《負け組だった俺と制限されたチートスキル》第五十六話 囚われの姫

「エルフの王と言ったか?」

自分の聞き間違いだろうか。

今確かに目の前のエルフからそんな言葉が聞こえた気がしたが……

「はい、その通りです」

「つまりお前が……いやあなたが魔人族に攫われたお姫様なのか?」

「今更敬語は結構ですよ……それはそうと、今里で私はそのようなことになっているのですか?」

さりげなく丁寧な言葉遣いに直してみたものの、やんわりと斷られた。

それにしてもエルフィーナがあのお姫様だとは予想外だ。ならどういうことだ? 俺は偶然お姫様が囚われていた部屋に落ちてきたってことなのか?

そんな偶然あっていいのだろうか。

「俺の聞いた限りではそうなっていたな」

「そうなんですか……」

にしてもお姫様相手にこちらがため口、向こうが丁寧語というのはいかがなものか。しかし斷られてしまった手前、直すことはままならない。

「じゃあエルフィーナは今どういう狀況なんだ?」

口調についてはもう悩まないことにした。

それよりも現狀を把握することが最優先事項だと判斷したからだ。

「そうですね……拐ではなく幽閉された、という表現が正しいかもしれません」

「つまりここから出ることは出來ないと?」

「はい、外からも誰もってくることは出來ない……はずだったのですけど」

それはまあ、偶然の産と言うことにしてしい。だって本當に偶然なのだから。

確かに俺が目指したのはお姫様であるが、まさかその場所へ直行するだなんて思いも寄らなかった。まさに不幸中の幸いである。

「俺も驚いている」

「ではやはり、助けに來たワケではないのですね」

エルフィーナは憂いを帯びた顔をした。

もちろんである彼がそんな顔をするのだから、かなり絵にはなっている……とまあそんな想は置いといて、

「いや、ここへ來たのは偶然だが、元々助けるつもりではあった、だから問題ない」

決して彼の憂い顔に心をかされてそんな戯言を言ったのではない。ただの事実としてそう告げただけだ。

「そうなの……ですか?」

エルフィーナは不安げな面持ちで尋ねてきた。

折角助けが來たと思った人が、実はそうではないと聞かされたばかりなのだ。疑うのも仕方がない。

しかし事実は事実だ。俺は間違いなくお姫様を助けるために里へ侵しようとしていた。結果、落ちてしまったが、その落ちた先がお姫様が幽閉されている部屋だったというだけだ。

つまり助けに來たと言う事実は変わらない。

「ああ、だが……察しているとは思うが、偶然ここに落ちたんだ。生憎と退路なんてものは準備していない」

それが本音だった。

本來なら退路もちゃんと確保しての出、救出作戦だったのが、偶然ここに落ちたことでその一番大事な事柄を準備していなかったのだ。

これに関しては弁明のしようがない。

「そうですか……ではコウスケ様も今は囚われのお人となっているわけですね」

エルフィーナが意地悪げな笑みを浮かべてそう言った。

その笑みの本意は分からないが、なくとも悪意はじられない。

「ま、まぁそうなるな」

俺は苦い顔をして言葉を返す。

エルフィーナの言うとおり、俺の今の狀況はミイラ取りがミイラになるという言葉を現してしまっていた。

これもまた事実であり否定できない。何ともけない話である。

「ふふ、では早く出する手立てを考えないといけないですね」

エルフィーナはそんな俺に笑みを浮かべながら、楽しそうにそう言った。何はともあれ彼との関係が良好であるだけでも好都合だと考えることにしよう。

これで彼の協力も得られない狀況だったなら、本當に詰んでいたところだったのだから、実質俺は助けに來たはずなのに、助けられているという不可思議な狀況に陥っているのだ。

「何か策はあるのか?」

しまいにはエルフィーナに策を尋ねる始末。

エルフィーナは微笑みながら答える。

「そうですね、今のところ確実なのは、コウスケ様が突き破ってきた天井から出するという方法でしょうか」

俺とエルフィーナは上を見る。

そこにはこの部屋で唯一外が見えるがあった。その異様さからあのは俺が開けたものだということが伺える。そしてそのこそが出出來る唯一の出口とも言えた。

ただ一つだけ気になることがあった。それは家の天井を突き破れるほどの衝撃を俺がけたという記憶がないことだ。もしそのような衝撃をけていれば、記憶になくとも外傷には殘っていそうなものなのだが、俺のには一切そう言ったものはない。強化の効果かもしれないが、それでも痛覚は殘っていそうなものなんだが……俺はそれだけが解せなかった。

