《魔法兵にされたので學園にります ~俺は最強の魔兵~》第21話 みんなで調理実習
サブリナ魔法學園は魔法學校であるが、魔法だけを教えているわけではない。
15~18歳の子を広く教えるこの學校では一般の學園の例にれず、家庭科などにも力を注いでいるのだ。
その日、俺らはいくつかのクラス合同で、家庭科の調理実習に臨んでいた。
「……基本的な説明は以上です。あとは授業で學んだことを活かし、各々自由にやってみてください。よい一皿が出來たら持ってきてくださいね、先生お晝ご飯抜いてますから、皆さんに期待してますよ!」
家庭科の、老眼鏡をかけたグランウェル先生が言うと調理室に集まった60人くらいの生徒たちがはーいと応じる。かくして調理実習は始まった。
調理室は12個の機があり、火炎魔法を蓄えた魔水晶を備えた調理が各機に4つずつ。俺らは5人ずつの班に分かれ、用意された食材やを使って料理を行うのだ。
とはいえそこは自由な校風のサブリナ魔法學園。あっという間に班はごちゃごちゃになり、生徒たちはわいわいとにぎやかにりれながら勝手に料理を始めていた。先生も特に何も言わずににこにこ見守る。これでいいのかと思いつつも、俺もセイナたちと料理をしていた。
「……よし。こんなもんだろ」
俺はひとまずささっと得意料理のオムレツを作った。おお、と周りから聲が上がる。
「すごいねレイレイ! あっという間!」
「お料理に慣れてるじねえ」
「ん、5年も一人暮らししてりゃそりゃあな。牧場の鶏どもから卵はとれるし、卵料理はよく作ってたよ」
「さすがレイ」
伊達に5年間、ほぼたった1人で生きてきたわけじゃあない。俺はこの學園で初めて魔科學の力でなく自分自を褒められた気がしていい気分だった。
ただ、俺たちはセイナ、リルリーン、シルフィといういつもの面子にミーシャも加えて作業していたのが、そのミーシャが実習開始からずーっとフライパンをしげしげと眺めているのが気になった。
「ミーシャ。何してんだお前」
「いえ、不思議な形狀の鉄板だと思いまして。これはなんというのですか?」
「え、ミーちゃんフライパン知らないの?」
「はい」
ミーシャはいつもの無表であっさりと言い切る。イルオが作った魔科學兵であるミーシャ、その世間知らずっぷりは筋金りのようだ。
「ま、他の生徒のやってることを見れば、お前の學習能力ならすぐに理解できるだろ。まずは周りをよく見て學ぶことだな」
「わかりました。しかしレイ、この教室の多くの者が刃を手にして危険です。どうしましょう」
「それは包丁と言ってだな……ええい面倒だ、教えてやるよ」
俺はの名前や用途、代表的な料理など一通りミーシャに教えてやった。まるで子供を相手にしているかのようだったがさすがにミーシャの呑み込みは早い。
「……わかりました。ではひとまず、先程レイが作った『おむれつ』というものを作ってみます」
「ああ、比較的簡単だしそれがいいな。ただ包丁の扱いには気をつけろよ、あと火傷にも注意だぞ。怪我をしたらすぐに俺か先生に言って……」
つきっきりで指導する俺を見て、リルが笑う。
「レイレイとミーちゃん、そうしてると姉妹みたい! レイレイ姉とミーちゃん妹?」
「あらあら、仲良しさんねえ」
「な、いや、俺は別に……」
はやしたてるリルとシルフィに対し俺が反論しようとすると。
ミーシャはふいに小首をかしげ、
「……レイ、お姉ちゃん?」
などとのたまった。なくとも見た目は絵にかいたようなのミーシャが、真っ直ぐに俺を見つめてその一言。その破壊力は抜群だった。
「レイ、どうしましたか。顔が紅しています、調が悪いのですか」
「ち、違う! もういいからがんばれよ! あとリル、お前はちょっとこっち來い!」
「おっ來るか特待生! 人參ガード!」
「大ガードよぉ」
「お2人とも、野菜は盾にはならないと思います」
「ミーちゃんのマジレス効くわぁ……」
騒がしい中、調理実習は続いていく。
一品作り上げてし手の空いた俺はぶらりと調理室をうろつき他の機を見に行ってみる。すると、シルリアの後ろ姿が目に留まった。
「シルリア、どうだ? 調子は」
俺は聲をかけたが、なぜかシルリアは応じなかった。
「シルリア?」
「……レイ、今は話しかけないで」
シルリアは妙に神妙なじで俺を拒絶する。怪訝に思いひょいと彼の手元を覗くと、彼は野菜を切っているだけだった。ただ包丁を持つ手が震え、その目は張で張り詰めている。
「……んっ」
やけに力と気合を込めて、すとんと一回包丁を落とすシルリア。きゅうりに2回目の切り込みをれただけなのに、ふうと汗をふいた。
「……どうしてそんな気合ってんだ?」
「授業で學んだじゃない、野菜は不均等に切ると熱の通り合にばらつきが出て、味が悪くなるって。均等に、均等に切らなくちゃ……」
