《負け組だった俺と制限されたチートスキル》第五十七話 矛盾

リーンドは第四層、中央広場にいた。

何故なら、今日ここで重大発表が行われるからだ。

つまりリーンドがコウスケらに言った、重要なイベントが起こるというのは別に噓ではなかったということである。

そしてその広々とした広場に人が溢れかえろうとしているその時、壇上に上がる人がいた。リーンドである。

熱狂的な人気はリフリードに比べ劣るものの、彼は仮にも宰相である。その認知度はこの里の住人なら誰もが知っている。

そのため彼が壇上に上がるだけで、そのざわめきが落ち著きを取り戻した。

エルフ族の間では、リーンド=重大発表となっているためである。

靜まり返った広場。

そんな中、リーンドが口を開いた。

「エルフ族の諸君、よく集まってくれた。今日集まってもらったのは他でもない、我らが姫様についての報告があるからだ」

姫様という単語にエルフ族たちがざわめく。

特に驚いた顔をしていたのは、壇上の脇に控えていた戦士長リフリードだった。それもそうだ、リフリードは何も聞かされていなかったのだから。

「皆も存じているだろう、我らが姫様は赤き人によって攫われた」

シンと靜まり返る場

皆がその次の言葉を待っていた。

「だが安心してしい、姫様の柄は無事である」

その言葉に會場が沸いた。

皆、口々に「良かった」と呟いていた。

しかし報を知らされていなかったリフリードを含む一部を除いてではあるが。

「今ここに姫様の無事を示そう! 皆、後方の小屋に注目してくれ」

その言葉通り、リーンドの後ろにある枝に吊るされた小屋に視線が集まる。

しかしエルフ達は次々と首を傾げていく。何しろ、見ろといわれた小屋には姫様どころか、何もなかったからだ。

沈黙後のざわめきが広がっていく。

リーンドは黙っていた。

あろうことか目を閉じ會場の様子など気にも留めていない様子だった。

次第に「何も見えないぞ!」「早く姫様を見せてくれ!」等と言った聲が強まっていく。このままでは間違いなく暴が起こりかねない。そう誰もが思ったその時、リーンドの口元が一瞬歪んだ。

そして次の瞬間には口を開いていた。

「大変お待たせしました、エルフィーナ様どうぞ」

そうして民衆の目の前に映し出されたのは、小屋の外壁があっという間に消え去り、その中にいる人影が三つ・・わになった景だった。

そう、そこにいたのは皆が待ちわびていたエルフィーナ姫だけでなかった。しかもあろうことかそのお姫様と一緒にいた人は、王族関係者ではなく、彼らエルフ族が複雑な心境を持って見ていた赤い人――つまり魔人族だったのだから、一層混が広がった。

