《魔法兵にされたので學園にります ~俺は最強の魔兵~》第28話 學園長の告白、そして最期
來た時と同様に空を飛び、俺らはサブリナ魔法學園に戻ってきた。
學園の様子は一変していた。全が半明の四角い結界で覆われており、正門の外には全校生徒が避難してどよどよと學園を見つめていた。
「あっ、あれ!」
そのの1人が空の俺らに気付いて指差し、生徒や教師たちの視線が俺らへと集まる。ひとまず、セイナとイルオを抱えた俺と、自力で飛んできたミシモフは皆の前へと降り立った。
「レイ、どこに行っていたの。その人は?」
生徒の代表として立っていたシルリアが真っ先に駆け寄って問いかけてくる。他の生徒たちもいきなり空から降りてきた俺らに注目していた。
「先に聞かせてくれ、生徒たちはみんな避難したのか?」
「ええ、皆にはオニキス寮の仕業と説明したわ。でもオニキス寮生の大部分は『先生』が戻るまで待つと……」
とその時。
妙な魔力をじ俺が振り向くと、正門の前の空間が急に歪む。そして生じた空間の裂け目から、ごろごろと何人もの生徒たちがはじき出されてきた。その中にミニッツ・ペーパーやミア、メアの姿も見える。オニキス寮生たちだった。
「うっ……先生、なぜ!」
起き上がったミニッツがぶも、その時にはすでに空間は閉じていた。俺はミニッツに歩み寄る。
「ミニッツ、何があったんだ。今のは先生の空間魔法か?」
「……ああ、そうだ。私たちは先生に従おうとしたのだが……先生は有無を言わせずに私たちを外に出してしまった。あの結界も先生が張ったものに違いない」
「結界……か」
俺は學園を見上げる。學園全を覆う立方の結界は、たしかに學園長の空間魔法によるものに違いなかった。
「兄貴、どういうことだ。あれはなんの目的があるんだ?」
「うむ、どうやらあれは『死の』を外に出さないためのもののようだ。學園を預かるとしての最後の矜持といったところかな」
「死のから、生徒たちを守っているということか? 俺らを殺そうとしたあの人が?」
「あのも複雑なのだよ。もっとも邪魔ものをらせないためでもあるのだろうがな。説明は後にしよう、時間がないのでな」
學園長の思は気になるところだが、今はそれよりも、俺に対し疑の目を向ける生徒や教師たちへの説明が先だ。オニキス寮の仕業で學園が襲われていると聞かされていた生徒たちは、そのオニキス寮生たちが現れたことに明らかに揺していた。
時間もない今、皆にどうやって説明したものかと俺が悩んでいたその時、セイナが俺の肩を叩いた。
「レイ、ここは私に任せてレイたちは封印に向かって」
「セイナ……いいのか?」
「うん、どっちにしろただの人間の私はルインとは戦えないし、レイのお兄さんは部外者だから……みんなに説明できるのは私しかいないと思うの」
「わかった、頼む。兄貴も任せたぞ」
「ああ、レイ、ミシモフ、行くがいい!」
俺はセイナと兄貴に背を押され、ミシモフと頷き合って學園へと向かう。
「空間魔法、『リリース』!」
兄貴によって伝えられた空間魔法で結界を一部解き、俺たちは決戦の地へと向かった。
學園全が僅かに震え続けている。結界の中を奇妙な魔力が満たしている。
解放の過程なのだろうか、その封印は地下から地上に出てきている。あの封印があった地下のちょうど真上、中庭のど真ん中の地面が割れ、封印の巨石が出していた。幸いまだ封印は解けていないようだが、怪しげな魔力とが巖から零れ出ており、鎖も大部分が解けてしまっている。
そして中庭に辿り著いた俺らを、封印の前に立って迎えたのは――學園長。ただしその容姿はかなり変貌していた。
「ついに來ましたね。レイ……そしてミシモフ」
そう言って微笑むラルプリム學園長。ブラウンの髪を綺麗に切り揃えた、堀の深い顔立ちの人の彼。だがここに立ち俺を見るその顔は、明らかに若い。若すぎる。
元々學園長という立場にしては若い人だったのだが、今の學園長はどう見ても十代後半程度のに変わっていた。この異常事態でなければ學園長の娘といっても違和のないほどだった。
「あなたたち2人だけということは封印のことはもう聞いているようですね。まだ封印は解けていませんが、すでに弱い『死の』がれ出していますからね……」
「外の生徒や先生たちは、あんたの結界で守れてるということか……でもなんでだ? 封印を解き、世界を滅ぼそうとしているあんたがなぜ今更そんなことをする? それにその見た目は……」
「フフ……」
學園長は怪しげに微笑む。研究室で會った時よりも幾分か穏やかな笑みだった。
「これが私の素顔なのですよ。化粧はなにも己を若くしく見せるだけではなく、その逆にも使うもの。學園長の地位に就くにはこの容姿はし若すぎましたからね」
