《最強転生者は無限の魔力で世界を征服することにしました ~勘違い魔王による魔の國再興記~》その56 魔王さま、アーティファクトについて語る
食堂へ向かうと、朝食を終えたフォラスがお茶を飲みながらくつろいでいた。
「やっと來たか、昨夜はお楽しみ……」
「それはミセリアからさっき言われた」
彼の正面の席に座すなりからかわれた僕は、隙を與えないという意味でもすかさず本題を切り出す。
「アーティファクトのことが何かわかったの?」
「もうしトークを楽しむ余裕があってもいいと思うが」
「もう楽しんだから十分だよ」
「私は足りないのだが……まあいい。実は昨日、魔王君が土のアーティファクトを取りに行っている間に、魔たちに頼んで他の跡の様子も見てもらったんだ」
さすがフォラス、手際が良い。
けど真剣な顔をしてるってことは、結果は芳しくなかったんだろうな。
「助かるよ、それで結果は?」
「すでに、全ての跡が開いた後だった」
「つまり――水と土以外のアーティファクトの全てを、サルヴァ帝國が手にれてしまったと」
「そういうことだ、土は一番最後だったわけだな」
土のアーティファクトの力は直接相手に被害を及ぼせるものじゃない、だからサルヴァ帝國にとっては優先度が低かったんだろう。
つまり土以外の跡に向かってたら無駄足になってたってことだ、あそこに行ってよかった。
とは言え、4つものアーティファクトがサルヴァの手に渡ってしまったわけで。
「やっぱり、まずいかな」
「まずいかどうかは、実際にその力を目にしたことが無いのでなんとも言えない。だが水のアーティファクトの力を見る限りは、悪用しようと思えばどうとでもなる厄介な品ではあるな」
僕が居る限り、その力を防げないわけではない。
けど、例えば水のアーティファクトがその力を全開にしたとして、周囲の犠牲無しにその力を抑え込めるかと聞かれれば微妙なところだ。
おそらく、対象を異空間に飛ばすディメンジョン系の魔法じゃ、その許容量を越えて防ぎきれないと思う。
他の手段を――火の魔法で蒸発させるとか、一時的に凍結させるとか、今までとは違う方法を考える必要がある。
アーティファクトを奪うのが一番手っ取り早そうだけど。
「ちなみに、他のアーティファクトはどんな力を持ってるの?」
「解読が完全に済んだわけではないので確実とは言えないが――」
フォラスは1つずつ屬ごとにアーティファクトの力を説明してくれた。
とはいえ、火に関しては想像通り。
水のアーティファクトから無限の水が溢れるように、火は無限の炎を生む。
それも使いようによっては、無限のエネルギーとして利用できるはず。
そして風は、あらゆるものを浮かべたり墜落させることができるという。
どちらかと言うと重力っぽい力だ。
そしては――
「ざっくり言うと、加護を分け與えると書いてあった」
「曖昧だね」
「ひょっとすると他のページに詳しく書いてあるのかもしれないが、私にはこれ以上は解読できなかったよ」
詳しいことはわからない、か。
加護ねえ、何らかの強化魔法を使用者に與えるのか。
はたまた、敵対する相手を躙する暴力的な加護なのか。
「実を見ないと何とも言えないね。闇はどうなの?」
「闇も似たようなものだ、深黒のが力を與え、あるいは全てを飲み込む、と書かれている」
「全てを飲み込む深黒の……」
僕の頭にブラックホールという言葉が浮かぶ。
そこから力――つまりエネルギーを得ることができるのなら、SFでよく出てくる退爐みたいなものだろうか。
それで発電でもしてみんなに分け與えれば、世界中の生活レベルは一気に上がりそうだけど、サルヴァ帝國がそんなものを手にれてやることなんて……一つしかないんじゃないだろうか。
「跡周辺で帝國兵と戦したということは、魔王君が土のアーティファクトを手にれたことはすでにサルヴァに伝わっているはずだ。全てのアーティファクトが出揃った事を知ったサルヴァが、何らかのきを見せる可能は十分にある」
「対処が必要か……」
けれど相手の出方がわからない以上、僕に出來ることはない。
いっそサルヴァ帝國に侵して報を集めてみるかな――
「はいっ、まおーさまの朝ごはんだぞー!」
