《魔法兵にされたので學園にります ~俺は最強の魔兵~》第15話 ミルク・コンタクト
ある日のサブリナ魔法學園の晝休み。
學食にて、俺はセイナ、リル、シルフィ、そしてシルリアという面子で晝食を食べていた。ちなみに俺とシルリアはオムライス、セイナとシルフィはパスタ、リルはチキンフライ定食である。
「いやあ、レイレイもすっかりこの學園に馴染んできましたなあ!」
リルはフライを頬張りながら笑顔で言った。そうね、とセイナも頷く。
「でもちょっと目立ちすぎかもね。すっかり有名人だもの」
「有名人? 俺がか」
「當たり前でしょ、學試験でただでさえ目立ったのに、その後もサマリーちゃんのこととかガーベラのこととか……」
「あと、生徒會長のこともね!」
「え、わ、私……ですか?」
「そりゃそうよ、あの氷のをオとしたって巷じゃ話題よ?」
「お、おとした、なんて……」
シルリアは顔を真っ赤にしていた。真面目な彼は冗談を真にけているらしく、どぎまぎしながら俺に視線で助けを求めてくる。そんなシルリアを見てリルは実に楽しそうだった。
「リル、あんまりシルリアをいじめないでくれよ」
「いじめてないって! いじってるだけー」
「リルちゃんったら。でも私、シルリアさんはもっと怖い人かと思ってたわ。話してみたら優しい人ねえ」
「別に、私は……普通、です」
「レイに友達ができて私も嬉しい! これからもレイをよろしくね、シルリアちゃん」
「あ……はい、こちらこそ」
この數日でなんだかんだシルリアも打ち解けている。実は友達がおらず寂しい思いもしていたらしいので俺も一安心だ。
だがそうして、俺らが談笑していたその時。
俺の背後から、魔の手がびていた。
「コンタクト!」
「ひゃっ!?」
を鷲づかみにされる覚。俺は決まって妙な聲を出してしまう。そしてそのの子の子した聲に恥をじてまた固まる。
冷靜になってけるようになるまで約2秒。俺が振り返った時には、俺のをみしだいた黃い髪の生徒は安全圏で満足げに笑っていた。手をくねくねとさせながら。
「んーん、特待生はおも特待生だねえ。いつもながらいいコンタクト……」
なぜかしみじみと言うのはビルカ・ハラミー。セクハラの常習犯で、俺は何度も被害に遭っている。俺の(男ゆえの)新鮮なリアクションが面白いらしい。
「ビ、ビルカ! コラお前またっ!」
「おっとお仕置きは勘弁! ではまた次のコンタクトに期待……を……?」
逃げ出そうとしたビルカだが、逃げ道を塞ぐように立っていた生徒に気付きすぐに足が止まる。そしておそるおそるといったじでその長の生徒を見上げていた。
ビルカの1.5倍は背のある銀の髪の生徒は、無表ながらもたしかな怒気を目に宿しビルカを見下ろしている。
「あ、あは、あは……今日、早いですネ゛ェ゛ッ!?」
長の生徒は一瞬のにビルカの首を締め上げて「きゅっ」と落としてしまった。そして俺にぺこりと頭を下げた後、鶏でも運搬するかのようにビルカを引きずったまま去っていく。終始無言だった。
彼はミルク・キャロル。ビルカの折檻役らしく、ビルカが彼にシめられてるのを2日に一度は見かける。
「ミルク氏、あいかわらず鮮やかだねえ。さすがビルカ回収業者の異名を持つ」
「それリルちゃんが言ってるだけなんじゃ……」
「生徒會長として、學での不純な行為も暴力行為も見逃せませんが……バランスはとれてるみたいですね」
「いいのかシルリアお前はそれで……」
「自由な校風がサブリナ魔法學園だもの」
俺はやれやれと食事に戻った。だがその後、魔科學兵のに興味を持ったのかなんとセイナまでをんできたのは參った。らかかったらしい。
その日の放課後。
購買部でおやつでも買おうかと俺が1人校舎を歩いていると、外のひと気のない場所で、ビルカ回収業者もといキャロルの姿を見かけた。
「なにやってるんだ……?」
キャロルは學園を囲む木のそばでを屈め微だにしていない。他に生徒の姿はなく、ただただ彼がしゃがみこんでいるだけだ。
調でも悪くしたのかもしれない。気になった俺は校舎は出てキャロルの方へ歩み寄った。
「キャロルさん。何してるんだ?」
