《最強転生者は無限の魔力で世界を征服することにしました ~勘違い魔王による魔の國再興記~》その60 魔王さま、おだてる
お互いに放った魔法同士が衝突し、発音と、まばゆい閃に巻き上げられた砂などで聴覚と視覚が封じられる。
けれど狀況は一緒。
僕はファルゴの位置を予測し、足元から「ロックグレイヴ」で巖の槍を作り出し刺し貫いた。
同時に「レビテイト」で空中に飛び上がる。
するとその直後、僕の足元を地を這うヘビのような形をした炎がかすめた。
やっぱ考えることは一緒か。
視界がクリアになっていく。
前方には、同じく浮き上がり、にやりと得意気に笑うファルゴの姿があった。
彼が前方に手をかざすと、いくつもの炎の渦ファルゴの背後から放たれ、うねりながら僕を取り囲む。
炎が僕のをかすめるものの、隙間をうようにして避けきる。
すると僕が居た場所で炎の渦たちは衝突することにあるわけだけど、ぶつかり合って消えることはなく、むしろ合して一つの渦となり、再び僕に襲いかかった。
「サイクロンディザスター!」
ゴオオォォォォッ!
僕の手から放たれる風の渦が炎の渦とぶつかる。
じわじわと風の方が推している、このまま行けば炎は消えるはず。
「まだまだァ、畳み掛けるぜぇっ!」
ファルゴが自の周囲に無數の火のを生し、こちらに飛ばしてきた。
ちっ、まだ最初の一撃が処理できてないのに。
「アンチグラビティ!」
風の渦を維持しながら、地面の砂を巻き上げ壁にすることで火のを迎撃する。
一見してほとんど威力のない、嫌がらせのように見える攻撃だったが――
ボンッ、ボフボフボフッ!
砂の壁に接した瞬間、火のは命を奪うに十分過ぎる威力の発を起こす。
見た目によらず殺傷力は高そうだ、至近距離で捌こうとしなくて正解だったな。
砂と風で完全にお互いの姿が見えなくなる中、僕は再び相手の位置を予測して「ピアッシングレイ」を放つ。
線は砂壁を裂き、開いたから微かにファルゴの姿が見えた。
惜しい、ギリギリで回避されてたか。
「サンドシーズ!」
僕はさらに畳み掛ける。
ザザザザザ……!
壁として利用していた砂が一斉に意思を持ったようにき、ファルゴを囲む。
そして砂たちは彼を握りつぶすようにグシャァ! と一箇所に殺到した。
やったか……?
ゴオォッ!
舞い散る砂を炎が焼き盡くす。
いや、まだか。
まあこの程度じゃまだ死なないだろうとは思ってたけど。
「ひっひゃははははっ! 楽しいなあおい。帝國の領地じゃこんな力は使えなかったからな、こんだけ全力で戦えるなんざ楽しくて仕方ねえよ!」
と連するように、ファルゴの纏う炎が勢いを増した。
彼は炎をジェットエンジンの如く後方に噴し、僕に猛スピードで接近した。
用だな、近接戦闘までこなすのか!
ヒュンッ!
加速した分の重を拳に乗せて放たれる、鋭い右ストレート。
拳自は難なくは回避したものの――
ドォンッ!
