《天の仙人様》第17話 新たな隣人
今日はいつもと違っていた。いいや、それまでの道のり、った直後の空気、そういうものは変わりはない。ただ、今までの中で、特別に見慣れないものが現れたのである。
「……あ」
俺がいつもの巖のあるところまで歩いていくと、そこには緑のをした小さなヒト型の生がいた。俺よりも小さいかもしれない。そんな格である。
ヒトの子供位の格にを覆うように布がまかれており、産がわずかに生えている。下顎からし長い牙が生えており、口を閉じてもそれが見える。
「ギギ?」
ゴブリンだった。俺は初めて見た。今まで本の中でしか存在を知らなかったし、この森の中にも生息しているなんて話は聞いたことすらなかった。だから、俺は今こうして、ゴブリンに出會えたことに、謎の間隙ともいえるが湧いていた。
とはいえ、ゴブリンそのものはいろんなところに住んでいる。砂漠にも火山地帯にもいるそうだ。適応能力が異常に高く、人型のゴキブリなんて言われていたりもする。非に不名譽な稱號かもしれないが、実際にそういうほうがしっくりくるのである。當然、繁力も高い。とはいっても、一度に産む子供の數は最大2だ。しかし、妊娠期間が短く、一月で産まれるために絶大な繁力を手にれている。力がないからたくさん子供を産むというシステムは理にかなっているだろう。そして、生き殘るために何でも食う。草はもちろん腐も食う。胃がとても頑丈なのだ。そのため、増えすぎると生態系がれてしまうために、定期的に他の生きに殺される。ゴブリンのは毒があって普通の生きは食えたものではないため、他の生が唯一食べる以外の目的で殺される生きと言われている。とはいうが、他の生きも自分より弱い生きをいたぶって殺すことはあるが。なくとも、他の生にすら間引くという行をとらせる唯一の生なのは間違いない。一応、ゴブリンを食べる生きもいるにはいる。が、數がない。コオニグライと呼ばれるネコの仲間なのだが、そいつはゴブリンの毒をにため込むため他のに襲われないということをいいことに、生存戦略が適當である。數年に一匹増える程度である。外敵がいなくて、主食を取り合うやつもいないから、生意気な生本能でいられるのだ。
語では醜く描かれることの多いゴブリンではあるが、別に醜くはない。醜悪な見た目ではない。むしろ、がある。目も大きくぱっちりとしており、黒目もそれに比例するように大きい。なんというか、赤ん坊を連想させる顔つきである。その顔つきのらしさはなにやら守ってあげたくなるように思えてこなくもない。
あと、ゴブリンは人間のメスを犯したりはしない。オスもいればメスもいる。普通にゴブリン同士で繁できるのに人間のメスにする意味がないだろう? 一々抵抗されるような相手と子供を作ろうなんて思う種族なんていない。
ゴブリンの生態として、男一組のペアで生活する。集団を作ることはない。集団に見える場合は全員家族である。っそいて、子供は一年ほどで人を迎えるため、そこで親の元を離れる。そこからは、パートナーを見つけるまで一人旅だ。グループで行しているのは基本的に子供のゴブリンである。
で、今俺の目の前にいるのは一人だけである。ということは大人ということだ。とは言うが、一年で人するわけだから、大して年數は生きていないだろうが。
「ギギ!」
ゴブリンは俺に警戒するように手に持っている棒を構える。とはいえ、思い切り上に振り上げているだけであるが。隙だらけである。仕方のないことだとは思う。ゴブリンに武という系があるとは思えない。
人間はゴブリンのにある魔石を求めて殺す。おそらく、その報をゴブリンは世代ごとにちゃんと継承しているらしく、人を見ると警戒する。野生なら警戒するのではないかと思うかもしれないが、ゴブリンが人間に見せる警戒は、他の生きとは違い怯えるような様子を見せるのだ。それほどにゴブリンという生きは弱いのだ。だから、新人のハンターですら簡単に殺せる。金を稼ぐのにもってこいだ。
しかし、人間の間でこの森にゴブリンがいるという報が共有されることはない程度にはゴブリンと會わないのに、そんなところで生活している彼らも俺たちのことを警戒するような報を継承しているのは面白いことではある。
「ギャギャ!」
飛び掛かってきた。俺は軽く避ける。ゴブリンはバランスが崩れるが、しばらくして立て直す。しかし、その姿もなんとも弱々しく見える。危なっかしくて見ていられない。
だが……まあ、訓練にはなるだろうか。無手で、刀相手の訓練でもするとしようか。俺はそう切り替えることにする。余裕をもって訓練が出來るに違いない。一つ一つのきを確認することを最重要とするのだ。
俺はそこからしばらく、ゴブリンが棒を振ってくるタイミングに合わせてにり込み、投げるなどをして、訓練をしていたが、とうとう疲れたのか、ゴブリンは立ち上がることはなくなった。がいているため、死んでいることはないだろう。ただ、ここにこのまま放置されて死んだら後味悪いので俺はこの場でゴブリンの様子をうかがっていた。
小さなネコのが尾を巻いて逃げた。俺は木刀を握りしめて溜息を吐く。
まさか、コオニグライが本當に姿を現すとは思わなかった。俺は一応追い払うと、俺のすぐ隣で寢かせた。
上半を布で隠しているから一応メスなのだとは思うが、どうなのだろうか。気になるが、わざわざ下半を覗く気にはならない。もし覗いてメスだった場合は気まずさで死にたくなるであろう。たまに、オスのくせに上半まで布で隠す個がいるらしいが。これも個なのだな。
「ギ……ギィ」
「お、起きたか」
ゆっくりとゴブリンはを起こす。そしてきょろきょろとあたりを見ると、俺と視線が合う。すぐさま飛び上がりオレに威嚇するようにを鳴らす。
「襲わない……と言っても無駄だろうからな。好きなだけかかってこい」
その言葉が通じたのかどうなのか。再び攻撃を仕掛けてくる。俺はそれを避けてけ流してと、自分の鍛錬も重ねる。
「ヒイ……ヒイ……ヒイ……」
ゴブリンは肩で息をしながらこちらをにらむ。殘念ながらゴブリンは俺に一撃もれることは出來なかったのである。
「ギィ」
一つ鳴くと、ゴブリンはとぼとぼと森の奧へと消えていった。なんというか、負けず嫌いな格なのかもしれないな。俺が殺さないということを理解したのだろう。
俺は、近寄ってきていたオオカミのをなでながらゴブリンが消えていったほうへと視線を向けていた。
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