「ふざけんなよマジで……！」

アテにしていたガチャが思いのほかひどいという結果に、菩薩と呼ばれたことがあるような気がする俺もさすがにブチ切れた。

握りしめた木の棒を思いきり地面に叩きつける。

木の棒はポキリと折れた。

「ふーっ、ふーっ、ふーっ……。いや、落ち著け俺」

こんなことで大事な（？）木の棒を末にしてはいけない。

木の棒だって立派な資源だ。

武にはならないかもしれないが、ないよりはマシだろう。

「……よく見たらけっこういい木だな」

持ち上げてみると軽く、よく乾燥している。

薪などに使う分にはなかなか良さそうだ。

ガチャの外れ枠にしてはひどいけどな！

「あ、そうだ」

そういえば、観察眼のスキルがあるのを忘れていた。

観察眼のスキルを発させ、試しに木の棒を見てみる。

木の棒

木の棒のすぐ上に、そんな文字が表示されていた。

周りの木や植も見てみたが、特に何かが表示されるということはない。

「……うん」

俺は観察眼のスキルを解除する。

なんかもう々とダメな気がしてきた。

「そういえば、霊石はいくつ減ったんだ？」

ガチャを引くのに必要な霊石の數は、どこにも書かれていない。

霊石の數を確認してみると、しっかり３つ減っていた。

消費數３０分の１が発していたとすると、一度のガチャで使う霊石の數は３０個ということになるか。

「え。ということは、石３０個で木の棒１本分の価値しかないのか……？」

この世界における霊石の価値に疑問が出てきた。

ジンバブエドルみたいなものだったら、神の眉間にデコピンの一発でもぶち込まなければ気が済まない。

だが、俺の召喚方法が間違っている可能もある。

判斷するのはまだ早いか。

というか、そうでも思っておかないと発狂しそうだ。

SAN値の減りが激しすぎる。

とにかく、この世界のことがまだ何もわからないのが問題だ。

早く人がいるところに行かなければ。

「なんだ？　が重い……？」

そう思い歩き出すと、大きな倦怠が全を包んでいることに気づいた。

一歩歩くだけでも一苦労だ。

ずっと引きこもりだったせいで、ここまで力が落ちるものだろうか。

さすがに一歩踏み出しただけでこれでは、水や食料を見つける前に干からびて死ぬのではないか。

「あ」

これはもしかしてアレか。

魔力切れというやつか。

ガチャを回すにも魔力が必要なのだろうか。

可能はある。

クソ、こんなことなら三回もガチャを回すんじゃなかったな……。

全部木の棒だったし……。

重いに鞭を打ち、なんとか歩き始める。

考えてみれば、こんな森の中を一人で歩くのは初めてかもしれない。

最近はともかく、小學生の頃はよく友達と一緒に冒険に出かけたものだ。

だが、ここは現代の日本などよりもはるかに危険な異世界。

いつどこでどんな生が現れても不思議ではない。

ある程度の警戒をしながらも、先へ進む。

不意に、森が開けた。

「道があるな」

森の中に、明らかに人工のものと思われる道があった。

人工といっても地面はただの土だが。

幅は十メートルくらいだろうか。

結構な広さだ。

道のど真ん中に出てきてしまったので、左右にそれぞれ道がびている。

どちらの道もかなり長いのか、遠くのほうは見えない。

右と左、どちらに進むべきか。

道が続いているということは、この先に人が住んでいる場所があるということだ。

二つの道がどこに続いているのかわからない以上、悩むだけ無駄か。

俺がそんなことを考えていた、そのときだった。

「きゃぁぁあああああ！！！」

大きなび聲が木霊した。

の聲だ。

人が見つかったのはありがたいが、何かトラブルに巻き込まれているようだ。

慌てて聲の主を探す。

「なんだありゃ？」

聲のした方をよく見ると、何か籠のようなものが転がっている。

その近くで、が一人うつぶせで倒れていた。

「ひっ……！」

そして、何か植の蔓のようなものがのに絡みついている。

どうやら道中であれに襲われたようだ。

蔓の元は森のほうへと続いていた。

おそらく、この世界特有の生の仕業だろう。

蔓に絡め取られながら、彼のは森の方に向かっていていた。

まるで何かが彼を森の中へ引きずり込もうとしているかのような、ゆっくりとした不自然なきだ。

「たっ、助けてください！！」

俺の姿を見つけたが、必死の表でぶ。

放置しておけば彼がどんな目に遭うのか、容易に想像がついた。

見過ごすわけにはいかない。

「待ってろ！」

のもとに駆け寄り、蔓を握って引っ張った。

しかし、蔓はビクともしない。

そうしている間にも、のはどんどん森のほうへと引きずられていく。

「あぁ……嫌っ！」

「チッ、ダメか！」

の悲痛なび聲に、俺の表も強張る。

圧倒的なパワーを持つ化けに、俺みたいな引きこもりが敵うわけがない。

正攻法では無理だ。

ならばどうするか。

「……！　そうだ！」

どうか、何かわかりますように。

そんな祈りを込めて、俺は観察眼を使った。

テンタクルフラワーLv.6

弱點：火屬

強いに弱く、日中はきが鈍くなる。

観察眼Lv.1でも、それの名前とだいたいの弱點くらいはわかるようだ。

そして、今はそれがわかれば十分だった。

たしかに、ここは木のになっている。

強いに弱いというのなら、突破口はある。

「――召喚」

「えっ？」

その言葉を唱えた瞬間、俺の右手が眩いを放った。

それと同時に、のを引きずっていた蔓のきがピタリと止まる。

本來の召喚とはかけ離れた使い方だが、仕方ない。

価値のわからない霊石よりも、の命のほうがはるかに大事だ。

「よし、これで！」

俺は再びに絡みついた蔓を取ろうとしたが、なかなかうまくいかない。

だが足元に、一本の剣が落ちているのに気が付いた。

石の剣

何の変哲もない、ただの石剣だ。

しかし、それは俺にとって重大な意味を持つ。

俺がガチャで召喚できるのは、木の棒だけではなかったのだ。

「あいッ変わらずのドブガチャだな！　けどこれなら……！」

拾い上げて蔓を切り付けるが、石の剣というだけはあって無駄に重く、切れ味はまったくと言っていいほどない。

だが、切るだけが剣の使い方ではない。

俺はそれを、道を這っているテンタクルフラワーの蔓に向けて思い切り叩きつけた。

「ギエェェェェェェェェ！！」

遠くのほうから、おぞましい聲が聞こえてきた。

同時に、を縛っていた蔓の拘束が緩む。

「今だ！　走れ！」

「はっ、はい！」

の手を握りしめて、俺は駆け出した。