俺が聲をかけると、キャロルは俺の方を振り向く。引きしまった口、白いと整った顔立ち、鋭い銀の瞳はとてもクールだ。だが特に調が悪いとかでもなさそうだった。
キャロルは俺の前で初めて口を開いた。
「靜かに……やっと、近くまで來たんだ」
「來た?」
「あれ?」
キャロルは森の方を指差す。俺もキャロルのよこでしゃがんでそちらを見てみると――森の奧、木々に隠れるようにして、1匹の白貓がこちらを見ていた。あまり近くはなかったが、キャロル的には近いらしい。
「貓ちゃん……おいで……おいで……」
貓をじっと見つめながらぼそぼそとつぶやき、キャロルはじりじりと距離を詰めようとする。その視線は恐ろしく真剣で鋭く、隣で見ているだけの俺ですらし怖い。
『にゃっ』
「あっ……」
案の定貓は怯えて後ろに下がってしまった。キャロルが悲し気にうな垂れる。どうやら貓と仲良くしたいらしいがうまくいっていないみたいだ。
クールな人だがかわいいところもあるんだな、と俺は思い、ひとつ協力することにした。なんといっても俺は牧場主だ、大の好きでありその生態にも詳しい。牧場で飼っていたわけではないが貓とて例外ではない。
「ダメだよ、貓は目を合わせると威嚇されてるって思って警戒するんだ。を小さく見せるのはいいけど、貓に近づく時は視線は外して……こう、人差し指を突き出して、くるくるかす。すると貓は興味を持つから……」
俺はなるべくを小さく屈め、ゆっくりと貓に近づこうとした。だが。
俺が近づいた途端、貓は一目散に森の奧へと逃げていった。
「あっ……」
「ああ……」
俺とキャロルは揃ってがっくりと肩を落とした。その時やっと思い出したが、俺の魔科學兵のはから嫌われてしまうのだ。そのため牧場を続けられずここに來たというのにすっかり忘れてしまっていた。
「……に避けられるのって、なんか応えるな……」
「うん……わかる……」
俺らは2人して落ち込む。に避けられる者同士、妙な仲間意識が芽生えていた。
「あなた……特待生。いつもビルカが迷をかけてる……」
「まあな。で、それを君が仕留めてくれてるんだよな」
「思えば話したことはなかったね、私はミルク・キャロル」
「俺はレイ・ヴィーンだ」
自己紹介のあと改めて、俺らはため息をついた。
「……私、貓が大好きなんだけど、近づいたらなぜか逃げられてしまう。いつになったら貓を抱くという夢が葉うのか……」
「俺もな……は好きなんだけど逃げられるんだ。これさえなきゃな……辛すぎる」
「レイ。お互いがんばろう。なんとかして貓と仲良くなるの」
「ああ。何か方法はあるはずだ、特にキャロルは!」
俺らは頷き合い、固く握手をした。なんだか妙な連帯だったが、また1人友達が増えた瞬間だった。
だがその時。
「あれ、ミルクと特待生? 珍しいね、2人がいっしょにいるなんて」
背後から聞き覚えのある――ビルカの聲。後ろにビルカ、をまれる! 俺は慌てて振り返った。キャロルも獲を狙う目だった。
だが俺らの後ろに立っていたビルカは両手が塞がっていた。というのも彼はなんと、三貓を抱きかかえていたのだ。俺らは唖然として、ビルカの腕の中でリラックスする貓を見ていた。
「あ、この子? アクアマリン寮の裏にいたんだよー、かわいいでしょ? 貓好きのミルクちゃんに見せようと思って。ほらほら、コンタクトで鍛えた私の指技どーお?」
『にゃあ~』
ビルカが貓をマッサージすると、貓は気持ちよさそうにをくねらせる。貓は完全に気を許しており、悔しいが俺らとは真逆の反応だった。
「ね、ミルク。たぶん、ミルクが目をつぶってそこに私がこの子を持ってけば、ミルクもこの子を抱けると思うんだ。どうかな?」
「ビルカ……そのために、わざわざ?」
「うん。馴染のよしみだよ」
キャロルは激した様子でぱっと顔を明るくした。いつもは相と折檻ばかりの2人だが基本的に仲はいいらしい。ビルカの意外な友達思いの一面に俺も心していた。
だがやはりビルカはビルカだった。
「じゃあミルク……私のお願い、聞いてくれるよね?」
にまあとビルカはゲスい笑みを浮かべる。ああ、やっぱりこいつはセクハラ大魔神だな、と俺もキャロルもあきれ果てた。きっとをませろというのだろう、いやそうに違いない。ビルカは気付いていないようだが、キャロルはすでに折檻するべく指をコキコキ鳴らしていた。
