《召喚チート付きで異世界に飛ばされたので、とりあえず俺を転移させた神さまを召喚することにしました》第29話 ルナさまつょぃ

「やっぱり、これくらいの魔が相手なら全然問題なさそうね」

謎の魔法でスライムを殺しながら、ルナはそんな結論を出していた。

三人分の宿を予約し、適當なランク1の依頼をけてから來たのは、昨日來た草原の近くにあった森だ。

宿は三人部屋でいいのかという俺の疑問に対して、ルナからは「別にいいんじゃない?」という適當な返事を、フィンからは「これまでも二人で一緒に寢てましたし、大丈夫ですよー」という優しさに溢れた返事を頂いた。

懐事が厳しいというのもあるので、素直にお言葉に甘えておくことにしたのだ。

そんなわけで、今日は草原でレタス狩りをした後、森でスライムを狩るプランを立てていた。

深い森の奧には迷宮もあるらしいのだが、今俺たちがいるのは森の中でもかなり淺いところである。

満月の夜ではない時のルナの実力を見ておきたいということで、まずはルナにランク1の魔を狩ってもらおうという話になった。

なお、ここに來るまでにも謎の魔法で大量のレタスプラントを殺していたので、レタスプラントよりらかそうなスライムなど楽勝だろうとは思っていたが、結果はご覧の通りだ。

「ルナさんすごいですね……」

「ああ。さすがルナさまだな」

フィンと俺は似たような想をらす。

スライム達はなすなく、一切の例外なくルナの魔法で倒されている。

満月の夜しか本気を出せないというのは何だったのか。

ちなみにここにいるスライムは、深緑で半明なゲル狀の魔だ。

地域によってかなりは変わるらしいが、基本的に能力は変わらない。

そのは強い酸を示し、れるものを溶かしてに取り込む。

弱點はの中心にあるスライムの核(コア)で、それを取り出すか破壊すれば死ぬようだ。

核さえあればしぶとく生き殘り、が強い酸で覆われているために、近接系の武で相手にするのはし躊躇われる相手だ。

そんな魔なので、ルナの謎の遠距離魔法で殺するにはちょうどいい。

「ふふ、これくらいは當然ね。……でもやっぱり、昨日の夜と比べると全然違うわ。魔力もそこまで多くはないし、あのサキュバスクラスの敵が出てくると厳しそうね」

「なるほど。過信はか」

まだランク1相當の魔しか相手にしていないので、普段もこれくらいの相手は楽勝でも、ディアナクラスの敵は相手にできないのだろう。

今のところは、ランク1の魔は問題なく倒せることがわかっただけでも収穫だ。

ディアナがすぐにまた俺たちを襲いに來た場合、おそらく全滅する。

だが、その可能はまずないだろう。

ディアナは、ルナが満月の夜以外は弱化することを知らないからだ。

ディアナとルナの間の明確な実力差を示された以上、再び襲撃をけるとしても、向こうも念な準備をしてからになるはずだ。

ディアナのことは冒険者ギルドに伝えていない。

というのも、々と説明するのに面倒なことが多い上に、知られたくないことも多いからだ。

「ガレウスも、昨日の夜のことは全く覚えてなかったみたいだからな……」

朝、冒険者ギルドにいたガレウスに話しかけてみたのだが、昨日の夜のことは全く覚えていなかった。

ルナの魔法か、ディアナの能力の影響だとは思うが、あの様子だと他の男たちも昨日のことは覚えていない可能が非常に高い。

だが、昨日あのあたりで魔族が出現したという報は、もう冒険者ギルドのほうに出ていたようだ。

おそらく、あのとき近くにいた人が衛兵か何かに通報してくれたのだろう。

朝に冒険者ギルドに行ったとき、し混んでいると思ったのは、ディアナのことがあったせいだ。

幸いなことに、俺の顔は割れていなかったので、誰が追われていたかまでは判明していないようだった。

ルナのこともあるので、名乗り出ようとは思っていない。

名乗り出たところで面倒ごとが増えるだけだし。

「そういえば、ルナさんは杖を持たなくても魔法が使えるんですね。しかも無詠唱で……」

「魔法使いってのは、やっぱり杖を持ってないと魔法を使えないものなのか?」

「基本的にはそうらしいです。しかも詠唱も必要になってくるので、そのどちらも必要としないルナさんは、さすが神さまというか……」

「なるほど」

この世界の魔法使いを全く知らないので全然ピンと來ないのだが、さすがに神というべきか、ルナの魔法はかなりすごいようだ。

フィンもそこまで魔法に詳しいわけではないようなので、これがどれぐらいのレベルなのかまではわからない。

見る人が見ればすごい、というやつだろう。

「ルナの魔法は、下界の種族が使うものとは全く違うものだから。杖は必要ないし、詠唱もほとんど必要ないわね」

「でも、神さまであることを隠したいのであれば、杖は持っておいたほうがいいかもしれませんね。そのままだと目立ちすぎると思います」

「……そういうものかしら?」

「そうだな。フィンの言う通り、何かしら持っておいたほうが目立たないだろう」

優れた能力を持っている者というのは、それだけでどうしても目立ってしまうものだ。

ましてやルナは、絶世のと言っても差し支えないほどの貌の持ち主。

目立つ要素は一つでも減らしておいたほうがいい。

「ちょっと待ってろ――召喚」

「きゃっ!?」

「あ、悪い」

何の斷りもなく召喚をしてしまったせいで、ルナがにびっくりしてしまったようだ。

カランと軽い音を立てて落ちたものを拾い上げ、まだ目をぱちぱちさせているルナに渡す。

「ほら。これ使え」

「ただの木の棒じゃない! いらないわよこんなの!」

ルナが俺の手から木の棒をはたくと、綺麗に真ん中からポッキリと折れてしまった。

ああっ、せっかく召喚した木の棒が。

