《最強転生者は無限の魔力で世界を征服することにしました ~勘違い魔王による魔の國再興記~》その69 魔王さま、帝國との戦いに決著をつける
「さあ、目覚めろ破壊神サルヴァよ。腐りきった既存の世界を破壊し、選ばれし人間たちによって作られる素晴らしき世界を始めるのだ!」
玉座の間からディクトゥーラの熱のこもった聲が聞こえる。
ようやく悲願が葉う、と思い込んでいるみたいだ。
バキンッ……!
足元から、何かが折れるような音が聞こえた。
破壊神サルヴァを縛っている鎖が切れているんだろう。
急がないと。
目覚めた時に僕が居なかったら、サルヴァが混してしまうだろうから。
「マオ様、破壊神サルヴァをどうするつもりなのだ?」
「説得する」
「はぁっ!? いや、さすにがマオ様でもそんなことできるはずが――」
「というか、もう説得は終わってる。だからあの子は僕に助けを求めてるんだ」
「助けとは、ずっと聞こえている聲のことか?」
「そ、あれのこと。もう破壊神なんてやりたくないってさ」
「いつの間にそんなことを話しておったのだ……」
「んー……未來で、かな。ある意味で過去とも言えるのかもしれないけど」
ニーズヘッグは、意味がわからないといった風に首をかしげた。
とは言え、今は詳しく説明できそうにない。
何度も同じ時間を繰り返したことはあとで説明するとして――
バキッ……バキィッ! ズウゥゥゥン……。
鎖の戒めから解き放たれたサルヴァが、大地に降り立つ。
ちょうどその時、僕たちは城から出る所だった。
城のり口の向こう側は、何もない空。
僕は縁を蹴って大空へと飛び立つと、すぐさま城の下側へと回り込む。
城の真下には、地面に手をつき著地して、立ち上がろうとする巨大な機械人形の姿があった。
「サルヴァーッ!」
し離れた場所から名前を呼ぶと、頭部パーツがギギ……とこちらを向き、
『マオ』
僕の名前を呼んだ。
「マオ様の名を呼んでおる……本當に説得したのだな」
「信じてなかったの?」
「さすがにこればかりはな……」
驚きを通り越して若干引いているニーズヘッグは置いといて。
僕はサルヴァの真正面まで移する。
するとサルヴァは右腕を近づけ、人差し指の先で僕にれようとした。
『怖かった。來ないんじゃないかって、忘れてるんじゃないかって思うと、怖くてたまらなかった』
「約束は必ず守るよ、それじゃあ早速――」
サルヴァを神とは別の存在に変える。
そう言おうとした瞬間、城から拡聲魔法による大きな聲が響いた。
『何をしているサルヴァよ、世界を破壊しろ、我の命令に従え!』
ディクトゥーラの聲だ。
聲からは、皇帝らしからぬ焦りが見て取れる。
『もうボクは破壊しない』
『何を言っている……まさか、この人形には意志があるとでも言うのか?』
さんざん”助けて”って聲を聞いてたくせに、そんなことも知らなかったなんて。
詰めが甘い、もっと広い世界を知っておくべきだったね。
『だが取り付けた裝置さえあれば!』
サルヴァのに取り付けられた真新しい裝置のことだろうか。
重低音をあげながら稼働するその裝置を、サルヴァは手で外し、ゴミのように地面へと捨てた。
『制裝置を、自ら外しただと……!?』
『背部追尾兵裝トリローチャナ』
サルヴァが冷たい聲でそう告げると、背中に裝著された三門の砲臺がを放ち、そしてチャージが完了すると同時に、ぐにゃりと曲がる線を放った。
シュゥン……ジッ、ジジジッ――
それは、れたものを例外なく消滅させるエネルギーの集合。
闇のアーティファクトによる障壁を失ったカストラ城には、サルヴァの攻撃を防ぐはない。
曲線を描く線は、カストラ城の上部を用に削り、玉座でふんぞり返るディクトゥーラをむき出しにした。
『こ、これは……』
長年サルヴァ帝國を獨裁してきた恐怖の象徴が、珍しく恐怖している。
小ってのは、自分が優位に立てないと気づいた時、急にみっともない姿を見せるものだ。
彼がまさにそれだった。
々しいび聲をあげないあたり、最低限の矜持はあるようだけど。
『殺しはしない、ボクは破壊神をやめるんだから』
「サルヴァ……」
その言葉に彼、あるいは彼の覚悟を見た気がした。
なら僕も覚悟を決めないとね。
「今から僕がサルヴァに魔法をかける。神をやめるための魔法だ。し苦しいかもしれないけど、我慢できる?」
『今までの苦痛に比べれば』
「なら良し、じゃあ行くよ」
「まさかマオ様、あれを使うつもりか!?」
「そういうことっ」
僕はさらにサルヴァのに近づき、右手で額にぺたりとれる。
「ふぅ……」
目を閉じ、息を吐き、集中して確かなイメージを脳に構築する。
神相手に使えばどれだけの魔力を持っていかれるかわからない。
けど約束した以上はやり遂げるし、それしか僕の守りたいものを守り抜く方法は無いんだ。
やるしか、無い。
「メタモルフォシスッ!」
ドクン、と僕の腕を伝って、サルヴァのへと魔力が流れ込んでいく。
その巨大なを、膨大な量のエネルギーを溜め込めるキャパシティを、全て僕の魔力で満たさなければならない。
『う、うぁ……ああぁ……!』
「は……ぐうぅぅっ」
サルヴァは変化の苦痛にき、僕は許容量を超える魔力の放出に耐える。
歯を砕けそうなほどに強く食いしばる。
口の中にの味が広がっているのがわかった。
ブチ、と力を込めた腕で”何か”がちぎれるもある。
「マオ様っ、腕が!」
右腕は至る所で管が切れ出を起こしており、青黒く変していた。
さらににも傷がり、鮮明な赤のが腕を伝って地面に落ちる。
どうりで、痛いわけだ。
「私にできることは無いか!?」
「じゃあ……後ろから、抱きついて……て、よ」
「わかった、これでいいのか?」
僕の背中を溫かくらかなが包み込む。
死ぬってことは、これを失うってことだ。
嫌だろ?
