《魔法兵にされたので學園にります ~俺は最強の魔兵~》幕間 愚兄と魔神兵ミシモフ
それは1年ほど前のことだった。
打ち棄てられ、忘れ去られた古代の跡。積もる砂が示す悠久の時、彼が眠る場所には屆かない。この世の果て、地中深く。歴史のはただただ眠っていた。
だがその時、跡の天井がふいに崩れが差し込む。そうして空いたは、人間が落ちてきてできたものだった。
探検の裝備のその男――イルオ・ヴィーンは瓦礫の上にしたたかに打ち付けた腰をさすりながら立ち上がる。
「ぐぐ……よもや風化のほどがここまでとは。さほどの高さではなかったのが幸いだが、これでは道が……」
イルオはその時ようやく『彼』に気付いた。彼を見つめ、おお、と歓喜の聲をらす。すでに痛みなど吹き飛んでいた。
「ついに……ついに見つけたぞ! やはり文獻の通りだ、ここは古代魔科學の実験場だった! そしてここに眠る、これこそ……ふはは、ふはははははっ!」
沈黙したまま座り込む彼を見上げ、イルオの笑い聲が跡に響く。そしてイルオは彼の名を高らかにんだ。
「我が研究……そして世界の希! 魔神兵ミシモフよ!」
跡に座す古代魔科學兵は、その時はまだ心のない瞳で、歓喜するその男を見つめていた――
――現在、某所。
イルオはしみじみと目の前でをする紫の髪のを眺めていた。
「あの時の『彼』が『彼』に……全ては私の技の賜。慨深い!」
「マスター、何をおっしゃってるんですか。マスターは自分の頭で大量に考え、その斷片だけを口に出すので他人から気味悪がられるんですよ」
「なるほどそうだったのか……! さすがだぞミシモフ、見事な分析だ! もっと私の欠點を見つけ罵ってくれ!」
「その言がそもそもアウトです、マスター」
「ああっ、いいぞお……!」
「……変態」
「おおうっ!」
ミシモフがジト目で罵倒する度にもだえするイルオ。ミシモフの容姿はイルオの好みに合わせて作っているのである。
「くっふふ、実は我らの出會いのことを思い出してな。覚えているか? あれは南の跡で……」
「マスター。私のメモリーは、この時代にマスターに改裝され覚醒した時からです。前時代のことは覚えておりません」
「おっとそうだったな! 実に惜しい、お前が千五百年前のことを覚えていればもっと……いやないものねだりはよそう! お前が立派に魔科學兵としていている、それで十分だ」
「ありがとうございます、マスター」
かつて跡で眠っていた巨大な魔法科學兵――それが今、魔兵としてき、話している。イルオの喜びはかつて彼を発見した時以上だった。
「さてミシモフよ。お前は十分に育ち、データも集まった。そろそろ我らは本懐のためにき出す時だ!」
「はい、マスター」
ミシモフはをやめて起き上がる。希薄だった人格も定著が進み、未だ無・無表ではあるが、彼は魔神兵ミシモフではなく魔兵ミシモフとして覚醒しつつあった。人がオシャレするだけで気分が明るくなるように、がというだけで、ある程度神もその影響をけるものなのだ。
「ミシモフよ、すべき我が子よ。お前がやるべきことはすでにその頭にインプットした通りだ。私も魔兵『No.2』で補助するからな」
「はい、マスター。正直、No.2はとても気持ち悪いのですががんばります」
「すっかり毒舌キャラになったな! だがそれでいいぞお!」
イルオは興しつつミシモフの肩に手を置いて迫った。
「いいかミシモフ。任務も大事だが、お前にとっては初めての外界、初めての大勢の他人との接だ。まずは存分に楽しんでこい! その経験がさらにお前を長させるだろうっ!」
「……はい、マスター」
ミシモフは靜かに頷く。その言葉と表のわずかな機微に、彼の中の人格が揺れていることをイルオはじ取り、満足そうに笑った。
「では最終調整だ! No.2は実験的な要素が大きいからな、しっかりと完させねば私も危うい。しばし待つんだぞミシモフ、もうちょっとでおでかけだからな」
「はい」
イルオはミシモフに背を向け、作業臺に用意されていた『魔兵シリーズNo.2』への作業にった。
ミシモフはしばらくイルオの背をじっと見つめていた。表は人形のように変わらない。だがその頭部にある疑似人格では、複雑な思考が繰り返されていた。
やがて、ミシモフは口にした。
「マスター。マスターの真意は、なんなのですか?」
ミシモフの問いにイルオがぴたりときを止める。ミシモフは続けた。
「マスターは魔科學を研究し、弟、レイ・ヴィーンを改造して。私を作り、育て……今度の作戦を実行する。その真意を、私はまだ知りません。あなたの目的はなんなのですか、マスター」