「なっ!」

真っ先に聲を上げたのはリフリード――ではなく、その彼よりも一瞬早く口を開いたリーンドだった。

その表からは、まさかその小屋の中に魔人族がいるとは思っていなかったかのようだ。

そこで民衆は察する。これは演出ではないということを。

そして勘の良い人ならその先までも勘付いただろう。その場面はまさに、また魔人族がお姫様を攫いに來た場面だということを。

その思考をまるで畳み掛けるようにリーンドが言葉を発した。

「ま、魔人だと!? またしても姫様を攫いに來たのか!」

リーンドのびは瞬く間に民衆の耳にっていく。

そして民衆の思考を固定した。あの魔人族が拐犯であるということを。

「ま、待て!」

リフリードが聲を上げる。

彼は分かっていたからだ。あの魔人族が誰なのかを。

「どうしたんですか、今は一刻も早くお姫様の安全を保障しなければならないでしょう!」

自分の主張を遮られたリーンドがリフリードへ向かって聲を荒らげる。

その形相にリフリードも引き気味になるも、あの魔人族がコウスケだと知っている彼は引かずにこう告げた。

「あの魔人族が誰なのか、あなたにも分かっているはずなのでしょう!」

「何をおっしゃられているのか分かりません! それよりも、あなたは戦士長であられる、だというのに私を持ち込み、それによって姫様を危険に曬すおつもりですか!」

互いに怒號に近い言い合いをする二人。

普段ならリフリードが優勢だっただろう。しかし今、この混においては民衆の聲はリーンドに味方した。

「リフリード様、早く姫様を救ってください!」

「何を言い合っているんですか、今は姫様の安全が大事でしょう!」

「リフリード様、早く戦士に命令を!」

ほとんどの聲がリフリードへ向けられる。

リフリードは顔を顰める。

だがそれも仕方がなかった。この場において、直接兵士をかすことの出來る権限を持っているのはリフリードだけなのだから。

リフリードはゆっくりとリーンドから距離を離し、自分の兵士達を見た。

しかし直ぐには口を開かない。

その様子を見かねたリーンドが再び口を開く。

「何をしているのですか! 早くしなければ姫様の命さえも危ういのですぞ!」

「くっ……!」

リフリードは悲痛の面持ちで口を開きかける。

その時だ。

凜とした聲がこの広場に響き渡った。

「お待ちなさい」

誰もが知っている。

その聲を。

見るまでもない。

知名度で言えばリーンドやリフリードと同等かそれ以上の人。そんな人など一部の人しかいない。

エルフィーナ王

が広場に向かって制止の聲をかけたのだ。

皆、驚いた表で顔を上へ上げる。

それはリーンドとリフリードも同じだった。

「リーンド、何の騒ぎですか?」

エルフィーナはリーンドへ聲を飛ばす。

唐突な指名にリーンドはピクッと背筋をばすが、それでもまだ彼の顔に焦りは見られなかった。

「あなた様の隣にいる魔人族、いえ拐犯が原因でございます」

「この方が拐犯……なんですか?」

エルフィーナは首を傾げリーンドへ問いかける。

「ええ、そこにいるのがかぬ証拠ではございませんか」

繰り返される問答にすっかり民衆は騒ぐことを止め、その會話を一言一句聞き逃すまいと、皆の視線がリーンドとエルフィーナとの間を行ったり來たりしていた。

「ですが彼は私を助けに來たとおっしゃっていますよ?」

その言葉に民衆がリーンドへ視線を向けた。

次は彼の発言の番だということもあるが、それ以前に、その姫様の言葉を信じるなら姫様は今までその小屋へ閉じ込められていたということになるからだ。

そしてその閉じ込めた人というのが、今回この場を作ったリーンド出ないわけがない。民衆はリーンドの言葉を待った。

「エルフィーナ様は騙されております、噂によると赤き人は人には理解できないような力を有していると言う話を聞いたことがありますでしょう?」

「確かに聞いたことはありますね」

その言葉に民衆は納得した。

確かにエルフ族の伝承でそのような話があったからだ。というよりは魔人族、ならぬ赤き人は伝承によると基本的に何でも出來るとされている。つまりコウスケは何がどうあっても騙したのだと疑われる運命にあったのだ。

しかしエルフィーナはそこで言葉を切らなかった。

「ですがあなたは、いえ皆は知っているはずでしょう? 私の眼の力を」

その言葉に再び民衆が息を呑んだ。

ここでいう眼の力というのは、真眼という全てを見通すことの出來るとされるエルフィーナの力のことだ。

それは現にエルフ族たちの間では當然のものとなっており、彼が騙されることなどエルフ族には到底信じられないほどだった。

つまり民衆にとってはリーンドの主張も信じるに値するものだが、それとは真っ向から異なるエルフィーナの主張も信じざるを得ないものになっていた。まさに矛盾といえる狀況だった。

この狀況を打破出來る者など恐らくいないだろう。

どちらかの主張におかしな點を見つける他ないのだ。

何かの手段を使うなどして。

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