発砲音のような音と共に拳から放たれる激しい炎が、僕の頬をかすめた。
「ただのパンチだとでも思ったか?」
「っちぃ!」
ファルゴは僕を挑発しつつ、左拳でもう一発。
ドォンッ! ドォンッ! と大口徑砲を放つような轟音が、雨のリートゥスビーチに繰り返し鳴り響く。
「おらおらおらおらぁっ! 防戦一方かよおい、魔王サマよぉっ!」
「くっ、強い……!」
「當たり前っ、だろうがぁっ! こっちは天才なんだよ、魔王だかなんだか知らねえが、ガキが俺に調子に乗ってんじゃねえぞおい!」
弾戦は難しい、ファルゴのを包む炎はリフレクションスキンを容易く貫通する、つまり接するたびに僕の拳が焼けていくってことだ。
ヒーリングで治癒はできるものの、痛いものは痛い。
その気になれば痛みだけを遮斷することはできるかもしれない。
けどそれは、自分のの被害狀況を把握できないということでもある。
やるなら、距離を取っての遠距離魔法による重火力戦。
そのためにはまず、一瞬でも隙を作らなければ。
「アクア……っ、サフォケイション!」
拳を回避しつつ魔法を放つ……が、ファルゴはじない。
「んー、あたりに何かしたな? 水で窒息でもさせようってのか、魔王のクセにせこい真似しやがるなぁおい。水も氷も無駄だ、俺の炎ですぐに蒸発しちまうんだからよぉ!」
まさかまでそんな溫度になってるなんて。
僕としたことがうかつだった。
ファルゴの拳はさらに激しさを増し、魔法をしくじったことで余裕の無くなった僕は次第に追い詰められていく。
そして――
ドォンッ!
ついにその炎が、僕の肩を完全に捉えた。
骨とをえぐられ、右腕がぷらんと力なくぶらさがる。
遅れて激痛が來るかと思いきや、痛みすらなかった。
傷口が焦げ落ち、ただただ熱いだけだ。
「ぐっ、ヒーリン……」
すぐさま治癒しようとするも、次の一撃が襲って……こない。
いや、それどころかいつの間にかファルゴの姿は僕の視界から消えていた。
ばかな、今の一瞬で移する余裕なんてあるはずが。
直前に何かを呟く姿は見えたけど、詠唱ほど長くはなかったはず。
ゾクッ。
背後からじる殺気。
僕は急いで振り返ると、そこには拳を振り上げるファルゴの姿があった。
「転移、魔法――」
詠唱もしていないのに、どうして、いつの間に。
いや……あらかじめ詠唱を済ませておいたのか、僕たちと接する以前に、あとは発するだけの狀態でストック・・・・されていたんだ。
「魔王サマも大したことねえなあおい!」
迫る拳ををよじり回避しようとするも、この距離じゃ避けきれない。
當たってしまう。
かすめただけで肩をえぐったあの炎を、まともに食らってしまう。
ドゴォッ!
炎が、僕の左半を心臓もろとも吹き飛ばす。
やはり痛みは無かった。
ただ熱さと、相反する命を喪失していく冷たさだけが、僕の脳に屆いていた。
これだけの傷だ、もう數秒もしないうちに僕は命を落としてしまうだろう。
ただし、それは數秒間生きられるということでもある。
僕は不思議でならなかった。
背後への転移で完全に仕留められたはずなのに、なぜ頭を吹き飛ばさなかったのだろう。
理解に苦しむ。
まさか、心臓を吹き飛ばしただけで僕が死ぬとでも思っていたんだろうか。
「ヒー……リン、グ」
かすれる聲で魔法を発させる。
僕のをが包んでいく。
そして、炎によりえぐられた右肩も、吹き飛んだ左半も、暖かなが一瞬にして元の形へと戻してしまった。
「冗談みてえな治癒力だなおい」
一旦距離を置いたファルゴが、苦笑いを浮かべながら言った。
「どれだけ優れた治癒魔法を使えようが、即死してしまえば意味がないんだ。正直言って勝てるヴィジョンが見えてこないよ」
「降參ってことか?」
「立場がそれを許してくれない。けど……まさか帝國が転送魔なんて代を実用化してるのは予想外だった。いや、それとも天才だからこそせる技なのかな」
「転送魔法なら、かなりの數の帝國兵が使えるぜ? だが実用化したのはフィナスクラスを卒業した人間、つまり俺の仲間ってことだ」
