《人喰い転移者の異世界復讐譚 ~無能はスキル『捕食』でり上がる~》15 共犯者
広瀬の死から一週間が経過したころ、噂はさらに蔓延し、ついに百合に実害が及ぶようになった。
かつての僕と同じように、彼は”いないもの”として扱われ始めたのだ。
話しかけても反応は無く、ただ悪意のこもった視線だけが向けられる。
百合は宿舎に蔓延する空気を察してか、めっきり部屋から出なくなっていた。
部屋から出るとしても、その隣には必ず僕が居る。
広瀬を失って傷ついた彼には、クラスメイトから向けられる冷たい視線は耐えられるものでは無かった。
今まで勝ち組としての人生を送ってきた彼は、他人から冷たくされることなんてほとんど無かったろうし。
僕は慣れっこだから平気だけどさ。
「なんでみんな、私の事をあんな目で見るんだろう」
すっかり意気消沈した百合は、ぼやくように言った。
ベッドの上で僕に背中から抱きしめられながら座り、不安を和らげるためか前に回された手を握る。
もし僕が居なかったら、とっくに彼は潰れてしまっていたかもしれない。
もっとも――僕が居なければ、広瀬が死ぬこともなかったわけだけど。
「考えすぎたらダメだよ、どうせ一過のものなんだから、我慢したらあんな下らない噂なんてみんな忘れるって」
「そう、かな」
「そうだよ、百合が広瀬くんのことを大事に思ってたことなんて、みんな知ってることなんだから」
知っているからこそ――『広瀬の浮気に腹を立てて殺した』なんて噂が立ってるんだけど。
浮気の相手は、すでに死んでいる子生徒。
與太話だ、そんなのはゴシップ好きの子が勝手に妄想して考えたシナリオに過ぎない。
けれど、當事者はもはや存命しておらず、噂の正否を確かめるはあの世にでも行かない限り存在しなかった。
つまり裁定は、當事者以外の主導権を握る人間に委ねられる。
この場合、流れを摑んでいるのは百合ではなく、彼に悪意を持って接する何者か――金持あたりってことになる。
僕の予想が正しければ、このまま放っておいて事態が収束することはないだろう。
しかも百合の味方は、よりにもよって僕なんだから。
これが桂だったら金持も手を出しにくいだろうけど、僕ならむしろ手を出さない理由が無い。
翌日。
案の定、金持たちのグループが百合に対して危害を加え始めた。
的には、一人になった所を狙って足を引っ掛けたり、聞こえる場所で悪口を言ってみたり。
まだまだ僕がされたことに比べれば可いものだ。
けれど、それは百合にとって初めての験であり、耐の無い彼にとっては耐え難い屈辱だったようだ。
彼の頼る相手は僕しか居ない。
僕はひたすらに二人きりの部屋で、涙を流す彼を抱きしめて、「大丈夫、僕が居るから。僕の傍に居れば大丈夫」と優しく囁き続けた。
しかし、いくら大丈夫だと言い聞かせたところで、事態が好転することはない。
僕が思うに、この時點での正しい対処法は、桂を使って嫌がらせを止めさせることだ。
力にはさらに大きな力で対処する。
綺麗事なんて必要ない、それが最も正しい方法なのだと、歴史だって教えてくれている。
つまり、力づくで止めない限り、行為はエスカレートし続ける。
僕はそれを理解した上で、ただただ百合をめ続けた。
すると百合に対する嫌がらせはさらにエスカレートし、金持グループだけでなく他のクラスメイトたちにも伝染しはじめた。
止めるべき立場に居るはずのアイヴィも、事後処理や今後の打ち合わせで忙しく、僕らに構っている余裕はない。
いつもなら気づくであろう桂も、広瀬が死んだショックからかひたすらトレーニングに打ち込んでいて気づきそうにない。
もはや百合にとって、僕以外のほぼ全員が敵だった。