イルオは作業の手を完全に止めると振り向く。やはり満足げに笑っていた。
「『興味』か……すばらしいぞミシモフ。唯々諾々と指示に従う魔科學兵にはない行だ。ミシモフよ私がこう言ったらどうする、お前が知る必要はないだろう、と」
「マスターの本心を知らないまま作戦行を行っては、作戦自は功でも長期的に見た場合の失敗を呼ぶ場合があります。どうか、マスターの最終目的をお教えください」
「『理屈』そして『疑問』! すばらしい! 魔科學の子たるお前がここまで心を育て上げたか! やはりお前は……」
「マスター。マスターが興の演技をして話をはぐらかす場合があることはデータより明らかです。納得のいく対応をお願いいたします」
ミシモフは淡々とイルオへの疑問を投げつけ、イルオも意味ありげに黙り込みミシモフを見ていた。
イルオは笑みを浮かべたまま、しうつむいた。
「納得、と來たか……いやすばらしい。わかった、噓はやめよう。私の真意は『教えたくない』、それが本音だ。いかにお前であろうともな」
「マスター。それは、なぜですか」
「それも『教えたくない』! ミシモフよ、人は噓をつき噓には2種ある。真実を偽るのと、真実を隠す場合だ。そしてそれは人に與えられた知恵であり罪であり権利なのだよ。悪いがミシモフよ、親は子に教えられないこともあるのだ」
「……そうですか。わかりました、マスター」
「だがミシモフ! 最終目的、それだけは教えてやろう」
イルオは顔を上げ、いっぱいに頬を歪ませて笑った。さも楽し気に、かつ狂おし気に。
「全ては我が弟レイのため! レイが幸福ならば私はそれでよいのだ! おっと今は妹だったか? ふぅーんはっはっはっはっはーっ!」
イルオはひとしきり笑った後、また作業に戻っていく。ミシモフもそれ以上は何も言わず、靜かにイルオを見つめながら作業の終わりを待っていた。
……マスター。
レイ・ヴィーンに會えば。
再び彼に會えば、あなたのことがわかるのでしょうか。
あなたに近づけるのでしょうか。
私は……
…………
……過熱を確認。ホムンクルス・パーソナリティ、セーフモードにります。
じょっぱれアオモリの星 ~「何喋ってらんだがわがんねぇんだよ!」どギルドをぼんだされだ青森出身の魔導士、通訳兼相棒の新米回復術士と一緒ずてツートな無詠唱魔術で最強ば目指す~【角川S文庫より書籍化】
【2022年6月1日 本作が角川スニーカー文庫様より冬頃発売決定です!!】 「オーリン・ジョナゴールド君。悪いんだけど、今日づけでギルドを辭めてほしいの」 「わ――わのどごばまねんだすか!?」 巨大冒険者ギルド『イーストウィンド』の新米お茶汲み冒険者レジーナ・マイルズは、先輩であった中堅魔導士オーリン・ジョナゴールドがクビを言い渡される現場に遭遇する。 原因はオーリンの酷い訛り――何年経っても取れない訛り言葉では他の冒険者と意思疎通が取れず、パーティを危険に曬しかねないとのギルドマスター判斷だった。追放されることとなったオーリンは絶望し、意気消沈してイーストウィンドを出ていく。だがこの突然の追放劇の裏には、美貌のギルドマスター・マティルダの、なにか深い目論見があるようだった。 その後、ギルマス直々にオーリンへの隨行を命じられたレジーナは、クズスキルと言われていた【通訳】のスキルで、王都で唯一オーリンと意思疎通のできる人間となる。追放されたことを恨みに思い、腐って捨て鉢になるオーリンを必死になだめて勵ましているうちに、レジーナたちは同じイーストウィンドに所屬する評判の悪いS級冒険者・ヴァロンに絡まれてしまう。 小競り合いから激昂したヴァロンがレジーナを毆りつけようとした、その瞬間。 「【拒絶(マネ)】――」 オーリンの魔法が発動し、S級冒険者であるヴァロンを圧倒し始める。それは凄まじい研鑽を積んだ大魔導士でなければ扱うことの出來ない絶技・無詠唱魔法だった。何が起こっているの? この人は一體――!? 驚いているレジーナの前で、オーリンの非常識的かつ超人的な魔法が次々と炸裂し始めて――。 「アオモリの星コさなる」と心に決めて仮想世界アオモリから都會に出てきた、ズーズー弁丸出しで何言ってるかわからない田舎者青年魔導士と、クズスキル【通訳】で彼のパートナー兼通訳を務める都會系新米回復術士の、ギルドを追い出されてから始まるノレソレ痛快なみちのく冒険ファンタジー。
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