「すごいね、さすが天才と呼ばれるだけはある。どんな理論なのか僕には想像もできないよ」
「そう難しいことでもないぜ? いや、ただの人間には理解できないだろうが、要は二點の空間をれ替えればいいだけの話なんだからな」
そして、ファルゴは饒舌に転送魔法の理論を語りだす。
天才だと褒めちぎられたのがよほど嬉しかったんだろう。
彼の話は確かに小難しくはあったけれど理解できないほどでもなく、魔法を実踐できるどうかは別として理屈は把握できた。
「――ってわけだ。理解できたかい後輩クン?」
「なんとなくはね、けどやっぱり難しいよ、天才には敵わない」
「そうか、なら仕方ねえな。どうせここで死ぬ運命なんだ、理解できようができまいが関係ねえ話だもんなぁ」
「でも、一つだけはっきりとわかったことがある」
「んだよ、聞いてやるから言えよ」
僕は勝利への確信の意味も込め、不敵に笑いながら言った。
「ちょっと褒めただけでペラペラ喋ってくれるんだから、天才ってちょろいよね」
無論その笑顔の意味する所は、嘲あざけりだ。
「……あ?」
田舎の不良のように眉を歪め、ガンを飛ばすファルゴ。
そんな顔してたら、せっかくの天才が臺無しだよ。
「以前に帝國兵と戦した時に転移魔法を初めて見かけたんだけど、見ただけじゃなかなか真似できなくてさ。だから軽く理論さえわかればイメージも容易くなるだろうとは思ってたんだけど、まさかこんな簡単に聞けるとは思ってなかった」
「て、てめえ、まさかわざと……」
「豚もおだてりゃ木に登るってやつ? おかげで僕も転移魔法が使えるようになったと思うし――ファルゴ、君には噛ませ以上の価値があったと思う、ありがとね」
「てんめえええええぇぇぇぇぇッ!」
ファルゴの怒りの炎が燃え上がった。
まったく、暑苦しいなあ。
「馬鹿にしやがって、ただの人間の分際でえぇぇっ!」
「そういうセリフが噛ませっぽいよね」
「黙れええぇぇェッ!」
掠れた聲でファルゴがぶ。
そして彼は今日一番の、一発でマルの國土が焦土と化しそうなほどどでかい火球を頭上に生した。
放つ対象はもちろん僕。
仮に命中したとしたら、オーバーキルも良いところだ。
「テレポート」
けれどもちろんそれが僕に當たることはない。
転移魔法を唱えると、彼の頭上にあったはずの火の玉は一瞬にして消失する。
空の彼方に転移してみたんだけど……うん、うまくいってよかった。
「自分以外のに、転移魔法を使っただと……?」
ファルゴは自分の頭の上を見て呆然としている。
どうも帝國の使う転移魔法は、自分自しか転移できなかったみたいだ。
他者を飛ばそうとすると、理論が複雑になるのかな。
僕の魔法は、その辺の理論とかすっ飛ばしちゃうから、自分を飛ばそうが他人を飛ばそうが大差ないんだけどね。
「ふざけんな……転移出來たから何だってんだ、俺にはアーティファクトの力があるんだぞ、おい。どれだけ小手先の魔法を使おうがっ、俺の火力に勝てるわけねえだろうがあああぁぁぁッ!」
「じゃあやってみなよ」
「うぅおおおおぉぉオオオオオオォォッ!」
両拳を握り、気合の雄びをあげるファルゴ。
彼の纏う炎はみるみるうちに火力を増し、離れた位置にいる僕にまでその熱気は伝わってきた。
さらに地表にある木々まで燃え始めている。
近づけば、間違いなく僕は消し炭にされてしまうだろう。
その熱は全てアーティファクトが埋め込まれた右腕に集まっていく。
「わかるか、この力が。の外に作り出した炎は転移で飛ばされちまうが、この力がこもった右腕で毆れば転移は使えないはず。太よりも熱いこの拳で、お前のそのにやけた顔を滅茶苦茶にしてやるっ!」
「それ、誰が決めたの?」
「あぁ?」
「いや、そのの外に作り出した炎しか転移できないって設定。僕は一言もそんなこと言ってないはずだけど――テレポート」
僕が発した魔法は、ファルゴの右腕を僕の手のひらの上へと転移させた。
彼のと右腕を繋いでいた部分には、研ぎたての刃で切斷されたような斷面だけが殘っていた。
彼はおそるおそる自分の右腕のあった場所を見る。