ちょうどその頃、僕たちはを重ねることを覚えた。
いい加減に言葉でめるのも飽きてきたので、試しに押し倒してみたらあっさりと倒れてしまったのだ。
そのまま服をがしても、恥ずかしそうに顔を赤らめるだけで抵抗は見せない。
むしろ嬉しそうな顔を見せられる始末。
僕もはじめてで、百合もはじめてだった。
はじめて同士が、しかも同同士でを重ねるとどうなるかと言うと――これがまあ、驚くほどのめり込んでしまって。
らかなに、優しげな暖かさ、そして鮮烈な快楽は、まるで本當にそこにがあるんじゃないかと錯覚してしまうほど甘だった。
百合は言う、「抱き合っている間は嫌なことを忘れられる」と。
拒む理由も無かったので、日によっては食事以外で部屋から出ることもなく、僕らは四六時中互いを求めあった。
無論、それだけ好き勝手にやりまくっておいて周囲にバレないわけがなく。
以降、僕たちに向けられる罵倒ワードに『変態』や『気持ち悪い』が加えられた。
それ自はさほど問題じゃない。
最大の問題は、ワードが追加されたのとほぼ同時に、枷が外れたように金持たちのいじめは激化していったことだ。
きっかけはそれだけでなく、水木先生がいじめに參加し始めたことにもあるんだけど。
ただ歩いているだけで背中から蹴飛ばされたり、洗濯をハサミで切り裂かれたり、夕食の熱々のスープを頭からかけられたり。
「男の良さを教えてやる」と言って貧相なアレを見せつけられたり、斷ったら暴行を加えられ――それを見ていると、かつての僕を思い出すようだ。
金持たちは桂やアイヴィの視線を避けてうまくやった。
そして僕は、事ある度に必ず百合をかばった。
百合のを抱きしめ、暴力を肩代わりし、頼れる人を気取ったのだ。
に殘った傷跡や青あざを見るたびに百合は表を曇らせ、「ごめんね」と謝る。
僕が「大丈夫、百合を守った勲章と思えばこれぐらい」と返すと、彼は泣いて「ありがとう」と僕に抱きついた。
そんなやり取りを繰り返すたび、僕たちの結びつきは強くなっていく。
鎖のように絡みつき、二度と、何があっても・・・・・・離れられない絆へと変わっていく。
広瀬の死からおよそ2週間ほどが経過したころ。
訓練が再開したため、金持たちが手を出す頻度はなくなった。
そんな現狀に歯がゆさを覚えた金持は、回數が減った分、さらに過激な手段を使うことを思いつく。
早速実行するために、階段から降りようとする僕と百合の背後に近づき――ドン、と僕の・・背中を突き飛ばした。
その頃、金持は百合本人ではなく、僕に危害を加えたほうが効果的だということに気づき始めていたのだ。
だから、被害者は僕だった。
が宙を舞い、階段から転がり落ちていく。
おどり場でくなくなった僕を見て、金持たちは笑いながら去っていった。
百合は必死の形相で僕に近づき、を揺さぶる。
実は、僕に全く怪我はない。
アニマの影響で能力が上がっており、階段から落ちたぐらいじゃ傷すら負わなくなっていたのだ。
けれど僕は、あえて百合のを煽るために痛がって見せ、共に醫務室へと向かった。
醫務室と言っても醫者が居るような部屋ではなく、処置用の椅子やベッドと、薬品や包帯なんかが置いてあるだけの部屋だ。
「はぁ……死ぬかと思った」
ベッドに腰掛け、本當は全く痛くもない足首に包帯を巻いてもらいながら、僕は神妙な顔でそう言った。
百合は包帯を巻くだけでもたついている、恐怖で手が震えているせいだ。
自分のに迫りつつある危険よりも、僕の命が奪われることを恐れている。
彼はもはや、僕の思うがまま。
「そんなに軽く言わないでよ、打ちどころが悪かったら本當に死んでたかもしれないんだよ!?」
「軽くなんて無いよ。でも、被害をけたのは僕だけだし、百合に怪我が無くて本當に良かった」