シルリアはまた包丁を手に、きっかり均等にきゅうりを切ろうと格闘し始める。
いやそこまで慎重にならなくてもたいして味に差は出ないし、そもそもきゅうりはあまり火を通す食材じゃあないんだが……と教えようかと思ったが、経験上ここまで集中してるシルリアには何を言っても通じない。彼、妙に頑固なところがあるのだ。
「……そうか、がんばれよ」
「ええ。データはってるわ、あとはその通りに作って見せる……!」
気合がってるところを邪魔するのも悪いので、俺は早々に立ち去った。
すると別の機で、嫌な顔が集まっているのを見つけてしまった。
「げっ」
「ニャッ」
「むっ」
「お前は……」
「特待生」
子供のような格のミニッツ・ペーパー、ミアとメアのグリズリー貓姉妹、青髪でグラマラスなプロミス・ブルーバード、黒髪でスレンダーなソルナ・ブライト。
俺と因縁あるオニキス寮生たちが、ひとつの機で集まって作業していた。
「お前ら、授業はちゃんとけてんだな……」
「と、當然だ! 私らもれっきとしたこの學園の生徒なんだぞ!」
「オニキス寮だからってミアたちは不良じゃないのニャ! ミアなんて無遅刻無欠席なのニャ!」
「包丁は貓の手、なのにゃ~」
俺を拉致(未遂だが)したりシルリアを脅迫したり、試験の妨害をしたりあの手この手で暗躍してきたオニキス寮生たちも生徒は生徒。授業中でもあり、ここは休戦である。そもそもオニキス寮生同士はわりと仲がよさそうだった。
「しかしミニッツ、お前長足りてなくないか? 危ないぞ、包丁使うの」
「うるさい! ギリギリ屆いてるだろ!」
「まあ……」
「危ないよね……」
長が子供レベルのミニッツは調理臺に対し明らかに小さすぎる。仲間のプロミスとソルナも心配そうだった。
「プロミス、お前壁を作る魔法持ってただろ。それで足場を作ってやったらどうだ?」
「あ……そっか」
「バ、バカお前、こいつに教えを乞うなど恥の極みだぞ! 私に足場はいらんっ!」
「大丈夫特待生、君がいなくなったら作るから。それまではミニッツの顔を立ててあげて」
「ああ、俺の見てる前じゃやりづらいよな」
「うるさーいっ!」
顔を真っ赤にして腕を振り回すミニッツ。まともに対戦する分には恐ろしい相手だったが、こうして見ると背丈もあり中々可らしい。わざわざ包丁を置いてから暴れてるあたり配慮もある。
見ていてなかなか面白かったが、あまりオニキス寮生と絡んでいると周囲の目も気になるので俺は彼らの機も後にした。
とその時、先生の方から聞き覚えのある高笑いが聞こえた。
「オーッホッホッホッホ! さあ先生、このユニコ・サマリーのスペシャルメニュー! とくと味わってくださいまし!」
ダイヤモンド寮のお嬢様、ユニコだ。どうやら早々と料理を完させて先生のところに持ってきたらしい。しかし何かとポンコツな彼、はたして大丈夫か? し心配になり俺も見に行った。
すると、先生が座る機に置かれていたのはなんと卵焼き。金髪ドリルお嬢様のユニコが作ったにしては意外にも庶民的である。しかもしっかりと形が整っていて切斷面がとろりとしている上に大葉が混ざり、かなりの完度だった。先生がそれを口に運ぶ。
「うん、味しいですね。さすがユニコさんです」
「とーっぜん! ですわー! このユニコ・サマリー、サマリー家の令嬢として研鑽を絶やしたことはなくてよ! オーッホッホッホー!」
ユニコは努力家の一面もあることで知られている。どうやら料理はその賜らしかった。いつもの取り巻きの3人は別の機で悪戦苦闘しているのが見えるので、彼らに作ってもらったというわけでもないらしい。
俺が見の生徒たちにじって心していると、ユニコが俺に気付いた。
「レイ様! どうですかわたくしの料理の腕前は! あなたさえよろしければ、そのぉ……ま、毎朝、ビシソワーズを振る舞ってあげてもよろしくてよ?」
ユニコはもじもじとしながら言い、周りの生徒はなぜかひゅーっとはやし立てた。俺には彼らの行がよくわからないしビシソワーズというものがなんなのかわからなかったが、彼の料理には興味があった。
「ああ、毎日は別にいいが、いただけるなら食べてみたいな」
返答すると周りの生徒がなぜか一層強くはやし立て、ユニコの顔に歓喜の笑みが浮かんだ。よくわからない反応である。
「そこまでおっしゃるのならば仕方ありませんわー! 腕によりをかけてレイ様にご馳走を差し上げますわー! オーッホッホッホッホーッ!」
ユニコはくるくる回りながら自分の機に帰っていった。俺は終始クエスチョンマークを頭上に浮かべていたが、ユニコの言は理解できたことの方がないので、今回もあまり気にしなかった。
一通り他の機を見て回り、俺は自分の機に戻る。すると班の皆も料理を終えていた。
