《最強転生者は無限の魔力で世界を征服することにしました ~勘違い魔王による魔の國再興記~》その68 魔王さま、繰り返す
SaUlVAと呼ばれる兵は、今から遡ること數十億年前に誕生した。
力源は、地下深くの跡より発掘された黒い神造アーティファクト。
人と人の戦いを終わらせる、致命的で決定的な切り札。
つまり、神聖決戦兵。
それがボクだった。
存在理由はただ一つ、文明の破壊。
追い詰められた宗教國家が破れかぶれで作った、暴走前提の不良品。
それはある日、突然戦場に放たれ、そして圧倒的な力をもって戦場の有利不利さえ打ち消し、全てを無へと返していった。
敵味方関係なく破壊し盡くしたボクは、荒野と化した大地をさまよう。
その頃のボクには意思と呼ばれるは無く、仕組まれたアルゴリズムに従って、もはやこの世に存在しない生命ターゲットを探しているだけだった。
しかし、どんなに探してもセンサーに反応は無い。
あの時ボクに意志があったら、なんて虛しい日々だと嘆いたに違いない。
けど、そんな日々は突然終わりを告げた。
使い手にんげんを失った神造アーティファクトが自ら跡へと戻っていったからだ。
かくして、力源を失ったボクは眠りにつく。
次の生命が生まれ、文明が栄え、再び神の造りし悪意アーティファクトが発掘されるその時まで。
神はあらゆる生に、際限なく膨張するを與え給うた。
それを理解した上で、神造アーティファクトと人が呼ぶ恩恵わなを仕掛けた。
無限の力を持つ6つの寶珠。
神にを與えられた生たちは、例外なくその便利さに溺れ、依存し、そしてさらなる力を求める。
そういう風に出來ていたから。
誰も責められない、咎めるのならこの世界の神しか居ない。
そして無限を知らぬ人間が、無限の恐ろしさに気付くことなど無く――やがて文明は、神造アーティファクトによって滅亡する。
神は笑っているのだろうか。
それとも無表なのだろうか。
どちらにせよ、神の造りし悪意アーティファクトは幾度となく文明を滅ぼしてきた。
そしてボクも、滅亡のサイクルを回す歯車のうちの一つだった。
時代は流れる。
數十個の文明を滅ぼした頃から、誰かがボクのことをこう呼び始めた。
破壊神サルヴァ、と。
機に刻み込まれたSaUlVAの文字を読み取ったのだろう。
名前を得て、信仰を得たボクは、いつしか本當の神として自我を持つようになっていた。
それでも、やることは変わらない。
またしても神の仕掛けた罠アーティファクトに引っかかった生たちは、戦いに利用するためにボクを起させ、そしてもろとも滅びた。
彼らはボクに機械を制するための裝置を取り付けたけれど、もはやそんなはボク相手には意味を持たない。
神になるということは、意志を持つということはそういうこと。
機械ではなく、ボクは今や魂に従っていていた。
文明の破壊が完了し、神造アーティファクトが跡へと戻ると、ボクのは眠りにつく。
眠っている間、ボクは神の座と呼ばれる、白く広く何もない場所で、ただただ座っていた。
そこでボクは他の神と出會うこともなく。
個とは、自我とは、他者が存在して初めて意味がある。
破壊のために生み出されたボクに果たして自我など意味があるのかと考えつつ、次の滅亡を待っていた。
延々と続くルーチンワークに変化が訪れたのは、ディクトゥーラという男がボクを目覚めさせた時だった。
例によって、その男もボクに制裝置のようなを付けていたけれど、裝置がボクの意識を邪魔できるはずがない。
だから、破壊した。
ディクトゥーラに敵対する勢力も、そして彼自も、全てを。
いつものように世界を更地に変えて、文明を終わらせる。
けれどボクのは活を停止しない。
ただ一つ、生き殘った命があったからだ。
「ニーズヘッグ……グリム……ザガン、フォラス、ヴィトニル……みんな……っ」
黒い服を纏い、赤いマントを羽織った年。