こんな最高の人に二度とれられないなんてまっぴらごめんだろう?
だったら――耐えろ、僕!
『が、あああ、ああああぁぁっ、くる、し……いた……いいぃぃ、ぐ、ぎ……っ』
「うおおおおぉおぉぉぉぉおおおッ!」
パキ、と指先から嫌な音がした。
一度だけでなく、二度も、三度も。
指があらぬ方向に曲がり、激痛が走る。
次は手首が、腕が、パキリ、バキリと折れていく。
気絶しそうなほどの痛み。
僕が意識を保てていたのは、ニーズヘッグのぬくもりのおかげだ。
力を失い下がりそうになる右手を左手で支え、僕は最後のひと押しをサルヴァに注ぎ込む。
「ぐんぬおおぉおおおおおおおぉあああぁぁぁぁっ!」
もはや言葉に意味などない。
獣のごとき咆哮。
右腕は骨を折るだけでは飽き足らず、醜く膨張し、手の甲や二の腕がパチンパチンと弾けていた。
その度にしぶきが舞い、腕に激痛が走る。
けど、もう、これで――終わりだ!
『ぎ、ぃ、アガアアアアアァァァァァァァァァァッ!』
ひときわ大きなサルヴァのび。
破壊神の巨大なはまばゆいに包まれた。
そしてが消えた時――そこに浮かんでいたのは、小柄なだった。
薄いに小さな鼻、灰の瞳に、肩までは屆かない程度の薄鈍の髪。
「おつかれさまだ、マオ様」
ニーズヘッグの優しい聲に、僕の頬がほころぶ。
すぐさま「ヒーリング」で右腕を治癒すると、僕はサルヴァに近づき、羽織っていたマントで彼のを覆った。
すると虛空を見上げていた瞳が僕の方へ向けられる。
「ボクは……どうなったの?」
「人型になったんだよ、もうあの金屬のはどこにも無い」
「人に……神じゃ、ない……」
「と言っても、力まで失われたわけじゃないけどね」
そう言うと、サルヴァはおもむろに右腕を空へと向け、
「右腕破壊兵裝マハーカーラ」
極太の黒いビームを放った。
そして自分の右手を見て呟く。
「……本當だ」
恐ろしい威力だ、軽々しく放っていいもんじゃない。
とは言え、今の彼なら簡単に他人にそれを向けることは無いだろう。
「そのなら、神としての生き方以外も見つけられるんじゃない?」
「生き方を、見つける。それはどうしたらいい?」
「それは……」
もったいぶって言い淀む僕に、ニーズヘッグが一言。
「まどろっこしいのう、どうせ連れ帰るつもりなのだろう?」
バレてたか。
そりゃそうだよね、メタモルフォシスを使った時點で誰にだってわかる。
「良かったら、うちに來ない?」
そう言って、僕は彼に手を差しべる。
「うち?」
「マオフロンティアって國なんだ。魔も人間も分け隔てなく生きていける國でさ、そこで生活するうちに、サルヴァも新しい生き方を見つけられると思う」
「ボクには、マオしか信じられる相手が居ない。マオがそう言うんなら、ボクは付いていくよ」
理由は消極的ながら、サルヴァは確かに僕の手を握ってくれた。
機械の冷たさではなく、暖かながある。
僕は彼が確かに生まれ変わったのだと言うことを噛み締め、そしてもう二度と滅びる世界を見なくていいと言う実に歓喜した。
さて、あとは――後始末を終わらせないとね。
僕とニーズヘッグ、サルヴァの3人で玉座の間で呆けているディクトゥーラの元へと向かう。
まさかあの巨大な人形がに変わるとは想像もしていな彼は、訝しげにサルヴァを見ていた。
「ディクトゥーラ、紹介するよ。彼がサルヴァだ」
「何を、言っている」
「破壊神サルヴァは僕の説得で破壊神であることをやめ、この姿で僕たちと一緒にマオフロンティアで生きることを決めた。それを報告しにきたんだ」
「馬鹿な、そんなことが……」
「でも、もう破壊神が存在しないって報告はけてるんだよね? さっきまでそこのの人は居なかったはずだし」
ディクトゥーラの傍らには、メガネをかけたが立っていた。
その手には緑の寶玉が埋め込まれている。
あれが風のアーティファクト、つまりこの城を浮かせているのは彼か。
「あんたの負けだよ。首都を、城を、そして切り札を失ったサルヴァ帝國に、もはや未來は無い」
僕の言葉を聞いて、ディクトゥーラは強く歯を噛み締めながら天を仰ぎ――憑きが落ちたように、表を失った。