ザガンは僕たちが話している間に朝食の準備を進めてくれたらしく、話した終わるタイミングを見計らって持ってきてくれた。
バターが塗られトーストされたパンに、ネクトルのジャムが添えられている。
あとは野菜のサラダにポタージュスープ。
割とオーソドックスな朝食だ。
「ありがと、ザガン」
「どういたしまして、だ!」
あぁ、ザガンを見てると癒やされるな。
自分がどれだけ穢れているのかを思い知ると言うか、浄化されるというか。
「ところでまおーさま、ヴィトニルを抱いたのか?」
そして無慈悲にぶち壊される、僕の幻想。
ザガンの口からそんな言葉は聞きたくなかった。
「こらザガン、魔王君は食事中だぞ」
「そっか、食事中にせいてきな話題はまずかったな!」
「あと魔王君も落ち込むんじゃない。これでもザガンはデーモンなんだ、見た目で判斷するのはやめた方がいい」
「そういえばそうだったね……」
見た目がちっこいから年下扱いしてたけど、僕より遙かに年上なんだよね。
でも……ショックなものはショックだ。
僕は若干落ちた食を起させ、どうにか朝食を完食した。
「ごちそうさま」と手を合わせ、トレーごと食を洗い場に運ぼうとすると、ザガンが先にそれを持っていってしまう。
「まおーさまはまおーさまなんだから、こんなことしなくていいぞ!」
「ごめん、ありがとね」
亭主関白な魔王にはならないように気をつけてるんだけどな。
周りがこれだから、どうしても甘えてしまう。
當たり前だと思わず、謝の気持ちは忘れないようにしないと。
「ザガンっていい子だよね」
「以前はわがままな部分もあったんだが、魔王君と一緒に暮らすようになってからは、むしろ自分から奉仕するようになったな」
言われてみれば、初対面の時はそんなじだった。
自分が魔王になるとか張り切ってたし。
「それだけされているということだな」
「、ねえ」
家族的なだと思いたい。
……けど、たぶん違うんだろうな。
「魔王君はザガンを子供扱いしすぎだ、魔王君から見たら妹のように見えているのかもしれんが、ザガンから見た魔王君は間違いなく対象だぞ。だから自分だけ置いてけぼりにされている現狀にやきもきしてるんだ」
「見た目のさがね、あれで僕が手を出したら犯罪だよ」
「顔な魔王君とニーズヘッグの絡みも十分犯罪だぞ」
そこを突かれると痛い。
ニーズヘッグにも今の僕と同じような葛藤があったんだろうか。
ドラゴンから見たら、15歳の僕なんて赤子のようなものだろうし。
僕がニーズヘッグとの関係に頭を悩ませていると、片付けを終わらせたザガンがとてとてと駆け足で戻ってくる。
そして飛び乗るように椅子に座ると、さっきの話題を掘り返した。
「それで、まおーさまはヴィトニルを抱いたのか?」
どうしても聞きたいらしい。
仕方ないので、僕は諦めて答えることにした。
「うん、まあ……抱いたけど」
「そっか、抱かれるとあんなにしあわせな顔になるんだな!」
ミセリアも言ってたけど、ヴィトニルは一どんな顔をしてたんだろう。
寢起きも機嫌はよかったけども、部屋から出た後はそれ以上だったのかな。
「まおーさま、わたしのことも……」
「よしザガン、今日はデートしよう!」
僕はザガンの言葉にかぶせるように先手を打った。
いくらデーモンだろうと、僕から見たザガンは完全に○學生にしかみえない。
仮に年上だったとしても、僕の倫理観がそんなことは許さない。
「おぉ、デート! デートをするんだな!」
「そう、デートをするんだ!」
ザガンが単純で良かった。
すっかりさっきまで言おうとしていたことを忘れて、僕とのデートに踴らせている。
「ところでまおーさま」
「ん?」
「デート……って、なにをするんだ?」
……知らずに喜んでたんだ。
いや、そもそもデーモンにデートっていう概念が無い可能もあるしな。
どちらにしろ、知らないってことは、僕は好きなように報を歪曲できる立場にあるということ。
よし、それなら僕が教えてやろうじゃないか。
魔王流の健全なデートってやつをね!
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