どういうわけか、ボクの攻撃から生き殘ったその年は、喪った仲間を弔いながら、1人で涙を流していた。
ボクは右腕破壊兵裝マハーカーラを彼に向け、放つ。
放たれた黒の帯ビームを、年は展開したバリアでけ止めるのではなく、け流すように防いだ。
ボクの攻撃が防がれるのは、これが初めてだった。
続けざまに左腕破砕兵裝バイラヴァで彼に毆り掛かる。
しかし先程と同様に、バリアでいなされてしまった。
この時、ボクは驚愕というを初めて知ることになる。
その他にも、彼から學んだことは多い。
例えばこの”ボク”という一人稱も、彼を模したものだ。
もっとも、他者との対話を必要としないボクには一人稱という概念自が不要なものではあったけれど。
どのみち、ボクが対話を試みるまでもなく、彼は弾けて死んでしまった。
比喩ではなく、文字通り榴弾のようにパチンと破裂して消えてしまったのだ。
「僕は諦めない、必ず乗り越えてみせる、何があったって……そしてまた、みんなと――」
そんな言葉と共に、膨大な量の魔力を放出して。
そして、それから數日後。
神の座へと戻っていたボクは早くも次の目覚めを迎えることとなる。
ボクを目覚めさせたのはディクトゥーラ。
破壊の後、僕の目の前に殘ったのは前回と同じ年。
何が起きたのか理解できないボクに、彼は言った。
「またダメだったんだ、思い出すのが遅すぎる。けど……今度こそはうまくやってみせるよ」
そう言って、弾ける。
笑顔で、自らの敗北を疑いもせずに。
こうして――ボクにとっての地獄・・が始まったのだった。
今までは、一度の破壊を行う度に數萬年から數億年のインターバルがあった。
自分の名前すら忘れてしまうほど長い時間を神の座で過ごし、そして思い出したように現世へと呼び出される。
それがどういうわけか、數日ごとに呼び出されるようになってしまった。
見る景はいつも同じだ。
呼び出す男はディクトゥーラ。
呼び出される場所はサルヴァ帝國と呼ばれる廃れた國で。
最後に殘るのは、マオと言う名の年ただ1人。
ボクには神造アーティファクトと呼ばれる無限の力があった。
そして彼もまた、自らのを犠牲に過去へ戻る魔法を発することで、無限にボクに挑むことが出來た。
すり減っていくは何もない。
だから終わらない、永遠にこのループは続いていく。
數百回繰り返した所で、ボクに変化が生じた。
飽きてきたのだ。
どうせまた同じことの繰り返しだとぼやき、退屈だと嘆く。
數千回を越えたあたりで、ボクに次の変化が生じる。
恐ろしくなったのだ。
まさか永遠に終わらないのではないかと、この退屈がいつまでも続くのではないかと思うと、恐怖をじずにはいられなかった。
數萬回を越えたあたりで、ボクは怒りを覚えた。
數十萬回繰り返したあたりで、ボクは初めて神の座で涙を流し。
數百萬回繰り返したあたりで、どうでもよくなってボクは笑った。
それでも終わらなかった。
マオと名乗った年は繰り返す度にリセットされるから、ボクの苦痛なんて知るよしもない。
力が無限でも、自我は消耗品。
そこで気付く。
神の座に至った時點で、ボクは無敗の兵ではなくなっていたんだ、と。
そしてボクの心が完全に壊れたのは、數千萬回繰り返し、とある事実に気づいたときだった。
弾ける直前に、マオは幾度となくこう言っていた。
『失われた命は蘇らない、だから僕自が過去に戻らないと』
つまり、今まで周回した分の記憶を持って過去へと遡り、再びやり直す。
ならば、滅亡した世界はどうなるのかと言えば、消えるわけではない。
マオが記憶を引き継いだ狀態で過去に戻る度に、”x回目の記憶を引き継いだマオが居る世界”が生される。
無限に続くマオのループと同時並行して、數千萬に及ぶ滅亡した世界にもやがて文明が生まれ、いずれ神造アーティファクトが発掘される。
その度にボクは呼び出される。
このまま続けていけば、ボクはいずれ一瞬の休息さえ取ることを許されず、常に誰かに呼び出される狀態に陥ってしまう。