負けを、認めたのだろう。
「風のアーティファクトはもらっていくよ、テレポート」
の手からアーティファクトを転移させる。
「ぐぅっ……」
手の甲に大が空いた彼は、傷口を抑えながらいた。
ゴゴゴゴゴ……。
風のアーティファクトの力を失い、城は徐々に地表に引き寄せられていく。
墜落に巻き込まれれば、死は免れないだろう。
「皇帝はさておき、そっちのの人に恨みはないから、命が惜しいなら連れて行ってあげてもいいけど?」
「斷る。帝國の死は、私の死でもあるのだから」
「そーですか」
彼もまた、帝國の狂信者だったか。
そりゃそうか、皇帝が傍に置くぐらいなんだ、とびきり狂ってなきゃそんなポジションまでのし上がれない。
「じゃ、帰ろっか」
「そうだな、みんなが首を長くして待っておるぞ」
「みんな、か。會うのが楽しみだ」
部屋を出る直前、はディクトゥーラに寄り添い、彼はそんなの頭をどこか満足気にでていた。
やることはやったのだ、とでも言っているように。
墮ち行く城から出した僕たちは、し離れた場所からその終焉を眺めていた。
そして城が墜落する直前、僕はおもむろに手をかざし、魔法を放つ。
「アンチグラビティ」
その瞬間、自由落下の果てに崩壊するはずだった城はふわりと速度を落とし、無事地表に著陸した。
城は全く壊れていない。
あの様子だと、おそらく死者は一人も出てないはずだ。
「なっ……まさか、助けたのか?」
「マオ、どうしてそんなことを」
「満足して死なれるのが不愉快だったから」
必ずしも死は罰にならない。
中には自らんで死にたがる者もいる。
僕には皇帝がその手の人間に見えていた。
「全てを失った上で、苦しみながら生きてもらった方がよっぽど罰になる」
「そういうものなの?」
「そういうものなんだよ。ただでさえ宗教めいた國だったのに、死んで神格化されるのも厄介だしね。せいぜい今までげてきた國民に恨まれながら、生き恥を曬すといいさ」
そう言い捨てて、僕は今度こそカストラ城に背を向けた。
魔王城に戻り、僕たちを迎えたくれたみんなが、サルヴァの姿を見て驚いたのは言うまでもなく。
「いやいやいやいや、ありえないです、ありえないですって! 破壊神ですよ!? 神なんですよ!? それが、こんな小さなの子に……」
「おー、すごいな、神なんだな! わたしはザガンだ、よろしくな!」
「魔王君の魅力は神すらも墮とす、か。末恐ろしいな」
「スケールが大きすぎて、どう反応していいかわかんないや」
「魔王サマに敵対した時點で、こうなるのが運命なんだろうさ……オレも似たような立場だからな」
各々様々な反応を見せながらも――最終的には、みな口を揃えて「これからよろしく」とサルヴァに告げる。
それを聞いた彼は、生まれて初めて見せる”喜びが溢れる笑顔”でこう言った。
「うん、よろしく」
こうして帝國は力を失い、魔王城の住人に神が加わり。
もはやこの世界に、マオフロンティアの発展を妨げるものは何一つ存在しなくなったのだった。
崩壊世界で目覚めたら馴染みのあるロボを見つけたので、強気に生き抜こうと思います
仮想現実を用いたゲームを楽しむ一般人だった私。 巨大ロボを操縦し、世界を駆け抜ける日々は私を夢中にさせた。 けれどある日、私の意識は途切れ…目覚めたのは見知らぬ場所。 SF染みたカプセルから出た私を待っていたのは、ゲームのような巨大な兵器。 訳も分からぬまま、外へと躍り出た結果、この世界が元の場所でないことを確信する。 どこまでも広がる荒野、自然に溢れすぎる森、そして荒廃した都市群。 リアルすぎるけれど、プレイしていたゲームに似た設定を感じる世界。 混亂が収まらぬまま、偶然発見したのは一人の少女。 機械の體である彼女を相棒に、私は世界を旅することになる。 自分の記憶もあいまいで、この世界が現実かどうかもわからない。 だとしても、日々を楽しむ権利は自分にもあるはずだから!
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