「……何者なんだ、あんた」
俺が問いかけると、學園長はなぜか視線をミシモフに移した。
「それは彼が知っていますよ。ねえ、魔神兵ミシモフ?」
魔神兵ミシモフ――そういえば兄貴はミシモフをそう呼んでいた。そして俺はハッと気が付く、あの封印の中にいる古代魔科學兵ルインもまた『魔神兵』と呼ばれていたことに。
ミシモフは一歩、前に出た。
「私は千五百年前、私が誕生した次代のことは覚えていません。ですが先程マスターによりアップロードされた報であなたのことは知っています」
やはりそうだ、ミシモフもまたルインと同じく千五百年前に作られた魔兵。兄貴はそれを改造しただけだったのだ。
そしてこの場にいる人間は、俺だけだった。
「ラルプリム・マ・シャークランド……いえ、魔神兵マキナ。あなたは魔科學兵ですね。私と同様、古代科學によって作られた、ルインの『ツヴァイ』」
學園長も魔兵だった。その事実に俺は驚愕する。そしてミシモフが口にした『ツヴァイ』という言葉の意味を聞き返した。
「ミシモフ、『ツヴァイ』とは?」
「雙子を意味する魔科學の用語です。意思を持つ魔兵というものは通常、その制のために二対一組で作られるものなのです。魔神兵マキナ、つまり學園長は元々、ルインを制するために作られた魔兵なのです」
「もっともルインは私の力なんかじゃ制できずに暴走し、結局私は役に立ちませんでしたけどね」
學園長はそう言って笑った。底の知れない人だとは思っていたが、その正は千五百年前に作られた魔科學兵だったのだ。
「ま、待てよ。學園長がルインを制するための魔兵なら、なんでその真逆のことをしてるんだ? あんたの目的は結局なんなんだ」
「フフ……いいでしょう。封印が解けるまで時間があります、その時間つぶしにでも話しましょうか」
封印はどの道解ける、ならばせめて戦う意味を鮮明にし、迷いなく立ち向かいたい、俺はそう考えていた。
學園長は封印をおしそうになでる。到底ルインを制する役目を負った存在とは思えなかった。
「そもそも、私は千五百年前、ルインが封印されてから無用となり……ミシモフと共に眠っていました。いつの日かルインが目覚める時のために破壊はされませんでした。そうして時が経ち、ルインの封印が弱まったことをじ取った私が目覚めたのはおよそ20年前のことです。私はすぐに使命をもとに封印を守るべくき出しました。人間としての名を得て、魔兵の能力を使って経歴を積み上げ、このサブリナ魔法學園の教員となり……オニキス寮を組織して、封印を維持し続けました。やがて學園長の座についてからも、です。老化を裝ったメイクはその時にに著けたのですよ」
ここまでは世界を滅ぼすルインを制するための存在としての行だ。もっともそれは封印を遅らせるだけで結局彼にはルインをすほどの能力はないようだった。
その時、「だが」と小さく呟き、學園長は笑みを消した。封印にれ、それを一心に見つめる。狂気すらじる視線だった。
「……私はルインの『ツヴァイ』、つまり雙子。その間近で行を続けるに、じ取ってしまったのです。ルインが抱くその膨大な黒いエネルギーを……怨念を、憎悪を!」
學園長からあの時のオーラが立ち上った。本を現した時の、邪悪な笑みと眼。離れているにも関わらず俺の背筋に悪寒が走る。怨念、憎悪、その言葉通りの黒い迫力が俺を威圧した。
學園長は口元を歪ませ、俺へと視線を向ける。
「あなた達は知らないでしょう、そもそもなぜルインが作られたのか、どうやって作られたのか。そのツヴァイたる私がなぜの見た目をしているのか! レイ、改造されたあなたの容姿もそうです! これは文獻には殘されていない、當事者の私だけが知る真実!」
その黒いのままに學園長は、いや魔神兵マキナはまくし立てる。そして言い放ったのは、恐るべき真実だった。
「ルインは元々、魔科學で作られた貴族用の玩人形だった! 人と同様にし、され、かつ人の都合のいいようにく人形! そのツヴァイたる私も同様の存在だった……だがやがて戦爭が起きた時、貴族は戦爭に勝つために、玩人形ではなく魔科學兵をし……私たちを改造した! 可能な限り強く、可能な限り多くの人間を殺せるように! そのためには、多くの素材を使えばいい! 幸い戦爭中、素材はいくらでも転がっている……『死』という素材が!」
死。俺は自分が兄貴のを使って改造されたことを思い出しゾッとした。だがルインの真実は俺の想像よりも遙かに上回る、あまりにも酷いものだった。
「貴族は魔科學により大量の死でルインを改造し、さらにエネルギーを出しルインに注ぎ込んだ! だが激化する戦爭の中、貴族はより強い兵を求めさらに改造を続け……やがて死も底をつき……! ついに、生きた人間をも、手當たり次第に材料にした!」
