《人喰い転移者の異世界復讐譚 ~無能はスキル『捕食』でり上がる~》13 強、帝國より來たりて
ゴリュッ、ガリッ、ガ、ギギギ……!
「あ、あ……? な、なん、これ……」
磯干は何が起きたのかも理解できないうちに絶命し、ウルティオの糧となった。
咀嚼を終え、捕食口が閉じるまで、巨大な斧を持った正不明のアニマはこうとはしなかった。
むしろ、興味深そうに捕食の様子を観察している。
「大した敵が居なくてがっかりしてたけど、殺しがいのありそうなやつがいるじゃん。キシシシシッ」
「誰?」
「これから死ぬってのに、自己紹介の必要ある?」
そう言って、斧を構えるアニマ。
「一応、名乗っておいてやるか、お前は面白そうだからな。あたしの名前はキシニア、そんでこのくるしいアニマはアヴァリティア。王國にアニマ使いが大量発生したって聞いて、狩りにきた帝國の人間さ。で、そっちは?」
「名前は岬、アニマはウルティオ」
「そか、ミサキな。一応名前だけは覚えといてやるよ」
「もうひとつ聞いてもいいかな」
「冥土の土産ってやつ? いいぞ、あたし様は優しいから聞いてやる」
「もしかして、他のアニマも殺したの?」
「もちろん、とっくに……何だったかな、忘れたけど、その辺に居た連中は殺してるよ」
……だめだ。
そんなのは、だめだ。
許されていいわけがない。
だってそいつらは、僕が殺すはずの、憎きしき復讐の対象だったんだから!
「おー、すごい殺意。もしかしてお前が殺したかったのか?」
「そういうことだよ……ヴァジュラ!」
広瀬、ありがたく使わせてもらうよ。
部裝甲展開、夜空に曬された球から極大のエネルギーを放する。
同時に変裝が解除、ウルティオが本來の姿へと変わる。
「うわっと!」
アヴァリティアはそれを斧でガード。
普通なら防できるものじゃない、けど――あの斧は、そしてあのアニマは普通じゃなかった。
部から放たれた極太のビームは斧によってせき止められ、二手に別れてアヴァリティアの斜め後ろへとけ流される。
「キシシ、やるじゃん。見た目もすげー変わってるし、やっぱ他の連中とは違う、あんたとなら楽しめそうだ」
戦闘狂のテンプレートみたいな臺詞だ。
みたいに真っ赤なアニマと兇悪なフォルムの斧を見る限り、まさにテンプレ通りなんだろうけどさ。
「さて、こっちからも行かせてもらうぜぃっ!」
アヴァリティアが駆け出し、一気に距離を詰めてくる。
――早い!
なるほど、こりゃ磯干のアニマ程度じゃ遊ばれるわけだ。
ブォンッ!
振り降ろされた斧をサイドステップで回避。
ダメージはけない……と思いきや、次の瞬間に僕はバランスを崩して地面を転がっていた。
「ダメダメ、ギリギリで避けたぐらいじゃパラシュラーマの威力からは逃げられねえぞ!」
「ぐっ!」
再び振り下ろされた斧を、転がりながら回避する。
ゴオオォッ!
しかし、再びウルティオのは吹き飛ばされていた。
衝撃波だ。
れずとも、その衝撃波だけでアニマを吹き飛ばすほどの威力――つまり、あれを一度でもまともにけてしまえば、間違いなく助からない。
「と、ど、めぇっ!」
文字通り必殺の一撃を叩きつけようとするアヴァリティア。
「アグニ!」
手のひらから放つ炎を相手の顔へと吹き付ける。
出來たのは一瞬の隙。
それを僕は見逃さず、さらに頭部ソーサリーガンで追撃を仕掛けながら距離を取った。
「ガーンデーヴァ、展開」
「とおおりゃあああぁぁぁぁあっ!」
さらに距離を取りつつ腕部のクロスボウを展開、その間にアヴァリティアはこちらに駆け寄ってくる。
スピードはあちらの方が上、けど――
パシュン……ガンッ!
こちらが放った矢を、あちらは斧で防がなければならない。
その時、どうしてもスピードは落ちる。
つまりウルティオがひっきりなしに遠距離攻撃さえしていれば、距離を詰められることはないと言うこと。
さらに、こっちには切り札だってある。
「ヴァジュラッ!」
冷卻を終えた部大出力ソーサリーガンを再び放つ。
アヴァリティアは、今度は斧でけ止めず避けようとするものの、ビームが彼の肩を焼いた。
「ぐっはぁ、すげえ威力……キシシシ!」
HP削れてるはずなのに、なんで楽しそうなんだか。
遠距離武裝を駆使するウルティオと、圧倒的耐久力を誇るアヴァリティアの攻防は、ウルティオ優位で進んでいるようにも見えた。
けど、確実にHPを削ってるはずなのに、相手はまったくそんな素振りを見せない。
むしろあまりヴァジュラを多用していると、こっちのMPの方が先に盡きてしまいそうだ。
だからといって、あの相手に近接戦闘を挑むなんて無謀な真似は僕には出來ないし――
「うーん、やられてばっかりってのも飽きてきたな」
飽きたと言われても、他に戦い方が無い。
どうやらアヴァリティアは遠距離武裝を持たないらしい。
あの斧一本しか武裝がない代わりに、出力のステータスがずば抜けて高いってことか。
でも――だとしたら、なんでクラスメイトたちは為すもなくやられていったんだ?