「ソーマさん。魔法使いが使うような杖はただの木じゃなくて、々と加工が必要なんです」

「そうなのか?」

「はい。だから木の棒をそのままというのは、ちょっと……」

フィンが苦笑いしながら突っ込んでくれた。

しかしなるほど。そういうものなのだな。

「杖にはロッド、スタッフ、ワンドなどの種類がありますが、ルナさんが持つならワンドがいいでしょうね」

「ロッド、スタッフ、ワンドはそれぞれどう違うんだ?」

いまいち違いがわからない。

「ワンドは杖の中では一番小さい種類ね。扱いやすいから、主に駆け出しの魔法使いや小柄なが使うことが多いわ。ロッドは真ん中ぐらいの大きさで、主に男の魔法使いが使うことが多いわね。スタッフは一番大きくて、これは貴族の魔法使いが自の権威を示すために使うのが多いかしら」

「へー。よく知ってるなルナ」

「……まあ、眺めてる時間だけは長かったから」

「なるほど。耳年寄ってやつだ――痛っ!!」

ルナが目を細めた直後、に鋭い痛みをじた。

何事かと思って見てみると、の矢のようなものが俺のの割れ目に刺さっている。

いや、待て待て待て。

「刺さってる!? なんか刺さってるんだけど!?」

「それ以上その口から不快な言葉が飛び出したら、もっとひどいことになるかもしれないわよ」

「今のはソーマさんが悪いと思います」

どうやら俺の味方はいないようだ。

あとなんだかに食い込んだの矢のようなものが、ジワジワと食い込んできている気がする。

早急に謝罪しなければ、とんでもないことが起きるような気配があった。

「へいへい、悪かったよ……」

「へいは一回ですソーマさん」

「へい自はいいのか……。というか、へい一回だけのほうが余計よくわからないことになりそうなんだが」

フィンとそんなくだらないことを話しているうちに、またルナがスライムを殺していた。

おそらくこのの矢のようなものを撃ち込んでから、それ自を自させているのだろう。

ちなみに、ルナがほかのスライムを相手にしている間に、俺のの間に刺さっていたの矢は消えていた。

まさかあの攻撃ををもって験することになるとは思わなかったが、これも勉強というやつだろう。

主に今後、ルナの地雷を回避するという意味で。

「それにしても、なんだか妙に數が多いような気がしますね」

散するスライムを眺めながら、フィンが気になることを言い始めた。

「そうなのか?」

「はい。さっきからスライムが途切れることなく出てきてるので……。群れるタイプの魔でもないですから、し妙なじはします」

「なるほど。言われてみれば……」

の數が想定よりも多いというのは、それだけで違和を覚えて然るべきだろう。

それはつまり、何かしらのイレギュラーによって引き起こされている現象なわけで。

「あら? 大きいのが來たわね」

だから、ルナがそんなことを言ったとき、嫌な予が的中したのを悟った。

「うわっ、なんだあれデカっ!?」

俺たちの前に現れたのは、巨大な深緑のスライムだった。

今まで現れていたのは大きいものでも全長五十センチ程度だったが、今目の前にいるこいつは、優に三メートルは超えているように見える。

人間の一人や二人ぐらい、余裕で取り込めるサイズだ。

「キングスライム――ランク3相當の魔です。こんなに淺いところに出てくることもあるんですね……」

名前からすると、スライムの親玉のような存在なのだろうか。

やけにスライムが多かったのは、あいつが潛んでいたからなのだろう。

「ランク3か……俺たちにはまだ荷が重そうだな」

「たしかキングスライムのきはそこまで速くないはずなので、今すぐ逃げればなんとかなると思います」

フィンの言葉通り、キングスライムのきは普通のスライムよりはし速いという程度。

待ち伏せされて突然取り込まれたりでもしない限り、逃げること自はできそうだ。

しかし、逃げる算段を立てている俺とフィンを置いて、一人でキングスライムを眺めているがいた。

ルナである。

ルナが人差し指でキングスライムを指すと、彼の後ろから數多のの矢が星のように降り注いだ。

直後、の矢がぜる。

「うぉっ!?」

「ひゃっ!?」

「――んっ。さすがにいわね」

俺とフィンが驚きの聲を上げたのに対し、ルナはまだ敵が倒れていないことを察知していた。

「でも、これで終わり」

キングスライムのの半分近くが吹き飛び、先ほどまでは全く見えなかった核が、今ははっきりと見えている。

ルナがもう一度指でキングスライムを指すと、再び數えきれないほどの數のの矢が空中を飛びい、やがてキングスライムに刺さっていく。

そして、発。

まばゆいを発し、キングスライムのが今度こそ散する。

あまりの眩しさに目を瞑ってしまい、再び目を開くとそこにはもうキングスライムの姿はなかった。

周囲に、深緑のゼリーのようなが散しているだけだ。

「ん? どうかしたの?」

俺とフィンの惚けたような視線をじたのか、ルナがこちらを向いて不思議そうな顔をしていた。

「……いや、なんでもない。ルナさま強いなって思っただけで」

「知ってるわ。あ、これさっきのスライムの核。必要なんでしょ?」

「あ、はい。ありがとうございますルナさん」

ルナはまるで何事もなかったかのように、足元に落ちていたキングスライムの核をフィンに渡している。

その姿に、特に自慢げなじは見られない。

「……ルナさまつよいな」

「そうですね……」

俺とフィンは、ただ二人でルナがスライム相手に無雙するのを、ドロップアイテムであるスライムの核が十個集まるまで眺めていたのだった。

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