だがビルカの要求は意外なものだった。
「私のお願いはね……ミルクのおを、特待生にませることっ!」
「え? お、俺?」
突然の指名に俺は面食らった。ビルカの要求の意図がわからないし、何よりキャロルのを俺にませるということはつまりそういうわけで……俺は軽いパニック狀態だった。
対しビルカはうんうんと頷く。
「何度もコンタクトしたからわかる! 特待生、あなたはこっち側の素質がある人間だよ。の子の膨らみに、興味あるんでしょ~?」
「い、いや、俺は別に、そんな……」
したり顔で尋ねてくるビルカに俺はしどろもどろだった。
子のに興味があるかどうか? あるに決まっている、男だもの。
さすがに俺の正までは見抜かれていないようだったが、ビルカは驚くべき観察力で、俺の本心を察知していたようだった。
「だからね、マエストロの私が思うに、ミルクの名前通りのホルスタインにコンタクトすれば、きっと覚醒の時は訪れると思うんだ。そしたらいっしょにおっぱい同盟設立だよ!」
「おま……巻き込むなよ、俺を!」
「でもレアな機會なんだよお? ミルクはガードが高いから、私でもコンタクトは週に2、3回なんだからね」
「そういう問題じゃ……」
俺はちらりとキャロルの方に目をやった。それまで意識していなかったが、たしかに彼の部は他の生徒に比べて明らかにかであり、それは男のロマンでもあり……何を考えているのは俺だ。
しかし當のキャロルはというと、ただただ真剣に、ビルカが抱く貓を見つめていた。まさか、と俺が言う間もなく。
「わかった。本當にそれでその貓ちゃんを抱かせてもらえるんだな?」
「もち! 私は自分にも他人にも正直なよ」
「よし。じゃあレイ、頼む」
キャロルは一切ためらいなく俺の方を向き、を突き出してきた。俺はいよいよパニックになる。
「い、いや、でも……ダメだろ」
「私は構わない、貓のためならばこのくらい。ビルカが他人に迷をかけるよりはいい。さあやれレイ、仲間のために」
「あっ、ちなみにただるだけはだめだよ。しっかりじっくり、私がいいと言うまで重量を楽しんでね」
「お、おいおい……」
俺はごくりと唾をのむ。知らず知らずのに手が持ち上がっていた。モラルと理という牙城に対し、本能と「キャロルのため」という大義名分が激しく攻撃を続けていた。
じわじわと俺の手が迫る。キャロルは一切じずにけれる。ビルカは貓を抱いたまま楽し気にそれを覗きこんでいた。
だが俺の手がキャロルのそれにれようとした、その直前に。
『にゃーっ!』
「あっ!?」
いきなりビルカの腕の中にいた貓が暴れ出し、そのまま彼の腕から逃げ、走り去ってしまった。
ビルカは俺がむところを観察しようとして近づきすぎたために、俺の魔科學兵のに貓が反応してしまったのだ。
「あ……そんな……」
「す、すまんキャロル。俺のせいで……」
「あちゃー、まさか私の絶技から逃げ出すなんて……よっぽどだね特待生。ちぇ、せっかくの計畫が臺無し……」
つまらなそうに口をとがらせたビルカだったが、その表がみるみる青ざめていく。
見れば、キャロルは見るも恐ろしい形相でビルカを睨みつけていた。
「ミ……ミルクさん? な、なんでそんなに怒ってらっしゃるのかなあ……?」
「ビルカ。私に期待させて、レイまで巻き込んで……今回ばっかりは本気で許さない」
「ミ、ミルクだってけれてたじゃん? あ、そうだ、じゃあ私が代わりにコンタクトして……」
「黙れ」
キャロルはただでさえ大きながさらに巨大化せんばかりの勢いである。ビルカの足も震えていた。
半分はキャロルの私怨のような気もするが、もう半分は間違いなくビルカの故意犯。俺はただただビルカの冥福を祈っていた。
「こ、こうなったら! どうせ死ぬのならば! そのたわわな巨山に突して玉砕をゥオゥゥオオッ!?」
無謀にもキャロルに突っ込んでいったビルカの首が危なげな方向に回されるのを、俺は自業自得の四文字をもって憐れんだ。
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