界人であることが分かったと?」

「はいそうです」

つまりこのエルフは自分の力で俺の素を暴いたということ。ならばあいつらと繋がっているという可能はなくなったということになる。

そんな俺に再びエルフが口を開いた。

「もし信用出來なければ、私を鑑定して下さっても構いませんよ」

何の変哲もないであろうその一言。俺はとりあえずそれに従いエルフを鑑定する。

名前 エルフィーナ・リルフリーナ

スキル 真眼 応 誓約 言霊

初めて見るスキルが四つ。

しかしそれを見ていて思った。

今さっき彼が言ったことが、かなりの衝撃的な発言だということを。

「まさかそのスキルは隠蔽すらも打ち破るのか?」

「……はい、そうですね」

し口ごもって答えた。

恐らく先ほどの言葉は、彼にとっては失言だったのだろう。自分のスキルの力がどの程度及ぶものか俺に計られてしまったのだから。

「ならあれも見たのか?」

「あれ……と申しますと?」

「言うまでもないだろ?」

あえてその名は告げない。

どこで誰が聞いているのか分からないからだ。この報はミリルにでさえ教えたくない。出來れば知っている人は俺一人の方が好ましかったのだ。

「……すいません、それがどれを指すものなのか私には分かりかねます」

困ったな。

どうやらそれが噓ではないことを真偽スキルが証明してしまっている。

なら本當に分からないのか? そのスキルを人がどれほど強力なものか。

【技能創造スキルメーカー】。神をも驚かせたそのスキルは、神から唯一言われた注意に関わっている。

その容は「絶対に誰にも知られないこと」。

知られたら最後、実験臺として余生を送ることになるとまで脅されたスキルなのだ。

それを俺は知られてしまった。

恐らくそれはほぼほぼ確定事項だろう。隠蔽していた鑑定がバレているのだから間違いないと思われる。

「俺のスキルはいくつだ?」

だがまだ確定と斷言できるまでは言っていなかった。

だからし探りをれてみる。

「七つでしょうか」

だがその答えは俺の予想をまたしても裏切った。

「七つだと?」

「ええ……そうなっていますけど」

「それは間違いないんだな?」

俺の問いにエルフィーナは頷いた。

だがそんなことはあり得ない。

俺のスキルは六つのはずだからだ。

名前 コウスケ・タカツキ

スキル 鑑定 隠蔽 真偽 同化 強化 技能創造

やはり鑑定で確認しても六つだ。

どこにも七つ目のスキルなど見えない。

「俺には自分のスキルは六つしか見えないんだが」

俺がそう言うと、エルフィーナは驚いたように俺を見る。

「そうなのですか?」

「ああ、本當だ」

「……ならそれは恐らくこのスキルでしょうか、よく見れば不自然な隠蔽の後があります」

エルフィーナが妙なことを言った。

不自然な隠蔽。それはつまり、俺以外の何者かが俺のその隠されたスキルに小細工を施したとも聞こえる。

「教えてくれ」

「はいもちろんです」

エルフィーナはそう言って、一つ息を吸い口を開いた。

「そのスキルはきょうか。聞き覚えはありますか?」

「強化? それは見えているが」

エルフィーナの言葉に首を傾げる。

まさか強化が匿すべきスキルだなんて言わないよな? もしそうなら控えていかなきゃならなくなる。それはし不便だ。

「いえ、恐らくそれは【強化】です。えっと……【狂化】こういう字になります」

エルフィーナはその言葉を呟いただけだ。普通なら言葉で漢字を伝えることなど出來るワケがない。

だがエルフィーナが【狂化】と言った途端、目の前に【狂化】という文字が浮かんだのだ。おでそれが強化ではなく狂化であることが分かったのだが、またしても不思議な景を見せられ俺は困する。

次から次へと分からないことが出てくるのだ。そろそろ混しそうである。

「……これは?」

「言霊というスキルを使った技と捉えてもらえれば」

「なるほど」

要はスキルによるものだということか。

なら理解できないのも仕方ないな。

目の前の疑問が解決したところで、次の疑問だ。

「それで、その狂化とやらはどういうスキルなんだ?」

もちろん自分のスキルを他人に聞くなんて可笑しな話である。だがエルフィーナは何か知っているような態度なのだから、聞いてみる価値はあるだろう。

「あくまで人伝に聞いた話程度ですが」

人伝に話されるようなスキルなのか。

それはつまり結構有名なスキルと見たほうがいいかもしれない。

「コウスケ様は大罪という言葉を聞いたことがありますか?」

「ないな」

「異世界にはそのような概念がないのかもしれません、では魔王と言う言葉は?」

「一応はある」

そりゃあ異世界、つまり地球にはスキルなんて強力な力はないのだから、知っている訳がない。

魔王については、カノスガから聞いた程度のことくらいしかないが、知っていると言っておいた。

何やら壯大な話になりそうな予がしてきたな。

さりげなく俺の名前を言い當てていることには突っ込まないことにしよう。

きっとそれも真眼とやらのスキルで見たのだろうから。

「ではそこからお話しましょう、コウスケ様、魔王が魔王たる所以をご存知ですか?」

「いや、知らないな」

魔王が魔王であるのは、魔王が魔王と名乗ったからか、周りに魔王と呼ばれたから以外に思いつかない。

それ以外にも理由があるのだろうか?

