ミントという名の同居人が増えた後。

ぼくは、ようやくある程度の家が揃った部屋に一人でいた。

夕飯は済んだ。家を買い終え、ミントの話も終えた。他に、用事はない。

ただ、一つを除いて。

「……よし」

ぼくは覚悟を決め、部屋を出る。

その際、辺りをキョロキョロと見回し、奴が近くにいないことを確認。

いないと分かれば、すぐさま目的地へ向かう。

言わずもがな――ミントの部屋だ。

扉をノックすると、暫くしてミントが出てきた。

「……なに？」

「今、時間ある？」

「……ん。特に、何もしてないから」

「そっか。だったらさ――」

そこで一拍あけ、ぼくは張を悟られないようにしながら言い放つ。

「――一緒に、風呂にろうよ」

そう。それこそが、今回のぼくの目的である。

せっかく、こうしてのになったのだ。堂々との子と浴ができるようになったというのに、それをしないのは間違っているだろう。

據え膳食わぬは、というやつである。

唯一ぼくが男だったことを知っているのは、ユズだけ。

そのユズがいない最大のチャンスを、逃すわけにはいかない。

「……一緒に、風呂にって、いいの……？」

「え？　もちろん。むしろ、ぼくが一緒にりたいって思ってるんだけど」

「……そう。じゃあ、り、たい……」

若干小聲ではあったが、何とか了承を得ることができた。

もしかしたらミントにも聞かれてしまうのではないかと思ってしまうくらい、悸が騒がしく鳴っている。

ぼくは一回だけ深呼吸で気を落ち著けさせ、ミントと肩を並べて一階に降りる。

そしてユズが近づいてこないことを執拗に警戒し――ぼくたちは、所へ足を踏みれた。

の子と二人きりの、所。

心臓の鼓が、更に激しさを増す。

落ち著け。落ち著け、ぼく。まだ、始まってすらいない。本番は、ここからなのだ。

などと自分に言い聞かせていたら、躊躇なくミントは服をぎだした。

いや、同士だと思っているのだから躊躇なんてあるわけないんだけども。

自然と、ぼくの視線はミントのに注がれる。

ミント・カーチスは、ユズほどじゃないにしても割と小柄な型だ。

腕や腳などは細く、無駄な脂肪は一切ないと思われる。

しかし。しかし、である。

その部だけは、確かな存在を放っていた。

驚異的な囲……とかいう下らない駄灑落を言っている場合ではない。

なくとも、Ｄはあるだろう。意外にも、著痩せするタイプだったらしい。

「……どうしたの」

「い、いや、意外と大きいんだなって」

「……そう？」

ぼくの言葉に、ミントは首を傾げて自のを手のひらで押し上げる。

こ、これはいけない。予想以上にドキドキしてしまい、顔が熱くなるのをじた。

まだじっと見ていたい気持ちを抑え、ぼくも服をぐ。

すっかり忘れかけていたが、自分のにもおっぱいという名の兇があるんだった。

嬉しいけど恥ずかしい。

浴室にると、ミントは遠慮がちに口を開く。

「……背中、流す」

「え？　ぼくの？」

「……ん。助けてもらったから、その、お禮に……」

何とも健気な申し出だ。

可いの子に背中を流してもらうという夢のようなシチュエーションが、今まさに行われようとしている。

し恥ずかしいという思いもあるけど、だからといって斷れるはずもない。

「う、うん、分かった」

答え、ぼくは張しつつも座る。

すると、ミントはぼくの背後で膝立ちになった。

ゆっくりと、の子らしい力加減でぼくの背中をっていく。

力は強くない。が、それが逆に気持ちよかった。

背中を流してもらうのって、思っていたよりいいものじゃないか。

なんて、油斷していたら。

背中に、二つのが伝わってきた。

むにゅっとしたらかいと、それより幾ばくか面積の小さいこりっとした。

間違いない。ミントのと、その先にある突起――首だ。

やばい。これは、実にヤバい。まずいですよ。

気づいていないのか、もしくは気にしていないのか、ミントは今もぼくの背中を洗ってくれている。

徐々に力がってきており、前かがみとなっているから、しきりにぼくの背中にが當たってしまっているのだ。

ふと目の前にある鏡を見れば、そこには顔を赤らめたの姿があった。

落ち著け、ぼく。この程度で照れたり恥ずかしがっていたら、もっと凄いことなんて永遠にできないだろう。

いや、でもこんな狀況、男だったら間違いなくつ。もう既に、ぼくの中の何かがった。

くそう、激しい心臓の鼓が治まらない。ぼくの貞チキン野郎め、いい加減にしなさい。

「……終わった」

ひたすら心の中で格闘しているうちに、ミントは背中を洗い終えてしまったらしい。

よかった、ぼくは勝ったぞ。勝ち負けの基準が、自分でもよく分からないけど。

変態のくせに、まさかぼくがここまでチェリーだったなんて。自分のことながらビックリだ。

まずは、の子のを見たり、などのがれたりしても容易にはじない鋼の神が必要か。

なかなか先は長そうだけど、頑張らないと。ぼくの目標ができた瞬間である。

そのあと何事もなかったかのように、二人で湯に浸かった。

數十分が経過し、ぼくたちは風呂から上がる。

そして、風呂にっている間にぼくの警戒心が完全に霧散していた狀態で、所から出た。

出て、しまった。

「……あ」

そう。風呂場のすぐ近くに、ユズがいることを全く知らないで。

ユズの視線は、ミントからぼくに移り、そのあと所の扉へ行き、またぼくに戻る。

みるみる、ユズの顔が赤く染まっていく。

「な……な、な……何してたんですか、二人でっ！」

「……？　お風呂に、ってた」

「お、お風呂ですかっ？　ちょっとライムさん、どういうことですかっ！」

赤面したまま、ぼくに詰め寄る神。

完璧だと思ったのに、まさか最後で見つかってしまうとは。不覚なり。

「……何、怒ってるの？」

「えっ？　い、いや、それは、だって」

不思議そうなミントに問われ、ユズは口ごもる。

ぼくが男だったことを知っているのはユズだけだし、そのことを話したところで、きっと信じてはもらえないだろう。

それに、話すとなるとぼくが転生した経緯やユズが神である事実なども話さなくてはいけなくなるかもしれない。

普通は、男がになることなんて有り得ないのだから。

神であることを隠しているユズとしては、いくら仲間となったミントだとしても簡単に話せるようなことではないのだろう。

ぼくとしては、むしろ好機だった。

「そうだよ！　同士なんだから、一緒に風呂にるくらいおかしいことじゃないでしょ！　ね、ミント」

「……ん。ってくれて、ありがとう……」

「む、むぐぐ……」

ぼくとミントの絶妙なコンビネーションに、ユズは悔しそうに歯噛みする。

よし、勝てる。たとえ相手が神でも、ぼくのの前には敵なんて――。

「……ライムさん、後で話があります」

「……はい」

まあ、その程度で見逃してくれるわけはなかった。

さすが神、さすが厳しい。

このあと、ぼくは一晩中めちゃくちゃ怒られた。