中でも目を引いたのがリルである。
「どうだ! あたしの野菜いっぱい混ぜサラダ、マンドラゴラ風! リルのでたらめ調味料編!」
彼の前にでんと置かれたのは、ボールに大量の野菜を適當に切って適當に詰め、そこに巨大な大を突き刺し、ソースやらケチャップやらマヨネーズやらをぐっだぐだにかけたと思われる形容しがたいのを滴らせた一品。題名を忠実に再現していた。
「タイトル通りとは恐れったな……褒めてないぞ。ミーシャ、お前も見るな。これは悪い例だぞ、いいな」
「ふっふーんどうだレイレイ、天才シェフリルの腕前に言葉も出ないかな?」
「リルも現実から目を背けるな。ミーシャが真似したらどうすんだ、だいたいこんなの食材の無駄だろ! 食いを末にするのは心せんぞ」
「え?」
俺はリルに説教しようとしていたが、橫からぬっと手がび、なんとシルフィがそのおどろおどろしいモノを一口食べてしまった。
そしてさらに驚いたことに、シルフィはさもおいしそうに味わい、飲み込んだ。
「ん~っ、やっぱりリルちゃんの料理はおいしいわあ。私が教えただけあるわねえ」
「そうだろそうだろ! シルフィはいつもうまそうに食べてくれて嬉しいよ! ほらシルフィ、あーん」
「あー、んっ。うん、やっぱりおいしいわぁ」
今にも絶をあげそうなマンドラゴラ(仮)を前にしていちゃつく2人。俺とセイナとミーシャはそれを見てドン引きしていた。
「シ、シルフィちゃん、味オンチ……だったんだね」
「理解不能。理解不能。レイ、2人の行が理解できません」
「安心しろ、俺らもだ。本能的に、いやこのの機能的にあれはけ付けん……それが正常だ……」
もうリルとシルフィは放っておくことにして、俺はセイナとミーシャの料理を見せてもらう。
まずミーシャだが、見事にオムレツを作り上げていた。
「おお、やるなミーシャ。さすがだ」
「いえ、レイのものと比べ、形がかなり歪です。またセイナが言っていましたが、私のものは卵が完全に凝固してしまったとのこと。味わいはかなり落ちます」
「最初なら上等だよ、それより怪我とかはないな?」
「はい。大丈夫でした」
「それが一番だ、料理は安全に作るのが大事だからな。よくがんばった、ミーシャ」
「はい、ありがとうございます」
俺は自然にミーシャの頭をなでていた。だがセイナがニヤニヤと見ているのに気づき慌てて手を引っ込める。
「そ、それで、セイナのは……野菜炒めか」
「うん、ざーっとね。見た目はちょっとごちゃごちゃしてるけど、味には自信があるから食べてみて」
「そうだな、しいただくか」
「あっ、待ってくださいレイ、それは……」
俺はセイナが作った妙に見てくれの悪い野菜炒めからし取り、ぱくりと食べた。ミーシャが何か言おうとしていたがあまり気にしていなかった。
その途端。
「……味覚に障害発生。異常質を直ちに排除します」
俺は一瞬意識が飛び、魔科學兵のが勝手に喋り出す。そして。
「にレーザー照……ファイア!」
の防衛機能により、口のセイナの料理――天変地異級に不味いその料理は、俺の口で焼き払われたのだった。後で聞いたのだがレーザーかられたによる俺の顔全がったのでさながらジャック・オ・ランタンになり、教室中がぎょっとしていたらしい。
「……げはあっ!?」
「レ、レイ!? どうしたの!?」
「レイ、水をどうぞ」
なんとか正気を取り戻した俺はミーシャからけ取った水をけ取り一気飲みした。それでなんとか落ち著いた。
「ど、どうしたのレイ。調悪いの?」
「お、お、お前な……」
「レイ。セイナの料理ですが、私でもわかるほどに異が混しております。あれは料理とは呼べません」
「だろうな……」
忘れてた。すっかり忘れてた。俺はきょとんとするセイナの顔を苦々しく見つめた。
このセイナ、基本的に量よし格よしの才なのだが――なぜか家事全般、特に料理が壊滅的にダメなのだ。い頃、子供のセイナが作った料理では本気で死にかけたこともある。俺が料理上手になった一因でもあった。
「変なの、こんなにおいしいのに。まあいいや、先生にも持ってってあげよ」
「あたしらもそろそろ先生に持っかないとなー」
「やめろ。マジでやめろ、死人が出る」
天然のまま殺戮を繰り返そうとするセイナたちを俺は引き留めた。
料理音癡・味音癡に囲まれた俺はその後、必死になってなんとか先生の舌と命を守ったのだった。まさか今日初めて料理を知ったミーシャが最大の助けになるとは思いもしなかった。
「ミーシャ……もう一度、お姉ちゃんって言ってくれるか……」
「レイ、お姉ちゃん」
「ああ、それがせめてもの癒しだよ……」
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