しかしそんなことを考えていても埒が明かない。

今はその疑念を頭の隅へ追いやり改めてその外へ繋がるを見て呟いた。

「高いな」

「高いですね」

二人して同じような結論にたどり著く。

この部屋には梯子になるようなはない。つまり俺が二人いて肩車をしても恐らく屆かないであろう天井から出することは不可能に近いと言えるのだ。

「いっそ投げるというのは……ないな」

「私もそれは遠慮させてもらいたいです」

強化ならば可能であろうが、投げられる本人ののことも考えると妥當策とは言えなかった。そもそもこの部屋がどの位置に建っているのか分からないのだ。もしもこの建が建っている場所が木の端だったなら、足場なんてものがあるわけなく一歩でもこの建から出てしまうと地上へ落下してしまう。あくまでもしもの話だが、あり得ない話ともいえない。何せ、俺たちは木の上から落下してこの空間へたどり著いたのだ。そんな場所がまともな所にあるとは思えない。

何はともあれ投げるという策は沒だ。間違えれば俺がお姫様を殺したということになりかねない。

「ならどうすれば……」

悩む俺に対してエルフィーナは冷靜だった。

すると唐突に俺の目を見て口を開く。

「コウスケ様」

「なんだ?」

そこから何も言わず俺の手を握る。

ワケが分からないが、ここで手を払ってしまっては機嫌を損ねかねない。

俺はなるようになれ、とそのまま何もせず黙ることにした。

するとエルフィーナがゆっくりと口を開いた。

「先に謝らせて下さい、申し訳ございません」

「何の話だ?」

俺に心當たりは何もなかった。

勝手にスキルを覗いたことを謝るにしてはタイミングが遅すぎる。かといって俺が彼に害された記憶もない。

では一なんなのだろうか。

「もうしこのままでいても宜しいでしょうか?」

「ん、あ、ああ」

このまま、というのはつまり、このまま手を握っていても良いかということだ。

流石に恥ずかしい。というのが俺の素直なではある。

だが先ほどと同じように、俺にはエルフィーナの願いを拒むという選択肢は極力避けたかったため、これもまた素直に従うことになった。

「……っ!」

俺は息を呑み、エルフィーナを見る。

エルフィーナは可らしい笑みを返すだけで何も言うことはなかった。だがこれでようやく分かった。

が何をしたいのか。

何故謝ったのか。

そしてこれから起こること全てが。

「ありがとうございました、これでしは落ち著けます」

「ああ、また落ち著きたくなったら言ってくれ」

上辺だけの會話。

すると後方から何か、気配をじた。

慌てて振り返る。

「……ミリル」

そこにいたのは、エルフィーナから寢ていると言われていたはずのミリルだった。

ミリルはジッとこちらを見ている。心なしかその視線は怪しんでいるようにじた。

その視線の真意は置いといて、良かった、と素直に俺は思った。

これで準備が整ったと。

「何してたの?」

ミリルからの問い。

一瞬何を言っているのか分からなかったが、先ほどのことを思い出し苦笑いが浮かぶ。

もしかしなくても、ミリルはさっきの景を見ていたのだ。俺とエルフィーナが何も言わず手を握り、見つめ合っている景を。

それは思い過ごしだ。そう俺が弁明に走ろうとしたその時、それよりも先に言葉を発した者がいた。

「見られてしまいましたか、どうしますコウスケ様?」

「は……はぁ?」

先手を取られたとはまさにこのことを言うのだろう。

というより、何故この場でエルフィーナがそんなことを口走ったのかが分からない。そんなことを言えば事態をややこしくするだけだというのに……

「何を戸いになられているんですか? 正直にお話した方が私は良いと思いますよ【偽】」

にこやかな表でエルフィーナが言葉を紡ぐ。

その言葉が噓であることくらい、真偽スキルを使わなくても分かる。そしてようやく俺にもエルフィーナがなぜそのような不可思議な行に出たのか分かった。

ならば乗るしかない。

「いや、まだ小さいミリルには早い、これは二人だけのだ」

「あら、コウスケ様がそういうなら仕方ありません」

が立ってしまう気持ちを押さえ込み、道化を演じる。

その分、ミリルの視線が溫度を下げていっているような気がしなくもないが、見てみぬ振りだ。

「教えて」

ミリルからの直球な問い。

俺とエルフィーナは互いに顔を見合わせ、苦笑をらす。

その瞬間だった。

この部屋の壁が全て消え、外の景が目の前に広がった。

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