ちょうどそのタイミングで、斷面に赤いがにじみ始めた。
しかし、最初は滲み、斷面を赤く染めるだけだったは地面へと滴り落ちるようになり、やがて滝のようにボトボトと流れ始めた。
「う、うぁ……うわああああぁぁぁぁぁぁぁああっ!」
んで恐怖に顔を歪めていられたのもつかの間。
火のアーティファクトを失い、空中浮遊できなくなったファルゴのは重力に引かれていく。
「あっ、ああっ、ああああぁぁぁぁああっ!」
本來なら地面に落ちたら即死の高さ。
けれど下が砂浜だったおかげか――
ドサッ、と鈍い音と共に叩きつけられたファルゴは、しかし命だけは無事だったらしい。
もっとも、肩や肋骨が何本から折れて肺に突き刺さったみたいで、咳き込むと同時に口からを吐いていたけれど。
僕は無様に地面で這いずる彼の傍に著地する。
そして冷ややかな目で、プライドだけは一人前の負け犬を見下した。
「か、かえひ……ひゅ、かえ、ひて……っ」
右手を返して、と言っているらしい。
けどお斷りだ。
「そのままだと出多量で死ぬね」
「ひ、ひや……いや、だ……死にたく……」
「でもマルの人たちを焼き殺そうとしてたんだよね、因果応報じゃないか」
「ま、だ……殺ひ……て、な……だか、ら……」
「はははっ、まだ殺してない? 都合がいい自己弁護だなあ。そもそも君さ、誰に、どう助けてしいと思ってるの? まさかさっきまで殺し合ってた僕にじゃないよね」
「ぁ、あ……」
「そうだ、って言いたいの? まあ、どうしてもって言うなら助けてあげないでもないけど。なら相応の頼み方があるんじゃない? 負け犬らしく、さ」
ファルゴは砂に顔を埋め、を震わせた。
まあ確かに彼の言うとおり、まだファルゴは誰も殺しちゃ居ない。
マルを燃やす計畫は寸前で僕が止めたし、火のアーティファクトも失った。
殺す理由も無いと言えば無いんだよね。
生かしておく理由も無いんだけど。
とは言え、フィナスクラスを卒業したってことは、彼が天才であることは事実なわけで。
今後のマオフロンティアの発展のために、利用価値はあると思う。
利用するためには、彼の妙なプライドはへし折っとかないとね。
ファルゴの葛藤はそう長くなかった。
自分の命が失われつつある、という自覚があったからだろう。
「まけ、まし……た。おれの、負け、です。あやまります……ごめん、なさい。ごめ、ん、なさい。もう、にど、と、やりませんから……」
その言葉は彼のプライドを々に砕くには十分過ぎるほどの敗北宣言だったけれど、まだ足りない。
僕はさらに追い打ちをかける。
「自分ののためだけに他人を傷つけたりはしない?」
「しま、せん」
「他人を見下したりもしない?」
「しま……ぜんっ、できま、せん……」
「もし破ったら、今度こそ殺すから。僕の力があればどこに居たって見張ることは出來る、それを忘れないでね」
もちろん、そこまでするつもりはないけれど、常に僕の目があると思えばファルゴももう悪いことは出來ないだろう。
僕は手にした右手から火のアーティファクトをえぐり取り、そしてのこびりついたそれをすぐさま水の魔法で洗浄する。
洗浄が完了したら、彼の右肩あたりに切斷された右手を放り投げ、「ヒーリング」を発させる。
治癒のに包まれ、ファルゴの骨折や外傷、そして切斷された右腕が正常な狀態へと戻っていく。
「はっ……ふ、ぐ、ぅ……うううぅぅぅぅっ……!」
傷の癒えたファルゴは、土下座するように何度も額を砂浜にぶつけていた。
プライドを捨ててしまった歯がゆさと、命を救われたという安堵の間で揺れてるんだろう。
アーティファクトはもう無いんだ、悪さはできないはずだし、放っておこう。
とりあえず、危機は去ったってマルのお偉いさんに伝えにいかないとな――
僕はファルゴの唸り聲をバックに、砂浜を離れて町へ向かうのだった。
男子が女子生徒として高校に入りハーレムを狙っている件(仮)
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