僕と同じような戦い方ができれば、逃げ切れる奴だって居たはずなのに。
「そろそろ攻めに転じるか……スキル発ブート、は引力ホールドオンミー」
と、僕が考え込んでいるうちに、アヴァリティアがスキルを発していた。
何が來る――と構えていると、次の瞬間。
目の前に、アヴァリティアの顔があった。
「は?」
あまりの驚きに、そんな聲を出すことしか出來ない。
何が起きた? どうして僕の傍に、アヴァリティアがいるんだ?
まさか……瞬時に引き寄せられたのか、そういうスキルだってことか!?
それに気づくよりも早く、アヴァリティアが斧を振り上げる。
まずい、死ぬ――そう思った瞬間、僕は反的に拳を突き出していた。
まだ使っていない武裝がある、これなら彼の意表をつけるはず。
「これで、終わりだぁッ!」
「っ、シヴァージーッ!」
斧が落ちてくるよりも早くウルティオの拳はアヴァリティアのにれる。
ズドンッ!
そしてパイルバンカーのように手甲剣が飛び出し、相手の機を吹き飛ばした。
「けほ……っ!」
腹を抑えながら後退するアヴァリティア。
僕もすぐさま後ろへ下がり、さらに距離を取った。
……危なかった。
シヴァージーまで相手に知られていたら、今ので確実に死んでいた。
けど、次はどうする?
は引力ホールドオンミーとか言ってたけど、あれはおそらく範囲のアニマを自分の周囲に引き寄せるスキルだ。
あんなスキルを持っていたから、他の連中は逃げられなかったんだ。
再びすぐあのスキルを使えるのだとしたら、今度はシヴァージーも対策されてしまうだろう。
最後の手札を見せてしまった僕に、次の反撃の手段は殘されているのか――
「キシ、キシシシッ! あたしさ、今回の任務は雑魚だらけでハズレクジを引いたと思ってがっかりしてたんだ。でも、あんたみたいな奴が居たなら來た甲斐もあったってもんだ。なあミサキ、次はどんな手を見せてくれるんだ? どうやってあたしの攻撃を躱してみせるんだ? キッシシシシシシッ!」
次の手なんて無いっての。
磯干から得られた武裝もスキルも何も無いみたいだし、上がったのは能力だけ。
そして、能力が上がった所でアヴァリティアのスペックには屆かない。
出來ることなんて、距離を取りながらガーンデーヴァで牽制して、引き寄せられたら至近距離でヴァジュラを放つことぐらいだ。
けどそれも、おそらく一度きりしか使えない。
「さあいくぜえ、もっとあたしを楽しませ……ん。すん、すんすん」
と、アヴァリティアが足を止め、匂いを嗅ぐような仕草を見せる。
何だ、何をしてるんだ?
「うげ、この匂い……”王の城壁”が來ちまったか」
「おおおおおぉおぉぉおおおおおおおッ!」
キシニアの聲の後、僕の背後からどすの利いたの聲が聞こえてくる。
振り返ると、そこにはアイヴィの駆るレスレクティオが接近してくる姿があった。
僕は大慌てで姿を元のウルティオの狀態に戻す。
「あれの相手は厄介なんだよなあ……負けやしないんだけど勝てないっていうか。仕方ない。ミサキ、今日のところはここまでだ。次に殺しあえる時を楽しみにしてるからな!」
「待て、キシニアァッ!」
因縁でもあるのか、幸いなことにアイヴィはアヴァリティアにしか興味が無いみたいだ。
まあいい、チャンスだと思って今のうちに撤退することにしよう。
復讐の相手が減ってしまったことは嘆くべきだし、キシニアを許すつもりは無いけれど、死んでしまえば復讐を遂げることも出來ない。
落ち著け、憤るな、まだクラスメイトは20人以上殘ってるんだから。
レスレクティオがアヴァリティアと追跡劇を演じている間に、僕はその場を離れ、アヴァリティアに仕留められたアニマたちを探した。
あまり時間はない、カプトに戻ってくるのが遅ければ僕だって怪しまれてしまう。
結局、見つかったアニマは計3。
鴨腳いちょうのネブラ、魚屋うおやのゲルーに、敷島しきしまのウェルテクス。
磯干のを含めて計4、元のステータスが大した事が無いためあまり上昇値は機できなかったが、新たなスキルと武裝を得ることに功した。
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名稱 ウルティオ
武裝 頭部ソーサリーガン
腕部火炎放銃:アグニ
腳部凍結機構:フリームスルス
非実剣:ソーサリーサーベル
実手甲剣:シヴァージー
実弓:ガーンデーヴァ
部大型ソーサリーガン:ヴァジュラ
スキル 親なる友スウィンドラー
卑劣なる俯瞰者ライフトーチャー
正義の味方ブレイバー
霧に消える悪意ソーサリーチャフ
能力 Lv.36
HP  32200/36800
MP  15800/29700
出力 2910
機 3760
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けど、おそらくまだアヴァリティアには勝てない。
し戦っただけなのにMPの消費が激しすぎる。
それ以上に今の出力と武裝の數じゃ、アヴァリティアのHPの高さとスキルに対処できない。
彼に屆かないということはつまり、僕の復讐の大きな壁となるであろうレスレクティオにも屆かないということ。
もっと喰わないと、もっと殺さないと、復讐を完遂することすらできない。
戦場なら……たくさん喰うことが出來るかもしれない。
けど、夜間訓練が中斷になってしまった以上、前線送りはまた先延ばしか?
だとすれば、どうやって外へとい出し、気づかれないように喰うか。
また作戦を練らないとな。
まあ、とりあえず今は――カプトに戻って赤羽に會いに行こう。
籠絡の、最後の仕上げをしないと。
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