「そこで先ほどの大罪という単語が関係してきます。的に言うと、その大罪というものは、スキルの基と言われており人ならば誰もが持っているものです」

黙ってその話を聞いた。

だが何となくだがその大罪と言う言葉に予想がついてきた。

「そしてその大罪とは――」

「それは七つの大罪のことか?」

口を挾むじになってしまったが、俺はそう言った。

「七つの大罪ですか? えっと、それは一どういうものなのでしょうか」

「生憎と詳しくは知らないが知っている範囲では、傲慢、嫉妬、憤怒、強、暴食、、怠惰の七つのことを、俺の世界では七つの大罪って呼ばれていたことくらいか」

久々に饒舌にしゃべった気がする俺に、エルフィーナは黙り込んだ。

もしかしてかなり違ったのだろうか。

「違ったか?」

不安になった俺は口を開く。

「い、いえ、驚くべきことに相違はありません」

「そうなのか?」

「はい、それでは大罪の説明も省いて結構のようです」

そう言ったエルフィーナは一つ息を吐いて、間を作り、再び口を開いた。

「では先ほどの問いである、魔王が魔王たる所以ですが。簡単に申し上げますと、先ほど述べていただいた七つの大罪。その七つにはそれぞれ対応したスキルがあり、それをこの世界では大罪スキルと呼んでいるのです。そしてその大罪スキルを持つ者が……」

「魔王と呼ばれるわけか」

「はい、例えば現代の魔王、通稱、神獅王は大罪スキル【超越】を保有しているとされています」

エルフィーナは一つ一つ言葉を選ぶように話していく。

いくらこの世界に疎い俺でも彼が言いたいことを何となく察する。

「それは過去における魔王たちも変わりません、かの有名な狂龍王という魔王も大罪スキルを宿していて……」

「その魔王が【狂化】を持っていた、違うか?」

「……はい、その通りです」

やはりそうだった。

エルフィーナの言いはまるで俺にそれを察してもらうような言い方だったからだ。

エルフィーナは伏し目がちに俺の様子を確認していた。

思わず苦笑いを浮かべる。

「どうして怯えた顔をするんだ?」

「それは……」

「安心しろ、その程度のことで暴れたりはしないさ」

いくらなんでも俺はそこまで見境がない男じゃない。

狂化というスキルを持っていたという事実が分かっただけで、俺の本質は何も変わらないのだから。

「……恐ろしくはないのですか?」

エルフィーナが恐る恐ると言った様子で聞いてきた。

「恐ろしい? それは自分の力がってことか?」

「はい、自分が魔王になる可能があるんですよ? それにそのことを他人に知られてしまえば世界中が敵に回ってしまうかもしれません」

「そうだな、確かに恐ろしいかもしれないな」

俺は軽い調子でそう言った。

エルフィーナは不思議そうな顔で俺を見ている。

「ハッキリ言えばそんなこと俺には関係ないっていうのが本音だ」

「関係ない?」

「魔王だろうがなかろうが、世界が敵になろうがなるまいが、俺のすることは変わらないからな」

復讐に肩書きなんて関係ない。

復讐に仲間なんて要らない。

むしろ俺は嬉しいのだ。

自分の中に魔王になれるほどの可能があったことが素直に嬉しかった。

勇者の敵は魔王だ。

アルトもそうだが、あいつらも勇者である。

これほど好都合なことはないだろう。

「……そうですか」

エルフィーナは俺の目標についてはれずに頷いた。

最善だ。俺の復讐の話を聞いても彼にメリットなんてない。

「そういえば、ここに俺以外に誰か來なかったか?」

「一人の子が來ましたが……」

今更だがミリルのことを聞いてみる。

「どこだ?」

「向こうの部屋で寢かせております」

「そうか」

ひとまずミリルは無事なようだ。

ならもうここに用はないな。

「じゃあそのを連れてきてもらえるか? そろそろ移しないといけない……そういえば、ここ、出口はどこだ?」

ずっと気になっていたことだ。

この部屋、空間には外に繋がるものが何一つない。窓、扉のどれもないのだ。

「あの、私を助け出すために來てくれたのではないのですか?」

「ん?」

急に何の話だ?

「気づいていなかったのですね……では自己紹介させて頂きます。私の名前はエルフィーナ・リルフリーナ、エルフ族の王という分の者です」

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