「私なんてどうでもいいのに……岬さえ無事なら、私は……」
「僕も同じ気持ちだよ、百合さえ無事なら、僕なんてどうなってもいい」
我ながら鳥が立つほどこっ恥ずかしい臺詞を言いながら、頭をでる。
頭をでられるのを拒む子も居るって言うけど、百合の場合はこれだけでころっと墮ちてくれる。
目が潤み、が紅しはじめる。
僕は今の百合の狀態を、発と呼んでいる。
実際、こうなった彼は、僕の要求を、どんなに恥ずかしいことでも素直にけれてくれた。
――例えば、百合に向かって口を開いて舌を見せつける。
すると彼は、躾けられた犬のように反的に顔を近づけ、僕の舌にしゃぶりつき、そのまま深い口付けをわす。
舌で口腔を躙すると、小刻みに鼻がかったぎ聲をらした。
「っは……ぁ……岬が死んじゃったら、こうやってキスすることもできなくなっちゃう」
「それは僕も嫌だな」
「うん、私もいや。だから、どうにかして止めないと」
呼吸は荒く、は汗ばみ、目の焦點も合っていない。
百合は酩酊めいていし、陶酔とうすいしていた。
今なら――たぶん、彼は、僕のどんな言葉でも良いように解釈してくれる。
仮に、僕が本音を曬したとしても。
「本當はさ、金持のこと……邪魔だと思ってるんだ、消えてしまえばいいって」
「岬が?」
「だって、やっぱり毆られたら痛いし、悪口を言われれば気分は悪いし、居なくなってしまえばいいって、何度も考えたことがある」
「意外だな……岬は優しいから、そういうこと考えないと思ってた」
「こういうの、聞きたくなかった?」
「ううん、岬の知らない一面を見れて嬉しかったし、怒ってる岬は……その、すごくかっこよかった、かな」
ほらね、見たことか。
「でも、どうやったら……ん、止められるのかな……」
斷りもれずに服越しに房にれみしだくと、百合の聲と表がとろけていく。
酔いが醒めないよう、彼のの熱を保ちながら會話を続けた。
「止める方法が、一つだけある」
「んぁ……そんな方法が、あるの?」
「うん、一番簡単で、シンプルな方法が」
百合のスカートをめくり、太ももに指を這わせる。
彼は「はっ、はっ、はっ」と小刻みに熱のこもった呼吸を繰り返した。
興しているのは明らかで、もはや正常な判斷力を期待出來る狀態でもなく、だからこそ僕はそんな彼の耳元で――トドメの一言を囁いた。
「殺せばいい」
「は……」と、百合の呼吸がしだけ止まる。
若干興から醒めたように瞳がを取り戻すのを見て、僕はすぐさまを奪い、舌を絡めて理を奪い取った。
を離した百合は、再びとろんとした瞳に戻っている。
唾が口と口の間につぅ、と糸を引いて消えた。
「百合のアニマ――イリテュムのスキルは何だったっけ?」
「分、だけど……」
「スキルはによっては生の狀態でも使える、だったよね」
「うん……この前、それを使って岬に々させられたから、知ってるよ」
「その力と、僕が折鶴からけ継いだ変裝の力があれば、人間1人ぐらいなら、怪しまれずに殺せると思うんだ」
「で、でも……」
百合のが強張っている。
ここまで僕に溺れいても、殺人への抵抗は消えないか。
けど――
「大丈夫、僕がついてるから」
幾度となく繰り返してきた言葉を告げると、百合のから力が抜ける。
一種の暗示だ。
僕が傍にいればどうとでもなる、僕の言うことさえ聞いていれば幸せになれる、彼はそれををもって経験してきた。
それは百合のに、脳に染み込み、彼はその言葉を聞いただけで反的に信用してしまうほどになっていた。
「金持さえいなければ、もう嫌な思いをしなくて済むはずなんだ」
「そう……だけど」
「前みたいに誰にも邪魔されずに、一日中ベッドで抱き合うこともできるかもしれない」