しかしボクにそれを止めるは無く。
繰り返し、繰り返し、繰り返す世界の中で、誰に助けを求めることも出來ず嘆くことしか出來ない。
それに気づいた時、ボクは――初めて、狂気と呼ばれるを知った。
神の座にいる間も心が休まることはなく、再びあの世界に呼ばれることを考えると恐ろしくて仕方ない。
誰も救ってはくれない。
誰もめてはくれない。
誰も勵ましてもくれない。
マオが仲間の死を嘆いていた理由が、ようやくわかった。
乗り越えられない壁に直面した時、生は他者に助けを求める。
縋ろうとする。
そうしなければ、心が壊れて狂ってしまうから。
完全に壊れてしまえば楽だったかもしれない。
けれど壊れるということは自我を放棄するということ。
自我を失うのは恐ろしい、ボクはボクで居たい。
だから、縋った。
たった一人、対等に語り合える相手に。
ボクを追い詰めた彼に助けを求めるのは稽なことだと理解しながらも、もはや他の手段を選ぶ余裕のないボクには、自らの尊厳を尊重するという選択肢は殘されていなかった。
『もう、嫌だ』
過去へと戻ろうとするマオへ、ありったけの勇気を振り絞って語りかける。
すると彼はきを止め、ボクの方を見た。
「サルヴァ、なの?」
『そう、ボクは破壊神サルヴァと呼ばれているモノ。けれどボクはもう、繰り返したくない。破壊なんてしたくない』
「遅いよ、もうこの世界は滅びてしまったんだから」
『……ボクは、それ以外に出來ることを知らない』
破壊するために生まれ、破壊だけを繰り返してきた。
この対話だって、うまく出來ているのかわからない。
それでも伝えないと。
でないと、ボクの地獄は終わらない。
『破壊することを失ってしまえば、ボクには何も殘らない。アイデンティティを手放すのは恐ろしいことだ。でも……それでも、これ以上同じ破壊を繰り返す方がもっと恐ろしい』
「破壊神をやめたい、ってこと?」
『そういうことに……なるのかもしれない』
我ながら無茶な願いだ。
このがある以上、ボクはどこまで行っても破壊神でしかない。
「正直言って、大切な人を殺したことは絶対に許せない。本當ならこの場で戦って、僕が君を殺してしまいたいぐらいだ」
それはそうだ、ボクが逆の立場でもそうする。
「でも、絶対に勝てっこ無いし、それに君に悪意がないことはよくわかる。誰が悪いかと言えば、闇のアーティファクトの使い方を間違って、サルヴァを目覚めさせたディクトゥーラだ。だから、君への恨みはこの際全部忘れようと思う」
『いい、の?』
「良くはないけど、それが最善だと思うから。そして――次の世界で目覚めた時、世界を破壊せずに居てくれたら、サルヴァの願いを葉えてあげるよ」
『願いって……』
「破壊神をやめたいって願い、僕ならそれができるから」
どうやって? と、あえて聞く必要も無いことは、その表を見て理解できた。
強い覚悟に、確固たる意志。
その言葉に偽りが無いことは一目瞭然だ。
『……もう、壊さない』
「うん」
『もう、殺さない』
「うん」
『だから……ボクを、助けて……』
「わかった、その言葉を信じる」
マオの大切な人を殺し、大切な世界を壊した。
そんなボクの、一何を信じてくれたんだろう。
わからない。
わかることはただ一つ。
彼の……マオの心は、ボクなんかよりずっと広くて。
互いに無限の力を持つ者同士として、心で負けていたボクには、最初から勝ち目なんて無かったってことだけだ――
あとしで、次の目覚めがやってくる。
ボクはそのし前に神の座から現世へと降りた。
どうも過去に戻ってしばらくの間は、彼の記憶は失われてしまうようだ。
だから、しでも早く思い出すように、と――
『助けて、助けて。マオ、ボクはここにいるよ……』
何度も何度も彼を呼んでいた。
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