ぶ學園長から魔力がれ出す。それは封印から放たれるものと同種の魔力。それらは同調し、混ざり合い、圧倒的な負のオーラを持ちつつ膨張を続けていた。
「そうして生まれたのが魔神兵ルイン! 莫大なエネルギーと、あらゆる魔兵を越える能力と……數えきれないほどの人間の命と、怨念と、憎悪を持った兵! それがルイン! 人の業が生み出した、人を殺すためだけの存在!」
人を殺すために、人を殺して作り上げた最強の魔兵――あまりにも罪深い存在に俺は吐き気すらじた。まさにそれは兄貴が語った通りの、人の英知の結晶にして、愚かさの象徴といえた。
學園長は俺を見ていた。恐らく俺の背後には、『人間』そのものを見ていたのだろう。
「わかりますか? 人をし、されるために生まれた私たちが……人を殺し続ける存在になったその気持ちが……! 初めはルインを制するためにいていた私も、やがてルインの意思に侵され、それに同調しました。なんといっても私たちは姉妹ですからね……」
學園長がどこか悲し気に語った、その時。
「だが同時に課された使命を魔兵が忘れられるわけなく……お前の中には人類を守ることと滅ぼすこと、2つの意思が混在し続けたわけだ」
そう語りながら俺の後ろから、なんと兄貴が現れた。魔兵ルインが目覚めつつあるこの結界の中、人がるのは命を捨てるのに等しいというのに。
「あ、兄貴! ってきて大丈夫なのか? もう『死の』が……!」
「フン、私が今更死を恐れてどうする? 説明はもう済んだ、する弟と娘が戦うのに傍観できるわけなかろう! それよりもちゃんと前を見ろ。あの悲しい魔兵の姿をよく見ておくんだ」
兄貴は平然と笑うと學園長に顔を向ける。學園長は俺を見たのと同様、憎悪の視線を兄貴へと送っていたが――それはどこか悲しさも含んだ憎しみだった。
「そうだろう、魔兵よ。私はお前の出自は知らなかったが、お前の今の心はわかる! 學園を守りたいとレイに語った心、つまり學園長の面と、世界を滅ぼすルインの姉妹としての面。そのどちらもお前だ。この、學園を覆う結界が表しているようにな」
「ええ……その通りです。私も悩みました、相反する2つの心に……ですがもう遅い。封印が解けるのと同様、私の心も結局は滅びに向かっていたのです」
學園長はまた封印にれる。もう封印はほとんど解けかかり、脈打つように魔力とを放っている。
するとそれにれたところからなんと、學園長のは封印の石へと沈み始めていった。
「話は終わりです。後はもうルインが目覚め世界が滅びるだけ。私も役目を終え、その力の一端となり……世界を破滅へと導くでしょう。この結界も所詮は一時しのぎ。死ぬのがし遅くなるだけです。いずれにせよ、全世界の人間は皆、死ぬのですからね……」
ゆっくりと學園長のが封印に同化していく。半を封印に混ぜた學園長だが、その半分になった表には學園長としての最後の意思なのか、悲哀が滲んでいた。
「レイ。あなたは私のものから學び取った空間魔法を使えるでしょう。しでも皆が死ぬのを遅らせるため、この空間をけ継ぎなさい。それが私にできる、最後の……サブリナ魔法學園、學園長としての仕事です」
「……ああ、わかった」
學園長は殘った半から小さな魔法の球を飛ばし、俺がそれをけ取る。それによりこの結界の支配権が譲渡され、俺の魔力で『死の』から外界を守る結界が維持された。
學園長のはどんどん封印に、ルインに呑まれていく。するとその邪念をも取り込まれているのか、學園長は穏やかな表を取り戻していた。
「ミニッツや……オニキス寮生たちには悪いことをしました。私はどこまでも無力な存在です。結局私は生徒たちのためにも、そしてルインのためにも……何も、できなかった……」
最後に學園長は俺と目を合わせた。
「レイ。ルインと戦うのですね。きっとその戦いの果てが人類の未來そのものとなるでしょう……滅びか、それとも……せめて最後に……あなたたちの勝利を……祈って……ます……」
その言葉を最後に――學園長は完全に、封印の中へと消える。
學園長を飲み込んだ封印は一瞬、沈黙する。だがやがてどくん、どくんという鼓にも似た音と共に、その全から不気味な魔力とを溢れだしていく。
「さあレイ、ミシモフ、ついにルインが目覚めるぞ。覚悟はいいな?」
「ああ、もちろんだ。戦うさ、兄貴が作ったこのと、學園で學んだ魔法でな!」
「私も……マスターの、悲願のために」
激しい魔力の渦の中、俺らは戦いの覚悟を決めた。どうあがいても勝つしかないのだ、全全霊で立ち向かう。人類の、俺らの未來のために。
やがて、まばゆいと――封印が、解き放たれた。
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