百合の溫が上がったのをでじる、あの日のことを思い出しているみたいだ。
甘い記憶は、正常な判斷力を更に奪い取る。
「金持さえ殺せば、幸せになれる」
「幸せに……」
「金持を殺すのは、僕と百合の未來のためだ」
「未來の、ため」
「金持を殺さなきゃ、僕が殺されるかもしれない」
「岬が……やだ、そんなのはやだっ!」
白詰岬の死という言葉を聞いて、子供のように取りす百合。
僕はそんな彼の頬に手を當てて、しっかりと目を見て、親が子を諭すように言った。
「なら、一緒に金持を殺そう。ね?」
その言葉は、百合の心にすぅ、と染み込んでいった。
抵抗なく、あたかも本當に正しいことであるかのように。
いや、なくともこの瞬間、百合にとっては間違いなく正しいことだった。
殺されるかもしれないから、先に殺す。
この理屈のどこに間違いがあるのかと、疑う余地すらない。
「……うん。一緒に、金持を……殺す」
百合はこくりと頷き、金持の殺害を宣言した。
そんな彼の事を、僕は初めて――心の底から、おしいと思った。
我慢できず押し倒すと、彼のはあっさりとベッドに沈む。
ああ、沈んでいく。
も、心も、取り返しのつかない所まで。
く、くく、いひひひひっ、あははははははっ!
僕の腕の中でを跳ねさせる愚かで不憫なを見て、僕は心の中で高らかに笑っていた。
じょっぱれアオモリの星 ~「何喋ってらんだがわがんねぇんだよ!」どギルドをぼんだされだ青森出身の魔導士、通訳兼相棒の新米回復術士と一緒ずてツートな無詠唱魔術で最強ば目指す~【角川S文庫より書籍化】
【2022年6月1日 本作が角川スニーカー文庫様より冬頃発売決定です!!】 「オーリン・ジョナゴールド君。悪いんだけど、今日づけでギルドを辭めてほしいの」 「わ――わのどごばまねんだすか!?」 巨大冒険者ギルド『イーストウィンド』の新米お茶汲み冒険者レジーナ・マイルズは、先輩であった中堅魔導士オーリン・ジョナゴールドがクビを言い渡される現場に遭遇する。 原因はオーリンの酷い訛り――何年経っても取れない訛り言葉では他の冒険者と意思疎通が取れず、パーティを危険に曬しかねないとのギルドマスター判斷だった。追放されることとなったオーリンは絶望し、意気消沈してイーストウィンドを出ていく。だがこの突然の追放劇の裏には、美貌のギルドマスター・マティルダの、なにか深い目論見があるようだった。 その後、ギルマス直々にオーリンへの隨行を命じられたレジーナは、クズスキルと言われていた【通訳】のスキルで、王都で唯一オーリンと意思疎通のできる人間となる。追放されたことを恨みに思い、腐って捨て鉢になるオーリンを必死になだめて勵ましているうちに、レジーナたちは同じイーストウィンドに所屬する評判の悪いS級冒険者・ヴァロンに絡まれてしまう。 小競り合いから激昂したヴァロンがレジーナを毆りつけようとした、その瞬間。 「【拒絶(マネ)】――」 オーリンの魔法が発動し、S級冒険者であるヴァロンを圧倒し始める。それは凄まじい研鑽を積んだ大魔導士でなければ扱うことの出來ない絶技・無詠唱魔法だった。何が起こっているの? この人は一體――!? 驚いているレジーナの前で、オーリンの非常識的かつ超人的な魔法が次々と炸裂し始めて――。 「アオモリの星コさなる」と心に決めて仮想世界アオモリから都會に出てきた、ズーズー弁丸出しで何言ってるかわからない田舎者青年魔導士と、クズスキル【通訳】で彼のパートナー兼通訳を務める都會系新米回復術士の、ギルドを追い出されてから始まるノレソレ痛快なみちのく冒険ファンタジー。
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